アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
~これまでの「転生ポケモンアイドル」は~
誰もを魅了する絶世のアイドルだった転生者、言祝アリアと、龍神の力を込めた歌声のバフデバフで戦況を一変させる歌姫、アリア・カナサシ。シンシュー地方を旅する2人のアリアは、竜神レックウザと邪神ミシャグジをめぐるカナサシ湖決戦の中、自らの力に折り合いをつけた。
パルデア沖の孤島を離れ、シンシュー大戦開戦8年目(終戦5年目)となる春、シンシュー地方に戻って来た2人のアリア。向かう先は、
♪48 麹街キッドナップ
ー*ー
シンシュー地方、コウジタウン、コウジジム。
川と断崖を利用し作られた要害に建つ武家屋敷の中で、ジムリーダー、オシロイはメタリックな石板を出す。
「往けい、ドンカラス。GXオーバーラップじゃ。」
ドンカラスに重複する、いくつもの世界線の可能性。そして、地脈から力が溢れ出し、ドンカラスと共鳴する。
【ドンカラスは、ドンカラスGXに オーバーラップした!】
対するチャレンジャーも一歩も引かない。それどころか、彼も石板を取り出す。
【エレキブルは エレキブルGXに オーバーラップした!】
「エレキブル、サンダーダイブだっ!」
脚に全力を込めて地面を蹴るエレキブルGX。地面を粉々に砕き、電気を帯びながら空へとジャンプ。あっという間にドンカラスGXの上を取る。
【エレキブルGXの サンダーダイブ!】
直上から迫る、電気を全身にみなぎらせた138.6kg。
「『そらをとぶ』、ドンカラス。」
ドンカラスGXの姿は、必殺の電撃をかわし、エレキブルGXの真下から消えた。
「なっ…
…10万ボルト!」
ドンカラスGXはすぐに攻撃しに戻ってくる。そこへ最大火力の電撃を…
【ドンカラスGXの ふいうち!】
電撃を放とうとしたその瞬間、エレキブルGXは空から叩き落とされた。
地上が吹き飛ぶ。ドンカラスGXが悠々と羽ばたく。
「…エレキブル!まだやれるだろ!
れいとうパンチ!」
「ドンカラス、サイコキネシスじゃ。」
爆煙を振り払い突き出された氷拳。それが、宙で固定される。
「さらにつじぎり。
これにて終いじゃ。」
動けなくされたエレキブルGXを、鋭い翼が打ちのめした。
再びの爆発。今度こそ、エレキブルGXは倒れ、立ち上がれない。
「エレキブル戦闘不能!よって勝者、ジムリーダー、オシロイ様!」
「ようやったのドンカラス。」
GXオーバーラップが解除され、エネルギーをゆっくり発散させたドンカラスが、オシロイが伸ばした腕の先の手首に止まった。
「ドンカラス、回復したら、おつかいを頼まれてくれるかの?」
髭を生やしたダンディなおっさんジムリーダーは、そういいながら袂から小さな紙片を取り出し、ドンカラスの足首に巻きつけた。
「西の砦と関まで、行ってくれるか?」
忠実なるドンカラスが、こくりと頷く。同時に、武家屋敷のあちこちの樹に止まるヤミカラスが「カァ!」と啼いて飛び立った。
「また、企みごとですか?」
「なんじゃ、儂が年がら年中『わるだくみ』をしているかのように言いよって。」
「そうでしょ実際。」
チャレンジャーの軽口にも、オシロイは気分を害した様子はない。
「はっはっは、若いのは手厳しいの。
まあ今回は本当にわるだくみじゃ。とっておきのな。」
「何をなさるんです?」
「言えるわけない…ということもないが、そなたら市民にもいずれ連絡が行くじゃろ。」
「…はぁ…わかりました。
私たちコウジタウンのトレーナー、市民はいつだってオシロイ様の味方ですからね?」
ー*ー
「いつだって味方、の…」
儂が今からしようとしている命令…家臣らは疑いなく従うじゃろが…さすがに市民が聞けばどう思うやら…
「皆の衆!集まってくれたようじゃの!」
「「「「「はっ!オシロイ様!」」」」」
シンシュー10豪族の1人という立場を失い、公的にはジムリーダーの一人でしかない…それでも家臣は変わらず平伏してくれるし、市民は儂を慕ってくれる。じゃから儂は…
「西の関と砦にはすでに指示を出したが…
此度は、儂らコウジタウンの命運がかかっておる策じゃ。」
「…十勇士の皆様はご存知のようですが…
街の防備を緊急に整える…ということは伺っておりますが…」
良きことを聞く家臣じゃ。こうして、皆が知りたいことを率先して聞いてくれるのは助かるものぞ。
「詳しいことは言えぬ。しかし、極めて少数の精鋭が攻め込んでくる恐れがあるのでな。ある、シンシューの未来に関わる要人を拐うんじゃよ。」
