アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ついに始まった第二次シンシュー戦争。南からは
元絶世のアイドルと元救国の現人神。2人のアリアの真価が、今、問われようとしている…!
アリア・カナサシは、コミューン議事堂の窓から外を眺めている。
6年前、この街めがけてコーシュー軍が進撃してきた時も、ジンザモ議会は紛糾していた。
「私が『コーシューの賊とフロックス家の綱引き会場の有様じゃない!』って言った時と、何も変わっていないわね。」
その時、議員の一人はこう誇らしげに応えたのだー「資本によって売国されるなら、それすらも、民意です。ジンザモシティは常に民意を貫く。進路を
実力を示せば、ジンザモの民意を自分に傾かせることができるーそう考えた彼女は、北からユキコシ軍が、南からコーシュー軍が迫る中、カナサシおみやの軍勢を率いて近隣の山に潜伏した。
「サイジョウ山...憎らしいほどよく見えるわね…」
ジンザモ市街から南、その山は市街との標高差が200mを切っており、山がちなシンシューではむしろ低地の部類に入る…ただ、コウジタウンに籠城したオシロイを包囲しつつ北進しジンザモ郊外のサウスジンザモタウンに布陣したコーシュー軍、ジンザモシティを”救援”すべくウコンタウンから南下してきたユキコシ軍、この2者の様子がよくうかがえる立地だった。
2つの軍勢はジンザモ南方の平原で会敵し、ユキコシ軍はコーシュー軍の猛攻に耐えられず崩壊する...アリア・カナサシはそう予測し、ユキコシ軍を追撃するコーシュー軍の背後を急襲し殲滅しつつユキコシ地方に恩を売ることを計画した...が。
ー「…ええと…芝桜の旗!フロックス本家、アオバ嬢です!」
ー「…今よ!カナサシ全軍、突撃、前線へ!」
山を駆け下り戦場に到着した彼女の、目の前で。
(あの時私は、すべてがうまくいくと思っていた。コーシュー軍を排除し、ユキコシ地方を後ろ盾に得て、そして実力を示したことでジンザモも他の都市も私に従ってシンシューは統合される…そう思っていた。)
ー「さあ、誇り高き俺らの燦然、誰にも超えられはしないさ!/あら、直視せざること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!」
ピンク色の旋風が吹いて、コーシュー軍は戦闘不能となり、ユキコシ軍はたった2人の姉妹令嬢を
アリア・カナサシは、不必要だった。
(思い知らされた。私じゃ不足だって。
1つの地方をまとめるほどのカリスマもない。1つの軍を退けるほどの強さもない。あのユキコシの令嬢、ダイヤの輝き、それを超えることなんて、龍神様を宿したとて私にはできない。
アオバ・フロックスの器は超えられない。
私ごときにシンシューはまとめられない。
…私は、英雄歌姫アリア・カナサシは、あの山で、平原で、心折れたのよ。)
「もう、6年も経つのね。」
そして再び、コーシュー軍は前回とは比較にならない圧倒的な速度で北上し南シンシューを併呑、ユキコシ軍もまた本格的に軍事介入を試みて着実に北シンシューを侵食...ジンザモシティのコミューン評議会はまたもや大紛糾しているしシンシュー10都市はまとまることができず各個撃破されつつある。
「それでも、私は見つけた。
アリア・コトホギ。きっと貴女なら、シンシューの統合の象徴になれる。コーシューに打ち克ち、ユキコシに立ち向かい、あのピンクのダイヤに傷つけられずにいられる。
今度こそは...!)
