アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
「源理改変、物語改変を使いこなすフィクトマキナの前に、『かわいいは最強』など、無用の長物なり。」
サンジェルマンは言う、笑止千万だと。「かわいいは最弱」とでも世界を上書きするだけで、タロなど鎧冑一触なのだから。
タロは笑う。何も分かっていないのはむしろサンジェルマンのほうだと。
「…私、ポケモンコンテストに出たいと思ったこともあるんですよ。
あそこにはたくさんのかわいいがあふれていて、とても言葉では語りきれないって思いました。」
「何を言わんとするものなりや?疾く話さねば、時惜しきものなり。」
「…いえ、フィクトマキナは、世界を物語として書き換える…それって、物語が分厚くて複雑な描写に満ちていたら、忙殺されてしまいませんか?」
タロは、一斉に6つのボールと6つのげんきのかけらを放り投げ。
「魅せてあげます。ポケモンのかわいいって、どれだけさまざまかって。みんな違ってみんなかわいいってこと!」
色とりどりの光が、星屑のような煌めきが、ダイヤのようなチカチカした輝きが、学園島の空を彩った。
ー*ー
校舎を構成していたオリハルコンが消失し、がらんどうになった学園で、数千人に及ぶ生徒たちが途方に暮れている。そのさなかに降り立ったメガレックウザ(アルビノ)の背から飛び降り、ヒスイ分家の姉弟は周りの生徒・教員に声をかけて落ち着かせながらもスタスタと歩いていった。
校舎が突然なくなって、非金属製の備品が無数に散らばる中。椅子や机の山を理事長権限でささっと薙ぎ払い、姉弟は金庫を探している。その後ろで、アリア・カナサシはぼやいた。
「世界を物語として改変するポケモン、そんなものに本当に勝てるの?」
フィクトマキナは世界の作者だ。登場人物に逆らえる相手には思えない。
「希望はあります。」
言祝アリアは、力強く、わざわざ声に出して言った。
「フィクトマキナとかいうのはわかりませんが、サンジェルマン、彼は役不足です。
ポケモン愛に満ちた私の前で、原作知識もなしに世界を踏みにじろうとしていること...後悔させてやります。」
「開いたぞ!」「開きました!」
ー*ー
「っ、ドリュウズ、サケブシッポ、戻ってください。」
タロが、悔しげに顔を歪める。
「しょせんは文字の上に書けるだけの存在なり。ペンは剣より強き御業なりけるな。」
サンジェルマンは得意げに、タロを見下していた。
「…そうかも、しれませんね。
でも、そういうのはズルだし、ズルはいけないと思います。
それに、悔しいですけど…かわいさが、負けたことは…」
「認めるものなりけるかや?我輩に負けたりて。」
タロは、そこで、きっと顔を上げた。
「いえ、悔しいのは、『私のかわいさが負けた』ことですよ。
私と私のポケモンたちのかわいさが、彼女のそれに負けたことですよ。」
頭上を通り過ぎる、龍の影。その背から、機械音声が応える。
「/Output言い過ぎですよ。今でも、私が知るもっともかわいくてもっともかわいさにこだわつているポケモントレーナーは、私の憧れですから。
…時間稼ぎありがとうございます。決着は、この言祝アリアが引き受けます!End」
「神様の頭数なら、龍神様の依代たる現人神、アリア・カナサシもここにいるわよ。」
アルビノのレックウザを天空へと送り返しながら、2人のアリアは、ヒスイ分家の姉弟をバックに肩を並べ。
「買いかぶりなんかじゃ、ないですよ…」
「オンステージ&オーバーラップ、イーブイ!」
「メロエッタ、音響をお願い!」
イーブイがGXオーバーラップにより進化系すべての可能性を引き出されて9色の光をまとい輝き、メロエッタが感情を打つ旋律を奏で始める。
「無駄なり。この世界はすでに、フィクトマキナが操る物語たるゆえに!」
3000年分の嗤いを表情に込め、サンジェルマンは腕を振り上げた。
【CG:フィクトマキナは 物語の上書きを 書き溜めている…!】
言祝アリアは、不敵な笑みを返して。
「あなたにはわからないことだと思いますよサンジェルマン。本当の『ポケモンの物語』すら知らないじゃないですか。
こんな『学園島』なんて如何にも追加コンテンツみたいな島で、『世界を物語に見立てて改変できる』なんて二次創作みたいなポケモンを出しておいて、エアプタロにエアプクラベルにエアプシアノなんてそれっぽい展開まで出しておいて、実は全部知りませんでした、全部的外れでしたなんて、通りませんよ。」
「えあ、ぷたろ...?」
「なんか、かわいくない話をしていませんか…?」
アリア・カナサシがバックコーラスを歌い始める中、言祝アリアは完璧な足運び、完璧にスカートを、服を翻しはためかせ、腕をゆっくりと振り上げ…誰もを魅了する動き、誰もを魅了する声音で、宣言する。
「あなたには物語の著述者は務まりませんよ。まして、物語の主人公なんて。エアプにすら届かないあなたが、このポケモンオタクの私に勝とうなんて3000年早いです。
イーブイ!
