アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 言祝アリア「タロさんが私の知り合いを攻撃してる!?なんで?

 ...まさかエアプタロ概念が現実になったとでも言うの!?」


 本章の主要人物

 アリア・カナサシ&言祝アリア 邪神を収めて、息抜き半分でパルデア沖に来た。そうしたらまた何か始まりそう...

 フロックス家ヒスイ分家(ミクロステリス&レプトシフォン) 本家が運営している学園に特に意識せず通っていたら、いつの間にか理事を押し付けられていたし、卒業しても制服コスプレして戻ってくる羽目になった。本家から頼み事はされるわ、襲撃はあるわ...

 ランセオラータ(=バックレア) 先日、邪神復活騒動の片腕を担いでエクリプスタウンを吹き飛ばし、自分も吹き飛んだがバックアップから復活したウルトラマッドサイエンティスト。契約満了でツクバネの傀儡人形ではなくなった。次こそはツクバネにも邪神にもしてやられたりなんかしないために、この島で力が欲しい。

 タロ(ポケモンスクール連合) すでにアカデミーは卒業し、リーグ部四天王でもないが、学園にとどまり教育と研究に携わっている。今回はブルーベリーから視察に来た。オレンジ・グレープに先に視察に行ったのは、クラベルと話すことがあったから。

 サンジェルマン 伝説の錬金術師。不老不死で1000年以上彷徨っているだとか、ポケモンの神秘とポケモンの科学を統合して扱っているだとか、学園島のオリハルコンも実は彼が開発しただとか言われている。

 その正体は、3000年前にAZが最終兵器でカロスを吹き飛ばした時の部下。ゼルネアスやイベルタルも「神というより、特殊な力を持つただのポケモン」としか思っておらず...けれど彼は長い時の果て、ついに本当の神秘と思えるものを見つけてしまった。





♫3 モモワロウ抜き、悪者マシマシ

ー*ー

 

 「…あの、どうしたんですか?お2人とも、顔がかわいくないですよ?」

 

 パーシモン・ゼミナールの一角、ちょうど、バトルコートの前。

 

 「バックレア...じゃないランセオラータから聞いたわ。貴女、彼を襲ったんですって?」

 

 アリア・カナサシは、呼び出していた人物に、そう問いかけた。

 

 「…そうですけど。」

 

 唐突かつ不躾な問いに、タロは無造作に首を振る。

 

 「クロ、ね。

 

 悪いけど、シンシューのためよ。

 

 オーバーラップ、ニンフィアッ!」

 

 アリア・カナサシは、顔一つ変えずボールを投げた。

 

 「…そっか、やっぱり、そうだったんですね。

 

 私たちを阻む障壁、ここで排除しないと。」

 

 タロは、決然と目と眉に力を込め、ボールを手にした。

 

 「/Outputそうだったんですねは私のセリフです。タロさんが、まさか事前予想のほうだとは思いませんでしたよ。

 

 オンステージ&オーバーラップ!アシレーヌ!End」

 

 言祝アリアは、悲痛そうな表情でボールを投げた。

 

 「…ダブルバトルですか?

 

 かわいいですね。ダブルバトルの本場、ブルベリーグ元四天王の私に、ダブルバトルで挑んでくるなんて。

 

 プラスル、マイナン...少し、本気でいきましょう。」

 

 【ポケモントレーナーの タロが 勝負を仕掛けてきた!】

 

ー*ー

 

 サンジェルマンは、悠々と廊下でバイオリンを弾いている。

 

 【アンノーンBREAKの めざめるパワーBREAK!】

 

 黄金のアンノーンが、金色の粒子をまとわりつかせた光球を無数に生み出し、弾幕のごとくに撃ち出す。

 

 すでにダークライとクレセリアは倒された...どころか、ヒスイ分家姉弟は次々と手持ちを倒されていた。今出しているキラフロルとコノヨザルを除けば、もう手持ちは1体ずつしかいない。

 

 「いやいやいや、アンノーン2体ならわかるけど、アンノーン1体でこんなに強いのはダメだろ...」

 

 ユキコシ地方のBREAK力場(フィールド)と同様の疑似力場が学園島にあり、アンノーンは空間中のBREAKオーラを借りてBREAK進化を行い、自らを強化している…とはいえ元がアンノーンだから限度があるはずだし、ヒスイ分家姉弟だってBREAK進化を念頭にバトルを組み立てているのだ。アンノーンBREAKなんぞにここまで追い込まれるのは異常事態だった。