扉の向こう、議場の中からはずっと、侃々諤々の演説が漏れ聞こえていた。
ー*ー
言祝アリアは、思い出していた。
忘れもしない2022年の春、某国の外交官が、空港で彼女に告げた言葉を。
ー「私は、あなたが優れた女優であり歌手であることを知っています。
あなたが国際的に多くの人々に親しまれていることを知っています。
…けれど国際紛争はやめておきなさい。それにあの国は手遅れだ。」
彼女の今の旅の道連れ、アリア・カナサシは、言祝アリアのことを「アイドルとして人を魅了する力は世界一、ポケモントレーナーとしてのセンスもトップクラス...だけれど軍事的な知識もセンスもまったくない平和ボケした世界の住人」と考えているが、それは違う。
彼女は紛争地帯でのライブを数回しており、軍事的事態に関する最低限の知識をーここで言う最低限とは、二度の世界大戦がなかったポケモン世界や戦国時代クオリティのシンシュー地方の最低限ではないー有していた。某国外交官の言葉を理解できるほどには。
ー「72時間で首都は陥落し、あの国は降伏する。我が母国だけでなく欧米各国が、メディアが、そう考えています。
ここだけの話ですが、『北側からの侵攻はない』と北の隣国が言ったなどと言うのはあてになりません。侵攻の主軸は北からで、北部国境から80キロしかない首都は現代戦的電撃振興には耐えられませんし、あなたが今向かおうとしている首都国際空港は空挺部隊によって占拠されます…あの国は東部国境からの侵攻に備えて国防軍を移動させましたから、北部はがら空きなのです。
原子力発電所は東部国境すぐですからすぐに占拠され、核保有大国との対立や原発事故を恐れる欧米各国は支援ができないでしょう。そして、言いたくはないことですが、私たち外交官が外交的修辞に苦慮している間に、あの国は亡命政権になっています。…私たちは既に、亡命するよう首脳部へ説得の手はずを整えています。
世界的アイドルなどというかっこうの人質を、外交的カードを、東側世界に握らせたくはないのです。あなたをここで呼び止められなければ、私たちと国際社会は、あなたの数十億人のファンを敵に回さないために、亡命政権の処遇をあなたの身柄と交換しなければならなくなってしまう。」
言祝アリアは知っている。「イマジン」などというのは嘘っぱち、国際政治のリアリズムは「みんなで歌って輪になれば世界は平和」ということを許さない…けれど、それでも彼女はあの日、世界を救おうと思った。
(あの時私は言いました。「それでもこれが、私のやるべきことなんです。あなたが外交官として働くように、私はアイドルとしてできることをします。いいえアイドルとしてではなく、この力を持った人間として」)
言祝アリアは気づいていた...もはや自分のアイドルとしての能力は異能の域に達しており、無意識に人を魅了するような身振り・声を発しているのみならず意識していればあらゆる人をファンにしてしまうほどだと。ポケモン世界に転生してからはその能力を恐れ声を封印したが、2022年当時は思った...「大変なこともあるこのアイドル力だけど、きっと今日この時のために磨かれてきたんだ」と。
そして彼女は飛行機に乗り、凍土の東部国境に向かった。
集まってきた市民と兵士が手をつなぎ、彼女とともにライブを始めた。亡命の説得を拒んだ大統領は芸能界を良く知っており、特設のスタジオを彼女の下へ運び込み国中へそして世界中へ共に歌い続けた。
ついに隣国は一発も発砲できず、北部でも東部でも軍が撤退していき…そして言祝アリアはついに一国を救った。
(あの時が、私のアイドルとしての絶頂だったように思います。あれからあちこちのエージェントが追っかけてきましたし、2023年の秋は神様絡みで、アイドルから逸脱してましたからね…
…とにかく、あの世界の歴史では、言祝アリアの名は、2度も世界を戦争から救った稀代のアイドル、そうであるはずです。それが…)
今や彼女は、戦争の中で一つの軍事勢力を旗揚げしようとしている。
(因果なものです…けれど…
これもまた、私が、アイドルとして、そしてポケモントレーナーとしてできること。シンシュー地方のためにすべきこと。)
「コトホギさん、行くわよ。」
言祝アリアは頷く。
議場の扉が、重々しい音とともに開いた。
ー*ー
「であるからして!
コーシュー軍の苛烈な蛮行から逃れるためには!圧倒的な継戦能力を持つユキコシ地方を味方につけるしかないのであります!」
「あいやまたれい!
ユキコシ地方もまた、此度は都市を併合し、村々をユキコシ地方に組み込んでいる!この状況では国際社会の反発を受け、継戦能力は失われ、そしてユキコシ軍が避難に耐えかねて撤兵すれば…コーシュー軍は一切合切人もポケモンもすべて打ち首にし河原に晒すでしょう!
