アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
「/OutputジムバッジですEnd」
アリア・カナサシは、即座に身構えた。
ジムバッジは、大火山を噴火させるプラントの起動キーにはならない。だから...
「誰か、いるんでしょう?
コトホギさんがジムバッジを手に入れたのを見て、手動でプラントを停止させた人が。
出てきなさい!」
いらだちに満ちた、アリア・カナサシの声ー応じるように、プラントの外壁が、パタリ、軽い音を立てて倒れた。
「ハ、リボテ...」
金属質の機械に見せかけた、木板製のハリボテ。「ヤツガタケ大噴火計画など、マルスのはったりでしかなかった」ことがこの上なくはっきり示され。
そして、パタパタ崩れ去ったハリボテの中央で、いかにもな紋付袴の武士が手を叩く。
「おめでとうございますとも、オシロイ様の御使者殿。
それがしはマルス様が一番の家臣、ドメスティカ。此度はロクショウジムのスペシャルジムバトルの御勝利、おめでとうございます。」
-少し、おかしいとは思っていたのだ。夏場に生首を何日も保存して、まったく無臭ということはありえないだろうから。
「/Output全部、茶番...End」
「教えなさい。マルスはどこ?」
武士に、悪びれるふうなど一つもない。それどころか、この問いがなされること自体、彼の予想通りと言わんばかりに...ドメスティカは答える。
「マルス様?殿でしたら、ジムにおられますよ。」
「なっ…」
「殿から一つ、伝言です。
『いい余興だったろォ?ロクショウタウン独立の』」
ー*ー
「殿、報告にございます。
龍神歌姫と自称アイドルが、プラントの破壊に成功しました。」
「よォし、計画通りだァ!
祭を始めるぞ!放送を始めろォ!」
ー*ー
ー「よォ、シンシュー、コーシューの奴ら、聞こえてるか?
ロクショウジムジムリーダー、マルス様だ。
今日はこの俺様が、とォーーーーーっても重大な発表ってヤツをしてやろうと思って、こうして出させてもらってるぜェ。
知っての通り俺様はコーシュー地方の四天王だ。ほのおタイプを担当させてもらってる…それも、今日までの話だがなァ。
今日、この放送を以て、俺、マルス様は四天王を一抜けさせてもらうッ!爾後、コーシュー地方を相手とせずってヤツだァ!」
ー*ー
「こ、これって…」
「/Outputコーシューの四天王として、ロクショウタウンを占領統治...それがマルスの、役目ですよね。四天王辞任ってことはEnd」
「独立宣言、そういうことね…」
ー*ー
ー「喜べ!今日から、俺様のロクショウタウンは、名実ともにコーシュー地方の支配を離れ、シンシュー地方に舞い戻るッ!」
フジナド大学の食堂にて、ジムリーダーであり音楽教授を務めるレンゲは、居合わせた学生たちとともに、テレビモニターを見あげていた。
「どの口が…!」
学生の1人が、歯からギリギリと音を鳴らす。
「お前が攻めて来たから、あの戦争は始まったんだろ…!」
「今さら俺たちシンシューに寝返るったって、受け入れられるかっ!」
「結局、ロクショウタウンにマルスが居座るのは変わらないじゃないですか!」
学生たちが鬱憤を吐くのを一通り見届け、レンゲはスプーンを置く。
「しかし、これこそ千載のチャンスと言うべきでしょう。」
「教授!?」
「あなたがたは言いました、『才能があるのに使わないのは、贅沢な戯れ言だ』と。
同じように、『機会があるのに使わないのも、贅沢な戯れ言』…そうとも言えます。
ロクショウタウンがシンシューの旗の下に戻るのなら、今こそシンシューが団結し、コーシュー地方からの長き侵略の年々に終止符を打つことができる…そうではありませんか?学生諸君。」
「…自治会に、あげておきます。教授」
「くれぐれも、演奏の時期を見失ってはなりませんよ。若者が気づけば老人になるように、時流はすぐに過ぎ去るのですから…シンシューのために動き、シンシューを変える、その時は今です。」
ー*ー
ー「コーシュー軍駐ロクショウタウン部隊として、俺様たちはさんざん我慢してきた。コーシューの貧乏人どもは上納をせびり、シンシューでは軋轢にさらされ…辛抱もこれまでだ。
コーシュー地方の軍は確かに強い。俺が抜けても四天王のの残り3人も大軍を抱えて、大本営直属の精鋭部隊までいやがる。
…だから俺様は、俺たちだけじゃねェ、シンシュー全体の底上げを考えてきた。GXマーカーをシンシュー中にばらまいたのはこの日のためだッ!もうコーシューの、餓鬼亡者どもの風下はうんざりなんだよッ!」
コーシュー地方、ナデシコシティ、ヨウガイやま館。
四天王の残り3人ことピリュス、バイティス、ジャグランスは、重苦しい表情でラジオを囲んでいる。
「亡き殿の御遺言どおりとなったか…」
「マルスの奴、同じ四天王だろ…どうして…」
「かくなる上は、もはや、猶予は…
若様!ただちに御下知を!」
ジャグランスにそう呼びかけられ、コーシュー地方の新たな主は険しい顔をこれでもかとしかめた。
「む、しかしだな…」
「若様!持久力も富もない我らコーシューに、この上シンシューの雑魚どもへの弱腰など、まして裏切り者の容認などありえませぬぞ!
