アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
~これまでの「転生ポケモンアイドル」は~
日本が誇る稀代のアイドル、言祝アリアと、レックウザの巫女、”現人神””神の依代たる歌姫”ことアリア・カナサシ。2人のアリアは自らの力から逃げることをやめ、龍神と邪神の戦いに決着を付けた。
一方で、軍国主義のコーシュー地方はシンシュー地方への前面軍事侵攻を秒読みとし、北の大国ユキコシ地方も世界的大財閥をバックに軍事介入の構えを見せている。戦禍がシンシュー地方に迫る中、数年前の戦乱にて裏切りを重ねたコウジジムジムリーダー、オシロイのもとへ2人のアリアは向かい...
…そしてアリア・カナサシは、オシロイの家来の忍者により攫われた。怒り心頭の言祝アリアは、旅の友を奪還すべくコウジタウンへ突撃する。
敵は、戦時中に数万のコーシュー精鋭を跳ね返したコウジジムと武士団数千...そしてシンシュー最大の食わせ者オシロイ!
ー*ー
シンシュー地方、コウジタウン、コウジジム。
「…ちょっと、そろそろこれほどいてくれない?」
アリア・カナサシは、虜囚の身であることなどなんのその、傲岸不遜に、対面する人物へと呼びかけた。
「奴ら、『殿のお許しがあるまでは…』って言うのよ。だから、その『殿』本人に縄を解いてもらえばいいんじゃないかなって思ったんだけど。
どう思う?コウジジムジムリーダー、オシロイ殿。」
厳重に縛り上げられた英雄歌姫の前に、オシロイは無言で杯を一つ差し出す。
「…毒でも盛るつもり?」
そこで初めて、オシロイは険しい顔をニィっと破顔させた。
「よもやよもや。儂はこれでもサムライの端くれでございますぞ。」
「前科がありすぎるのよ。
戦時中、何人、何体、暗殺したの?」
まったく悪びれる様子なく、オシロイは徳利を手に取り、杯へ中身を注ぐ。
「…さて…儂にとっては息をするようなことでしたゆえ…」
オシロイのことが嫌いなアリア・カナサシだったが、さすがにこの返答には罵倒の気も起こらなかった。
「冗談はさておき、毒は盛っておるが、人間には効かぬ毒ゆえ安心めされよ。」
人間には効かないーポケモン専用の毒ということか。
「ここで龍神様を呼ばれては困るのじゃ。」
「…ああ、権能封じね。」
アリア・カナサシの龍神レックウザにまつわる能力は、あくまで依代としてのもの。すなわち対ポケモン毒を含めば彼女はポケモンの依代として機能しなくなる…希望的観測じみているが、科学としてはともかく、儀式とは往々にしてそういうものだ。
「そして儂もこれを呑む。良き肴があるのじゃ。」
クイッと、オシロイは徳利から直接酒をあおった。オイオイオイ間接キスよね…とアリア・カナサシは頭痛を覚えるが、もはや一々口にする気も起きない。
「常人が呑んだところで、きずなへんげはさておきメガシンカすら封じられないでしょ。
まあいいわ。それで、肴って?コイキングの刺身でも出すの?」
「なぁに。
英雄殿の旅の友と、儂の家来どもの、熱き戦いの様子の中継じゃよ。」
ゴソッ…悪趣味な発言とともに畳の中からモニターがせり上がるのを見て、アリア・カナサシはぽつり。
「つくづく、貴方、5年前までに戦死させときゃ良かったわ。」
オシロイは聞くなり大爆笑した。
ー*ー
オシロイとアリア・カナサシが見守るモニターの中、コウジタウン郊外の森が映されている。
木々をなぎ倒し、言祝アリアの率いるポケモンたちが爆走していた。
「/Outputラプラス、なみのり、次いでフリーズドライ!
