アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

51 / 108
 ツクバネの樹のの学名はBuckleya lanceolata。ツクバネ・モリヤの傀儡人形の名前がバックレアなら、そのバックアップが名乗る偽名はランセオラータというわけです。


♫2 バックアップ者、家督継承者、不老不死者

ー*ー

 

 バックレアは、今でも思い出せる。

 

 「なんの用!ですかな!?ツクバネ女史!」

 

 数十年前、まだ湖畔の町がカナサシタウンと呼ばれる門前町だったころ。彼は仲間とともにその多大な科学力、技術力でモンスターボール工場を立て、町に電力網を張り巡らし、シンシュー各地やカントー・ジョウトへとライドポケモン専用道を建設し、きのみの植物工場プロジェクトに取り掛かっていた。

 

 「この街も、そなたのおかげで発展してきたよの。

 

 そろそろ、あーなんと言ったか?テクノロジーだったかの?の街も大きくなってきたしの。門前町とは言い切れなくなってきたぞえな。街の名前、変えてもいいかもと思うての。」

 

 「おお!学研都市計画!認めていただけると!」

 

 「その代わりではないが…街の名前と、研究目標、一つ提案があるんじゃがいいかの?」

 

 「ふむ?」

 

 「街は『エクリプスタウン』、研究目標は『湖底の邪神を解き明かし、その力を使うこと』というのは、どうじゃぞえ?」

 

 バックレアは頷いた。むしろ、邪神「おひだりさま」を封じるカナサシおみやがその邪神の研究を手伝ってくれるなら願ったり叶ったりだと。

 

 「…今、頷いたはずじゃな?」

 

 「確かに!それが…?」

 

 「契約は成った。そなたはもう、吾の傀儡じゃぞえ。」

 

 呪符が巻き付けられた剣が、心臓を抉る。

 

 痛み…そして次に目が覚めた時、バックレアは機械の身体の中だった。

 

 「好き放題できたのも!替えの体があるおかげで危険な実験をできたのも!ツクバネのおかげではあります!

 

 しかしわたくしは!ツクバネに協力させられたこと!何より!ポケモンの科学とポケモンの神秘という対立軸に組み込まれたことを!悔やんでならない!」

 

 神々の超常をも解明する、それがバックレアのスタンスだ。すべてを科学したい、そのためには神に迫る知識と、神にも勝てる最強のポケモンが必要である。…すなわち、錬金術師サンジェルマンと、ミュウスリーEXだった。

 

 回想を終え、バックレアは吐き捨てる。

 

 「なのに!まさかサンジェルマンの手下に襲われるとは...ッ!」

 

 アリア・カナサシは、ざまあみろの気持ち半分、なんでやねんの気持ち半分で、バックレアからタロ襲撃の顛末を聞く。

 

 「サンジェルマンの手下?邪神復活の被害者に襲撃されたとかではなくて?」

 

 「いえ...!タロさんはシンシューに!何の因縁もないはず!

 

 それに宝石を身に着け!バイオリンの音色を!纏っていました!サンジェルマンの都市伝説では!彼に接触すると彼の特徴としてその2つがあらわれる...!」

 

 「/Outputでもそれは都市伝説ですよね?仲間になったら、与えるわけでもなく宝石が現れる...なんて」「感染呪術...いけない!」

 

 アリア・カナサシはカナサシおみやの現人神。祭祀はモリヤ家に代行されていたとはいえ、基本くらいは把握している。

 

 「コトホギさん、『藁人形に釘を刺すとそこを怪我する』『ゲンガーが影を舐めると本体の体温も下がる』のと一緒よ!『サンジェルマンと仲間になるとサンジェルマンの身だしなみが移る』んだわ!」

 

 「/Outputじゃあタロさんは、やっぱり、サンジェルマンとグルで、バックレアを襲った!?何のために?End」

 

 ポケモンでもっともかわいいトレーナーとして尊敬するタロ。彼女がどうして人を襲う理由がある?言祝アリアはハッと息を呑んだ。

 

 「何か、思い当たることがあるのね?

