アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
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6月3日(現地時間、シンシューでは4日)、イッシュ地方、ユナイテッドタワー。
2日前に始まったシンシュー地方の戦争について、主要各地方の代表者が集まる国際会議が開かれている。
「まず始めに、この戦争…仮称『第二次シンシュー戦乱』について、現在わかっていることをオレから説明させてもらう。」
議長席につくのは、カントー地方代表のグリーン。
「1日…あぁ、カントー時間のだ。1日夕方、シンシュー地方ロクショウタウンでジムリーダーをしていたマルスが、自主独立を宣言した。
このマルスって奴は、コーシュー地方の四天王で、5年前の戦争でロクショウタウンを占領してたんだが、この独立宣言でコーシュー地方はシンシュー地方への橋頭堡を失うことになった。
コーシュー地方は即座に懲罰を宣言…そして、ロクショウ、エクリプス、キナリ、ウスモエの4都市めがけ越境、空爆を開始した。」
ここで手が上がる。
「なんだ?フィオレ地方の…シンバラ教授」
「わしはポケモン研究者ゆえ、素人質問ですまんのじゃが…
裏切り者への懲罰なんじゃよな?なぜコーシュー地方はロクショウタウン以外にも攻め込んでおるんじゃ?」
「…懲罰戦争は口実、いえ懲罰だけでは止まれないからだろう。
今現地では4日、ロクショウジムはまだ陥落する気配はなく、一方でキナリタウンの半分とウスモエタウンが陥落、エクリプスタウンも陥落間近で、シンシュー地方の他の都市も空襲を受けている。
コーシュー地方はシンシュー地方に全土侵攻し併合するつもり、これは間違いない。だから俺たちカントー、ジョウトはコーシュー地方に抗議し、経済制裁を行った...俺がジムリーダーをするトキワシティ、そこへ攻め込んでやると恫喝を返されたがな。」
カントー地方にとどろくグリーンの名を知るトレーナーたちは失笑した...が、シンオウやホウエンの代表だけは顔を引き締める。コーシュー地方の時代錯誤さとヤバさを、近隣の地方だから知っていたのだ。彼らは本気だし、本気ならカントーとて危ないと。
「8年前に第一次シンシュー戦争が始まった時、2つの地方は足掛け3年戦争を続けて、延べ動員人数はシンシューが70万人、コーシューが30万人...ポケモンは2000万体を数えた。人口60万ちょいって言われてるコーシュー地方が、最終的に30万人戦場に送り込み、隣の地方への侵略戦争をやったんだ。コーシューはそういう地方だ。」
そしてシンシューもまた、200万ちょいから70万を戦いへ送り…ながら2倍の兵力でコーシュー軍を押し返せないほど内紛ばかりでまとまりに欠けていた。まあ最大の人口を持つジンザモシティが内乱と近隣のシラアイタウン侵攻にかまけていたし、コウジとロクショウの20万はどちらかと言えば敵だったから、対コーシュー勢力は劣勢だったのだが(そもそもコーシュー側は国民皆兵だがシンシュー側は素人の集まりだった)。
ザワザワ...平和ボケした多くの地方は、コーシュー地方なんかよりずっと発展してはいるが、常備兵力などありはしないし、千人もいない悪の組織で揺らぐ程度の武力しかない。人々が深刻さを意識し始める。
「で、だ。
1日、開戦数時間後、ユキコシ地方は、俺たちになんの相談もなく、いきなりシンシュー地方に攻め込んだ。
ウコンタウン、シラアイタウンに夜中のうちに進駐、軍政を敷き、さらにジンザモシティの制空権を確保...フジナドシティやコウジタウンと言った北部シンシューへ、空陸両方から攻め込もうとしている。
シンシュー地方は南のコーシュー、北のユキコシから圧倒的な数で電撃侵攻され、地図からその名を消されるのも時間の問題…ってところだ。
