アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪67 みんなのうた

ー*ー

 

 「コトホギさんっ!」

 

 アリア・カナサシが、電磁波でしびれて動かない身体で、倒れるように懸命に、言祝アリアに覆いかぶさる。

 

 【マルマインGXの クラッシュバーンGX!】

 

 爆発が、歌姫の背中を吹き飛ば…さなかった。

 

 「メタグロス...?」

 

 【メタグロスGXの アルゴリズムGX!】

 

 なんでもなおしが、どこからともなく出現し、2人のアリアをマヒから癒す。

 

 立ち上がった2人の目に入ったのは、麻痺って動けない議員たち、そしてどこからともなく傍聴席にぞろぞろと現れた覆面の集団。

 

 「クーデタ―…ってところかしらね…ニンフィア!オーバーラップ!」

 

 「/Output私の声にかぶせられたんですから、耳栓装備でしょうね…イーブイ!オンステージ&オーバーラップ!End」

 

 可能性が重複し、強さが2倍に膨れ上がる。ニンフィアGXとイーブイGXがかまえ…すると覆面の賊たちは、議員席を盾に身体を伏せた。ポケモンたちもだ。

 

 「/Output議員たちを盾に!?End」

 

 「人質にはしないところが、彼らは彼らなりにジンザモの民意を重んじている感じがするわね。…議員の中に仲間がいるってだけな気もするけど。」

 

 「/Outputそれにしたって、これでは戦えませんね…End」

 

 議員たちが民意を代表してコミューンの方針を決める、それがジンザモシティ...盾にされた議員たちにかまわず賊を攻撃すれば、議員たちは怒り、のちの採決で敵に回るだろう。

 

 とりあえず、自分たちの身を守ることだけは何とかなりそうだ…2人のアリアは演説台に身体を半分隠しながら、背中合わせに会話する。

 

 「/Outputサーナイトのサイコキネシスで議員の皆さんにどいていただくのは?End」

 

 「数十人の賊が一人でもエスパータイプを持っていたら、サイコパワーで綱引きになるわ。数十人の議員全員に於いて綱引きに完勝?分が悪すぎる。」

 

 「/Outputじゃあ…End」

 

 そこで、言祝アリアの視線が、傍聴席のはずれで泰然と足を組み直しているリンダウに向く。

 

 「アタシに、この賊をなんとかしろって?無理よ、アタシは見届け人だから手は出さないし。

 

 …だいたいこういうのは、議場の構造を良く知っている人じゃないと、ねぇ。」

 

 2人のアリア、それにリンダウの視線は、議長席を向いた。

 

 「/Outputクロレラさん!End」

 

 ージンザモジムリーダーで、賊と戦えるほど強く。

 

 ージンザモコミューンの評議会議長として、議場の構造にも詳しく、人質を安全に助けられる。

 

 クロレラは、握った空のモンスターボールを手に、視線を彷徨わせる。

 

 「このメタグロス、貴方のよね?

 

 そうしなきゃ、そう貴方はとっさに思ったからよね?」

 

 答えよどむクロレラ…そこへ、議員席の後ろの覆面の賊から声が飛ぶ。

 

 「クロレラ議長!

 

 トレーナーの勢力と財界の勢力が対立しないように、ジムリーダーは最強の実力を持つからこそ実力を行使せず不干渉…そのはずです!

 

 ジンザモの混乱を深めるおつもりか?!」

 

 クロレラが、手をポケットに戻し、あわあわと視線を左右させる。

 

 「議長!

 

 我々の力を求めた議員殿の言葉です、『野心のあるトレーナーが街を制し、力の論理が街を支配するようになってはならない』…強いトレーナーは自らが武力を持つからこそ、自ら考え、動くことに慎重であらねばならない!

 

 慎まなければ!」

 

 ジムリーダーら腕利きのトレーナーと、資本家・地主の財界の対立…かつてジンザモコミューンを内紛に陥れたそれが、クロレラを躊躇わせる。

 

 「何を迷っているの!

 

 貴方、ジムリーダーである前に、一人のポケモントレーナー、一人のジンザモ市民でしょう!」

 

 「それは、しかし…」

 

 「民意不介入ですぞ、クロレラ議長!」

 

 「あなたの心に、従ってください...クロレラさんっ!」

 

 言祝アリアの声を聞いて、クロレラの彷徨う疲れ目がぴったりと迷いを止めた。

 

 「…っ…!

 

 …これは、私がほだされたからではなく、望まれたように動くわけでもありません。したいようにせよと言われた通り...私は一人のトレーナーとして、私の心のしたいようにします!

 

 メタグロス!上に向かってラスターカノン!

