アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
空、海、森、島、街の中と至る所でその姿を見ることができる。
人は、時にその脅威にさらされ、時に彼らを終生のパートナーとし、文明を築いてきた。
カナサシ湖の龍神レックウザの依代、歌姫アリア・カナサシは、3年の戦乱の後悔から立ち直り、日本から転生した絶世のアイドル言祝アリアとともに、伝説の邪神ミシャグジを封印した。
焼け落ちた街、シンシュー地方に再び迫る軍靴の足音。そんな中、遠くパルデア沖から、2人のアリアへと招待状が届いた。
学園島の秘宝を巡り、思惑は入り乱れ、頂上大戦が幕を開ける...!
♫1 学びたければ何歳でも学校に行って良いし、かわいければ何歳でも制服を着て良い
ー*ー
グランデ・コンティネント。
「大陸のおっきい方」を名乗る不遜な島が、パルデア地方の南西の沖合に浮かんでいる。
高い山脈、美しい海、石畳石造りで情緒ある街並み…古代パルデア帝国が大穴に手を出しすぎて破綻して以降、独立した諸島の中核として2000年ほど穏やかな時を過ごし、海のただ中でパルデアやカロスをはじめ古今東西の文物が行き交うことと豊かな自然から「大陸のようにすべてが揃う島」としてその名を付けられた島。歴史の中で多様なポケモンが連れてこられ住まうようになったグランデ・コンティネントに、近代になってユキコシ地方の名家フロックス家が学術・研究の拠点として目を付けた。
紆余曲折の末、たまたまこの島のパーシモン・ゼミナールに通っていたフロックス家ヒスイ分家のレプトシフォン&ミクロステリスの姉弟が、学園の理事として本家のアオバ&カグヤ姉妹の代行として学園の理事を務めている。
「学園理事長、ミクロステリスだ。」「姉の、レプトシフォンと申します。」
ほどほどに着崩されたミクロステリスの制服と、きっちり着こなされたレプトシフォンの制服を見比べながら、アリア・カナサシは一言。
「…留年、ではないわよね?」
桃栗三年
「/Outputあの歌姫さん、ぶしつけすぎでは...End」
「いえ、必要な質問だろうよ。俺も姉貴も、留年でもコスプレでもないって言うこと、こっちの事情を説明すればわかってもらえるはずだしな。」
「…やっぱり事情があるのね?理事長自ら、潜入しないといけない。」
「短期特別受講ってことになってるんだよ。
「/Outputそこからわからないのですが、オリハルコン、とは...?End」
ファンタジー金属としてヒヒイロカネなんかとともによく登場するオリハルコン...ただ、ポケモンオタクの言祝アリアの記憶では、ポケモンにそれは登場しないはずだ。
「最近、このパーシモンゼミナールで発見された金属です。ポケモンのワザを研究し、意志によって増殖・変形・変化するように開発された金属である、と。」
レプトシフォン曰く...アイアンヘッドやメタルクローのように、はがねワザには意志的に身体を鋼化・硬化させて攻撃するものがある。それを研究した結果作られた「意志だけで操作できる金属」-それが
「今のエクリプスタウンはほとんど灰燼に帰してるわ。触れるだけで思い通りに変形する金属なんてあるなら復興にはちょうどいい...
