アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
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「助けて、誰か...」
ザシュッ...刀が、抱かれた子供ごと母親を貫いた。
「チッ...殺すことはねえだろうがおい。お上は、生きたまま連れ帰って奴隷にしろとの命令だぞ。」
「我が軍はロケット団ではないだろ。略奪は戦術で、侵攻と領土確保の戦略より優先しちゃならん。」
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コーシュー軍の公称兵力10万騎...この「騎」という戦力単位には若干の解釈の余地があるが、コーシュー軍の軍制では「1人のトレーナーと、それが保有する巡航可能なポケモン」と定義されていた...要するに、騎乗して移動できるいわゆるライドポケモン持ちの兵士が1騎ということである。移動能力を重視し、ライドポケモンに乗って突撃しながら次々にポケモンを繰り出す戦術を持つコーシュー軍にとって、この騎兵運用という考え方は用兵の骨子であった。
もっとも10万騎だからイコール10万人のライドポケモン持ちトレーナーというわけではない。1人のトレーナーがライドポケモンの他に盾役ポケモンやステゴロのためのダメージディーラーポケモン、また攻城のための重火力ポケモンや回復ポケモンを育てることを原則としていたが、貧しいコーシューの地で理想通りそのようなポケモン育成をしきてるわけでもなかった。ゆえに回復専門の部隊や攻城専門の部隊、兵糧や兵備のための部隊や、コーシュー軍らしく略奪専門部隊が10万騎の他にいた。このようなサポート部隊をそろえ、騎兵を中心にして「あらゆる軍事行動を完結して行い、1都市を独力で圧倒できる」部隊編成として方面軍が編成されている。
2万騎で1方面軍として、第1、2、3、4方面軍がそれぞれ各四天王の指揮下。そして
いずれにせよコーシュー地方の人口は山梨県のそれを下回り60万以下、10万騎+予備兵力というのはほとんど国民皆兵・国家総動員であった。この体制を長年続けてきたのだから、コーシュー地方が侵略と略奪にかける熱い思いがわかるというものだ。
2万のライドポケモン持ちトレーナーが12万のポケモンを持ち、ロクショウ、エクリプス、キナリ、ウスモエにそれぞれ押し寄せる。唯一、同じ兵力の第1方面軍を有するロクショウタウンは戦力的に拮抗しているが、ここに押し寄せるのは裏切りに怒り狂う近衛方面軍、強さも士気も劣勢だった。残りの3都市?カナサシおみや、キナリジム、ウスモエジムはジムトレーナー数百人を常備軍とするが、後は義勇軍を募るしかない。そもそも人口で20万を下回るのだから、2万のトレーナーを義勇軍で募集できるはずもなく、せいぜいなんとか1万人の郷土防衛隊を組織するしかない…しかも訓練されていないし戦争の覚悟もないアマチュアポケモントレーナーだ。
無理なものは無理である。次々と村々が陥落され、避難が遅れた人やポケモンは略奪の対象とされる。
さらに忌まわしきはコーシュー軍の空襲であった。むろん前線でも、ただでさえ数に劣るシンシュー側のトレーナーをひこうタイプが奇襲しエアバトルをしかけることは極めて多い…が、それとは別に、前線から離れた都市市街への空爆が行われているのだ。
コーシュー5方面軍10万騎は、あくまで「それぞれ騎兵を中心に独力で1都市を圧倒・攻略する」部隊。これとは別に、攻め込む都市を限定せず、直接での都市攻略を目標としない戦略空軍が存在する。すなわち、前線遠く離れた都市中枢へひこうタイプポケモンで大挙襲来し、迎撃役の敵ポケモンを掃討しつつ都市を爆撃する...シンシュー10都市のうち、秘境極まるウコンタウン、もっとも遠い上にいわタイプをジムのタイプエキスパートに含むシラアイタウンを除き8都市が、繰り返す空爆によって街を燃やされようとしていた。
もちろんシンシュー地方に勝ち目がないわけではない。1都市で1方面軍にとうてい敵わないのはコーシュー地方が方面軍をそう組織したからでありどうにもならないが、陸上侵攻を受けていない残り6都市が援護すれば、侵攻を押し返せる可能性はある…なにしろ総人口はシンシュー地方の3倍はあるのだ(すでに制空権を喪失している空の戦いはともかく)。もっとも、6月3日現在、フジナド・ワスレナ・コウジ3都市が援護を宣言したものの派兵はこれから...どころかフジナド・ワスレナは軍事動員すらまだであった。
