アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 ついに始まった、コーシュー地方とユキコシ地方によるシンシュー地方南北同時侵攻。

 5日遅れて、シンシュー地方の統合が達成され、シンシューの人とポケモン達が侵略へ立ち向かう。

 コーシュー地方からシンシュー最大都市ジンザモシティへ向かう途上の街、開戦の直接の原因、ロクショウタウンは焼失し、ジムリーダーのマルスは2万の兵と10万以上のポケモンを連れて落ち延びた。

 コーシュー軍の若き総大将が率いる近衛方面軍2万騎が次に向かうのは、あくタイプのジムリーダー、「裏切りの名手」オシロイが統べる街、コウジタウン。


♪69 すべての前線で戦えⅡ 謀戦、コウジタウンの悪党たち!

ー*ー

 

 「ロクショウタウンの荒くれ者どもは、信じたかの?」

 

 コウジジム。ロクショウジムと同じく総石垣の平山城の本丸で、ジムリーダーのオシロイはパチンと扇子を閉じた。

 

 「もしかすれば、信じなかったやもしれませぬな。

 

 『今からコーシュー軍が迫る城に、籠城の備えがない』などありえませんから。」

 

 コウジタウンへ落ち延びてきたマルスらの軍勢に、オシロイの家臣はそう告げて、追い出したのだ。

 

 「マルスの奴、もしやジンザモに着くなり『オシロイは内通している』と叫ぶかもしれぬな。」

 

 冗談では済まないことを、オシロイは笑いながら口にする。…もちろんこの壮年武士がここで失敗するはずもなく、根回しは既に済んでいる。

 

 「今のシンシューに、寝返りとはいえ2万の軍勢は惜しいからのう。『儂の策にとって邪魔ゆえ出ていかれよ』とはさすがに口にできぬわい。」

 

 オシロイは今回、コーシュー軍を迎え撃つことを「大博打」とは思っていない。むしろ「出目のわかっている博打ほどつまらんものはないからのう」とは彼の弁であった。

 

 コウジタウンの兵力は一万人。それだけを支える兵糧なら準備しているし、陣地もある。そしてそれで勝算もある。…ロクショウタウンからの2万の敗残兵など、この謀将にとって邪魔以外の何物でもないのだった。

 

 「話を戻しますが、殿、敵は今夜中に城下へ辿り着くでしょう。」

 

 「敵兵の数は1万8千。ポケモンは少なくとも10万でござりまする。」

 

 「3倍来たとて耐えられよう。そのために、儂らは今日まで備えてきたのじゃからな。

 

 それではおのおの、ぬかりなく。」

 

 「「「「「おう!!!!!」」」」」

 

ー*ー

 

 若き総大将(チャンピオン)をトップに、ロクショウタウンをすべて焼き尽くしたコーシュー軍近衛方面軍は街道を攻め上がりロクショウタウンへ到達した。

 

 「一番隊長、そなた、この街を攻めるべきにあらずと申すか?」

 

 「おそれながら、さようにござりまする、若様。」

 

 総大将はギリリと歯をかみしめる。

 

 「申せ。なにゆえだ。」

 

 「偉大なる御父上が、ついに攻め陥とせなかったのがコウジの城にござりまする。

 

 コウジタウンの太守…今はジムリーダーなどと名を変えておりますオシロイは、当代随一の戦略家にして戦術家。

 

 攻守三倍則でもいささか厳しうござりまする。若様では…」

 

 「そなたは、余がオシロイや、亡き父上に劣ると申すかっ!」

 

 ドン!拳を机に叩き付け、怒気を全身から迸らせる。古強者たる家来たちが、思わず腰を抜かすほどの迫力。

 

 「い、いえそのようなことはっ...しかし…っ!」

 

 「もうよいっ!

 

 裏切り者のマルスを逃がし、その上にコウジタウンは陥とせずでは話にもならんっ!そなたらそれでも近衛かっ!

 

 コウジタウンは独力で攻撃するっ!攻撃開始は明朝!みなみな心得よっ!」

 

ー*ー

 

 6月7日早朝。

 

 一晩の休息を得たコーシュー軍は、一斉にコウジタウン市街へ攻め寄せた。

 

 そして、見事に停滞した。…それも丸1日。

 

 「何をしている!?市民はいないのだろう!?」

 

 「ですが若様、街には無数の設置ワザが張り巡らされており…!」

 

 まきびし、どくびし、ステルスロック、ねばねばネット。ただでさえ入り組んだ道だらけの城下町にはそれらが張り巡らされ、さらには毒沼や電気柵、ねむりごな噴射罠のような状態異常ブービートラップの類が家々に仕掛けられていた。

 

 「井戸水を飲めばもうどく、蔵の米を奪えばフィラウイマゴバンジイア、薬屋の薬の中身はすべて下剤…!先鋒はボロボロにござりまする…」

 

 「ええい痴れ者がっ!