言祝アリアの掲げる正二十面体の結晶が、金色の粒子を無限にまき散らし、目の潰れそうなほどの光量で透明な光を放射する。
イーブイGXのまとう9つの輝きが、金色の粒子と混ざり合いながら、イーブイGXの身体を覆いつつ結晶化していく。胴を包むように出現した宝石などはまるで、アルセウスの胴の金冠のようだった。
【イーブイGX(祈声)(祝歌)は アルセウスの力を 得た!】
サンジェルマンの額に、青筋が浮かぶ。
「〜〜ッ!すべてを無意味とすべし!
フィクトマキナ!学園島を”
「イーブイ!私たちの、この力の全力、いきましょう!GXワザです!」
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)の…】
イーブイGXが、4本の足で地面を踏みしめ、空へと吼える。
【CG:フィクトマキナの ”
フィクトマキナは、不気味なまでに真球な胴体から伸びる歯車の腕を広げ、世界を抱え込むかのようにして、上下の無数のフィルムロールを廻した。
直後、パルデア沖の数十の島からなる諸島は、ポケモン世界から消失した。島に存在していた十数万人の人間と、数百万のポケモンもまた、存在していなかったように上書きされた。
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)_BREAKの
BREAK&オルタージェネシスGX!】
世界が、揺れた。
虚空に、ステージが浮かんでいる。空から幾重にもスポットライトが降り注ぎ、学園島があったあたりの海上を照らす。
スポットライトの下、学園島と数十の諸島は、元通りに浮かんでいた。
「神天にしろしめし、なべて世はこともなし…
…とでも言うとても思いにけりか!?何故、まがい物の創世神の欠片なぞに…!
フィクトマキナァァァ!対象は、イーブイなり!」
【CG:フィクトマキナの ”
フィクトマキナの歯車の腕が、星を丸ごと包み込む。
そして、世界中から、イーブイが消え去った。
言祝アリアのイーブイGXだけは、ステージの上、まだ、世界に存在していた。
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)_BREAKの
BREAK&オルタージェネシスGX!】
そして、外宇宙からのスポットライトが世界を照らし、世界はイーブイの概念を取り戻す。
「ぬぅっ…!
フィクトマキナ、奴に究極の一撃を下すべし!」
【CG:フィクトマキナの オーバーライト!】
学園島そのものすらちっぽけに思える、そう、まるで恒星が空から堕ちてくるかのような、天灼の一撃。エネルギーで攻撃を行うのではなく、そこにエネルギーがあり攻撃が自然発生したように世界が上書きされた。
「迎え撃って、イーブイ!」
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)_BREAKの
さばきのつぶて!】
ステージから、9色のスポットライトが上がった。
海洋のすべてを平らげんとする究極の神撃を、創世神の力が籠もった絶対の神撃が迎え撃つ。
拮抗は一瞬ですらなかった。莫大どころでは済まない、文字通り天文学的なエネルギーが宇宙へと突き抜け、膨大な空気を大気圏から追放し、人工衛星を数基ほど蒸発させた。…フィクトマキナは、完全に負けたのだ。
「なにゆえ…なにゆえ…!
