アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 ~前回までの「転生ポケモンアイドル」は~

 絶世のアイドル言祝アリアが転生したのは、ポケモン世界屈指の混迷した状況にある「シンシュー地方」。8年前に始まり5年前に終わったコーシュー地方による軍事侵攻、その抵抗の旗頭となった”英雄歌姫”アリア・カナサシとともに旅をする中で、彼女はポケモントレーナーとして成長し、アイドルとしての能力も枷を解きつつあった。…が、一方でまた、戦乱の足音も迫っていた。

 ついに始まった、コーシュー地方によるシンシュー地方全土侵攻。時を同じくして北のユキコシ地方も北シンシュー2都市に進駐し、世論工作と占領の確立を終えた。そうしてついに、シンシュー第2の都市フジナドシティ、最大の都市ジンザモシティめがけ、ユキコシ軍の南下が始まろうとしている…


♪64 深雪計画、そして

 国際的に、この第二次シンシュー戦争で圧倒的に有利なのはユキコシ側だとみられている。

 

 ユキコシ地方:人口500万人、GDP20兆円

  フロックス財閥:時価60兆円

 

 シンシュー地方:人口230万人、GDP5000億円

 

 コーシュー地方:人口70万人、GDP2000億円

 

 国力と、開戦の経緯…それだけを見てトトカルチョをするのなら、人口が最大で経済力が圧倒的なユキコシはどう見ても有利、あとの無名2地方を格付けするとしたら侵攻側…勝算があるのだろうコーシューのほうがやや有利となる。

 

 もっとも事情通の中では評価は簡単ではない。ユキコシ地方とフロックス財閥は、兵力を募るか金で集めるしかない…シンシューは故郷を守るという文句があり、そしてコーシューに至っては人口のすべてがポケモントレーナーとして訓練を積み軍籍を持つ。さらに、ユキコシ地方はこの戦争でもっとも国際社会の目を気にしなければならない…「ユキコシに体力と能力はあるが、肝心の手足が足りないし、指を縛られてグーで殴れない」とは評論家の弁だ。

 

 一方のコーシュー地方もまた、動員兵力があるから軍事的遂行力があるかというと疑問符がつくー戦術と戦略は別なのだ。

 

 8年前の第一次コーシュー戦争で、彼らはちまちまと数万のトレーナーを出してシンシューの城・都市の攻略を試み、抵抗され、長引き、消耗し、予備兵力と後退し...を繰り返していた。動員可能人数こそ30万、ポケモンの数は200万を越えるが、貧しいコーシュー地方にそんな数を動かす能力はなく、5方面軍10万が限界...それすら後先考えず略奪で食料を現地調達してなんとか、である。支配体制を確立させるための侵攻ならば無理攻めは不可能で、数万を前線に貼り付けて着実な攻略を進める必要があり…その結果泥沼化して体力切れを起こし、消耗していたため決戦にも破れて講和へ追い込まれた。二の轍は踏めない。先刻の例えで言うのなら「コーシューはムキムキの手足の暴力があるが、胴体がやせ衰えてすぐへばる」と言おうか。

 

 ユキコシ地方:常備兵力7万人(うちホープ団5万、なおほとんどが戦争未経験)、徴募兵力8万人

 

 シンシュー地方:常備兵力5万(うちロクショウ2万、コウジ1万)

         動員可能総兵力70万人(防衛)

 

 コーシュー地方:常備兵力30万人(すべて軍人)

         動員可能兵力10万人(侵攻、なおロクショウの2万を喪失し補充中)

 

 ゆえにコーシュー軍は今回、強い決戦指向を持っている。支配の安定など考えず、略奪でシンシューを更地にする勢いで全力前進、コーシュー地方の体力が切れる前にシンシュー地方の抵抗勢力をすべて粉砕...そしてシンシュー地方の体力と兵力を組み込み、カントーかジョウトかユキコシへ進撃...桁違いに豊かなそれらの富を得て、やっと決算は黒字になる…そうなる前にコーシュー地方の体力が切れたなら、シンシューの占領区を奴隷化して赤字を補填するしかない。

 

 長々と泥沼の戦争をすれば世論の批判に耐えられないユキコシと、城を獲ったり獲り返されたり獲り返されないよう守ったりする泥沼を繰り返したくないコーシュー。どちらも、全軍を以ての短期決戦を求めていた...