 

 ポケモンを物語として知る転生者のコトホギさんのほうが、私より、シンシューの外については詳しいこともある...わよね?」

 

 「いえ、原作のタロさんに思い当たることはないです。

 

 ...ただ二次創作のタロさんには...ッ!」

 

 信じたくないが、しかし現に一人襲撃されている。

 

 「それでどうするのウルトラマッドサイエンティスト。タロさんを詰めてメモリを取り返す?それとも回線に転送されてるところをハックするとか?」

 

 「いえ、それは任せます!メモリの発信機がタロさんと関係のない位置で途絶えたので!ダークウェブは既に洗いました!」

 

 途絶位置から見て、タロから受け渡された相手が発信機に気付き除去した...だが、現代人ならばメモリの中のデータなど吸い出して転送しメモリの方は破壊すればいい話であり、にもかかわらずデータを科学技術に優れたバックレアがネット上から見つけられていないという事はデータはまだメモリごと持ち去られて続けている…現在のメモリの所持者は、デジタル社会に不慣れな古の人間ということだ。

 

 「わたくしめは!サンジェルマンを探します!もうとっくに!メモリは受け渡されたに違いありません!」

 

 「じゃあ私たちはタロさんを探すわ。

 

 行くわよコトホギさん!」

 

 バックレアと2人のアリアは、それぞれに駆け出した。

 

ー*ー

 

 それは、2人のアリアにヒスイ分家が招待状を出す数週間前のこと。

 

 ー「分家のお2人は、あの件、進めているかしら?」

 

 テレビ通話の画面の向こう、フロックス本家の当主、アオバ・フロックス令嬢は今日も楚々として、純白の髪を輝かせていた。

 

 「アリア・カナサシ、それにその旅の同行者を見定める件、か?」

 

 ヒスイ分家が営む財閥STEAグループは、8年前の経営危機から、今でも間接的に本家の支援を受けている。ミクロステリスは頭が上がらない。

 

 ー「そう。カグヤはホープ団に頼みに行ったみたいだけれど...」

 

 「しょせんは悪の組織だからな...」

 

 ヒスイ分家は悪の組織で3回も辛酸を舐めた。1回目はアカギのギンガ団をヒスイ時代の志を持っていると思い後援したこと、2回目はフラダリの慈善活動にほだされフレア団を後援したこと、3回目はあかいくさり狙いのギンガ団残党に買収されかけたこと...だから、元ゲリラ組織であるホープ団のことをミクロステリスはあまり信じていなかった。

 

 「わかった。学園に招いて腕試しをすりゃいいんだろ?

 

 パーシモンのチャンピオンでもぶつけるか?それか、ブルーベリーの元四天王が視察に来てるけど。」

 

 ー「チャンピオンランクがごろごろいる学園島に、リーグトーナメントも開催できないシンシューの客人を呼んで、バトルさせたら、おちょくってるのかと思われてシンシュー地方との外交問題になりますわよ。あまり英雄の面子を潰すものではありませんわ。」

 

 「こっそり見定めるのもたいがい面子潰しでは…?」

 

 ー「バレなきゃ罪じゃありませんわ。」

 

 本家なら少々バレても揉み消せるだろ、とミクロステリスは思ったがさすがに口にはしない。

 

 ー「罪で思い出したのだけれど…

 

 …この前、ワカナエ署が違法タウリンの摘発でゴフク屋の事務所に押し入ったの、ご存じかしら?それで、いつものように末端しか捕まらなかったのだけど、犯罪の計画書を何枚か押収したらしいのですわ。

 

 ゴフク屋は競合潰しのために他所の組織の計画を探ってるから、直接の関与は不明だけど…

 

 …オリハルコン。そちらが研究している新素材金属。それが何者かに狙われていることは、まず確かなようですわね。」

 

 「アリア・カナサシとアリア・コトホギの見定めに、オリハルコンの盗難計画を潰させろ、と。」

 

 ー「手間をかけますわね。」

 

 …このような会話があり、そして数週間後、今に至る。

 

 ミクロステリスとその姉レプトシフォンは、関係者以外立ち入り禁止となっている海水淡水化センター地下、統合AI「シャンボール」筐体室の前の狭い廊下で、迫る足音を待ち伏せていた。

 

 (本家の頼み事は叶えたい。だけど、それ以上に、本家が期待している2人を必要以上の危険には晒せない…!)

 

 宝石のチカチカした輝き…そして、窃盗犯が姿を現した。

 

 「オリハルコン窃盗犯、お前が狙うとしたら、ここだと思っていたよ。

 

 オリハルコンの随意操作用統合AI。これが接続したオリハルコンをロックしている限り、盗んでも意味がないからな。」

 

 スパコンの筐体が見えるガラス扉の前、ミクロステリス・フロックスは、聞こえるはずのないバイオリンの音を聞きながら、ボールを構える。

 

 「先ほどカナサシの歌姫に電話をいただきました。サンジェルマンに接触した人物は宝石とバイオリンの音色が感染する…と。」

 

 レプトシフォンに睨まれているその人物は、黒い燕尾服のそこら中に宝石を散りばめていた。そして、バイオリンを手にしている。

 