 

 余は確かに、厳に下命したはずぞ!オシロイは6年前同様、必ず罠を仕掛けておるゆえ、家や物は気を付け、きりばらいやこうそくスピンで罠を除去しつつ街を壊して進み、城を丸裸にせよ…と!」

 

 「し、しかし若様、それは無理な相談にございまする...!

 

 兵も兵のポケモンも、飢えておりまする…コウジタウンで物資を補給するつもりが、街も城も焼け落ち、侵攻開始からすでに7日...もともとコーシューの者は常に飢えておるのです。」

 

 「糧食は調達できないから、物資は現地調達するべし…という方針でした。どうして、兵らが…いえ、兵が慎もうとも兵のポケモン達が、略奪を諦め、目の前の富んだ街、積まれた食料を焼き払えましょうや?」

 

 本当に飢えたことのない彼にはわからない、飢えた者の苦しみが…貧しさゆえに、罠があるとわかっていてなお、兵士たちは家々に踏み入り、略奪を試みるのだ。

 

 「…民の心のうちまでも、オシロイの手のひらの上だとでも言うのか…!

 

 それにしても、この時がために工兵を育てたはずであろう?それに状態異常もどくタイプやはがねタイプには効かぬはず。なにゆえ…」

 

 「忍者がいるのでございます。我が方の忍びは後れを取っており、神出鬼没のゲッコウガ、テッカニン、アギルダーら、そして忍者トレーナーのポケモンたちによって、耐性を持つ我が軍のポケモンは狩られております…」

 

 戦場はコウジタウンの市街地…コーシューの兵士にとっては東西南北もおぼつかない入り組んだ路地裏であり、コウジジムの忍者トレーナーにとっては勝手知ったる我が町であった。奇襲され放題のコーシュー軍である。

 

 「若様、かくなる上はいったんロクショウタウンまで退くべきでございましょう。」

 

 「キナリとウスモエはすでに陥ちてござりまする。略奪した物資と浮いた戦力をカナサシ経由でロクショウへ送り、兵の腹を満たしてのち空襲と破壊で城下を粉砕すべきでござりまする。」

 

 「…キナリとウスモエが陥ちて、コーシュー地方の最強戦力たる余と余の近衛が四天王から力を借りる...そのようなことが許されようか?」

 

 「し、しかし…」

 

 「余が自ら出る。さすれば兵もポケモンも、余の意向についてこよう!」

 

 労将・功臣たちは一斉に押し黙った。

 

 確かに若き総大将のカリスマは絶大で、ポケモンなどトレーナーを無視して彼についていくし、先のロクショウタウンでの戦いでは彼に引きずられるようにしてジムへ突撃したのだ。間違ってはいない…しかし、そのような絶大な存在だからこそ、危険には晒せない。

 

 「わ、若様、お危のうございます…」

 

 「痴れ者っ!総大将たる者、自ら兵の先頭に立たずしてなんとするっ!」

 

 「し、しかし…」

 

 「見よ!

 

 西に雨雲が見えておろう!大雨でも降り川があふれようものなら、城は天然の水堀を手に入れ、我らは市街地から押し流され、6年前の二の舞ぞ!」

 

 「前回と異なり、みずポケモンをふんだんに用意してございますし、敵が水上に孤立すれば空襲の効果も増しまする!」「御再考を、殿!」

 

ー*ー

 

 「殿、敵本陣に忍び込みましたが…盛大に揉めているようにございます。」

 

 「ふむ…もう一押しじゃな。そろそろ雨じゃし…

 

 偽の伝令を立て、こう伝えよ。

 

 ああそれか、敵の伝書ムックルを捕まえ、偽の書状を…というのも…ドンカラス、やれるかの?」

 

ー*ー

 

 「伝令っ!ただいま帰りたるムックルによりますれば、敵城コウジジムに裏切り者、マルスの旗印を確認したとのこと!」

 

 「おのれマルス!逃げたかと思いきや、ここでまたもや余に逆らうかっ!