 

 …けれどユキコシ軍はまともにコーシュー軍とやりあえば勝ち目はない。相手は殺しのプロなのだ。付け焼刃の義勇軍で数も少なければ...だからユキコシ側は、北シンシューの支配を固めながら、南シンシューでシンシュー軍側相手にコーシュー軍が消耗するのを待ちかまえ決戦を挑む必要があった。

 

 決戦作戦である「積雪計画」の前段作戦たる北シンシュー制圧は、こうした目的で発動された。

 

ー*ー

 

 「カクレオン、順調か?」

 

 酒屋の裏口、酒樽の蓋が揺らめき、カクレオンが姿を現わす。何も握られていないその手を見て、酒屋の主人は「よし」と頷いた。

 

 ここはシンシュー最大の人口を誇る都市、ジンザモシティの繁華街。2位のフジナドを大きく引き離すその規模がゆえにシンシュー経済の中心地であり、それゆえに生きシママの目を抜くような情報とカネの亡者がウヨウヨしている。

 

 カクレオンが、主人の耳にヘッドホンをかぶせた。聞こえてくるのは、どこかの会議室の声。

 

 ー「サーフ合金さんはどうなさいますか?」

 

 ー「えー、わが社としましては、出荷先はユキコシかジョウトというわけでありまして、ね…」

 

 「…金属業界はユキコシ寄りか…」

 

 盗聴器。それが、カクレオンがしてきた仕事というわけであった。

 

 「カクレオン、燃料業界のほうは?」

 

 彼がこんなスパイじみたことをしているのは、酒を飲ませれば人間の口が軽くなるから…だけではない。古来より酒を造る杜氏とは冬寒い時期の副業であり、それゆえ冬の寒さが厳しい地方ほど酒作りが盛んである…そう、ジンザモの酒関連の人間は多くがユキコシの血縁であった。

 

 ネッコアラが、顔を赤くして鐘を鳴らす。

 

 「夜の営業を始めるか。メタモン、客に化けていろいろ聞き出してくれ。」

 

 酔っぱらいとスパイの夜は、まだ始まったばかりである。

 

ー*ー

 

 フジナド大学屋外演習場…ふだんはフジナドジムのメインバトルコートとなっているそこに、学生たちが集まっている。

 

 空襲警報の合間に集まった彼らは、互いに熱弁を振るっていた。

 

 「すでにウスモエは陥ちキナリも保たない!ロクショウもエクリプスも虫の息だ!フジナド管区の村にもコーシュー軍の先鋒が来ている!

 

 判断を迷っている場合ではない!」

 

 「しかしですね!ユキコシとて助太刀とはとても思えません!彼らは我々の防空隊すら排除していますし、北の集落のいくつかに調略を伸ばしていることは明らかです!」

 

 「俺たち学生だけで街を守れるとは思えねえな。やっぱユキコシに頭を下げるしかねえだろ。」

 

 「異議あり!学生自治の精神に反します!」

 

 侃々諤々...そこへ学生が走り込み、メガホンをかっさらった。

 

 「母ちゃんから!コーシュー軍の本隊が来たって!南フジナドだ!」

 

 ザワザワ。

 

 「ちっ、東だけじゃなく南もか!」

 

 「編成を急げ!」

 

 「工学部出れます!ポケモン重機要りますか!?」

 

 「教授陣を呼べ!」

 

 「経済学部、ライドポケモン待機させてます!」

 

 「天文学科!南フジナドの天気は!?」

 

 若いエネルギーが叫び、学生、教員、市民の軍勢が南への出陣を急ぐ。

 

 メガホンを先ほどかっさらった学生は、ゆっくりと喧騒を抜け出して、通信機を手に取った。

 

 「こちらスノウストームサーティースリー。ワカナエシティ聞こえますか?

