アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
なお、転生ポケモン令嬢最終章と同じく、メタ的なフィクトマキナの能力がわかりやすいように、フィクトマキナによる改変前の事象を青、物語改変によって書き換わった事象を赤で示してあります。この通りに、フィクトマキナが書き換えた言葉にあわせ現実が改変されます。
7年前。シンシュー戦乱3年間の前日譚。
ユキコシ地方の化石発掘現場から見つかった1体の龍の化石が、復元もされていないのに逃走した。
ある転生者はそれを「ティラノサウルス」と呼び、それがポケモン世界の外から来たのだと言った。
事実、その通りで、ティラノサウルス化石は「ダレデモナイ、世界の意志」と呼ぶべきものに導かれて進化し、そしてポケモンの世界の外側からの視点、世界のすべてを収めた一点、宇宙の一巡の経験、世界を変える言霊といった概念を吸収し、最後に「物語の主人公」という概念を捕食した。
虚龍フィクトマキナ。ポケモン世界のすべてを物語と見做し、世界のすべてをペンで書き換えるかのように改変する、「上位創作者としての絶対神」。
一時は世界のすべてを掌握するメタフィクション的存在として君臨したものの、転生者中橋蒼玻が「転生ポケモン令嬢」の物語の主人公として自覚し立ち上がったことで「物語の主人公」の概念を喪失、蒼玻/アオバ・フロックスが自分たちの旅の物語を「自伝」として振り返り編纂したことで「物語世界の創造者」の立場も唯一絶対ではなくなり、アルセウスとギラティナのオーラを借りた一撃によって崩壊させられた。
それで終わりだと...フロックス本家の姉妹以外にとっては、「トキトビ島に上陸してくる虚龍を迎え撃ったと思ったら、何が何だかわからないがお互いにポケモンバトルしていて、虚龍は島の奥で倒されていた」という結末で終わったと思われていた、
「名を冠するなら、そう…
CG:フィクトマキナとでも、言わんとするものなり。」
あってはならないものが、そこには顕現していた。
ー*ー
(なにゆえ、我輩はあの少女に、懇切丁寧に答えにけり?)
CG:フィクトマキナの力を受けているサンジェルマンが、望みに反することをするはずがない。だってこの物語世界は、サンジェルマンの自由になる物語世界だ。やる気のないことをやった理由がない。
なのにどうして、言祝アリアに返答している?-言祝アリアは、フィクトマキナの加護をわずかながら上回ることができる、サンジェルマンはそう結論づけた。
つまり、言祝アリアは、敵だ。
「フィクトマキナ、アリア・コトホギを”
この絶対神に、物理攻撃や特殊攻撃は必要ない。物語は書き換えればそのとおりになる。フィクトマキナにとってこの世界もまた、書き換え可能な物語に過ぎない。字義の上で可能なことはすべて、現実になる。
言祝アリアは寿ぎの
ふとサンジェルマンが確認した時、言祝アリアはまだ、そこに立っていた。
「効かずなりけり...だと...!?」
「やっと理解できました。私が知らない、”オリジナルポケモン”...フィクトマキナってメタ能力を司る伝説のポケモンなんですね。私に対しては限度がありそうですが。
『言祝アリア』はあくまで芸名ですよ。それも事務所が確固たる意味を持って名付けた。その名前がなくても私のありかたは変わらないし、私がアイドルとしてある限り私は何度だって言祝アリアの名を取り戻しますから。」
例え「言祝アリア」という概念を物語から排除したところで、芸名を失っただけで彼女は消えはしない。そして彼女は生まれながらのアイドルであり、そしてアイドルである限り再び「言祝アリア」を取り戻す。そしてサンジェルマンは彼女の本名を知らない。
せっかくのフィクトマキナが、言祝アリア一人を持てあます...いや、解決策はあるはずなのだ。しょせんは物語からキャラクターを一人消すだけなのだから。だがフィクトマキナにそれをできる能力があっても、サンジェルマンにはすぐにパッとそれが思いつけない。なにせ現代口語すら怪しいのだ。