...けどそれに何かトラブルがあったのね?」
「メールでお伝えした通り、オリハルコンの技術は譲る。ただ、タダというわけにはいかない。」
アリア・カナサシは顔をしかめる...エクリプスタウンは邪神ミシャグジによって壊滅、街を支えてきた両勢力たるや、カナサシおみやに金はないしマッドサイエンティスト集団は全員逮捕するも資産の回収は難航...ない袖は振れない。
「復興の資材を吹っ掛けるつもりはない。ただ、オリハルコンを盗む陰謀があるらしいんだ。
お2人にはそれを捕まえてほしい。」
泥棒を捕まえたら、泥棒が盗もうとしていた物は全部やるよ…まあそういうわけなのであった。
ー*ー
「…なんで私まで...」
「/Outputまあまあ、楽しいですよこういうのも。私はあまり学校に行けなかったので...End」
「それ言ったらシンシューにはポケモンスクールなんてないし、というか私の青春って戦争だったんだけど...」
アリア・カナサシと言祝アリアの2人は、真新しいブレザーを着て、パーシモンゼミナールの本校舎の席に座った。
トントン、言祝アリアがふと、アリア・カナサシの肩を叩く。
「/Outputあの、あの人って…End」
ピンクのカーディガンに、ボブカットに輝くエメラルドの髪飾り。言祝アリアの指が震えている
「…誰?すさまじい美人なのはわかるけど。」
とはいえ、その気になれば世界を魅了できる美貌の言祝アリアほどではないのだから、気にすることでもないだろうに…アリア・カナサシは思った。
「/Outputブルベリーグの、四天王タロですよ!私の憧れのキャラクターの一人、もっともかわいいに拘るポケモントレーナーです!End」
「ああ転生前の…
…ブルベリーグ...?そんな地方あったっけ?」
英雄歌姫なんぞやっているから忘れられがちだが、アリア・カナサシは身分的にはシンシュー戦乱の戦災孤児だ。星の裏側の学園の話など知る由もない。
「それはもう数年前の話ですね。」
言祝アリアはびくっと震えた。ポケモン好きアイドルとして「最も好きなポケモンキャラクター」に挙げたこともある相手がすぐそばでささやいたのだ、脳がしびれても無理もない。
「自己紹介をあらためて。
わたしはタロ。数年前にアカデミーを卒業して、今はブルベリーアカデミアの研究生です。」
「初めまして。私はアリア・カナサシ。こっちの喋れないのがアリア・コトホギよ。短期履修制度で来たの。
...研究生?」
私と同じ潜入とかではなく...?太眉のかわいらしい彼女にそう告げかけて、情報漏洩だと踏みとどまる。
「はい。バトルだけじゃなくポケモン研究にも力を入れていかなきゃってことで、オレンジ、グレープ、パーシモンを視察してるんです。」
「…服は?」
正規生でもないのに、どうして彼女はブレザーを?
「かわいいじゃないですか?パーシモンの制服。」
「/Outputタロさんもですよ!End」
「…えっと、ナンパですか?そういうの、女同士だからってよくないと思います!」
タロの返答を聞いて、言祝アリアは落ち込むかと思いきや、目を無駄にキラキラさせている。
(「そういうのよくないと思います」いただきましたーっ!私今いっちばんポケモン転生味わってるかもです!)
「ごめんなさいね、コトホギさん貴女の大ファンらしくて...」
「そ、そうですか?なんか学園のファンとは違うような気も...」
「/Outputあの!タロさん!後でバトルしていただけませんか!?End」
目を白黒させながら、タロは答えた。
「いいですよ。けれど私を四天王のころと同じと思わないでくださいね?
あの頃より、もっと、
望むところですーぐっと、言祝アリアが応える。
「ちょっと、もう教授来てるわよコトホギさん。」
扉が開いて、教室へ教授が入ってくる...だが、もう一人誰かを呼んでいるらしく、何やらもたもたしていた。
教授が頭を下げ、扉の向こうから、どこか見覚えのある雰囲気の男が歩いてくる。アリア・カナサシは、見たことある重要人物なら忘れないはずなのに...と男の横顔に目を細めながら記憶を検索した。
男が演台に立ち、アリア・カナサシと視線が交差する。
(...ん?)
「本日は、ポケモンの機械的再現の権威である、ランセオラータ博士にお越しいただきました。」
「ご紹介に預かりました!ポケモンの機能やワザを機械で再現することにより!ポケモンの謎に迫り!ポケモンの力をさらに引き出す研究をしている!科学者!ランセオラータといいます!みなさん今日はよろしく!」
恰幅のよい白衣の男が、やたらハイテンションな声で自己紹介...その姿を見て、言祝アリアは口元を押さえ、アリア・カナサシは絶叫した。
「何やってんのウルトラマッドサイエンティストォ!?!?」
「…おやっなぜここに!?歌姫殿!前にもそれ!あんまり失礼な言い草だと!言いましたよね!」
学生たちの目が一斉に向いているのもかまわず、ランセオラータ...否、カナサシ湖畔で死んだはずのバックレアを、アリア・カナサシは睨みつけた。
「あの、知り合いなんですか…?それにウルトラマッドサイエンティストって...?」
言祝アリアも、タロの声を聞く余裕すらなくなっていた。
ー*ー
「どういうことなのか、教えてくれる?」
特別講義終了後、校舎の屋上にて。
「貴方はなんで復活してるの?