 

 フジナド軍の南方誘導に成功しました。北はガラ空きです。」

 

 「こちらワカナエシティ。スノウストーム部隊を集め北へ向かわれたし。チューリップだいぐうじが救出に向かう。

 

 アオバ嬢がお喜びだ。内定が待っているぞ。」

 

 学籍を持っていれば大学の仲間として扱われるが、学生たちには大学を出た後の未来がある…防衛戦争も就活戦争も、たけなわだった。

 

ー*ー

 

 「ようこそジンザモコミューンへ。私が、コミューン議長とジムリーダーを兼任しております、クロレラと申します。」

 

 目の下に隈を蓄えたサラリーマンが、頭を下げる。

 

 「アタシはワスレナジムジムリーダー、リンダウ。…アンタもなかなか苦労してるのね。」

 

 力の信奉者たる女傑は、クロレラに「可哀想なものを見る目」を向けた…言い換えれば、同格の相手と見なしてはいなかった。

 

 「私はしょせん雇われ、自分の脳と能で街の行く末を決めなければならないリンダウさんとは…」

 

 「それはそう。…でも今回はアンタの街で決めるから。雇い主さんの意向が知りたいのよ。」

 

 ジンザモシティの動向によって自分たちの動向を決める…それ自体は、ジンザモが圧倒的な人口と経済力を持つだけにおかしくはない。ただ、整合性が取れないことがひとつ。

 

 「…確かワスレナタウンは、すでにシンシュー独立に全ベットのはずでは?」

 

 ぶんぶん、リンダウは首を横に振った。

 

 「ワスレナタウンとしてじゃない。今の私はアンタと同じ、雇われなのさ。」

 

 「…は?」

 

 「なんたってまだ、ワスレナにはどこの軍勢も土足で踏み入っちゃいない。アタシがもっとも自由に動けるジムリーダーなんだ。…とはいえ、シラアイ、ウコン、それにジンザモのアンタを除く残り6人がみんな、アタシに見届け人兼メッセンジャーを頼むとは思わなかったけどね。」

 

 「ワスレナ含め7つの街の特使…というわけで…えっ、それが、うちの街を気にしてます…?」

 

 うへぇ…サラリーマンは顔をしかめる。

 

 「クロレラ、アンタがプレッシャーを感じることなんて何もない。なんてアンタには何も決める権限がないんだからね。」

 

ー*ー

 

 ジンザモシティの市民は、自分たちのことを「世界でもっとも民主的な街」と呼んでいる…ジムリーダーを民選し、街の方針を集会で決めるさまは、あまりこの世界で類を見ないからだ。…ジムリーダーの決定にポケモンリーグが関与せず商工会議所が関与する地方など他にないし、一面ではそうではあるかもしれない…が、その正体はと言えば37万の巨大な民意の右往左往と金持ちたちの根回し暗闘でもある。

 

 料亭の二階。金持ちの社長や地主が、酒や御馳走を手にもせず向かい合っている。

 

 「信金はんは結局、どないするんや?その気んなったら気い食わん奴に貸さへんってこともできるやろ。」

 

 「まさかまさか。銀行業というものは、返してくれる方に貸す、返してくれない方には貸さない、そういうものです。」

 

 「ほなガメついだけやないかい。金利だけ上がりそうやな。」

 

 信じてもいないことを口々に言い合う。…ここに出入りする人間ならば、コーシュー軍が負ければコーシュー地方の破産に巻き込まれてコーシュー側の資本が焦げ付き、コーシュー軍が勝てばユキコシ側に付いた資本は略奪で消滅することを知っている…答えになどなっていないのだ。

 

 「ほんで最近の戦況ってのは、どないなんや?」

 

 「マンリョウ商会さんは気楽なもんですね。ジョウトに親戚がいらっしゃるとか?」

 

 ここでコガネ弁の男は押し黙る。

 

 「北も南も、まあモルペコに齧られるがごとしですよ。今やシンシューを胸張って名乗れるのはワスレナフジナドコウジくらいなもので。」

 

 返事をした彼は、ジンザモを数に含めない…民意とマネーの魑魅魍魎はこの街を簡単に身売りすると思っているからだ。そのことに誰も異論を挟まない。

 

 「落とした街はコーシューが4、ユキコシが2…コーシュー側に馳せ参じつつユキコシに義理立てで株でも買っておくか?」

 

 まあそれが一番損をしない方法だろう。もっともバレれば恨まれることを口にする時点で本気ではない。

 

 ドン!女が机を叩く。

 

 「アタイの店のことはアタイらでなんとかする。テメエらもなんとかできるやろ?問題は街のことさね。

 

 金はともかく札束は燃えちゃおしまいだ。街を燃やさないように、どうする?」

 

 空襲の被害を、既にジンザモシティは受け…そしていずれもすぐに消し止めていた。街の身売りを当然の可能性とする連中だが、それでも自分たちなりに皆ジンザモを愛しているのだ。

 