イワパレス、後方へがんせきふうじです!End」
森の木々が凍りつき、春も半ばというのに樹氷にしなる。凍りついた地面を滑走する言祝アリアらを追うトレーナー集団を、岩塊が阻む。
「/Outputチラチーノ、トリック!敵のアイテムをありったけ奪ってください!イーブイは援護!End」
行く手に立ちはだかる敵から、げんきのかけらやきずぐすりをかっぱらい、応急処置につぐ応急処置でバトルを繰り返す。
「/Outputアシレーヌ、チルタリス、ハイパーボイス!End」
大音声とともに凍りついた木々が爆砕され、隠れ潜んでいたポケモンたちが逃げ走る。
回復アイテムの強奪と6体のポケモンGXによる啓開で、言祝アリアの一団はコウジタウンを望む高台へとたどり着いた。かつては町を守る山城の一つだったそこからは、自分たちへ迫る無数の喧騒がはっきり見える。
「/Outputイーブイ、ニンフィアへ覚醒進化ですEnd」
専用特性による一時的進化…その目的は、特性フェアリースキンによってノーマルわざをフェアリー化すること。ノーマル・フェアリー両方に抵抗性のあるタイプは存在しないからだ。
「みなさん、私の声にあわせてください…ハイパーボイス!」
【
【アシレーヌGX(祈声)の ハイパーボイス!】
【ラプラスGX(祈声)の ハイパーボイス!】
【チルタリスGX(祈声)の ハイパーボイス!】
【チラチーノGX(祈声)の ハイパーボイス!】
【シンシューイワパレスGX(祈声)の ハイパーボイス!】
全方位へ音響攻撃を撒き散らしながら、1人と6体は高台を駆け下りる。絶大な威力のハイパーボイスにやられて、迎撃は散発的だ。
あっという間に、コウジタウンの市街の目前、石垣の上に築かれた大門へとたどり着いた言祝アリア。彼女たちを、音もなく忍者が取り囲む。
「イワパレス、ステルスロックです。」
どこから襲撃されるかわからない緊張に身を包みつつ、6体のポケモンが円陣を組む。その中心で、言祝アリアは、大門の向こうから歩いてくる覆面の男を見据えていた。
「忍びども、退けい!」
男が叫ぶとともに、忍者たちがすっと姿を消す。ー言祝アリアの魅了を受けないように耳栓をしているはずなのに、はっきり声が通り指示が伝わる…そのことが、彼
の異常性を示していた。
「我こそは忍びの頭領が1人、サイゾウ。
アリア・コトホギ殿、この門は一方通行にござるぞ。
メガヤンマ、オーバーラップ…!」
「でしたら、門でなければ通行可能…ということですよね?
私、怒っていますし急いでいますのであしからず。
チルタリス!」
【メガヤンマGXの エアスラッシュ!】
【チルタリスGX(祈声)の りゅうのはどう!】
風刃がかき消され、メガヤンマGXが姿をくらませ…
…そして、大門が吹き飛んだ。
「押し通りますよ!
ラプラス、上へふぶき!イワパレス、あの忍者へがんせきふうじ!」
「メガヤンマ、むしのさざめき!