さて…これについて、まずは当事者、3地方の意見を聞きたい…ところなんだが…」
コーシュー地方は国際社会に対してにべもなく、シンシュー地方に至っては代表者を出せるほどのまとまりがない。
そういうわけで、世界中の代表の目が、唯一代表者を出せる地方であり国際的な知名度もダントツな地方…ユキコシ地方の代表者に集まった。
「…ユキコシ地方代表、カグヤ・フロックスです。
ユキコシ地方対コーシュー介入軍渉外部として、ユキコシ地方、フロックス・グループ、そしてこの2つのまとめ役たる、私の姉、介入軍総司令官アオバ・フロックスの考えを、説明します。」
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いかなポケモン世界が平和と言えども、意識の高さだけで戦争がなくなっているわけではない。
戦争というものに対する忌避…そして制裁。それらが実力者たちを戦争から遠ざけている。そういうわけで、戦時体制となったユキコシ地方へ、多くの地方が輸出入を差し止めた。
ユキコシ側も、昨年の「オペレーション・ブリザードスルー」立案時には既に、そうなるとわかっていた。しかししっちゃかめっちゃかなシンシューや未開軍事国のコーシューと異なり、制裁で受ける経済的なダメージを甘受できるわけもなければ、黙って制裁されるつもりもない。とりわけ、ユキコシ地方の経済的屋台骨たるフロックス・グループは世界的大財閥なのだ。
「そちらの医薬品は、ユキコシ行きではありませんか?申し訳ありませんがユキコシ行き軍需物資の輸出は禁止となっております。」
「こちらはフロックス製薬オーレ支社行きの荷です。」
制裁を発動していない地方を経由した迂回輸出。
「さっきまでここにいたタンカーは!?」
「あわただしく出港していきました!」
制裁から逃れるように緊急の出港・離陸。
「輸出入差し止めを撤回せよと言われるのですか?しかしそれは…」
「そんなことは言っていません。ただ、貴地方の株式の何割を我がグループが保有しているのか、と問うただけです。
現実的な判断を期待しています。」
時には、経済力を背景とした恫喝まがいの交渉。
ネット上では早くも、「侵略者のフロックスの製品を不買しよう!」というキャンペーンと「解放者のフロックスから購入して、シンシューのポケモンたちを助けよう!」というキャンペーンが乱立している。
ユキコシ地方の中でも、反対の声は決して小さくない。ポケモンの危険性が高くその上に8年前までゲリラ組織が跋扈していたため戦争への忌避感は他の地方より薄いが、基本的には先進地方なのだ。
ニュース、新聞、SNSに相乱れる言説、その中に、プロパガンダ…とまではいかずとも軍事介入を支持する内容が増えていく。
「偵察隊は見た!コーシュー軍の蛮行」
「21世紀最大の人道危機 シンシューの人とポケモンたちを救え!」
「コーシュー地方征伐がユキコシに必要な7つの理由」
「介入軍を笑顔で迎える市民たちー従軍記者伝える」
ユキコシの中と外で、戦争継続のための工作が、開戦とともに始まっていた。
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イッシュ地方、ユナイテッドタワー。
カグヤ・フロックスは一度カーテシーをし、レーザーポインターを手に取った。
「まずグリーンジムリーダー、ユキコシ地方によるシンシュー『侵攻』という発言に対して、訂正を求めます。
ユキコシ地方は昨年より、姉と私を通じてウコンタウン、シラアイタウンからの極秘の相談を受けていました。コーシューによる侵攻が近く、保護が必要である、という。昨年の介入軍結成も、今回の進駐も、あくまでこの密約に沿ったものです。」
そこで、議場から手が上がる。
「だが、シンシュー地方や周辺地方の了解がないことは確かだろう?いくらジムリーダーに頼まれたからって、軍を組織し越境し占領し他所と戦争状態になるのは正当性がないし、正当性のない進駐は侵攻じゃないか?」