まだ、ツクバネは何か企んでるの?」
事と次第によってはこの場でバックレアを突き落とす、そう言わんばかりの剣幕で、アリア・カナサシはバックレアに詰め寄る。
「いいえ!このわたくし、バックレアは!バックアップから蘇る時にツクバネの軛を脱しまして!
今は!自由の身で!ございます!」
どうやらこのバックレアは、ツクバネの悪事の隠れ蓑ではないらしい(信じてよいならば、だが)。
「それはそれで嫌な話ね…」
ツクバネの邪神復活の目論見の隠れ蓑になったりはもうしないのかもしれないが、代わりに、誰もこのウルトラマッドサイエンティストを制御していないということでもある。
「それで!用事!でしたか!?」
「…それより前に、言いたい恨み言とか、あと生きてるんなら逮捕したいとか、あるんだけど...」
「いいのですかな!?エクリプスタウンを形成していた技術を!すべて網羅しているのがこのわたくしめ!わたくしの頭脳!借りたほうがいいのでは!?」
アリア・カナサシは舌打ちを2度繰り返す。
「マッチポンプ...」
「/Output話を進めましょう。おひだりさまの件については後でよーく話し合うとして、何か共有したい情報があるんですよね?End」
でなければ2人の前に姿を現わさないし、声を掛けられたとて人違いで済ませるなり逃げるなりいくらでも手はあっただろう。潜伏犯がわざわざ姿を見せて屋上へ呼び出されてくれるのだから、何かある。
「…オリハルコン。意志に応じて変化する金属。それの開発者を!探しているのです!」
「…奇遇ね。私も、オリハルコンを求めて来たのよ。」
「アレの開発者は不明!このゼミナールである日作られたということだけ知られている出所不明の金属!...ですが、怪しい話があるのです。都市伝説のようなものですが!」
「都市伝説?」
そんな怪しいもののために、蘇り後真っ先にシンシューからパルデア沖まで来たのか?アリア・カナサシは、やはりこのウルトラマッドサイエンティストは信用ならないと眉を顰める。
「『錬金術師サンジェルマン』!聞いたことありませんか!?」
(っ!?)
「錬金術?サンジェルマン?何それ...
...って、コトホギさん?」
絶句する言祝アリア、「おやおや!これは予想外!」と手を叩くバックレア。
「/Output私の、転生前の世界で、有名な都市伝説です…End」
ー*ー
「オーケー、話をすり合わせましょうか。
まずコトホギさん?」
「/Output錬金術師サンジェルマンって言うのは、私の世界で有名な都市伝説です。数百年生きてる不死身の錬金術師...錬金術師って言うのは、黄金や不死身になれる『賢者の石』を作ろうとしていた中世のオカルティストで、科学のはしりになったとも言われている人たちなんですけど...
なんでポケモンの世界で、同じ名前が?」
ミシャグジ神という前例に気付いていないこともあり、言祝アリアは混乱する。ただUB00 LEFT≒ミシャグジ神は偶然その名前を付けられたことで並行世界のミシャグジとしての可能性を獲得してしまったのであり、今回とは話が違うのだが。
「どうやら!わたくしが知るそれと!同じようですな!
サンジェルマンは
「…どうやら、一概に都市伝説と切って捨てられなさそうね…」
ポケモンがいる世界といない世界で、奇妙な一致を見せる同姓同名の人物。オカルトそのものな存在が、謎の金属を実際に「ポケモンを応用した科学技術」として実装している…
「…それで、ウルトラマッドサイエンティスト、貴方はそいつを見つけて、どうしたいの?」
「わたくしは、伝説ポケモンの力とその利用について研究してきた!けれど!その模造はせいぜい8割!そしてUB00 LEFTの制御などできそうにない!これはつまり、模造できない2割…伝説ポケモンの神秘的!それを理解し再現できていないからです!
わたくしに足りないのは!科学の力とポケモンの神秘の!融合です!
ツクバネから解放された今度こそ!わたくしはツクバネにも邪神にも一矢報いたい!
ツクバネには一泡吹かせないと気が済まないんですよ!それにはオカルトと科学の融合の先達!サンジェルマンの力が必要かと!