このままではシンシュー側は撤退か玉砕を繰り返して前線を戻っていくしかない。戻ったところで帰るべき街は空襲で壊され続けている。ジリ貧極まっていた。
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エクリプスタウン、カナサシおみや。
「歌姫様は何と仰せか!?」
神官は、通信室から出てきた巫女に、半ば怒鳴るように問うた。
「歌姫様からの電文を奉り申し上げます。
『コーシュー軍の非道は許せるものに非ず。市当局による宣戦布告を追認し、侵略を退けるべし。なれども我ジンザモにて作戦遂行中にて、援軍不可なり。』です。」
「歌姫様はお越しになられない…おみやのすべてで出撃して2000、市の義勇軍が間に合っても1万足らず…勝てないっ!」
「だいぐうじ代行様!エクリプスタウン市役所より通信!高原市街の東5キロに敵軍主力迫る、とのこと!高原市街放棄はまだのようです!」
「…下社筆頭殿に伝令!私とともに救援に向かう!」
(湖の東側…高原市街と復興中の旧市街はいったん諦めるしかないか…)
カナサシ湖を防衛ラインとし、北岸の新市街まで引き上げ、湖と山の間の細い街道でコーシュー軍を足止めする…それしかなさそうだった。
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谷間に家々がまばらにならぶ村…いや集落か。その上を、オニドリルが飛び交っている。今にも地上へ攻撃を繰り出しそうだ。
集落の中央では、カイリューを6体並べたトレーナーが仁王立ち。コーシュー軍のマルヤクデの旗を背にしている。
「この村の、リージョンフォームポケモンはこれだけか?」
「へ、へえ、ですからどうかご勘弁を…」
村長がペコペコ頭を下げるのを、カイリューのトレーナーは無表情で見つめ、それから振り返って指示を出す。
「方面軍本部へ、押収したポケモンを後送。我らは先遣隊の後を追い次の集落へ向かう。」
「この村はどうしますか?隊長。」
「斯様なチンケな村の占領の維持などしていられん。」
村長がほっとため息をもらす。
「従って村は住民ごと焼き払え。リージョンフォームポケモンの遺伝的浄化、国際社会にバレては面倒だ。一切の証拠を残すなっ!」
「なっ、そんなっ」「カイリュー、はかいこうせん!」
口答えなど許すつもりはない…彼は集落を蹂躙し尽くし先を急ぐ。
ー*ー
「いいですね?食糧になるものはすべて徴発してください。木の根に至るまですべてです!」
「隊長、それでは進撃が遅くなりますが…」
「何のために占領地の民草を確保しているのですか?督戦隊を付けて各村での臨時調達に当たらせなさい。」
「はっ!前線と占領部隊に伝えます!」
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コーシュー軍は、住民の散発的な抵抗を圧殺しながら進撃を続けている。
略奪、そして時には虐殺…キチガイじみた暴虐によって、コーシュー軍の進路は荒廃し、人もポケモンも皆逃げ出し、ために侵攻進路上はがらんとうとなってますます進撃が加速していた。
命からがら避難が間に合った者たちが、ここキナリタウンにも殺到している。ジムリーダーのコヒガンはいずれ失陥は免れないと考え、避難民をフジナドシティへ逃げさせていた。
「ジムリーダー!南方2村、逃げ遅れたとの通報が…」
黙って目を閉じる。できることなど何もない。
「ジムリーダー、敵軍すでに市街東方2キロに到達しています。」
「塹壕線は?」
コヒガンは脳裏にキナリタウンの地図を思い浮かべる。谷間を流れる川、その両岸の河岸段丘に広がる市街、両岸市街をつなぐ数え切れない橋、そして谷の東の峠と谷の南のウスモエ方面から襲来するコーシュー軍…
「川の向こうに1本、構築済みです。また南方にも構築中。」
「東岸の塹壕は現状のもので完了とし、西岸南方にじめんタイプ部隊を回してください。
東岸市街全住民を至急避難させ、塹壕と川によって遅滞戦闘を!橋も撤退に不要なものは破砕!」
「はっ!」
そこへ、コヒガンの相棒たるピジョットが空から降りてきた。首と羽を振り、主に見てきたものを伝える。
「『テキ、ソラカラタイグン。ヒトガノッテル』…
…っ、防空隊、総員出撃!