 

 余自ら叩き斬ってくれる!バンバドロ、乗せよっ!」

 

 「わ、若様!?」「おい!全軍若様を追えっ!」「若様を死なせてはならん!突撃ぃっ!」

 

ー*ー 

 

 「兵は拙速を尊ぶが、功は拙速するべきにあらず…まだガキじゃのう。」

 

 オシロイはそうほくそ笑み、ケンタロスの背に飛び乗り、そして軍配を振り下ろした。

 

 「ただ駆けよ!突撃じゃぁぁぁっ!」

 

 雨が、降り始めた。

 

ー*ー

 

 大雨が降りしきる市街に、ガレキでできた巨大な筋が引かれている。

 

 レジギガスが歩いたかのようなその筋の正体は、怒り狂った総大将とその側近たちのポケモンが市街地を粉砕した後だ。折からの大雨で空軍の援護空襲が望めない中、彼らは独力で、街を仕掛けられた罠ごと破壊しコウジジムめがけ一心不乱に突進したのである。

 

 だが、進撃は停止した。数十体がかりのはかいこうせんでも、コウジジムを守る高い石垣はなかなか崩せそうになかったのだ。

 

 「かわるがわるに『まもる』を使っておりますな…こうなればどちらが先に音を上げるか…」

 

 「この雨の中でか?我が方であろう…

 

 余がやる。どけ。

 

 マルヤクデ、出でよっ!」

 

 とぐろを巻く、巨大な焔。

 

 コーシュー軍のシンボルたる炎大百足が、大きく身体を持ち上げる。

 

 「塀と石垣をやきこが…どうした?

 

 なに?城中に兵がいないだと?」

 

 マルヤクデの身体に攻撃が加えられていないことからも明らかだ。コウジジムはすかすか…

 

 「何かの策か?それともおじけづいたか?しかしマルスがいるのなら一撃も返してこないわけが…」

 

 怒りと興奮で真っ赤だった若き総大将の顔色が、紫を経て、青く染まっていく。

 

 「よもや、余らは誘い出され…っ!?」

 

ー*ー

 

 テントごと焼け落ちる、なけなしの食糧、きずぐすりや状態異常回復薬、医療設備。

 

 ごっそり袋に詰め込まれる、数百のモンスターボール。

 

 「さすが近衛、これほどわざマシンを持ってきていようとはの。捨てるのがいささかもったいなくはあるが…」

 

 血まみれの刀を片手に握りながら、オシロイはわざマシンの山に油を振りかける。

 

 「殿、暗号表を見つけました。」

 

 「写真に撮ってジンザモに送れ。あそこの連中なら解読できるじゃろうし、できんでもメタグロスがなんとかするじゃろう。

 

 さておのおのがた、山に戻るぞ。」

 

 「殿、コウジジムに戻るのではないのですか?」

 

 「そんなことをしてみよ、コーシューの若造もろとも死んでしまうわ。」

 

ー*ー

 

 「で、伝令っ!

 

 我が本陣、オシロイ率いる軍8千に奇襲され、物資と寝床のすべてを焼失とのよし...!」

 

 「ちぃっ…!」

 

 今夜の夕食もなければ今晩の寝床もなくなった...コーシュー軍にとれる選択肢は、コウジジムをさっさと攻城してそれらを奪い取るか、かろうじてそれらがコーシュー本土から届いている占領下ロクショウタウン(跡)まで撤退するか…

 

 オシロイにいいように弄ばれている…若き総大将は、雨でびしょ濡れの肩を震わせ。

 

 「全軍石垣に取り付けっ!中に兵はおらぬぞっ!」

 

 兵士たちは、その言葉にライドポケモンをボールへ戻して、ポケモンたちへ石垣への攻撃を指示する。

 

 「若様、マルヤクデは?」

 

 「うぬ...しかし、この雨、この一刻も早い城攻めを急かすような状況…ここで余がマルヤクデを出して焼き尽くそうとするのが見抜かれておらぬわけがないからな…

 

 それよりこの音はなんだ?なにやら川のほうから…待てよ?」

 

ー*ー

 

 「オシロイ様、御推察通りのタイミングで『みらいよち』発動しましてございます。

 

 上流の堰はいずれも決壊!この雨で増えた水は、一気に…!」

 

ー*ー

 

 「退け!退けっ!」「死んでしまうぞ!」

 

 大雨が降り続く中、コーシュー軍の兵士たちはポケモンに飛び乗り、氾濫した川から逃げ出していく。

 

 「くっ、曲者!?」「隊長ーっ!」「ウォーグル!飛んで逃げ…ウォーグルっ!?」「ブリガロン!殿をお守りせよ!」

 

 曇る視界の中、城から打って出てきた敵のポケモンが、市街に潜んでいた忍者のポケモンが、泥に足を取られるコーシュー軍をさんざんにいたぶる。

 

 水位がどんどん上昇する中、川の濁流の上に、おぼろげながら何かが…

 

 【М(メガ)サメハダーGXの サイコファング!】

 