コーシューが空中分解してしまいまする!」
「さよう!かと言って裏切り者のマルスの奴ばらを討伐し、そこで進軍を停止できるわけでもシンシュー側と手打ちできるわけでもございますまい!マルスが帰属を表明した以上、マルスを敵とすることはシンシューを敵とすることと同義!」
「ゆえに亡き殿ならば仰せられたはず!
ただちに挙兵、マルスを討ってロクショウタウンを焼き尽くし、余勢を以てシンシューを蹂躙せよ、と!」
ダン!若きコーシューの主は、拳で畳を打つ。
「黙れそなたら!
予が、亡き父上の口を借りれば思い通りになる木偶とでも思うておるのか!」
「そ、れ、は…」
「もうよい!
全軍に命令、ロクショウ、カナサシ、キナリ、ウスモエの4方面から電撃侵攻、マルスはもちろんのことシンシューの一切合切を蹂躙、併呑せよッ!」
ー*ー
ー「俺様というシンシュー侵略の橋頭堡を失い、コーシュー大本営はすぐにでも開戦を選択するはずだァ。なんてったってシンシュー地方はコーシューの貧乏人どもの悲願だからなァ。
シンシュー人!これは勝てるかもしれねェ戦争だァ!俺様がついてるんだからなァ!
やるぞ!独立の狼煙を上げろォ!」
シンシュー地方最北の秘境、ウコンタウン。
ジムリーダーの影武者たる少女カタクリは、御簾の向こうの真のジムリーダー、ハナツメの返事をじっと待っている。
「…言いたいだけ言って放送終わり、ですか。らしいですね…マルス。」
「おひいさま、此度は、どのように?
おひいさまの預言どおりならば、先の戦乱のように局外中立、というわけには…」
「カタクリ。
ワカナエシティの、本家に連絡を。
こう、伝えてください。」
ー*ー
ー「当主、ハナツメ・シバザクラ・コーシー様より、アオバ・フロックス様へ伝言でございます。
『コーシュー=シンシュー地方は戦時状態に突入せり。事前の要請に基づき、即時にユキコシ地方及びフロックス家ユキコシ本家の全土進駐を求める。』」
ユキコシ地方、ワカナエシティ、フロックスセンタービル最上階。
世界的資本と2000年の血脈を宿す令嬢は、ロクショウタウンからの臨時放送を聞いて十数分待っていたウコンからの電話を聞くなり、立ち上がった。
「カグヤ!
7おみやと政財界に通達、本刻を以て挙兵、シンシュー地方及びコーシュー地方に宣戦!ただちに、遅滞なく、シンシュー地方へ軍事侵攻を開始!」
「わかったよお姉ちゃん!お姉ちゃんは?」
「私は会見を開きますわ!」
ー*ー
「お早いお戻りだなァ、龍神歌姫にアイドル。」
シンシュー地方、ロクショウタウン。
戦時状態突入を示すサイレンが鳴るロクショウジムで、マルスは2人のアリアを出迎える。
「/Outputあなたのポケモン、代わりに回収してきました。自分のポケモンは大切にしてくださいEnd」
「悪ィ、そればっかしは本当に手抜かりなんだよ。ありがとなァ。」
「それよりマルス、どういうこと?今さら、私たちシンシューに寝返るだなんて…」
「そっか、オマエはコーシューを知らねェもんなァ。
あんなしょうもない地方、俺様が一番嫌いなモンなんだよ。」
「そっちの事情は知らないけど、だからって私たちが、いえシンシューの人々が、それを受け入れるとでも?
何人シンシューで殺したかわかってるの?」
アリア・カナサシの鋭い語気に、マルスは両腕を広げて、あっけらかんと。
「悪ィ、殺した人間の数も奪ったポケモンの数も、俺様は数えねェ主義なんだワ。キリがねェからなァ。」
「アンタ…!」
「俺様を受け入れないったってそうはいかねェぞ龍神歌姫にアイドル。
こんな堂々と独立宣言かまされてコーシューが怒り心頭なわけねェし、シンシュー地方が俺様を受け入れずとも、それを信じてロクショウ領境で止まる理由もねェ。
戦争は始まっちまったんだよ。駐留軍だった大軍と、コーシューの情報を持つ俺様、オマエらが見捨てる余裕はねェんだなァ。
アリア・カナサシ、アリア・コトホギ、オマエらは俺様の祭りの神輿だ。下りるこたァできねェ。
さあシンシュー地方...俺の
6月1日午後、シンシュー地方ロクショウタウン、コーシュー地方による占領体制からの独立宣言。
即時にコーシュー地方はシンシュー地方へ宣戦布告、これを以て、第二次シンシュー戦争が開戦となった。