空挺が来ます!」
叫びながら、自身もボールを投げる。ムクホーク、ケンホロウ、ファイアロー…
「ピジョット、メガシンカ!そして皆さん、GXオーバーラップです!」
コヒガンの4体のポケモンGXを先頭に、数百のひこうポケモンがキナリタウンの空へ飛び立つ。その視線の先、東の山を越え、雲霞のごときポケモンの群れが飛来してきていた。
「『ソラガ7ブデテキ3ブ』…
多いですがやるしかありません!敵制空網を突破、空挺トレーナーが騎乗するライドポケモンを優先的に排除!」
イヤリングのように付けられた無線機からのコヒガンの指示を聞き、
相対するは、数千はあろうというひこうポケモンの群れ。そのすべてが尋常ならぬ気配を放つポケモンGX。
【プテラGXの ワイルドダイブGX!】
【ボーマンダGXの かえんひこうGX!】
【ファイアローGXの ブレイブバード!】
およそ100体が突っ込んでくる。
「避けてくださいっ!できる限り敵制空隊を相手にしないように!」
数が違うのだ。まともに戦えば勝てない。それに目的はライドポケモンを落として空挺を阻止することである。
仲間の十数が落ちていくが、
空襲本隊を守る制空隊、ムクホークのような高速ひこうポケモンやタイカイデンのような対ひこう優位なポケモンが分厚く守るそこへ、エアスラッシュやかぜおこしのようなワザを浴びせかけながら突っ込み…それでも乱れずに撃ち返してくる敵へ、高火力ワザを一斉発射する。
【
【ファイアローGXの だいもんじ!】
躱さざるを得ず、あるいは旋風・爆風に吹き飛ばされた敵のひこうポケモン。その合間を縫えば、奥には数百のライドポケモンが悠々飛んでいた。
ライドポケモン側とてただで攻撃されるつもりはない。
【アーマーガアGXの ラスターカノン!】
【リザードンGXの かえんほうしゃ!】
濃密な弾幕。さらに、突破したばかりの制空のひこうポケモンも反転し、追いすがってくる。挟み撃ちだ。
それでも、キナリタウンのポケモンたちは
街を守るため、負けるわけにはいかなかった。
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キナリタウンが必死に空を守る一方、空どころか街そのものの守りを諦めていたところもあった。
カナサシ湖湖畔、エクリプスタウン。カナサシおみやの門前町として古くから栄え、近年はシンシュー地方にあるまじき近未来学術都市ともなっていた街…けれど昨年、おみやのだいぐうじツクバネ・モリヤとマッドサイエンティストの長バックレアが邪神ミシャグジを復活させたため街は荒廃…南の高原と湖の北に街の機能を移し、復興に取り掛かっていた。
そこへきての、今回の電撃侵攻である。南の高原はコーシューから近く、復興中の旧エクリプスタウンとて防備は乏しい。カナサシ湖と山の間の狭隘さを利用して北の街を守る計画こそあったがたかが知れている…数年前のシンシュー戦乱ではカナサシおみやを中心とした強大な勢力だったエクリプスタウンも、今や、怒涛のコーシュー軍相手に無人開城を余儀なくされていた。
けれど、ただで街を明け渡すつもりはない。ミシャグジ神に多くを破壊されたとは言え、エクリプスタウンは超科学未来都市。その技術を譲ることはできない。
「課長、すでに敵の斥候が、郊外まで接近しているようです。」
「なんとか間に合った、と言うべきか…
ライボルト、マッギョ、ほうでん。」
バチバチ!電光とともに、マッドサイエンティストの遺産たる建築物
「システム、再起動できてます!