サンジェルマンは歯噛みして、ふと気づくー別に、言祝アリアを抹殺するために、言祝アリアの概念を物語から消す必要はない。言祝アリアが死亡するように物語を創作すればそれで充分だ。
「フィクトマキナ、彼女らの足元に穴を。」
【CG:フィクトマキナの オーバーライト!】
上書き。その意味を持つワザは、発動と同時に世界を書き換える。物語改変により、言祝アリアたちの足元には直径10メートルほどの穴が出現した。穴があったことになった。
足場を失い、叫び声を上げながら吸い込まれるかのように穴の底へ落下していく2人のアリア、タロ、ヒスイ分家。
「死にたる…か?いや、定命の者の命の加減はわからぬゆえな…
封殺したればそれでよし、か。」
【CG:フィクトマキナの オーバーライト!】
再び世界が上書きされる。5人を落とし込んだ穴は、完全に閉ざされた。人が出てくることなどとうていありえない穴に。
ー*ー
果たして、5人は地下遥か深くで生きていた。
「奴め、上を塞ぎやがった…」「『落ちたら必ず死ぬ穴』などを創り出されなかっただけ幸運ではありますが…」
ヒスイ分家の姉弟が持つクレセリアとダークライは、まぼろしのポケモンとしてポテンシャルがあるだけあり、サンジェルマンのポケモンにこてんぱんにやられた後でもしばらく休めば人5人浮かばせるだけの能力があった。
問題は脱出。生き埋めになるリスクを承知の上で天井に攻撃をいくつかぶつけて見るも、土でできた天井からは塵一つ落ちて来ない。「人が出てくることなどとうていありえない」と文字の上で規定されてしまった以上、人にも、人が連れているポケモンにも、脱出など不可能なのだ。
「アリア・コトホギに手こずったから、聞いていたよりは弱いのかと思っていましたが…そんなこと全然ないですね…」
「俺たちは一度、アレに負けた覚えがある。結局本家が解決したが…シンオウからホウエンまでのジムリーダー以上をあらかたかき集めても歯が立たなかった。
この学園じゃダメだ。パルデア全土でもダメだ。パルデア地方がなかったことにされて終わりだ。」
「『フィクトマキナ』。7年前のユキコシと同じくらい無茶苦茶ですね。それにフィクトマキナはポケモンでありながらも『法則』『
...世界を物語と見做して、自由自在にあらゆる物語を書き換える...物語改変能力が、アレの権能の正体ですから。」
「…私たちの運命は、文字通りフィクトマキナのペン先に握られている、というわけね。」
これがもしゲームなら、フィクトマキナがやっているのはゲームデータの書き換えだ。ゲーム内の世界でステータスや能力を争う他のポケモンとは一線を画する...どころではない。一線を越えてまくっている。
設定上の上位存在だとか、神としての上位存在ではない。フィクトマキナは物語階層上の上位世界存在なのだ、キャラクターの立場では作者の立場に勝てない。
「…フィクトマキナに勝つ方法、そんなの、この学園の秘宝、あれしかないんじゃないですか?」
タロの言葉に、2人のアリアは首をひねるー「学園島の秘宝」の言葉はタロからすでに聞いているが、争奪戦の対象となったオリハルコンはもう取り返せないし取り返しもつかない。
「学園島の秘宝?それって、上で暴走してフィクトマキナに至ったオリハルコンのことじゃないの?」
言ってから、アリア・カナサシは思い違いに気付いた。タロたちポケモンスクール連合がサンジェルマンと組んでいたのは、サンジェルマンがそそのかしたからであって、サンジェルマンと目的が一致したからではない...むしろ、サンジェルマンがタロに破壊させたがっていたものは、サンジェルマンの目的を阻害するもののはずだ。
「…もともと、シアノ校長もクラベル校長も、あれがこの世に存在することは危険視していて、早く破壊させるべきだと考えていました。
とびっきりに特別なテラスタルハート。
ガラルチャンピオンを騙してムゲンダイナに特別な力場を設置させ、パルデアチャンピオンのテラパゴスからBREAKオーラを掠め取って技術を洗練させ、ギンガ団残党が集めた18枚のプレートから作り出した、BREAKオーラ製のテラスタルオーブ。」
(えっ、なんですかそのトンデモ物は...)