フィクトマキナは、すべてを物語にし、すべての物語を自在に書き換える、誰にも理解できず何者にも超えられぬ真の神秘のはずなり…!なにゆえ…!」
「ステージの上のアイドルは、誰にもなびかない、最強のかわいい主役なんですよ?
ペン先1つでセトリを書き換えられるわけないじゃないですか。」
サンジェルマンは、やっと、理解した。
言祝アリアは、まだステージの上にいる…いや、きっと、彼女を主役として歌い踊らせるためにこそ、ステージがあるべくして創造されたのだ。
世界という舞台の上で彼女が躍るのではない、彼女を躍らせるために世界という舞台があるのだ。なれば「物語の神」とて敵わないこともある。物語の軸は常に主役にあり、不相応で野暮な観客に台無しにする権利などないのだ。
「さて、ステージはアンコールにて終幕としましょうか…チラチーノ!おいで!」
【チラチーノの アンコール!】
サンジェルマンが新たな指示をフィクトマキナに出すよりも早く、フィクトマキナは改変内容を伴わない物語改変を…すなわち、キーボードをデタラメに叩いた文字列で世界を上書きし始めた。
それはきっと、欠片で模造された絶対神が最後に見せた生物らしさ...パニックというべきものだったのだろう。
【CG:フィクトマキナの オーバーライト!】
全宇宙がフィルムにほどけ、フィルムが粉々に砕けていくーそんな光景を幻視しながら、言祝アリアはステージの上でイーブイと手を繋ぎ舞い踊る。
スポットライトが、高らかに、全宇宙を照らした。
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)_BREAKの
BREAK&オルタージェネシスGX!】
砕けつつあるフィルムをスポットライトが映写して、宇宙の欠片が像をなしていく。像はやがて補うようにして結びつき合い、世界を復元していく。
フィクトマキナは諦めない。歯車を外宇宙へと伸ばし、フィルムロールを目にも止まらぬ速さで廻し、無機質な目で無数の物語を覗き見ては裁断していく。それらすべてがアルセウスの権能で復元されていくのもかまわずに。
「やめ、やめるべし、やめるべしフィクトマキナァ!フィクトマキナァァァッ!」
サンジェルマンは絶叫した。サンジェルマンの3000年の物語をもフィクトマキナが裁断し始めたから…ではなく。
「我輩の物語を裁断したれば、フィクトマキナ様の復活の物語も…!」
世界のすべてを物語として観測し支配する絶対神フィクトマキナの暴走は、止まらない。サンジェルマンは絶叫のさなかに抹消された。不遜なる彼に、アルセウスにまつわるスポットライトは当たらず…
…そして、フィクトマキナもまた、無数の歯車をガランガランとまき散らす。
上下に連なるフィルムロールが点滅し、真球の胴体が震える。
自己の存在に大きく関わる、錬金術師サンジェルマンという存在。世界を乱雑に消し去ろうとして、彼をも巻き込んでしまったことで、フィクトマキナの実在性に綻びが生じる。「存在しない可能性」が発生する。
もちろん本来なら、これしきのことはフィクトマキナにとって痛手にはならない。世界に「フィクトマキナが存在する」と1行書き足せばいい。…けれど、その隙を見逃す言祝アリアではない。
【イーブイGX(ジェネシステラスタル)(祈声)(祝歌)_BREAKの
さばきのつぶて!】
フィクトマキナが、フィルムロールを引きちぎられ歯車の腕を引き裂かれながらも、改変力をまとったその腕を、言祝アリアのステージへとやみくもに振り下ろす。
言祝アリアとイーブイに迫る、機械仕掛けの神の巨腕。けれどアイドルは歌い踊る。
原始、
閃光ーフィクトマキナからではなく、宇宙の外から。
【アルセウス(祈声)(祝歌)の さばきのつぶて!】