 

 「『シンオウ分家』ではなく『ヒスイ分家』を名乗るからにはわかるはずなり。

 

 かつてアンノーンのめざめるパワーは、自動で相手の弱点になったものなりけり。ヒスイ地方のような、神話の匂いが濃いところでは。」

 

 「だとしても、あの弾数、それに威力...一発ずつタイプが切り替わっているとしか...!」

 

 2体相手に同時に数十発のめざめるパワーを乱射して、そのすべてが命中した相手の弱点のタイプとなる…めざめるパワーにしては超絶すぎる。だがサンジェルマンは、レプトシフォンの驚きを肯定した。

 

 「さようなり。」

 

 サンジェルマンは生ける都市伝説。千年以上、数々の神話の舞台を渡り歩いたとされる人物。この上なく「神話の匂いが濃い」トレーナーだ。しかもアンノーンの寿命は不明で、もしかしたらサンジェルマンとともに数千年の旅をしているのかもしれない。弾数、素威力、仕様ともに得体のしれない強化がかかっているとみて間違いはなかった。

 

 「弾幕を抜かないと勝てないな...姉貴!」「キラフロル、キラースピンです!」

 

 毒をまき散らしながら、キラフロルが弾丸のように突っ込む。

 

 「依然、撃ち落とすべし。」

 

 【アンノーンBREAKの めざめるパワーBREAK!】

 

 じめんタイプに変更された、数十いや数百のめざめるパワーの雨。一発一発が弱くても、機関銃もかくやの猛攻撃を受けてはどうにもならない。

 

 キラフロルが、アンノーンBREAKのはるか手前で堕ちる…

 

 「ミクロステリス、通せますよね?

 

 だいばくはつ!」

 

 【キラフロルの だいばくはつ!】

 

 墜落しかけのキラフロルが、爆発とともに、めざめるパワーの弾雨をも吹き散らす。

 

 弾幕が、空いた。

 

 「攻撃を通すべからず!再びめざめるパワー!」

 

 サンジェルマンが初めて焦りを見せる、ミクロステリスが笑うーアンノーンが再びめざめるパワーの弾幕を展開するより、コノヨザルが動くほうが速い。そして、めざめるパワーの弾幕さえなければ、近づいて攻撃を当てれさえすれば、アンノーンはたいしたポケモンではない。

 

 「ふんどのこぶしッ!」

 

 【コノヨザルの ふんどのこぶし!】

 

 さっきまで弾幕があったあたりを、コノヨザルが飛ぶ。

 

 アンノーンBREAKが、無数のエネルギー弾を生成する。

 

 コノヨザルの拳が、オーラで金色に彩られたアンノーンBREAKに届く。

 

 アンノーンが廊下の向こう側へ吹き飛ぶ。

 

 コノヨザルの周り、発射直前のめざめるパワーが、制御を失い暴発する。

 

 爆風から身をかばいながら、3人はボールへポケモンを戻した。

 

 ヒスイ分家の姉弟にとって、次が最後の一体ずつ。

 

 「出番です、ドラパルト!」「ブリジュラス、やるぞ。」

 

 シンボラーは強かった。アンノーンBREAKは無茶苦茶と言っていい強さだった。では、次にサンジェルマンが出すポケモンは...?

 

 サンジェルマンは、煤けた岩でできた「モンスターボールらしきもの」を、懐から取り出した。

 

 「では、ご期待に応えんとするものなり。

 

 フラージェス!オーバーラップ!」

 

 (黒い、フラージェス…?)

 

 「このフラージェスは特殊なりて、王の持ちたるフラエッテの同族なりよ。

 

 消し飛ばすべし、フラージェス!」

 

 【フラージェスGXの はめつのひかりGX!】

 

 「ゴーストダイブです!」「ミラーコートだ!」

 

 一見、マジカルシャインにしか見えない、フラージェスGXが掲げる光球。だが、フラージェスGXがそれを放った時、姉弟は、失敗を悟った。

 

 禍々しい光があふれ出す。それは、イベルタルが使う死の光線にも似て。

 

 影の中までも染み通った邪光が、ドラパルトを瀕死へ追い込む。

 

 ミラーコートに反射されることもなく、邪光がブリジュラスを照らし、直後にブリジュラスは気絶する。

 

 ドラパルトもブリジュラスも、光を浴びた面が石化していた。

 