タロが似合わない暗躍をしていたことに、まだ複雑な気分を抱いていた言祝アリア...だがタロが言うところの「学園島の秘宝」の作成経緯を聞いて、さすがに完全に納得した。そんな特級呪物誰だって隠密裏に破壊したくもなる…同時に、そこまでして作られた物は「秘宝」と呼ばれるにふさわしい。
...ただ、タロの言葉を継いだ、ヒスイ分家当主の衝撃的な言葉に、言祝アリアの息はヒュッと止まった。
「…アレを俺たちヒスイ分家が所持して、あまつさえ戦乱続きのシンシューから人を招いたら、刺客が元四天王一人で済んだのは確かに僥倖かもな。
でもいいんだな?『アルセウスのカケラ』、アレは封印しておくつもりだったんだが。」
ポケモンの世界を創った絶対神アルセウスーテラスタルとBREAKオーラという「ポケモンに力を授けるメソッド」を2つも組み合わせているなら、その名を冠したアイテムは「どんなポケモンもアルセウスみたいになれる」代物に違いない。悪者が持つ可能性があるなら手段を選んではいけないアイテムだ。
「はい。もう、わかりました。みなさんとってもかわいい人たちですし。きっと、それを素直に信じていいんだって思えたので。
それに、想像の絶対神の力なんてのに勝てるのは、創造の絶対神の力と、いっちばんかわいいトレーナーです。
期待してますよ、アリア・コトホギさん!」
どうやら、憧れのトレーナーの1人であるタロに認められていたらしい…言祝アリアは、真っ暗な地底に似合わない満面の笑顔で応えた。
「は、はい!ありがとうございますタロさん!」
「それでこの天井はどうする?話はそこからだ。」
「ミクロステリスさん、それについては私に考えがあるの。
人じゃなくて神なら、いけるかもしれないわ。」
「…神?伝説ポケモン、ですか…?」
「ええ…
…畏くも貴き龍神様よ、龍神様が依代カナサシ家の縁に依りて願い乞う。巫女たるアリアが身、助け給え…」
じっと目を閉じ、柏手を打つアリア・カナサシ。
「…うん、来るわ。みんな壁際に寄って!」
何が何だかと思いながらも、ヒスイ分家の姉弟は自分たちを乗せるクレセリアとダークライに指示を出し、穴の壁際にぴったり寄らせた。
ー*ー
サンジェルマンは、パーシモン・ゼミナールの校舎があったあたりへと歩き始めていた。目指すは「学園島の秘宝」があるあたり。
ーフィクトマキナは世界を物語として創造し改変する。これは、世界を現実として創造し改変もできるアルセウスに対し、表と裏のような関係にある…それは、フィクトマキナが世界をアルセウスが存在しない物語に書き換えることもできるし、アルセウスが世界をフィクトマキナが存在しない現実に書き換えることもできる…そして、存在しないことにされても、その改変をなかったことにすることもできる…。お互いに千日手なのだが、それは本物のフィクトマキナとアルセウスの場合。
CG:フィクトマキナはあくまで欠片の歯車からの復元品。指示を出すサンジェルマンとてメタフィクション能力に詳しい訳では無い。アルセウスと千日手になった時に、一手ミスって追い込まれる可能性もないとは言えない。ゆえにサンジェルマンは、アルセウスの力を得ることができる「学園島の秘宝」をタロたちスクール連合に破壊させようとしていたし、それが潰えた今、自分でそれを果たそうとしているのだ。
「先ほどしくじりたるゆえなりな。『学園島の秘宝』、しかと確認し、抹消せねばならぬものなり。」
5人を落として埋めた海水淡水化センター跡地に背を向け、サンジェルマンはテクテクと歩き出す。パーシモンの生徒たちがあちらこちらから現れては様子を伺い、時折にはボールを投げ攻撃を試みる。
【パッチラゴンの でんげきくちばし!】