「誘拐?忍軍が動いているのはそれで…」
…忍者たちに後で小言を言っておかねばな。動きがバレるとは。
「極めて少数?要人の所属する街の軍勢が飛んでくる…とか?」
じゃったら内戦の始まりじゃな。…が、今のあの街は奪還の軍勢を立てられはすまいの。
「いや、旅の道連れ、というやつじゃの。」
「なるほど、要人ながらも不用心に少人数でうろついている…まさか、殿!?それって」
察しがいい家臣も良き家臣じゃ。後でこっそり褒美をやるか。
「誘拐の狙いは龍神の依代、先の大戦の英雄、アリア・カナサシじゃ。」
「「「「「…はっ!」」」」」
「では、おのおの方、抜かりなく。」
儂は決めた。後にはもはや引けぬ。
…本当に、愉快なものよ。乱世を泳ぐのは。
ー*ー
「/Output今向かってる、コウジタウンのジムリーダーってどんな人なんですか?End」
その言葉を聞いて、アリア・カナサシは露骨に嫌そうな顔をした。それどころか、共に歩くニンフィアが「キシャー!」と似合わぬ威嚇ヅラをしている。
「/Outputそんなに嫌な人なんですか?End」
春の涼しい山道が、怒気交じりの歌姫の返答で加熱される。
「嫌なんてものじゃないわよ。
コウジジムのオシロイと、ロクショウジムのマルス。
私はまだ、この二人を許してない。」
マルスは聞いたことがある。ロクショウタウンにジムリーダーとして居座り占領を続ける、コーシュー地方四天王の1人。…そして、8年前のシンシュー戦乱緒戦でアリア・カナサシの両親を殺し、片腕・片脚を吹き飛ばしたものの仕留め損ねた相手。
「/Outputマルスって人の話はよく聞きました。コーシュー=シンシュー地方随一の危険人物…そう聞くマルスと、親の仇と同じくらい嫌って、本当に、どういう人なんですか?オシロイさんEnd」
「どういう...そうね。わかりやすく言うのなら、彼は裏切り者…というよりは、裏切り過ぎ者ね。」
「/Output裏切り過ぎ者…ええ…」
「あんの老害、そろそろボケればいいのに…というか、何度、ボケて乱心したのかと思ったのに…」
そう言いながら、アリア・カナサシは指を立てる。
「8年前、戦前、彼は、シンシュー10の豪族の1人だった。
コーシュー軍の侵攻が始まってすぐ、彼は堂々とコーシューへ付いて、マルスといっしょに私たちカナサシおみやを攻めた。」
2本目の指を立てる。
「開戦から3年目、ついに北のユキコシ地方の介入が確実になるや、駐留していたコーシュー四天王ピリュスを叩き出して、彼はユキコシ地方へすり寄った。」
おかげで、戦争で消耗していたコーシュー軍は怒りにより士気を復活。全軍でコウジタウンに襲いかかり…ユキコシ地方からの救援軍が北方のジンザモシティに到着したことで、ジンザモ郊外大決戦が勃発することになったのだが…
「さらに3回目の裏切り。ユキコシ軍とコーシュー軍が消耗で撤退するや、オシロイはカントー地方に通じた。
豪族はやめて、コウジタウンはジムを設置して、新たなジムリーダーにすべて任せる…だからカントーリーグに入れさせろ、と。」
カントーリーグは、隣り合うコーシュー=シンシューの3年の戦乱にうんざりしていたが、かといってカントー9個目のジムとしてコウジジムを受け入れるかというとそれも躊躇があった。
それゆえカントーリーグは、「半年のシンシュー全域の停戦」を、コウジジム認可の条件とした。それがなされればシンシュー地方はコウジタウンを失う…卓越したオシロイの政治力が、それを可能にしかけた。
「コウジジムがカントーリーグに認可される…コウジタウンがカントー地方に移籍できる…その数日前になって、彼は講和会議の席で頷いた…新しく設立するシンシューリーグに所属する…ってね。4度目の裏切りで、彼はあのカントーリーグすら切り捨て、豪族からジムリーダーに転身した。」
「/Output表裏比興…なるほど、私たちの世界で言う、真田昌幸なんですね。位置的にも上田城ですしEnd」
「…誰それ。
まあとにかく、油断ならないってことよ。
幸いコウジジムはあくタイプのタイプエキスパート。
「/Output歌姫さんそれフラグ…End」
次の瞬間。
ニンフィアが、様式美かのように、足元から爆発した。
「ステルスロック!?いつのまに!?」
ニンフィアの顔が青くなっている。どうやら「どくびし」もあるらしい。
「どこからの攻撃かわからないし下手に動けないし…ああもう!煩わしいわね!