 目も当てられない、完全な敗北。手持ちが壊滅した今、次にあの光を浴びたら、姉弟は死ぬしかない。

 

 「どうする姉貴、助けを呼ぶしかねえか…!」「そ、そうなんだけど電波妨害を受けてて...!」

 

 さすがハッキング攻撃を活用してきただけあり、サンジェルマンはぬかりなく、ヒスイ分家姉弟を孤立させていた。

 

 姉弟が、統合AI「シャンボール」筐体室の扉へ追い詰められる。扉に背中がつく。

 

 「開けてもらわんとするものなり。疾く開けよ。」

 

 サンジェルマンが、能面のような顔で迫る。

 

 フラージェスGXが、再び光球を生成する。

 

 そこへ、叫び声が聞こえてきた。

 

ー*ー

 

 「ちょーっと待ったァァッ!」

 

 ヒスイ分家姉弟は、サンジェルマンの肩越しに見えた白衣に驚いた。

 

 「ランセオラータ先生!?どうしてここが!?」

 

 振り向いたサンジェルマンの視線の先、偽名で招かれていたウルトラマッドサイエンティストは、いつものように得意げかつハイテンションな声で近づいてくる。

 

 「いや、私が『意思に応じて変形する金属』なんてものを開発して実用化したとしたら!むやみに触れても大丈夫なように!ロックと操作コントロールを兼ねて巨大な意志に常時接続させておくと思っていたんですよ!

 

 人間が操作可能な!常時思考可能な巨大意志体と言えば!高性能AI!しかしAIの筐体を動かすには膨大な電力と冷却水が必要です!電力はケーブル一本で隠せても大量の冷却水は隠せない!...わたくしなら、巨大な水処理施設、例えば離島にありがちな海水淡水化センターに隠すと思いました!そしてサンジェルマンもそこに辿り着く!」

 

 白衣のポケットから、マスターボールを取り出し。

 

 「さてはて!AIに興味はありません!わたくしの頭にもその程度のチップは入っていますからね!

 

 けれどサンジェルマン!タロさんに盗ませたデータはそこにあるのでしょう!?返してもらいます!ついでにいろいろ教えていただきたいこともね!

 

 ミュウスリーGX、リブート!」

 

 【特別講師の ランセオラータは ミュウスリーGXを 繰り出した!】

 

 「フラージェス、殺すべし。」

 

 【フラージェスGXの はめつのひかりGX!】

 

 「ダメだっ、その光を浴びたら…!」

 

 「心配は!無用です!

 

 ミュウスリー!最新機能を!使いましょうか!」

 

 フラージェスGXが、邪光を解き放つ。

 

 ミュウスリーGXの頭の上に、天使の輪のようなエスパー光が出現する。

 

 ーその時、ヒスイ分家姉弟は確かに、世界がズレるかのような気持ち悪い違和感を感じた。

 

 【ミュウスリーGXの プロバビリティドライヴGX!】

 

 フラージェスGXの放った禍々しい邪光が、空中で消える。最初からそんなものなかったかのように。

 

 同時に、フラージェスGXの首を包む花輪の半分が、音もなく消失した。

 

 爆発も何もなく、破壊の結果だけが現れる…ヒスイ分家もサンジェルマンも知らないことだが、それはミシャグジ神の「プロバビリティゲイザー」に似ていて。

 

 「フラージェス、まもるなりよ!」

 

 【フラージェスGXの まもる!】

 

 「無駄です!

 

 完成版のミュウスリーこそはわたくしの科学のたまもの!最強のポケモンの前で!失敗する可能性のあるワザなどに!意味はない!」

 

 【ミュウスリーGXの プロバビリティドライヴGX!】

 

 再び出現する、エスパー光の天使輪。それが、黒であり虹でありモノクロでありカラフルな矛盾した光をまとい…

 

 …今度は、フラージェスGXの足元の2枚の大きな葉が、音もなく消えた。「まもる」バリアも同時に消える。

 

 「なんたるかそのワザ!?破壊の過程を無視する、この世の理を逸脱して見えたるぞ!?」

 

 「サンジェルマン!これを理解できないとは!見込み違いでしたか!」

 

 「ほう!そこまで言いたるか!その神秘、理解して見せん!