コーシューに歯向かうなどリスキーすぎる!」
答弁につぐ答弁、議論につぐ議論…コーシュー派とユキコシ派で対立する議会は、どこまでも平行線を辿っている。
決を採ることができないのだ。コーシューとユキコシ、どちらに付くことになっても、その後には対立派閥を狩って忠義を示すことになり…それを防ぐために対立派閥が決起し…ジンザモシティは内戦に陥ってしまうことがわかっているからである。
結論が出ないし出せない議会。騒々しさの中、こっそりと入ってくる2人の少女には誰も気づかない。
スカートをはたき、傍聴席にそっと着席。埃一つ立たない。
壇上へ目を向けることなく、言祝アリアは、隣の席に座ったアリア・カナサシと、視線を交える。
「/Outputもう一度確認させてください。はっきり言葉で。
歌姫さんは、どうしたいんですか?End」
アリア・カナサシは目をそらさない。
「私は、シンシュー地方を救いたい。
シンシューのすべてを結集して、連帯して、統一して…迫る苦難に立ち向かう。今度こそ、シンシュー地方を守る。
…けれど、私じゃ足りないのよ。『神聖な龍神様の依代たる歌姫の英雄』では、シンシュー地方を統合することはできなかったのよ。
天にまします神様を地上に降ろしたところで、祈り以上のものは得られないし、統一の理念が現実的な利益にかなうことなんてない…本物のカリスマが、本当に人とポケモンを引き付ける旗頭が、この地方の軸として必要だった。サビついた湖底の神話じゃなくて、シンシュー地方の建国神話を現代に作り上げなくちゃならなかった。」
「/Outputそのために私を…いわばシンシュー統合の象徴として、祭り上げよう、とEnd」
言祝アリアの脳裏に浮かぶのは、アメリカのジョージ・ワシントンやフランスのジャンヌ・ダルク...はたまた日本のヤマトタケルのような、戦乱の中で国をまとめ上げた英雄たちの名。
「勝手な願いを託していることはわかっているわ。それでもね...
…貴女にこのカルマを負わせることを、私はもう、ちっとも申し訳なく思っていないの。」
「/Output私ももう、こういう天命だったと思っていますよ。
行きましょう。先に歌姫さん、お願いしますEnd」
ー*ー
「次の演説者の方は...傍聴席から手が上がっていますね。」
議長席のクロレラがそう口にしたとき、すでにアリア・カナサシは立ち上がっていた。
視線が集まり…そして多くの議員たちが目を丸くする。彼女の故郷たるエクリプスタウン・カナサシおみやは陥落間近であり、そんな時にまさかここに彼女が現れるとは思わなかったのだ。
しかし、せっかく集まった視線はすぐに、アリア・カナサシから外れた。なにしろ、ともに立ち上がった絶世の美少女が視界に入るやいなや、その一挙一両足に意識が囚われてしまったから。
(狙い通り、ね。)
壇上に上がり、脇に言祝アリアを立たせ、それからアリア・カナサシは柏手を打って無理やり注目を引き戻す。
「先の大戦以来ね、皆さん。」
強烈なジャブ。
「あの時私はここで演説した。
ジンザモシティ、ひいてはシンシュー全体が、コーシューかユキコシかで揺れている…けれど、今こそシンシューはシンシューで団結しなければならない、と。
誰だったか忘れたけれど、反対答弁である議員が言ったものよ。ジンザモシティは民意で動くのであり、理念やまして龍神への信仰によってではない。私の実力が足りないから誰も私についていこうと思わずシンシューでまとまれると思わないのであって、今のままではシンシュー統合など不可能だ、と...
私はそれに応えるために、コーシュー軍に勝利しユキコシ地方に恩を売る決戦をもくろんで、そして敗れ去った。フロックス家のあの御令嬢を目の当たりにして思ったわ...確かに私は、シンシュー地方をまとめる器じゃない、って。」
だったら何をしに来たんだ?-議員たちの目が、だんだんと訝しみに変わる中。
「それでも私は諦められなかった!
シンシューの大地、山々、人々!私たちが育ってきた、美しい自然、美しい街並み、世話になった人々、ともに過ごしたポケモン達!
ここで、私たちの
シンシューのかじ取りは、シンシューのものとしてあらねばならない!
