アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
♪65 会議はバトる、されど進まず
ー*ー
「これはこれはカナサシの歌姫様、わざわざジンザモの本店まで、何の御用ですかな?そちらの支店はまだ残っているかと。」
「…いえ、ジンザモじゃないと買えない商品があるのよ。」
「ふむ、と言うと?」
にやり、アリア・カナサシは笑い、三歩下がる。
番頭が首をかしげる。
言祝アリアが頷き、出力ボタンを押す。
「/Outputジンザモシティの民意を、買いに来ましたEnd」
「…裏へお入りください。何やら複雑なようですな。」
ー*ー
深夜、灯火管制が敷かれ薄暗いジンザモの大通り。
「/Outputあれが、ジンザモシティですか…End」
言祝アリアは、先ほど宴会場の裏から聞いた喧騒を思い返していた。
こっそり店の会頭が聞かせてくれた、街を統べる魑魅魍魎たちの会話。彼ら彼女らは、コーシューかそれともユキコシか、生き抜くために味方すべき相手を品定めしていた。
「…売国奴の宴ね。」
「/Output歌姫さんに言いたくはないですけれど、たぶん、仕方のないことですEnd」
「…それもそう。皆、ジンザモでは、シンシューでは勝てないと考えているのよ。
どちらがより、巻かれるべき長いものか…細切れなシンシューとしては不甲斐ないものね。」
「/Outputそれでも、この街もシンシュー地方も北にも南にも売り渡せないし、そのためにあの人たちを味方につけなくちゃいけない、そういうことですよね?End」
すでに開戦から3日目が経過し、南シンシューはその半分がコーシュー軍のたむろするところ、北シンシューもウコン・シラアイの2都市がユキコシ軍に乗っ取られている。この上に最大の規模を誇るジンザモシティが揺れ続けているようでは、シンシュー地方は詰んでしまう。
「それだけではないわ。
前回の大戦、コーシュー地方は占領区を少しずつ確立しようとダラダラ派兵し続けて息切れした。同じ失敗はできないはずだし、ユキコシもそう読んでいるはず。
使えるすべての大軍で北と南から攻め込んで、真ん中…このジンザモシティの周辺で、ユキコシとコーシューの大軍が雌雄を決する。この戦争の帰結はそれだわ。
塵芥みたいなシンシュー各都市の軍が、各個にてんでバラバラ立ち向かっても、衆寡敵せず粉砕されるのがオチ。
シンシューを一つにして、シンシュー地方のすべてを賭けて決戦へ殴り込む。それしか、勝ち目はないわ。
コトホギさん」
「/Output私には無理ですEnd」
「それは、戦争が?」
「/Outputいいえ、それはもう避けられない…ように、歌姫さんがしたんじゃないですか。
私はアイドルです。神様ではないんです。みんなが勝手にファンになってペンライトを振ることはあっても…魅了は洗脳じゃないEnd」
ファンはアイドルに従う…ように見える。だが実際は勝手に盲信しているだけだ。勝手な思いを抱いてストーカーになる輩、優れたアイドルと信じるからこそ金儲けやら私利私欲のためになると思う輩、至高のアイドルに魅了された人々は、時に予測不能な動きをする。
「/Outputコウジタウンの時だって、もしオシロイの家臣に忠誠心がなければ、『絶世のアイドルという旗印がいる今こそ謀反を。言祝アリアこそ主君にふさわしい』と考えたかもしれません。ファンになった彼らが唯々諾々と戦意を喪失してくれたのは結果論でしかないんです。
ジンザモシティ37万人、シンシュー地方200万人…私は劇薬すぎますEnd」
前世にて世界中を虜にしたもののついにファンを手懐けられなかったアイドルは、ただ嘆息した。
ー*ー
翌日、ジンザモシティ中心部。
かつてジンザモ城が築かれ豪族が治めていた地は、櫓の一切を撤去され、煉瓦造りの議事堂が置かれている。ジンザモシティを治めるコミューン、その評議会議場だ。
議場の裏、議長室にて、くたびれたサラリーマンがゆっくりと扉を開き、2人のアリアを出迎えた。
「コミューン議長兼ジムリーダー、クロレラです。」
奥のソファには女傑がふんぞり返っている。
「子ニャルマーちゃんとお連れちゃんじゃない、ジム戦以来ね。」
「リンダウ…貴女も戦時状態よね?」
「だからこそよ子ニャルマーちゃん。泣いて感謝するといいわ。アンタの手間を省きに来たんだから。」
「…ああ、他の街のジムリーダーのぶんも見届けに来た…というか、オンライン会議でもつなぎに来たのね?シンシューをまとめることができるかどうか見定めに。
残念だけど、私じゃないわよ、今回の神輿は。」
「なんですと?」
クロレラが、かすれた声で驚く。
「/Outputアリア・コトホギです。よろしくお願いしますね、クロレラさんEnd」
おずおずと握手を返すクロレラを、パシャパシャ撮影しながらリンダウは一言。
「ジムバッジ渡した時に、なんかこうなる気はしてたわ。」
ー*ー
「クロレラさん、状況は?」
「評議会は四分五裂しています。
ユキコシ派が5割、コーシュー派が4割、自主自衛派が1割でしょうか。
申し上げるのは申し訳ないところですか、お2人が来たからシンシュー派でまとまるとは到底思っておりませんし、4割3割3割になればかえって混迷する恐れすらあります。
しかしながらこのまま分裂し百家争鳴しているようでは何事も決まりません。どちらかの軍が城下に迫りその時になって降伏…となるよりは、ここで多少揉めて乱闘してでも早くに方針を決めたいのです。」
「それは聞き捨てならないわ。コトホギさんと私なら、8割シンシュー派でまとめられる。貴方も、コトホギさんに向き合えばわかるはずよ。」
「それは、無意味ですよ。
私がバトルをしようがしまいが、コトホギさんに何を思おうが、無意味なのです。」
「/Output無意味?ジムリーダーなのに?End」
「この街でジムリーダーとは飾りです。私がジムバトルをしてコトホギさんを認めたところで、なんの意味もありません。
認めさせるべきは評議会の議員たちであり、そして彼らははなからポケモンバトルなどできません。なんならポケモンバトルを恐れてすらいます。」
豪族の支配から抜け出し民主主義を確立するため、経済的・社会的な力を持つ
議会多数派の金持ちたちにしてみれば、未だに、「ジムリーダーの下でジムトレーナーたちが結束して決起すれば、ジンザモの実権はすぐに奪還されてしまう」という恐怖がある。…もっともそうなれば、経済という血管を失ったジンザモシティの市民社会は壊死してしまうが…
「お2人が行くべきは、ですから、バトルコートではなく、議場の演台なのです。」