ニンフィア!容赦なくハイパーボイスで吹き飛ばしなさい!」
ここでやっと、言祝アリアの脳が追いつく。どうやらどこからかいつのまにか何者かの攻撃を受けたのだと。
「/Outputチラチーノ、続いて!End」
【ニンフィアの ハイパーボイス!】
【チラチーノの ハイパーボイス!】
【ワナイダーの スレッドトラップ!】
ニンフィアとチラチーノは、森の中から飛んできた網に、絡め取られた。
「なっ…
だけどこれで襲撃者がはっきりしたわ!」
糸に絡め取られたままどく状態に苦しむニンフィアをボールに戻し、ワタシラガをボールから出す。
「/Outputチラチーノ、戻ってください。そしてアシレーヌ、お願いします。
誰なんですか?襲撃者…End」
「姿も見せずにこの襲撃…コウジジム、オシロイの配下の忍者よ!」
(忍者!?本当に真田軍そっくりな…
ってそんな場合じゃない!姿も見えないんじゃ…)
「コウジジムのチャレンジはカチコミ同然になると思っていたけれど、もっと、ね…
コトホギさん、一度逃げるわよ。ワタシラガ、わたほうしを飛ばして」
【オーロンゲの ちょうはつ!】
【ワタシラガの わたほうしは 失敗した!】
【ワナイダーの とおせんぼう!】
【ワタシラガとアシレーヌは にげられない!】
やっと姿を見せる敵のポケモン。けれど、依然として翻弄されていることに変わりはない。
「…逃げられないなら強行突破。私の好きな言葉よ。
ワタシラガ、ソーラービーム!」
「/Outputそれには同意です。アシレーヌ、うたかたのアリア!End」
太陽熱が凝縮され、すぐ隣の水のバルーンを突沸させる。そして光線と音波が山道に轟いた。
ワナイダーとオーロンゲが倒れ…
【ゲッコウガGXの きょだいみずしゅりけん!】
【ヤミカラスの ナイトヘッド!】
物理的な頭痛と、霊的な頭痛。その2つが、目の前の敵を倒し油断していた2人の意識を、速やかに刈り取った。
ー*ー
「っっ…!
「私は、確か…」
ただ起き抜けだからついタブレット端末を忘れた、それだけのことが、言祝アリアの命を救ったー何しろ、彼女の首筋には小刀が突きつけられていたので。
「うそっ…
あなた、それを離してっ!」
黒い覆面で顔を隠した忍者が、慌てて言祝アリアの首筋から小刀を離す。そして、自分の手を見つめる。
「な、なぜ俺は…小刀を離し…」
アイドル言祝アリアの、強い感情が籠もった声を至近から聞いて、指示に従わずにいられるわけがない。盲従するファンにならないだけ、この忍者は自分を確かに保つ訓練を積んでいたということだろう。
「タブレットはどこ?返してくださいっ!」
「ああ、こちらに…
…って俺はなんで!?」
自分の行動が理解できない様子で戸惑う忍者を他所に、言祝アリアは周りをさっと見回す。…山道の少し先で、忍者が数人騒いでいる。…そして、アリア・カナサシは見当たらない。
「ボールも返しなさい。それから、歌姫さんをどこに?」
「はい、こちらがボールで、それから歌姫殿は先にジムへ搬送を…
…ってなんで俺!?これ軍機…!」
慌てて手を押さえる忍者…その向こうで、忍者たちが様子を訝しみながらこちらにやってくる。
「おい!お前何してる!?さっさとそやつも運べ…ってなんでターゲットが起きてる!?」
(…あー…気づかれ…
…搬送…?)
「あなた、歌姫さんを誘拐して…!?」
「誘拐とも言いますね…って、だから、なぜ!?
頭ァ!こやつ、洗脳か何かをしてきます!耳栓を!」
(…ちっ…私のアイドル力に頼ることもできないか…)
「了解した!
者共、であえであえーっ!その小娘をひっ捕らえい!」
【コウジジム忍者部隊が 勝負を しかけてきた!】