【CG:フィクトマキナの “
【キノガッサの きのこのほうし!】
【CG:フィクトマキナの “
【ミミロップの すりかえ!】
【CG:フィクトマキナの “
散発的な攻撃のそのすべてが、概念ごと破壊される。でんげきくちばしは田の下の菊と千葉市に、きのこのほうしは木の粉の帽子へすりかえは酢を使った理科の実験の絵へ変換され…というように、字面の解体によって出現した多様な概念が散乱する中、サンジェルマンは悠々と歩いていく。
その真上を、轟音がよぎった。サンジェルマンが気づいたときには、すでにその姿は至近に迫り。
【メガレックウザ(アルビノ)の ガリョウテンセイ!】
対応は、間に合わなかった。
巨大な槍と化したカナサシ湖の龍神が、パルデア沖の孤島の港の地面に突き刺さる。
煙が高く湧きあがり、海を見えなくする。
「海水淡水化センターに落ちけり...?よもや!」
サンジェルマンが息を呑む。爆炎が引き裂かれる。
5人のトレーナーを乗せ、メガレックウザはパルデア沖の青い海の上に白き龍体をひるがえした。
ー*ー
「サンジェルマンも気づいてるでしょうね。『学園島の秘宝』の危険性には。
急ぐわよ龍神様!」
メガレックウザ(アルビノ)の背を叩くアリア・カナサシを、レプトシフォン・フロックスが止める。
「待ってください!
保管庫の解錠はフロックス家4人のうち2人が必要なんです!私と弟もついていかないと!」
1人くらい誘拐されても開かないようにという計らいが、裏目に出た。4人のうち残り2人の本家姉妹はユキコシ地方ワカナエシティにいて、今から呼んでも半日はかかる。
2人のアリアのポケモン?先ほどタロにやられたばかりだ。げんきのかたまりの応急処置で回復させたところでたかが知れていよう。
「…だが、誰かがサンジェルマンを足止めしないと…!」
そこで、タロが、メガレックウザ(アルビノ)の背から腰を上げ、足をかけた。
「私が、時間を稼ぎます。」
げんきのかけらとボールを握りしめ、メガレックウザ(アルビノ)の揺れる背にしっかりと立ち上がる。
「タロさん、それは...!?」
「ブルベリー学園代表として、恥ずかしいとこ、見せすぎましたからね…!」
ひょいっと、タロはメガレックウザ(アルビノ)の背から飛び降りた。
ー*ー
「話し合いは終わりなりけり?」
「はい。ですから、これからは私たちに注目です。
とってもかわいく、していきましょうか…!」
※ちなみに、直接のかかわりがほとんどないのであまり気づかれていませんが、CGフィクトマキナの本質はどちらかといえば「フラダリ転生」側よりです。自我がないシステムである点は「転生ポケモン令嬢」よりですが。
学園島の秘宝:パルデア本土テーブルシティの大穴にある「ゼロの秘宝」ことテラパゴスに対比して秘宝と及ばれている…わけではなく、ゼロの秘宝ことテラパゴスの力を流用して作られた禁止級アイテムだから「学園島の秘宝」。
その正体は「Copied_LegendⅡ_Mod2.Emulated_”Arceus”」、あるいは「ジェネシスシステム改」と呼ばれているアイテム。18色に輝く、正二十面体の結晶体である。
技術的には「BREAKオーラを用いての疑似テラスタルを行い、タイプが変わるテラスタルと種族値&ワザが強化されるBREAK進化のいいとこどりによって、オーラ元のタイプ・強さ・ワザを得る」といったところで、厳密にはテラスタルオーブではない。オーラ元がアルセウスなので、このアイテムを適用されたポケモンはアルセウスに準じた存在になれる。
ギンガ団残党による世界の再創造計画に1回、フィクトマキナから世界を救うのに1回使われたのち、現在は学園島で封印中。