 

 フラージェス、マジカルシャイン!」

 

 【フラージェスGXの マジカルシャイン!】

 

 【ミュウスリーGXの プロバビリティドライヴGX!】

 

 マジカルシャインが、なかったことにされる。そして、フラージェスGXから花がすべて消え、丸裸となった。

 

 「…よもや、そやつ、起きうる可能性を直接現実に呼び出したるか…!」

 

 「わかった!ようですね!

 

 ミュウスリーの最新テクノロジー!ミシャグジ神のデータを元に!可能性があるすべての事象の中から必要なものを抽出し!現実世界へ汲み上げる!

 

 それでは!実験を終了と!いたしましょう!」

 

 【ミュウスリーGXの プロバビリティドライヴGX!】

 

 再び、天使の輪が、あらゆる可能性を内包した矛盾した光を帯びる。

 

 フラージェスが、灰になってサラサラと消えた。

 

 ミュウスリーGXに、相手を狙う必要はない。命中の可能性があれば、それは具現化できるから。

 

 ミュウスリーGXに、ワザへ力を込める必要もない。倒せる可能性があれば、それは具現化できるから。

 

 ミュウスリーGXに、相手の回避・防御・迎撃を気にする必要もない。もっともダメージを与える当たり方の可能性を、具現化できるから。

 

 それは、実現可能性がわずかでもある出来事ならば問答無用でその可能性を現実にする、チートコードだった。そしてミュウスリーGXのとびぬけた能力をもってすれば「可能性がみじんも存在しないできごと」などそうそうなく、事実上の「したいことをなんでも現実にする」という万能コマンドでもあった。

 

 「さて!おわかりでしょうが!わたくしの科学力の勝利です!

 

 サンジェルマン!手始めに!タロさんに奪わせたデータメモリは返してもらいましょうか!」

 

 サンジェルマンが、がくりとうなだれる。

 

 手を燕尾服のポケットに突っ込み、メモリを取り出し。

 

 「ハハ…

 

 ハッハッハッ…」

 

 サンジェルマンは、項垂れたまま、口元から笑いを漏らしていた。

 

 「何がおかしい?サンジェルマン。」

 

 「ハッハッハッハッハッハ…!」

 

 狂気に満ちた笑みを浮かべ、サンジェルマンが顔を上げる。

 

 「っ!?ミュウスリー!すぐに!サンジェルマンの次の攻撃を!防げる可能性を具現化!」

 

 【ミュウスリーGXの プロバビリティドライヴGX!】

 

 漆黒にして極彩の天使の輪。それが出現と同時に霧消する。

 

 【プロバビリティドライヴGXは 失敗した!】

 

 「なっ…!?」

 

 「ハッハッハッハッハッハ、時間稼ぎは終わりなり!」

 

 【シンボラーの みらいよちが 発動した!】

 

 空から、極光が、海水淡水化センターへ突き立った。

 

ー*ー

 

 「メロエッタ、戻って。」「/Outputイーブイ、お疲れさまでしたEnd」

 

 (これが、ブルベリーグ元四天王...)

 

 「ドリュウズ、マホイップ、ありがとうございました。かわいかったですよー。

 

 ...さて、と。」

 

 2人のアリアは、呆然と、立ち尽くしていた。2人あわせて12体、まぼろし1体メガシンカ2体を含みポケモンEX・GXという奥の手あり...それで、タロの6体とのダブルバトルに敗北したのである。

 

 理由は明白だった。2体ずつのダブルバトルのエキスパートではとてもないのに、わざわざタッグ1体ずつでロクな連携なしにそれをしたものだから、いいようにしてやられたのである。もちろん、言祝アリアの1年に満たないポケモン達では10年以上鍛えたタロのポケモンたちとレベルが違い過ぎるし、アリア・カナサシとて戦争にはめっぽう強くてもバトルに強いかというとそうでもない。ついでにテラスタルにも翻弄される...そもそもリーグも成立していないシンシューのトレーナーが、リーグ殿堂入り並の強さを前提としたブルベリーグの元四天王に挑むこと自体無茶と言えば無茶であった。

 

 (...戦場だったら龍神様の力なしでも楽勝だった。でもバトルコートの上ではダメね…!剣術で剣道に勝てないようなものだわ...!)

 

 (ゲームなら勝てたんですが…!)

 

 (強いですね…バトルのテンポやテクニックを磨いたら、1年もすれば逆転されかねない...!)