 【ドンカラスGXの アンフェアGX!】【【【【【ヤミカラスGXの ふいうち!】】】】】

 

 水上と空中から、大雨を割くようにして、牙と翼が迫る。

 

 「若様っ!」

 

 家来の1人が、バンバドロの背から総大将を突き落とす。

 

 水に落ち、泥まみれになりながら上を見上げた総大将の目に入ったものは…

 

 「若様…どうか、ご無事で…」

 

 グラリとバンバドロの背から落ちていく家来、血まみれに崩れ落ちるバンバドロ、去っていく敵ポケモン…

 

 「すべて、余の不足だ…」

 

 この日、コーシュー軍近衛方面軍は、ほぼすべての物資と多くの鍛え上げられた兵・ポケモンを、雨中の霧と失った。

 

ー*ー

 

 湖と化したコウジタウン盆地。その上に浮かぶコウジジムは、まさに水城である。

 

 コーシュー軍は必死に、この湖の水抜きのため水路を掘っている…ただ、それが完了したとてコウジタウンは泥だらけとなりすぐに大軍が布陣できるはずもなく、その上コウジジムの中身もほとんど空っぽで攻略の意味はない。

 

 「…北シンシューの戦況はどうなっている?」

 

 「シラアイ・ウコンを完全に占領したユキコシ軍は、南下を続け、ジンザモとフジナドの管区の村々を次々支配下に収めつつ、両市の市街をうかがっています。」

 

 「大国ユキコシだからな…圧力を掛けられ続けるだけで、ジンザモもフジナドも苦しかろう…しかし第一の都市と第二の都市をユキコシに奪われては、なんのためのシンシュー侵略かわからぬ。」

 

 出遅れるわけにはいかないーだから彼は、自らの手勢を率いて、ジンザモシティへ向かう道中のロクショウ・コウジを攻めてきたわけだが…

 

 「コウジタウンが乾くのは待っておれぬな。おまけに討ち取るべき相手もおらぬかもしれん。」

 

 不幸中の幸いと言うべきか、急速にコウジタウンは水没したため、本陣を奇襲したオシロイの軍勢がすべて帰城できたとは考えづらかった。

 

 「それは若様、コウジジムの攻城をスキップし、一足跳びにジンザモへ攻め上がる、ということにござりまするか?」

 

 「マルスが逃げた先はおそらくジンザモ、いずれせねばならぬユキコシとの決戦の地もおそらくジンザモ、シンシュー地方最大の都市もジンザモ...幸いコウジジムはほぼ空っぽ、余らが脇を抜けたとて、我が方にちょっかいは出せまい。」

 

 「しかしフジナド方面の攻略は終わっておりませぬし間に合いませぬ。」

 

 「これではユキコシと決戦しても、我が軍はフジナド側に戦力を割いておりますから、決戦戦力が足りず…」

 

 「逆だ痴れ者。

 

 フジナドに兵を割いておるのはユキコシ側も同じ。ゆえに…余はフジナドシティも後回しにし、全軍をジンザモへ集める。」

 

 「そ、それは...」

 

 「ユキコシの連中など平和ボケしておる。無理に軍を起こしたフロックス家の姉妹さえ討てば、全軍が瓦解しよう。

 

 そなたらはロクショウに戻り、軍を再編成せよ。余は急ぎカナサシへ飛び、四天王を引っ張って来る。」




 6月8日夜、コウジジム・コウジタウン、全機能喪失。

 ロクショウタウンを破壊し尽くしたコーシュー軍近衛方面軍だったが、謀将オシロイの籠るコウジジムに対しては手こずると見られていた。

 しかしこの第二次シンシュー戦争の根底に流れる決戦指向をオシロイも抱いており、城下の罠に苛立ち無理攻めにかかったコーシュー軍の後方を奇襲、その物資のすべてを焼失させる。さらに川の上流に作っていた堰を破壊、たまっていた水によってコウジタウンを水没させ、敵兵を退けた。

 コウジタウンの水没はあまりに早く、オシロイ自身もジムに戻れなかったことから、コウジジムはわずかな留守兵を残したもぬけの殻と化し、以後はコーシュー軍にも攻略をスキップされることとなる。

 こうして、コーシュー軍は侵攻開始から9日にしてジンザモシティまでの街道を確保した…ただしロクショウとコウジで失った兵・ポケモン・物資はあまりに多く、ライバルのユキコシ軍もジンザモとフジナドの攻略を進めていたため、決戦を急ぐコーシュー軍はフジナドシティの攻略を中止し全軍をジンザモ攻略へ振り分けることとなる。
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