それに、UB00 LEFTはまだあれで終わりじゃない!」
2人のアリアの表情が、一段と深刻さを増す。
「一度封印から脱出した以上!ヤツは『封印から脱出する可能性』を持った存在になりました!その可能性を使えば!いつでも脱出できる可能性がある!
だから、わたくしめもあの邪神に対抗する技術力を開発しておきたくでですね!オリハルコンを!求めているわけです!」
ー*ー
「/Output信じてよかったんでしょうか…?End」
「…今は利害が一致してるわ。逃亡中のツクバネへの対抗策も、また復活するかもしれないおひだりさまへの対処も、欲しいっていう。
バックレアが、それのためにオリハルコンの開発者を探してるって言うのなら、邪魔しないほうがいいわ。」
「/Outputそうじゃなくて、都市伝説のほうです。
言いましたよね?私の世界では、ポケモンは物語だったって。
あんまりメタ的な目線でこの世界を見たくないんですが…End」
「この世界のサンジェルマンは、貴方の世界のサンジェルマンをモデルにした人物...ってことね?」
「/Outputもちろん、原作にサンジェルマンって人物が登場していないことは自信を持って言えます。ただ、シンシュー地方と長野県みたいに、原作に登場していない範囲でも類似性が見られることはあるんです。
2000年生きた錬金術師の都市伝説、それをモデルにした人物...これ信じて大丈夫なんでしょうか?何か裏がある…というより、厄ネタ...というものでは?End」
(それに私、タロさんにも...あと、タロさんがここパーシモン・ゼミナールの前に、クラベルが校長を務めるオレンジ・グレープスクールを視察してたって話にも、気になるところがあるんですよね...)
ー*ー
2人のアリアと奇妙な再会・情報交換をして、数日後。
その日も、バックレアは、とても指名手配犯とは思わせない足取りで悠々とグランデ・コンティネントを散策していた。まあ今の彼は「世界的に有名なポケモン学者ランセオラータ」ということになっているのだから、驚くことではないが。
そんな彼は、何やら複雑な波形がいくつも浮かび上がるモニターを片手に、学園島の岬の森を歩き回っている。
「…サンジェルマンの長い歴史の中で、彼は宝石を服装にあしらい、バイオリンを好む...とありました。バイオリンを由来とする音波が観測できる場所の中で、学園の授業と関係ないのは、この岬だけ...!しかし見つからない...!
やはりわたくしには、伝承学やオカルトは向いていない、と...!?」
ポケモンのオカルトを科学で攻略するために、まずオカルトチックな人間を見つける...ところがそのための科学によるオカルティストの攻略で躓くというのは、バックレアにとってかなり頭が痛いことだった。もっとも痛くなれるような脳みそなど、機械の身体には存在しないのだが。
「いえ、間違いではありませんよ。」
「っ!?」
真後ろからの声に、バックレアはとっさに白衣のポケットに手を突っ込みながら振り向いた。
輝く、いくつもの宝石。
どこからか森中に流れてくる、バイオリンの音色。
それらで自らを飾り、ピンクのカーディガンの生徒が、何を考えているのかわからない黄金の瞳を向けていた。
「スチューデント・タロ?何の用ですか?講義の質問ならメールで」「ブー。私は今、先生についての質問をしています。」
かわいい仕草...けれどバックレアの警戒心はむしろ高まっていく。
「ランセオラータ先生は、私たちのかわいいを邪魔する人、ですよね?」
「どういう意味!ですかな!?それに!あなたとサンジェルマンとの!関係は!?」
「仲間、ですね。あなたがたを倒して、
タロが、ネストボールを構える。
バックレアは両手を上げ。
「話し合いの余地は?」
「ないと思います。」
「…そうですか…!
…ポリゴンZ、アクティベート!」
バックレアの白衣の一部がほどけ、空中に浮かぶバイナリデータの群れとなり、そしてポリゴンZとして実体化していく。
どんなテクノロジーならそれが可能なのか及びもつかないが、タロは動揺などしなかった。
「サケブシッポ、私たちのかわいい、見せてあげましょう。」
「…わたくしこれでも、侵略者10万から街を守ったこともあるのですがねえ…ポリゴンZ!EXオーバーラップ!さらにテラスタルです!」
ポリゴンZの頭上に王冠が出現し、さらに本体も煌々とエネルギーを溢れさせていく。
「サケブシッポ、でんじは。」
「ぬぅ…っ!?」
ポリゴンZのただでさえカクカクした動きが、小刻みな震えを伴ってさらに悪くなる。
「いい、目の付け所です…!が。」
パチン!バックレアは指から音を鳴らした。
「『テラスタイプがでんきであった可能性』、あると思いませんか?