 

 とにかく結果は結果だ。戦力比も考えれば2人のアリアの惨敗である。

 

 タロは、ボールをしまい、腕を組んで詰め寄る。

 

 「聞いておきましょう。

 

 どうして、私に挑んできたんですか?お2人とも、バックレアに味方したんですか?」

 

 アリア・カナサシは思ったータロは甘い。ポケモンバトルで勝ったからポケモンを引っ込めるだなんて。トレーナーへのダイレクトアタックなんて自分はいくらでも経験したのに、と。けれどここはシンシューではないし今は戦時中ではない。ここからの逆転の目などないのだ。

 

 「/Outputあなたこそどうして、私たちやゼミナールに、牙をむくんですか?

 

 なんで、タロさんが黒幕なんですか?ずっと憧れてたのに!End」

 

 言祝アリアは、すっかり混乱していた。かわいくて憧れのタロが、本当に敵に回るだなんて、今でも信じられないし辛いことだと。

 

 「…黒幕?いや、計画の主犯という意味なら、クラベル校長とシアノ校長ですが…?」

 

 (...エアプタロじゃなくて、エアプクラベルとエアプシアノ...ですって!?)

 

 「…さて、もうそろそろ、遊びは終わりにしましょうか。

 

 最後に何か、言い残すことは?」

 

 「…私に、それはできないわ。」

 

 「あら、躾が足りなかったようですね。」

 

 タロの太眉が、悪役らしく異様な迫力を放っている…けれど戦場帰りの歌姫はひるむことなく、隣でショックを受けているアイドルの肩を叩いた。

 

 「そうではなくて...コトホギさん。」

 

 バトルに負けてからの最後っ屁はできないにしても、まだ、手札は残っている…それもとっておきの手札が。

 

 「…わかりました。これも、仕方ありませんね。」

 

 タロの、顔色が変わった。

 

 しまった、やらかしたと。このアリア・コトホギという人物を見誤っていたのだと。喋るのが苦手な内気でかわいい少女と侮るのではなかったと。...「かわいいは最強」だと、なぜ彼女に対してだけ忘れていたのかと。

 

 けれど、すべては手遅れで...アイドルの肉声は、甘い毒のように、元四天王の脳みそに染み込んでいった。

 

 「教えてください、私がもっとも、かわいいと尊敬するポケモントレーナーの一人。

 

 なんでこんなことを、したんですか?正直に、何をたくらんでいるのか、教えてください。」

 

 それを話してはいけない...わかっているのに、心が、言祝アリアに従ってしまう。従えば幸せだと、アイドルを妄信してしまう。

 

 「…だって、『学園島の秘宝』はとっても危険で、指名手配中のテロリスト科学者や、シンシューの軍事勢力、それを招いたかつてのギンガ団・フレア団支援者に自由にさせるわけには...だから、世界のために、あなたたちのたくらみを阻止して、秘宝も破壊しないといけなくって...

 

 ...なんで!これ、秘密なのに...」

 

 言っちゃダメだったのにと、かわいい顔をゆがめるタロ。

 

 一方で2人のアリアは、顔を見合せた。

 

ー*ー

 

 「ちょっと待って、嫌な予感がするわ。具体的には国際問題の予感が。

 

 エアプがうんたらかんたらとか言ってタロさんが怪しいって言ったの、貴女だったわよねコトホギさん。『SVは最新作だからネタの隅々まで網羅してる』ってなんだったの?」

 

 「/Output歌姫さんだって『この戦乱帰りの頭脳が神託を告げているわ。あの子は確かに怪しい!』とか言ってたじゃないですか…!発想が逐一物騒なんですよ歌姫さん!End」

 

 ひとしきりのヒソヒソ声のあと、もうほとんど確信していたが、アリア・カナサシはおそるおそる問うた。

 

 「あの、『国際指名中のテロリスト科学者』って?」

 

 「エクリプスタウン壊滅事件の共謀犯、バックレアです。偽名でランセオラータなんて名乗ってますが、かわいくなさだけでピンと来ました。」

 

 何をいまさら聞いてくるんですかと首をかしげるタロ。

 

 「『シンシューの軍事勢力』...私ね?」

 

 「鉱山ごと数千人の敵を生き埋めにした、伝説のポケモンの力を借りて数百万人を戦乱へ扇動した...イッシュにも、流れてきましたよ。実際会ってみて、かわいい人だからデマかなとも思いましたが…」

 

 「『ギンガ団・フレア団支援者』...フロックス家ヒスイ分家?」

 

 「はい。また怪しい人たちを集めて何かをたくらんでいると...それに本家も暗部組織(ラスト団)を保有していたとかホープ団と接触しているとか、黒い噂がありますし…」

 

 アリア・カナサシは頭を抱えた。

 

 「どうしよう...何一つ否定できない...困ったわコトホギさん...」

 

 「/Outputえっと...