…けれどそれは、『龍神の依代』の名の下では不可能だったわ。だから…
戦争と戦争の狭間のこの5年間、私はシンシューのための新たな選択肢を、新時代のリーダーシップを、建国神話に値する偶像を、探して、そして巡り合った。」
ワスレナジムジムリーダーのリンダウが、傍聴人席で立ちあがって、ロトム図鑑のカメラを壇上へ向ける。
「紹介するわ。
シンシュー10のジムリーダーのうち、挑戦した8人すべてに認められたポケモントレーナー。
遠きパルデア沖では創世神アルセウスの力を借り受け、世界を救った歌姫。
カナサシ湖底に眠りし最悪の邪神を、歌声だけで魅了し惹き付け、龍神を従えて調伏せし、真の英雄。
アリア・コトホギさんよ。」
ー*ー
「/Outputこんにちは、ご紹介に預かりました、アリア・コトホギです。
機械音声を使用することをお許しください。…と言っても、肉声と区別がつかないかもしれませんが。その理由はのちほどお分かりになると思います。
初めて歌姫さんと出会った時、カナサシ湖のほとり、迷い人だった私が怪しまれ収監されていたところを救い出しに来たのでした。
それから私はシンシューを1年かけて旅して、10のstate、territory…あるいはcommonwealthのうち9つに接してきました。
それぞれにそれぞれ、故郷への想いがあり、選択があり…それでも自分たちなりの未来を指向していた。その生きる力の輝きが、一つ一つ、私の目に染み付いています。
今、このシンシューが危機にさらされ、10のterritory、1つのfederationは、100万以上のの人と1000万以上のポケモン、そしてこの豊潤な大地を道連れにこの世界から消え去ろうとしています。
『旗幟を鮮明にしなければならない』...未曽有の危機に際して、この評議会に列席する皆さんの意向はつまりところ、そういうことでしょうEnd」
ここで、言祝アリアは議場を見回した。
何をいまさら、と思っている議員たちだが、にもかかわらずヤジを飛ばすことも雑談することもできない…言祝アリアという存在が、その美貌も、野暮な口を挟んでいいようなものには思われなかったのだ。
「/Outputコーシューか?ユキコシか?ここでそうして頭を下げ、故郷を売り渡して、100年後のこの街はどうなっているのでしょうか?
空に、陸に、湖に、街角に、
『それでも』とおっしゃるかもしれません。おっしゃるでしょう。これが現実的な判断なのだと。
いいえ。『だからこそ』、なのです。無抵抗は無力でしかありません。そして力を示さないものに運命がほほ笑むことも天命が下ることもないのです。
何もしなかった者が報われることなどありません。自ら汗を、血を流さない者を、天が、人が扶けることなどありません。先ずは立ち上がらなければならないのです。ですから私は、立ち上がった人たちが戦闘に立つ人を求めるのなら、求められるまま征きます。運命に立ち向かう者にこそ、運命が啓けるからです。
戦いましょう!湖畔で、空で、覚悟を強め、力を取り戻し、いかなる犠牲を払おうとも、自らの故郷を守る。私たちは河川敷で戦う、私たちは水際で戦う、私たちは平原と街頭で戦う、我々は峠で戦う。私たちは決して屈してはならないのです!例えこの山々の9割が敵に頭を垂れようと!『シンシュー斯く戦いたり』、そう歴史に名を残せなければ...
…『実がなくとも名を残すことはできる』ということは、そこにいますクロレラジムリーダーを擁立した皆さんはよく御存じのはずです。ですが、逆はありえません。名を残せない程度の者に実などとうてい残らない!
ゆえに、ここに御臨席の皆様が、ジンザモでそしてシンシューで少しは名の知られた人々が、シンシューだけではなく世界に名を残す覚悟がおありかどうか…それによって、シンシューの名が世界に刻み付けられ、100年後に故郷シンシューがそうあり続けられるかどうかが、決まるのです!End」
端末を置く、マイクを手に取る。
アイドルは、前世からのルーティンどおりに、マイクをチェックし、
「私たちは決して降伏しない!これがシンシューのための選択肢です!」
叫び声に重なるように、議事堂を、幾筋もの電撃が貫いた。
「悪いが死んでもらう!ジンザモのためだッ!」
ー*ー
2人のアリアが議場に入ってすぐ後のこと。
ー「こちらスノウストームシックスティーエイト。議事堂に歌姫と連れが出現しています。」
サイコパワーを介して盗み聞きを防いだ特殊な通信機の向こうから、声が返ってくる。
ー「こちら介入軍総司令部工作班本部。歌姫はいいが連れは危険だ。事前情報によれば彼女の肉声は魅了の効果がある。
彼女が声を出そうとしたら即刻妨害せよ。予定を繰り上げ、議事堂を占拠せよ。」
評議会さえ掌握すれば、民意など烏合の衆でしかないし、コミューンなど操り人形でしかない。
言祝アリアがマイクを手に取ると同時に、彼はモンスターボールを手に取った。
「私たちは決して降伏しない!これがシンシューのための選択肢です!」
【デデンネGXの ビリリターンGX!】
【ライチュウGXの ボルテールGX!】
ボールから飛び出した電光が、議員席を横切って、議事堂を閃光で染める。
激烈な電磁波が、議事堂の全体に染みわたる。
「悪いが死んでもらう!ジンザモのためだッ!」
【マルマインGXの クラッシュバーンGX!】
【クワガノンGXの ギガトロンGX!】
奪われた視界、消失する聴覚…その中で、爆発が繰り返した。