ポリゴンZ、はかいこうせん。」
こと、EXオーバーラップシステム開発者バックレアにとって、「可能性の汲み上げ」は究極の後出しじゃんけんを可能にする。ポリゴンZはマヒから回復すると同時にはかいこうせんを発射。
「勝った!」
「サケブシッポ、かみくだく。」
馬鹿な…バックレアは、機械製の口をあんぐりと開けた。
「
そろそろ退場してもらいます。かわいくない人は、不要です。
サケブシッポ、マジカルシャイン。」
これは勝てない…バックレアは理解した。しょせん自分はマッドサイエンティストで、卒業してからも研鑽してきた元学園四天王に勝てるはずはないのだと。
「ちっ…カモン、ドガース!
スモッグで撤退ッ!」
爆煙に毒煙を混ぜ込み、ポリゴンZも回収、タロとサケブシッポがけほけほやっている間に、バックレアは足早に逃げ出す。
(今のわたくしは特別講師ランセオラータ、裏の手は使えませんが表ならいくらでもあります…なんとか挽回を…
おや?)
そこではじめて、バックレアは違和感に気づいた。白衣が、やけに軽い。
ポケットに手を突っ込む。
データを入れたメモリがない。サケブシッポは「トリック」を覚える。…導き出される結論は一つ。
「…これはまさか…
…研究データを、奪われた…!」
ー*ー
「これで、いいですよね?クラベルさん。」
「ええ、タロくん。」
「もし、シンシュー勢やパーシモン学園が私たちの計画に気づいたら、どうしたらいいですか?」
「フロックス本家が出てきたらどうにもしようがありませんが...」
それはクラベルに言われるまでもなくわかっている。世界的大財閥かつ1地方を象徴的に統べる2000年の名家、それだけでミライドンを何匹引っ張り出しても勝てないのに、当代は世界を3回救っているときては、クラベルやシアノでは手に負えない。
「しかし、私たちスクール連合の邪魔をするというのなら、パーシモンと分家、それにシンシューのトレーナーには、仕方ありません...」
「『学園島の秘宝…アレには、星屑になってもらわないとね』って、シアノ校長も言ってましたからね。」
バイオリンの音色が、響き渡っていた。
ー*ー
「AI『シャンボール』、認証ID:レプトシフォン・フロックス。
オリハルコン、北校舎3階の配列を順列から逆列に変更。続けて表面をステンレスに変更し、東校舎4階へ連結。」
廊下に靴音高らかに、ヒスイ分家の姉弟は歩く。
「姉貴、視察留学で来てるタロさんが、なんかやらかしたみたいだ。」
「さらに東校舎3階から4階の階段の構成を変更、階段を10分封鎖…っと。
なんかって、また生徒がやんちゃですか?」
「いや、ランセオラータ特別講師から研究データを強奪したらしい。」
「困りましたね…特別講師とブルベリーの要人ですか…
…わかりました。シアノ校長に抗議を出して、それから決めましょう。今はそれどころではありません。」
「ああ…窃盗犯を先に何とかしないとな。
シンシューの客人には研究棟周辺を追ってもらうが、こっちはセキュリティ上入れられないからな…」
機密がうっかり漏洩しては困る。校舎まるごとが随意変化したオリハルコンであるということも、それから。
「学園設備に形状変化しているオリハルコンの随意変化を保つための、随意金属操作用統合AI『シャンボール』…ここと秘宝の保管庫ばかりは、部外者の立ち入りはな…」
むやみに誤操作されたら、教室まるまる水銀になって崩壊するとか、校舎が合金ロボットになって歩き出すとか、そういうことがありえるのだ。レプトシフォンが音声操作していた「意思に応じて変化する金属を、操作するためのAI」とはそういうシロモノであった。
「…タロさんがサンジェルマンと組んでいる可能性を、念のため考えておきましょう。
AI『シャンボール』、認証ID:レプトシフォン・フロックス。
ID:タロを対象にした一切の権限要求をリジェクト。
...それにしても、この『意思に応じて変化する金属』、何なのかしら...」
「ポケモンのワザに基づいてる...って触れ込みだけど、どこの研究室が作ったのかイマイチわからないから正体もよくわからないんだよな...」
そんなもので校舎を建てるのもたいがいだが、ポケモンスクールはポケモンバトルの余波で校舎損壊しがちなので仕方がなかった面もある。パルデア本土のスクールと異なり、離島に所在するパーシモン・ゼミナールでは建築資材が不足するという面もあった。
「質量保存を無視した資材だからオリハルコンは便利...なんだが、得体が知れないよな...」
「ポケモンのワザで生成される物も質量保存もエネルギー保存も無視しますし、それこそ同じようなものでは?」
「いや、まあ確かに...