 

 ...信じてもらうしか、ない気がします。正直にお互いすり合わせましょうEnd」

 

 タロは思った。何かおかしい、と。悪人の反応にしてはかわいらしい、と。

  

 「/Outputあの、私が、無理に声で信じさせてもいいのに、わざわざ機械音声を使うってことで信じてほしいんですけど...

 

 バックレアはやらかしだらけのマッドサイエンティストですけど、今回は邪神対策と自分を傀儡にしたツクバネへの復讐のために来ただけです。

 

 歌姫さんはずっと、神の依代である自分が希望の旗印だけじゃなく戦争そのものの旗印になってしまったことを後悔してました。それに私たちがここに来たのは、復興資材としてオリハルコンが欲しいからです。

 

 ヒスイ分家が私たちを招いたのは、別に何かをたくらんでいるわけではなくて、オリハルコン泥棒を捕まえる見返りにオリハルコンを提供するって話ですEnd」

 

 「…うそ…」

 

 みるみるうちに、タロの顔は真っ青になった。

 

 「それが本当なら、じゃあサンジェルマンがシアノ校長とクラベル校長に言ってたことって...」

 

 そして、言祝アリアの発言が嘘であると考える必要がない。嘘を信じさせたいなら、彼女自ら言うように、アイドルの美声で無理やり信じさせればいいのだ。

 

 「たった今きた連絡。

 

 傍証だけど、ヒスイ分家の2人が、オリハルコンを操作する統合AIを守ろうとして、サンジェルマンに敗北したそうよ。

 

 奴め古代カロスの遺物ポケモンなんて出してきたみたい。あながち不老不死も嘘じゃないわね。」

 

 「私たち、踊らされて...だとしたらッ!?」

 

 その時。

 

 学園島に、爆音が響き渡った。

 

 「みらいよち…!?サンジェルマンのシンボラーです!」

 

 「急ぐわよ!」

 

ー*ー

 

 【シンボラーの みらいよちが 発動した!】

 

 サンジェルマンが最初に出し、とっくにヒスイ分家にやられたシンボラー。今の今まで忘れていたその攻撃が、海水淡水化センターへ着弾する。

 

 オリハルコンをトタンに変化させて作った屋根がぶち破られ、海水を港から吸い上げるパイプラインが破壊され湯気が噴き出し、逆浸透膜タンクは粉々になり、そしてその下のコンクリートの床もぶち抜かれ。

 

 そして、海水淡水化センター地下に隠されていたクリーンルームへ、攻撃が着弾する。

 

 統合AI「シャンボール」を構成するスーパーコンピューターの筐体群は、ビームに呑まれ、一斉に燃え上がった。




 タロ&クラベル&シアノ「え、『学園島の秘宝』とか呼ばれてる危険物を隠し持ってる、元ギンガ団とフレア団の支援者(※1)が、ついこの前に邪神召喚して街一つ壊滅させたマッドサイエンティスト(※2)と割と非人道的な戦いをしたシンシューの戦争指導者(※3)を招いて、何かを取引しようとしている!?

 これはなんとしても阻止しないと世界の危機ターロタロタロ/クーラクラクラ/シーアシアシア!(※4)」

 ※1 ヒスイ分家はアカギとフラダリを確かに支援した(ただし古代ギンガ団の後継者/慈善活動家としての顔に騙されて)

 ※2 バックレアは本当に悪のサイエンティスト(ただし邪神復活は、バックレアを傀儡人形として製造したツクバネの仕業。あと今回は悪だくみではない)

 ※3 アリア・カナサシはジュネーブ条約があったら割と大戦犯(ただ、強すぎる龍神の加護と本人のカリスマで周囲が勝手に戦乱に狂奔してただけで、彼女自身はさっさとシンシュー統合・コーシューからの占領地解放で終わらせたかった。あと、かなり戦争中のことを後悔してるし、今回は悪だくみではない)

 ※4 こんな語尾ではない

 言祝アリア「言いがかりだけどなんか全部あってる!なんかこっちが悪いような気がしてきました!(※5)」

 ※5 ネットのポケモン黒化ネタを真に受けたのはどうかと思う
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