 

 そしてカモン!ギルガルド、リフレクター!」

 

 「クロレラ議長っ!?」

 

 銀色の光線が、天井に向かって撃ち出され…そして、ギルガルドに跳ね返されて精確に議員席の裏へ着弾していく。

 

 「ちっ、説得に失敗か…

 

 …我々も雇われだ、悪く思わんでくれよ…パチリス!いけ!」「エモンガ、突撃!」「オドリドリ、GO!」

 

 議員席の裏から、賊のポケモンが飛び出してくる。一方のクロレラもまた、ボールをいくつも握りしめ。

 

 「ハッサム、バレットパンチ!クチート、マジカルシャイン!エアームド、はがねのつばさ!クレッフィ、あやしいひかり!」

 

 リンダウもやっと傍聴席から立ち上がる。

 

 「加勢するわよ。議員連中を守りなさい、ナッシー!」

 

 「/Outputイーブイ、サンダースへ覚醒!でんこうせっかです!End」

 

 「ニンフィア、向かう者すべて縛り上げなさいっ!」

 

 ばったばったと、次から次へ議場へ出現する敵ポケモンたちを叩きのめしながら。

 

 「やればできるじゃない、クロレラ。」

 

 リンダウは、獰猛かつ精悍なジムリーダーの表情を見て、そう笑った。

 

ー*ー

 

 瞬く間に賊を排除した評議会だったが、討論をそのまま再開…とは行かなかった。

 

 「クロレラ議長!これはどういうことかね?」

 

 議員の1人が、議長席に詰め寄る。

 

 「民衆が選んだ議員による民意、民衆と民意を守るためのトレーナー集団…だが民意は汚された!」

 

 「議長が職責を果たさないからだ!普段から治安の維持に努めていればこうはならなかった!」

 

 「そもそも腕利きのトレーナーによるクーデタ―ということは、ジムも噛んでいるのではないか!?前の戦争でポケモンジム主権を目指したように!」

 

 みながジムリーダーの不策を責めている…けれど、実のところ、ジムリーダーが不甲斐ないからクーデター未遂が起きるのだという者もいれば、いくら非常事態とはいえジムリーダーが議場で武力を用いるのは違うのではないかという者もいた。…かなり反対の主張ながらも、クロレラの罷免を求めている点は同じである。

 

 「ジムリーダーの不信任、再選挙を動議する!」

 

 議員のうち1人が叫ぶ。…他の議員たちは「そうなるよな」という表情と「いやマジかよ」という表情の混じった複雑な表情をした。

 

 民意で選ばれた評議会で、賊がクーデター未遂をし、ジムリーダーが実力を行使する…確かに、ジムリーダーの大きな失点だ。しかし今は戦時…再選挙などそんな悠長なことはしていられない。

 

 (これが、クーデターを手引きした議員の狙いね…

 

 不信任をするにしろしないにしろ、議会がこの件で紛糾するのは間違いない…

 

 …コミューンシティはまだまだ迷走するけど、議員の買収でかたをつけやすくなるし、それに…戦時にあって戦力を率いるジムリーダーが街の実権を握ることだけは、避けられる…)

 

 「ともあれ今日の議会は流会ね。」

 

 衆愚どもが…アリア・カナサシは小声で毒づく。

 

 「/Outputさせません歌姫さん。こうなったらできることは一つですEnd」

 

 言祝アリアは、そう言ってマイクをアリア・カナサシに渡した。

 

 「私も協力するわ。

 

 実はね、この端末、中継先は6人のジムリーダーだけじゃないのよ。」

 

 リンダウが、2人のアリアの正面で、スマホロトムを構える。

 

 「…配信再開…っと。」

 

 「メロエッタ、楽譜は覚えているわよね?」

 

 メロエッタが大きく頷く。

 

 言祝アリアが、左足のかかとを上げ…カツン!床へ大きく叩きつけた。

 

ー*ー

 

 ジムリーダーたちは、キナリタウン西岸の塹壕で、ウスモエからワカバタウンへと下っていく船の中で、湖畔の街の地下道の中で、大軍に包囲されたロクショウジムの大広間で、住民とともに汗を流しながら建築するコウジジムの櫓の上で、学生たちと集まった大学の講堂で、その中継を見ていた。

 

 >ジムリーダーのみんな、リンダウよ。この映像を、前線に届けてくれる?

 

ー*ー

 

 (アイドルと歌姫…いつかともに歌えたらなとは思っていましたし、歴史に残るかもと思っていました。けれど、こうしたかたちでとは思いませんでした。)

 

 かかとを鳴らした音で、騒ぎってクロレラに詰め寄っていた議員たちが、2人のアリアへ目を向ける。…一度目が向いてしまえば、もはや離せない。

 

 「私たちはずっと、1つの街で物事を考えてきた」「ずっと、1人で生きて、他の誰かと力を合わせるのが苦手でした」

 

 メロエッタから、旋律がこぼれだす。

 

 「歌を共にすることなんてないと」「みんなで手をつなぎ肩を組むことなんてできないと」「「そう思っていた」」 

 

 シンシューをまとめることに一度失敗した歌姫と、シンシューなど知らぬ異世界からやってきたアイドルが、手を重ねてマイクを握る。

 

 「「私たちなら、アリア(独唱)じゃない、デュエットになれる!そして、いつか導いて見せる、コーラスだって!