続けてロトム、ポリゴン進入させます。」
マッドサイエンティストどもの作り上げた巨大システム、バックレアが去った今では誰にも全容がわからないし、現在の技術ではハッキングも不可能だ…が、電子回路に進入できるポケモンを用いればその限りではない。
エクリプスタウン全体のシステムが、ロトムとポリゴンに干渉される。
「インフラ課より電話です!タウン管制AIの最深権限、役場から接続できたとのこと!」
マッドサイエンティストにより作られ全貌不明なるエクリプスタウンの電子ネットワークが、やっとエクリプスタウン市当局の手に収まった瞬間であった。
タワーのあちこちのスクリーンが、赤く光り始める。
>ALERT
>
>過電荷誘発落雷システム、起動
>都市ガス系統掌握、
>全市爆破まで3600秒
「よし撤収するぞ!」
3重の発火・爆発システムの起動に成功し、焦土作戦は予定通り機能する…それを確認し、市職員たちはモトトカゲに飛び乗って街を後にした。
>ALERT 不明なアクセス
>不明なアカウントに突破されました
>起爆中止を即時実行
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焦土作戦を迫られている街は、エクリプスタウンだけではない。
「卑怯者のマルスの首を持って参れば、褒美は望み次第ぞ!」
「裏切り者のマルス!地獄に堕ちろ!」
「ロクショウタウンのサムライたちよ!ポケモンたちよ!お前らは賊軍となった!父母兄弟は泣いておるぞ!」
すでに焼け落ちた市街地、その瓦礫の中から、石垣のこちらまで声が聞こえてくる。
「おゥおゥ、四天王の誰がと思ったが、その上が出てきなすったもんなァ。」
勝手を言いやがってと思っても、マルスにもどうすることもできない。同格の四天王率いる方面軍なら負けない自信もあったが相手は格上…ロクショウジムはコーシュー軍に重包囲されてしまっていた。
ロクショウジムが豪族の城を増築したものであり川を天然の水堀とした守りに堅い平山城と言っても、限度がある。ポケモンの攻撃に戦国城郭がどれほど耐えられるか…?コウジタウンのオシロイほど知略に秀でているわけではないので、先行きは暗い。
「殿!かくなる上は城を焼き払いコウジタウンまで逃げるしかございませぬ!」「オシロイ殿もわかってくださるはず!」「我らと殿の火力なら、包囲の突破は可能でございます!」「殿!食糧があるうちに!ご決断を!」
「…
うるせェ!」
「殿!?」
「俺様たちは裏切り者だァ!わからねェのか!」
「だから、恨みを買いすぎているから、ここはいったん退くべきだと!」
「ちげェよ!
シンシューの連中がどう思うかって話だよ!
ここで踏ん張らなきゃァ、シンシューの誰が俺様たちを信じるってんだよォ!」
「し、しかし殿!包囲はどんどん分厚くなりますし、城もいつまでも耐えられるわけでは!」
石垣の外からは、大軍の罵声が聞こえてくる。
「…フン。
ここで持ち堪えりゃ、話がつくはずさァ。じきにそうなる。アイドルと歌姫、あの2人ならなァ。
者共!ここが正念場だァ!気張れィ!」
サムライとポケモンたちが、気合いを張り上げた。
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キナリタウンのそこかしこで、煙が上がっている。
「クラブ、あわ!」「カメール、みずでっぽう!」
空爆による被害を消火しているそのそば、難民たちが北へと走り去っていく。
…結局、敵の空挺をすべて迎撃することはできなかった。ライドポケモンとともに数十人のコーシュー軍トレーナーが着陸、キナリタウン東岸市街の十数カ所が占領された。
敵が占領しているのは家一つ、ビル一つの単位で、奪還あるいは破壊は困難ではない。しかし、空爆で塹壕や舟が損傷している今、東岸市街に戦力を送って復旧をおろそかにして…そこまでして東岸市街の状況を回復させても、コーシュー軍本隊が来れば東岸市街は長く保たないのだ。
コヒガンたちの決断は、キナリタウン東岸市街の早期放棄だった。火災を消し、船着き場から西岸市街へ難民たちを逃がし、占領された建物は放棄し、敵本隊は川と西岸市街南方の塹壕で守る…そうするしかなかった。
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キナリタウンの南、ウスモエタウンでも、市民・難民たちが船着き場に並んでいる。もっともこちらは船だけでなくマンタインやラプラスといったライドポケモンで河岸を埋め尽くし、人という人をすべて水上へ逃がそうとしていた。
北のキナリタウンはそう長く保たない…そして、キナリタウンが陥落すれば、陥落しないまでも東岸から西岸への敵渡河を許せば、ウスモエタウンは川の上流を押さえられ、シンシュー各地との連絡も絶たれるることになる。
「急げっ!敵が迫っているぞ!」
ジムリーダーのホンミツが声を張り上げる。
避難船団が目指す先は、ジョウト地方、ワカバタウン。
「攻めてくるのは四天王バイティスか…
今は逃げるが、ただではおかん…!」
ホンミツの声は、まだ、力強かった。
虐殺、略奪、空襲。
コーシュー軍は傍若無人の限りを尽くし、シンシュー各地へ侵攻を進めている。
ロクショウタウンは焼け落ちて籠城、エクリプスタウンは焦土作戦、キナリタウンは東岸を放棄、ウスモエタウンはジョウト地方へ大脱出…侵攻の標的となった街は、たまらず後退していった。
ウスモエを除く3都市からの避難先となった他の都市も、コーシュー軍の戦略爆撃を受けている。
…そんな中、戦争がもう一つ、始まっていた。
次章、転生ポケモンアイドル第11祝「発動、オペレーション・ブリザードスルー」