 「学園理事長、ミクロステリス・フロックスの名の下に告ぐ…

 

 サンジェルマン!悪いがお前は、学園島から放校だ!行け、ダークライ!」

 

ー*ー

 

 「ダークライ、ダークホール!」

 

 燕尾服の男は、呆気なく眠りに落ちる。

 

ー*ー

 

 3000年前のことだった。

 

 「AZ様、これにて、最終兵器への改造は完了なり。」

 

 「よくやった、サンジェルマン。」

 

 生と死を司る神と呼ばれしポケモンの神秘。それを、後に科学と呼ばれるものに似た理論体系で解き明かした学者、サンジェルマンは、主君へ深々と頭を下げた。

 

 「いいのか?お前も、コーシーの一族のように逃げてもいいのだぞ。」

 

 「彼らは神を恐れにけり。神話に残る偉大なポケモンは脅威たりしに、なんとかしなければ、という。」

 

 「サンジェルマン、お前はそうではないから、この最終兵器を恐れない、ということか?」

 

 「我輩には、これがたいしたものには思えず。」

 

 「…これからカロスを終わらせる、この2体の伝説ポケモンが、か?」

 

 「マフォクシーが火を操るようにゼルネアスは命を操る、それだけのことなり。神と呼ばれてもポケモンには相違なし。

 

 いずれ人間は、ポケモンの神秘のすべてを理解せむ。きっとそうだと我輩にはわかる。ゆえに、本当の神秘など存在しない…頭で理解しえるものを、誰が怖がろうや?」

 

 AZは、この浮世離れした学者のことを理解できている気はしない。けれど、最終兵器でカロスにそして自分たちに何が起ころうと、サンジェルマンは恐れないし気に留めないということだけは理解していた。

 

 そして、カロスは一度滅んだ。

 

 AZは3000年、別れてしまったフラエッテを探し、カロスをさまよい続けた。

 

 では、サンジェルマンは?

 

 彼はAZと異なり、うっかり永遠の命を手に入れてしまったことに特に後悔はなかった。だから、この広い世界世界で「本当の神秘」を求め、3000年世界を彷徨った。

 

 ユキコシ地方で、かつての同僚たるコーシーの一族の末裔が地方まるごとギラティナへの生贄に捧げ、世界を破壊しようとしてしくじるのを見た。

 

 ヒスイ地方で、アルセウスに狂った男が夢破れるのを見た。

 

 パルデア地方で、大穴の奥に魅入られた帝国が崩壊するのを見た。

 

 ジョウト地方で、ホウオウとルギアが3体の眷属を生み出すのを見た。

 

 ホウエン地方で、流星が打ち砕かれるのを見た。

 

 グラードンとカイオーガの復活も、宇宙を再創造しようとする者たちの暗躍も、ポケモンをトモダチと呼ぶ偽りの王も、かつての友の子孫が起こした最終兵器再起動未遂も、たかだか1000年の未来のために無限のエネルギーを求めた大金持ちも、好奇心で復活させられた災厄ポケモンがゲットされるのも、すべて見てきた。

 

 すべて、「そのうち誰かが理屈を解明してくれる程度」「ちょっと強くて変な力を持ってるポケモンが暴れているだけのつまらないこと」にしか、思えなかった。

 

 そうして、3000年の旅路の彼方、ユキコシ地方、トキトビ島にて。

 

 伝説の錬金術師は、本当に理解も想像も絶する、世界の神秘そのものと呼ぶべき神に遭遇した。

 

 「現実を創造せしアルセウスとついをなす、fiction(虚構)をしろしめしdeus ex machina(絶対神)」ーアレを手にできるなら、たとえそのことで世界が滅びようとかまわない、それくらい、彼はかの「永遠にして至上なる光翼」にほれ込んだ。

 

 「老いると眠りが浅くなると言うものなり。まして3000年も生きていれば、不老不死とても、睡眠の必要いずこにありや?」

 

 燕尾服の男は、あっさりと眠りから覚めた。たった数秒の睡眠。

 

 「よく我輩の名を調べたものなるな?

 

 さよう、吾輩はサンジェルマン。永遠の命を持つ錬金術師なりけり。

 

 我輩の前に、立ちふさがる者なりや?」

 

 「あなたが私たちの学園島にちょっかいを出すと言うのなら、そうなりますね。

 

 参りましょうか、クレセリア。」

 

 「ならば、行くべし、シンボラー。」

 

 【でんせつのれんきんじゅつし サンジェルマンが しょうぶを いどんできた!】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。