...姉貴、アラート!」
レプトシフォンが持つ端末の画面が、赤く染まっている。
>ALERT:不正アクセス
>ALERT:不正アクセス
「AI『シャンボール』、認証ID:レプトシフォン・フロックス!
不正アクセスを逆探知!」
>ALERT:オリハルコン構成変更権限のロック解除を要求されています
>ファイアウォール2段目で不正アクセスを遮断
>不正アクセスを逆探知
>不正アクセス発信源は衛星上、及びイッシュ近海のサーバーを経由し途絶
「本家のサーバーにセキュリティプログラムの臨時要求!」
>フロックスグループセキュリティサーバーにアンチウイルスプログラムを臨時要求
>本家サーバーが権限を承諾、攻勢防御を開始
>本家サーバーが不正アクセス発信源を探知。発信源はパルデア本土。ID:マジボス。
>本家サーバーがID:マジボスへの攻勢防御を実行。OSのクラッシュに成功
「…マジボス...解散したはずのスター団ですよね。」
「スター団は別に悪党じゃない。顛末ならクラベル校長から聞いた。...なのになんで、この学園の基幹システムを攻撃されている…!?」
「…とにかくはっきりしたことがあります。
オリハルコン泥棒、思っていたよりも遥かに大規模な騒動になりそうです。シンシューのお2人だけでは手に負えないかもしれません。」
「もう一つある。
偽名だけど、ハッカーの正体はおおむね見当がつく。パルデアリーグのリーグペイを不正に発行できる凄腕だ。...姉貴が本家のネットセキュリティ会社に緊急依頼を出したことはバレてるだろうし、時間をかけたりおおごとにすれば本家が出てくることも察してるだろ。
本家の介入を恐れてないのなら、『マジボス』なんていう正体のバレかねない適当なIDは使わない。もっとバレにくいIDか、あるいは正々堂々実名でハッキングして喧嘩を売るか...中途半端さから見て、彼女は俺たちヒスイ分家だけで事が済むと思ってるはずだ。」
「本家が飛んでくる前に、犯人グループはケリを付けたがってくる...しかも、遠隔でのハッキングがダメだとわかった以上次に狙ってくるのは、オリハルコンのインゴットとかちゃちなものじゃなく...!」
ーオリハルコンすべてを制御する、統合AIの、筐体本体。
「っ、いけない!統合AIを外部の人間に抑えられたら、学園を物理的に差し押さえられるようなものです!
ムクホーク、出てきてください!」
「AI『シャンボール』、認証ID:ミクロステリス・フロックス!
俺の現在座標右側、壁面を変形!2m四方に外部へ開口し、2分後に閉鎖!」
「ムクホーク、私はともかく弟が重くてごめんなさい...
...AI筐体室、秘密入口までお願いします!」
「転生ポケモン令嬢」4章で登場したステラーシステム兵器に「パルデアチャンピオンが持つテラパゴスの力」が使われており、転生ポケモン令嬢の10章まで1年、さらに7年で「転生ポケモンアイドル」が始まっているので、8年かそれ以上前にパルデアの大穴の底でテラパゴスが捕まっていることになります。その当時のタロが2年生なので、さすがにもうとっくに卒業してますね。
パーシモンゼミナール 校歌
嗚呼 風物恵まれし
吊るす柿の実 熟して薫れ
互いを尊び 風雅を磨けば 志届かん
七洋に羽ばたけ パーシモン