「…と、言いますが、じゃあ何が正当性を担保するのですか?この戦争において。
シンシュー地方に侵攻、と言われますが、私から言わせればシンシュー地方など幻想でしかありません。歴史的区分、地理的領域としてのシンシューはありますが、現状は統一的な実体などなく、10の都市を収める概念でしかありません。
誰から得るべきかもわからない了解など待てません。コーシュー地方による侵略は、今、起きています。彼らはあのロケット団より過激で苛烈で強大で…人やポケモンを虐殺し、奴隷として略奪し、金も食糧もすべて収奪し、街は焼き討ち、南シンシューは既に、地獄と化しつつあります。
コーシュー軍の狙いはシンシュー地方だけではありません。侵攻の原動力はコーシュー地方の貧しさであり、シンシューだけでは彼らの腹は満たせないのです。シンシュー地方を制圧し、占領地のトレーナーを最前線へ送り込み、次に目指す先は海、生きるのに不可欠な塩とそれに豊かになるのに必要な交易が手に入る、海…カントー地方トキワシティ、ジョウト地方ワカバタウン、そしてユキコシ地方首府ワカナエシティのいずれか…その時、100万体を越えるポケモンの津波のような侵攻に、私たちは耐えられるのでしょうか?」
「しかしそれはそちらの理屈、そちらの推測で、軍事侵攻…あいや軍事介入が許される理由には」
「この件について、私と姉の考えは一致しています。
許される必要などありません。いいえ軍事侵攻など許されないことです。ですが許されなかろうがなんだろうが、手がつけられなくなる前に列島からコーシュー軍という脅威を排除しなければ、危機は存在し続けます。
公正や正義に関するイズムやジャッジなど、今そこにあるリアルの前には意味がありませんし間に合いません。悪とされようが、私たち介入軍はコーシュー地方ナデシコシティを陥落させ野望を挫くまで止まることはできないのです。」
「今のは問題だ!要請があった2都市と、その安全だけならともかく、コーシューまで進軍し体制を変革させようというのは明確な侵略の企図だ!」
「侵略?そういう見方もあるかもしれません。ですがシンシューもコーシューも、いえコーシュー=シンシュー地方とあえて呼びますが、近代的な体制など何もありません。
ポケモンリーグ?ない!ポケモンセンター?たった4つ!コーシュー四天王に至っては前線指揮官のトップがそう名乗っているだけ!
はっきり言わせてもらえば、コーシュー=シンシューなど歴史的・地理的区分に過ぎず、実力者が群雄割拠して覇を競っているようなものでしかありません。地方という体制ではなく地方という領域です。
群雄の圧倒的最大は『コーシュー地方大本営』を名乗りコーシューの支配権を自称していますが、破滅的な征服を目標とするそのあり方は『一つの地方をテリトリーとする悪の組織』でしかない!
ですからこれは、『他地方の体制の転覆を狙う侵略』などではありません。『体制なき領域からの悪の組織の除去』、そういうことなのです。」
コーシュー地方など存在せず、あるのはコーシュー領域を占拠しコーシュー地方を名乗る悪の組織のみ…カグヤのその発言に野次が飛ぶ。
「異議あり!暴論だ!」
「暴論などと言えるのは本当の侵略も本当の危機も知らないからです!
私たちは21世紀を生きています。しかしシンシューは消極的に、コーシューは積極的に、ブショーが互いの領域へ攻め込みあっていた16世紀を生きているのです!
国際社会の常識や人道など通用しません!必要なのは良識であり、そして私たちは隣接3地方、カントー、ジョウト、ユキコシで最大の実力を持つ地方であり、世界的な大企業であり、そして2000年の歴史を持つ名家である私たちがここで立ち上がらなければ、
これは人道です。これは良識です。これは義挙です。平和を作り出せない人は黙っていてください。
それでは。」
ユキコシ代表、堂々退場す…