出でよローブシン!岩石など薙ぎ払うでござる!」
ローブシンGXがコンクリ塊をぶん回し、ステルスロックもがんせきふうじも吹き飛ばす。ラプラスGXのふぶきも、むしのさざめきの音圧に負けている。
「ハイパーボイス、
強烈な音響波が、一帯を襲った。吹き飛ばされて宙を舞う岩塊も、空へ吹き上げる吹雪も、粉々に破砕されて大気へ拡散する。
メガヤンマGXも、ローブシンGXも、ハイパーボイスを避けられるはずもなかった。音波に指向性は低いし、そもそも言祝アリアからの魅了を防ぐため耳栓をしていてはハイパーボイスを探知できない。
みるみるうちに濃くなっていく粉塵の中、言祝アリアの一団は大門の残骸をも粉砕し、市街へと駆け込んだ。
「…ちっ…
…スターミー、あまごいで粉塵を晴らすでござる。
疾く追わねば…」
視界は不明瞭で音を聞くのは危険、気配で言祝アリアを探知はできるが攻撃すれば民家に誤爆しかねない…サイゾウは地団駄を踏んだ。
ー*ー
「…ほう、西門が抜かれた、か。
さるものよのう、アリア・コトホギ。」
オシロイは、自分が守る街が敗北しつつあるというのに、クックックと笑っている。
殺したいほど、いや、殺しても足りないほどオシロイのことを憎んでいるアリア・カナサシだったが、この破天荒な初老に対し呆れ果てて、憎まれ口を叩く気にもなれなかった。
「…それはそうと。
今までにまして、GXマーカーを見るわね。したっぱの忍者どもがポケモンことごとくをポケモンGXにしてくるなんて…
…去年の秋、私たちがカナサシ湖決戦をした頃には、まだジムリーダーの切り札だったわよ?」
「儂らはこれでも常在戦場の正規軍ゆえ、最新の兵備は当然じゃろ?」
飄々としたオシロイの言葉。笑止千万に過ぎないことを、アリア・カナサシは知っている。
「シラアイのモロコシ中将が聞いたらキレ散らかしそうね。」
兵站・軍備に命をかけているホープ団幹部の名前を挙げ、アリア・カナサシはオシロイの詭弁を嗤った。だいたい、「最新のパワーアップアイテムは揃えて当然」なら、カロス地方のジムリーダー連中はみんなメガストーンをネックレスが作れるほど持っているだろう。
「…コウジジムの軍がGXマーカーを持っている理由なんて一つ考えられないのよ。
なんてったって、コトホギさんはそれを疑われて、私に会う直前に捕縛されてたんだもの。
GXマーカーは、元はと言えば、コーシュー地方の最新秘密兵器。ジムリーダー級や目ざといエリートトレーナーがそれを持っているのは、うっかり流出したからで済むわよね。」
そして、言祝アリアがGXマーカーを所持していたのは、エクリプスタウン郊外山中のコーシュー軍秘密アジトから掠め取ったからだ。
「…でも、したっぱの忍者までも複数のGXマーカーを所持している…数百?いえ1000か2000はあるわよね?」
さすがに数千人の正規兵すべてが手持ちポケモンぶんのGXマーカーを持っているわけもなく、共有装備なのだろうが…それにしても、最新秘密兵器の流出数としては、ありえないほど多い。
「…流出先じゃなくて、流出元でしょ、貴方。」
「…英雄歌姫殿、これがジムチャレンジならジムバッジまで5割は与えてもよかろうよ。
さよう、シンシュー地方にGXマーカーをばら撒いているのは儂じゃ。」
「…ってことは、まだコーシュー地方と繋がって…
…待って待って待って?開戦3年目のアレは全部茶番!?」
アリア・カナサシの顔は真っ青になった。
開戦早々にコーシュー地方へ裏切ったオシロイのコウジタウンが、開戦3年目にコーシュー地方からユキコシ地方へと寝返った…それゆえに消耗していたコーシュー軍は怒り心頭、コウジタウンを包囲し、救援にやってきたユキコシ軍と北方のジンザモシティ郊外で大決戦し、乱入したカナサシ軍もろともボロボロに砕け散ったのだ。終戦につながるこの大混乱の始まりたる「オシロイの、コーシュー地方からの裏切り」が嘘で、まだオシロイがコーシュー地方と繋がっているとすれば…とんでもないことである。
「…肯定も否定もできぬよのう。
人脈は力。どちらに傾いても、どちらにも人脈があらば通ずることができようりゆえに、儂は繋がりを保つことに心血を注いでおる。知り合いの方が寝返り先に良いからな。