 「あー…ジムのほうはどうなんだ?こういう時のために出資してジムトレーナーを揃えさせてるんだろ?」

 

 「ポケモンジムはそういうものでは…まあいいでしょう。クロレラ議長ならいつも通り胃薬を飲んでますよ。」

 

 「オラらのお飾りのくせに、苦労人みたいな顔しくさって。」

 

 「そろそろ神輿の挿げ替え時かねぇ。バトルに強くたって一銭も稼げんようでは二流市民よ。」

 

 「まあまあ、何のために彼をトップに選んだと。何かしら責任者の首を差し出させられる事態になるまで、ジムリーダー閣下の首は飛ばさずおきましょうや。」

 

 「いやトップにしたのは、議長には投票権がないからではなかったかね?トレーナーの議員がいささか多すぎるからのう。」

 

 酒が少しは入ってきたからか、会話は赤裸々で身も蓋もない…街の対外的なトップはジムリーダーであり、ジムリーダーは最強のトレーナーであり、一方で民主的議会で動くこのコミューンシティにおいてはコミューン議長が街のトップ…そして街の資本家たちは穀潰しのポケモントレーナーにいい思いをしていない、ということが、奇跡的なまでに最悪な咬み合わせを起こしている街であった。

 

 「話を戻すぜ。どうしたら儲かる?損をしない?店を失わずに済む?…全部、突き詰めれば、誰がこの戦争の勝者、シンシューの覇者になるのか…ってことだろ?」

 

 酔っているふりをしていた連中が、本音を隠し顔を伺い合う。

 

 最初におそるおそる口を開いたのは、ワカナエシティの米を取り引きしていることで知られる問屋。

 

 「あー、ジンザモの管区でもすでにいくつかの集落が陥落している。ユキコシに勝てるわけがない。

 

 よしんばジンザモなりカナサシおみやなりコーシュー軍なりが勝てたとしても、世界のサプライチェーンを握っているフロックスの報復には、俺たちみたいなちっぽけな店は勝てない。」

 

 当然、ここに集まる魑魅魍魎どもは、発言の裏を読めないようでは三流、みなが裏を読んでいることを前提として会話しないようでは二流だという輩ばかりである。

 

 「しかし万一コーシューに陥落して見ろ、ユキコシの協力者なんてクビだぞ。」

 

 誰かが、横にした手のひらで首筋をなぞる。ぞっとしない仕草だ。

 

 「となりゃ…いやしかし、味方したところで根こそぎ持っていくことに変わりはないからな…」

 

 「何を言ってる?

 

 なんのために儲けてきたんだ?我々の店と従業員を守るためだろ。ここで金銀を惜しんじゃ仕方ない。」

 

 「銭ならば良かろう!俺など地主、土地を奪われればどのみち飢えるのだぞ!」

 

 「だからこそだな、コーシューに屈することが守ることなのか、儂には大いに疑問よ。」

 

 ここで物事が決まるわけではない。この宴会は公式の議会ではない…あくまで探り合いと根回しの場である…

 

 喧騒が続く中、宴会場へ丁稚が駆け込む。

 

 「どうした!入るなと言ったはずだ!」

 

 丁稚は叱責に答えず、耳元に口を寄せ小声で囁いた。

 

 「会頭!歌姫様が、アリア・カナサシ様がご来店です!」

 

 「…ここの裏にお通ししろ。守銭奴どもの問答、聞かせてやるのも一興よ。」




 シンシュー地方は南と北から攻め込まれ、連帯することもできず各個撃破され、滅亡の瀬戸際にある。

 2人のアリアが向かうのは、シンシュー地方最大の都市、民意と欲望の坩堝、ジンザモシティ。

 「お2人が行くべきは、ですから、バトルコートではなく、議場の演台なのです。」

 「ジンザモシティは常に民意を貫く。進路を(アナタ)に委ねたりはしない。」「72時間で首都は陥落し、あの国は降伏する。」

 追憶を振り切り、2人は舞台へ上がる。

 「/Output歌姫さんは、どうしたいんですか?End」

 「貴女にこのカルマを負わせることを、私はもう、ちっとも申し訳なく思っていないの。」

 「悪いが死んでもらう!ジンザモのためだッ!」
 
 転生ポケモンアイドル第12祝「二重の戦線、二人の独唱(アリア)

 シンシュー200万人の民意が、今、交錯する...!
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