 

 斉唱、シンシューの国!」」  

 

ー*ー

 

 「「シンシューの国は四州に 境連ぬる地方にて」」

 

 ともに作詞作曲した、フジナド大学の学生たちが立ち上がる。

 

 「「聳ゆる山はいや高く 流るる川はいや遠し」」

 

 山の中の洞窟で、川沿いの渡河地点で、ポケモンが自然とボールから飛び出す。

 

 「「フジナドキナリコウジジンザモ 四つの平は肥沃の地」」

 

 街頭のモニターで見ていた市民たちが、お互いの目を見合わせ、誰からともなく口を開く。

 

 「「海こそなけれ物さわに 万ず足らわぬ事ぞなき」」

 

 「「四方に聳ゆる山々は オンタケクラミネウマガタケ」」

 

 仰ぐ山々とその後ろの青空へ、あるポケモンが鳴き声を口ずさみ始める。

 

 「「アサマは殊に活火山 いずれも国の鎮めなり」」

 

 噴煙を背に、クイタランとアイアントが手を取り合って山麓を駆け下りていく。

 

 「「流れ淀まずゆく水は 北にヨシノ川ワカナエ川」」

 

 「「南にワスレナ川ウスモエ川 これまた国の固めなり」」

 

 ワカバタウンへ逃げる船の上で、船頭が涙をこぼしながら口笛を吹き、乗客の1人が「引き返せ!」と叫ぶ。

 

 「「ワスレナの谷にはくさ茂り カナサシの湖にはうお多し」」 

 

 農園のポケモンと農家が、歌いながらジムへと歩き出す。おみやの神官が、尺八を手に取る。

 

 「「民のかせぎも豊かにて 五穀の実らぬ里やある」」

 

 「「しかのみならず桑とりて むし飼いの業などにて拓ちひらけ」」

 

 河川敷のアゲハントとドクケイルが、ともに戦場めがけ飛び立っていく。

 

 「「太きよすがは軽からぬ 国の命を繫ぐなり」」

 

 ボーマンダがキーストーン廃鉱山の金庫を叩き壊し、鉱山跡地は大爆発。崩落した山からデリバードがキーストーンとメガストーンをシンシュー中に運び去っていく。

 

 「「尋ねまほしきソノハラや 旅のやどりのネザメの床」」

 

 「「ワスレナの桟かけし世も 心こころしてゆけヨシノ川」」

 

 敵が迫る谷あい、橋を落とそうとしていたトレーナーたちはともに手を止め、橋を渡って前線へ急ぐ。

 

 「「くる人多きウツクシの湯 月の名に立つポケステやま」」

 

 既に陥落した地で、秘湯で傷をいやすポケモンたちが、潜むゲリラたちが、小声で歌っている。

 

 「「しるき名所と風雅士が 詩歌に詠みてぞ伝えたる」」

 

 「「東はやとし英雄も 嘆き給いしウスイやま」」

 

 カントー地方との境界。難民たちが、モンスターボールを見つめ、来た道を引き返す。

 

 「「穿つトンネル26 夢にもこゆるライドギア」」

 

 シンシューへの街道を、峠道を、橋を、トンネルを、空を、カントーやジョウトから、シンシューに縁あるトレーナーがやってくる。

 

 「「みち一筋ひとすじに鍛えなば 昔の者にや劣るべき」」

 

 シラアイとウコンを除く8つのジムで、ジムトレーナーとそのポケモンたちが、集まってきた市民とともに手拍子で歌う。

 

 「「古来山河の秀でたる 国は神話のある習い」」

 

 森で、川で、街で、湖で、空で、空襲下の防空壕で、建設中の要塞で、包囲下の平山城で、潜伏中の基地で、前線の塹壕で、人々とポケモンたちの歌声は、途切れることなく響いていた。




 ジンザモ一和(じんざもいちわ)

 第二次シンシュー内乱初頭の6月5日、ジンザモシティのコミューン議事堂にて起きた事件。

 この時ジンザモシティを指導するコミューンは、ユキコシ派とコーシュー派で分裂していた。訪れたアリア・コトホギは、龍神歌姫アリア・カナサシを従えてともに演説をし、議員たちを奮起させようとしたもののクーデターが発生。

 ジムリーダーとともにクーデターを鎮圧したが、コミューンの議会たちは民意の象徴たる議事堂内での流血沙汰に怒り、評議会はあわや流会となるところであった。そこで、アリア・コトホギとアリア・カナサシが、兼ねてからフジナド大学によって作られていた郷土讃歌「シンシューの国」を歌った。

 おりしもこの様子はシンシュー中に中継されており、陥落も時間の問題と思われていたシンシュー地方の住民は、故郷を称える「シンシューの国」を共に歌うことで団結し、シンシュー統合の雰囲気が一気に醸成された。



 (浅井洌(1899).信濃の国.長野県師範学校附属小学校郷土唱歌.JASRAC:039-2595-1 ※著作権失効済)を基に作成。♪31.5と同一。
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