ステージを照らす爆光。世界を祝福するかのような光輝の中で言祝アリアとイーブイは手をつないでお辞儀をし、その背後でフィクトマキナは胴体を貫かれ。
そして、狂言綺語の絶対神はついに崩壊し、パルデア沖の海に沈んでいった。
ー*ー
学園島グランデ・コンティネント、応急で復旧されたばかりの空港で。
言祝アリアとアリア・カナサシは、パルデア本土から飛来したヒスイ分家プライベートジェット機を背に、ジェット機の持ち主と最後の会話を交わしていた。
「/Output復興、なんとかうまくいきそうで良かったですEnd」
「ここ数年で使った金属は全部消えたから、大変ではあるんだけどな。」
「でも、あそこにあるじゃない。」
滑走路の向こう、沖合に、赤錆に包まれた巨岩が海から突き出している。崩壊したフィクトマキナの一部は、元のオリハルコンよりずっと多量の金属塊となって海上に落下していたのだ。鉄やアルミニウムを採取するための採掘船が、この新たな鉱床に集っていた。
「精錬の手間がかなり…私たちヒスイ分家は開拓と開発で成長してきたので、ノウハウこそありますが…」
「…それ、私たちカナサシおみやにくれたりはする?」
結局、この島まで来るきっかけとなった
「ああ、いろいろ迷惑をかけたしな。慰謝料もかねて、資材とノウハウは提供するよ。フタバタウンの工場から第一陣は出したから、足りなかったら言ってくれ。」
「/Output迷惑といえば、これ…End」
言祝アリアは、ミクロステリスとレプトシフォンに、細かい透明な欠片を差し出した。
「これは…ああ…」「アルセウスのカケラ、ですね…」
フィクトマキナとの戦いで、アルセウスのオーラを込めた正二十面体結晶は、あわれ粉々に砕け散ってしまったのだ。一回改造して3回の使用をしたわけだし、もともとBREAK進化とテラスタルというまったく違う系統のシステムをあわせて闇製造されたものだったし、その上に無茶を重ねたのだから、限界だったのだろう。
「/Output秘宝、だったんですよね?狙われたりもしましたけど、大事な…End」
「…まあ、そうかもしれない。でも、本家…アオバ様なら言うはずだ。『これも天命だったのかしらね』とか。
良くも悪くもチートアイテム。ラグナロクだかアルマゲドンだかのリセットボタンがなくなったと思えば惜しいが、もうギンガ団モドキが宇宙にいたずらをしかける目がないと思えば、肩の荷が下りた気分でもあるといったところか。」
「飛行中に海にでもまいておいてください。
「そっか…それもそうね。」
自身も龍神の依代ながら、2柱の神にまつわることで苦労を重ねているアリア・カナサシもまた、ため息で応えてみせた。神の力は恵と同じくらい厄でもあるのだ。
「それに…
…次は、自分たちの力で、解決してみせるのですよね?」
「俺も姉貴も、あんたに大きな可能性を見た。
もう、俺や本家がアルセウスのカケラなんか使う時代じゃない。時代の主役は、あんたらだ。アリア・コトホギ、アリア・カナサシ。」
ーその時は、自分たちの力で、世界を救ってくれるんだろ?だから、もうアルセウスの力は用済みだ。
「…はい!」「任されなくても、引き受けるわよ。」
ー「まもなく離陸時間です!お客様、お急ぎください!」
2人のアリアは、そこらで遊ぶポケモンたちをボールに戻し、見送りに手を振り返しながら、タラップに足をかけ。
そうして、機影はパルデア沖を飛び立っていった。2人の偶像を乗せて。
向かう先はシンシュー地方。南からの侵攻と10に別れての分裂と北からの介入を受けたあの大乱から7年目も終わり、8年目を迎える地。新たな戦乱が迫りつつある地。
「何が、待っているんでしょうね?シンシューの、あとそれと私たちの未来に。」
「/Output立ち向かうだけですよ。どんな可能性が待っていても。End」