…が、あいにくアレは茶番ではない。それに、コーシュー地方に通じながらこれほどのGXマーカーを横領しシンシュー各地にバラまけば、奴らは儂を斬ろうな。
儂が今通じておるのは、ロクショウタウンジムリーダー、『炎のマルス』じゃ。それもここ1、2年じゃな。」
「…コーシュー四天王じゃない。そりゃGXマーカーもいくらでもコーシュー本土から配備してもらえるし横領できるでしょうけど…
…で、それは、貴方がコーシューに通じているのとどう違うの?それに、かつて貴方に裏切られて怒り心頭になって大損害を被って貴方にも大敗北したコーシュー地方が、どうして今さらここ1、2年、四天王マルスを通じ貴方に再び…」
アリア・カナサシはそこまで述べて、頭をひねり…もう一度顔を真っ青にした。
「…コーシュー四天王マルスじゃなくて、ロクショウタウンジムリーダーマルスって言ったわね?わざと?」
一番大事なことは口にしない。できない。…それでも、アリア・カナサシの声は震えている。
「奴には野心がある。手にあふれるほどの、燃え盛る野心がの。儂は奴の博打にのった。
いつもそうじゃ。
コーシューの軍事力が儂の目にかなったから、儂はコーシュー軍に寝返った。
コーシュー軍が消耗したから、超大国のユキコシ地方に寝返った。
ユキコシ軍とコーシュー軍が対消滅したから、力の空白、パワーバランスの崩壊でシンシュー地方が乱世となる前に、カントー地方へと寝返った。
其方がシンシューをまとめ和平へと落着させてみせたから、儂はシンシューへと寝返って出戻ったのじゃ。」
その時その時の情勢で、オシロイは、力なき味方を切り捨て、自分の目にかなった陣営へと寝返り続けてきた。
「今度は、マルスの野心が目にかなったから、そっちに寝返り…と。本当に呆れ…いえ…貴方…!?
マルスともう1人、天秤に載せてるのは…!?」
「…アリア・コトホギじゃったか。
儂の目に、あ奴は、かなうのかのう?」
「ふん。
『目に叶うのか、試してやる』…?そんなの、ウスモエジムでもワスレナジムでもフジナドジムでもシラアイジムでも聞いたわよ。聞き飽きたわよ。」
「…しかしジムリーダーというものは、そういうものであるんじゃろ?
やってきたポケモントレーナーを、街一番のリーダーとして、
「…それじゃ片手落ちじゃないのよ。
貴方のジムチャレンジとやらにコトホギさんを呼び出すために、私をジムまで拉致したわけ?それで、貴方は私に何を思っているのよ。」
「…アリア・カナサシ殿のジムチャレンジならば、すでに、戦争の最後の年に果たしたから、の。」
「終戦間際になんだって言うのよ。私は貴方に何かしたこともされたこ、と、も…
コウジジム設立って…!?」
「そうじゃ。
カントーリーグへの、儂のジムリーダーとしての認可申請。アレは其方への試練でもあったじゃ。
コウジタウンのカントー地方のへの編入の期限である半年、シンシューをとりまとめ、儂をこの地方へ呼び戻すに相応しき和平をまとめられるか…という、な。」
「…なるほど?合格ではなかったのね。ジムバッジをもらった覚えがないもの。
さしづめ、あの講和会議は和平ではあっても泰平ではなかったから落第、というところ?」
「御明察。
ゆえにアリア・カナサシはもう終わりじゃ。あの戦争を収められなかった以上、先に可能性などない。
時代は、燃え盛る野心を持つ『炎のマルス』か…?
それとも、龍神の依代たる英雄歌姫と並び立ちその祝福を受ける新たなカリスマ『アリア・コトホギ』か…?
シンシューの新時代の可能性、チョイスするのはこの儂、コウジタウンの主、オシロイじゃ…!
乱世を泳ぐのは、真に、真にッ、面白きものよのう…ッ!」
オシロイの口調は「真田丸」の真田昌幸をモデルにしています(というか戦時中の振る舞いも武田軍の信濃侵攻→天正壬午の乱→関ヶ原までの彼の軌跡が参考になっている なんといってもシンシュー戦乱のモデル自体も戦国信濃だし…)
~次回の「転生ポケモンアイドル」は...~
コウジタウンへ突入を果たした言祝アリア。待ち受けていたのは、コウジジムへの道を守るサムライたち...決死の戦いが始まる!
「お命頂戴仕る!」「いざ、我が至極の一撃を見せようではないか!」「者ども、かかれぇっ!」「でもその場合は、ポケモンを守ってキミが死ぬんだね。」
果たしてアイドルは、悪のサムライの巣窟を攻略できるのか!