アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
一方そのころ、北シンシューへ進駐したユキコシ地方シンシュー介入軍は、
ことは6月5日の夜に遡る。
「ジンザモの調略に失敗した、ですって?」
アオバ・フロックスは、思わず聞き返した。
フジナドシティの調略を、ユキコシ地方シンシュー介入軍司令部はもとより諦めていた。フジナドの意思決定で大きな役割を果たすのはフジナド大学学生自治会…金で丸め込める相手ではないし若者の情熱は堅いものがある。だからユキコシ地方とフロックス・グループとしては、経済都市ジンザモに調略工作を集中させていたのだが…
「アリア・カナサシとアリア・コトホギ、演説と歌にて議会をまとめ、クーデターも退けたようで…」
(…転生者、さすがだな…/いよいよ英雄として覚醒しつつありますわね…)
「方針を変更しようかしら。フジナド方面からホープ団の3万を抽出、ジンザモ方面の攻略に充てますわよ。」
「しかしアオバ嬢、それではフジナドシティの攻略はおろか、攻囲に取り掛かるのすら遅れる懸念が…」
「村々への着実な支配の確立。例え遅滞しても停滞はしないはずですわ。それに、コーシュー軍やシンシュー勢力との決戦ですべてが決まるとなればその方面はジンザモ…その時になって戦力が足りませんでは話にならないのではなくって?」
かくて、フジナドシティ攻略のために周辺集落を次々と併合して回っていたユキコシ軍だったが、サンゴジュ・コンジキ・ウスベニ・グンジョウおみやから派遣されたジムトレーナー等1万人を残して転戦、ジンザモシティ攻略へ向かったのだった。
ー*ー
そうして、6月11日。
エクリプスタウンにて模造伝説ポケモン2体がコーシューの若き総大将と戦っているころ、フジナドシティを巡る戦いはついに大詰めとなりそうであった。
フジナド大学学生自治会5千人、市民有志1万人、ワスレナタウンからの援軍1千人。このほかに雑多な勢力を含め総勢2万人…ポケモンの数で10万に達する軍勢が、フジナド郷土防衛隊として籠もっている。
対するはユキコシ地方シンシュー介入軍、おみやジムトレーナー部隊1万人。ポケモンの数では6万…しかし、彼らはいずれも厳しいユキコシで鍛えられたトレーナーであり、兵站輸送情報すべてを世界的大財閥フロックスが後援している。当然、フジナド周辺の有象無象の集落・村々は続々と陥落していた。
行き着く先は、ユキコシ軍によるフジナドシティ包囲…フジナド側としては戦力を分散して村々を奪還するわけにはいかなかったし包囲を突破することも試みようとはしなかった…戦力を二分すれば数的有利すらなくなり、数が少ない方から各個撃破されることがわかっていたからだ。
とはいえ、もし、フジナドシティが完全に包囲され籠城戦に追い込まれていれば、この二十万都市は総力を以て包囲網を粉砕しただろう。ユキコシ側はそれでは困るため、ワスレナタウンへ続く南方の街道を1つ放置していた。
「むしろ、私たちが、街道を放置すると考えた上で、戦略的に村々を放棄していたフシがある、よね…」
サンゴジュおみやだいぐうじ、チューリップ。相変わらずおどおどしながら、この場の前線総司令官を務める少女はテーブルを草原の上へ置く。
椅子を2つ、テーブルに向かい合わせに置くのは、ウスベニおみやぐうじ、イチシノ。
「学生だからと甘く見ていたんだよ。だけど、優秀な教授陣が率いているからか、面子や郷土愛や若さだけではなくきちんとした戦略眼を持ってるんだよ。そして同時に…」
ドカッと、テーブルに書類を平積みにし、この場にいる3人目のジムリーダークラス…グンジョウおみやぐうじ、トチュウが続きを述べる。
「責任感がある。街道1つ以外をすべて包囲されてなお街を守り続けようとする責任、そうでありながら兵はおろかポケモンですらまったく戦死させていない命への責任…街を率いる集団としての責任を持っている。社員だったらありがたいが、敵対者としては一番手ごわい類だ。
だからこそ交渉をするわけだが…大丈夫かチューリップだいぐうじ?アンタ人見知りだろ。」
チューリップ、無言でびくびく首を横に振る。
「…私がやるんだよ。トチュウぐうじ、オーラピラーのほうは?」
すぐ脇の地面に突き立てられた金属柱に、イチシノは目をやる。オーラピラーは、オカルトじみた代物であり、そしてゴーストタイプを司るこのぐうじにとっても理解できないオカルトでもあった。
「オーラピラー、定格出力で公試運転中だ。BREAKワザはいつでも強化状態で使えるぞ。」
「うん、だったら、大丈夫だよ…なんとかなると、思っていたけど…余裕になった。」
ー*ー
チューリップ、イチシノ、トチュウの3人が設置した机の、こちらにこの3人のぐうじ…そして向かい側の席に着くのは、3人の若者。着席と同時に角帽を置きアカデミックガウンを脱ぐ彼らは、フジナド大学学生自治会からの代表団である。
遠巻きに護衛のトレーナーが見守る中、お互いに1体ずつだけ背後にポケモンを控え、草原に緊張感が漂う。
イチシノは、第一声から強気だった。
「ユキコシ地方シンシュー介入軍フジナド方面隊は、フジナドジムに、フジナドシティの開城を要求するんだよ。」
そしてまた、学生たちの代表も、強気だった。
「我々は断固として開城を拒否し、ユキコシ地方の侵略的企図を粉砕するものです。」
「…それで本当にいいのかなんだよ?」
「いいのか?はこちらのセリフですよ。…学生自治会だけで5千、それ以外に1万5千…それなら戦術や小細工でなんとかなると思われているのかもしれませんが、我々フジナド大学そしてフジナド市民の結束は完璧。その気になれば20万人、ポケモン50万体が一致団結して立ち向かいますよ。」
「へえ…
20万人、50万体…それが、私たちユキコシの『最強』に、かなうのかだよ。」
「…『最強』?」
イチシノはそこで、黙って横に座っている少女…なんなら交渉の雰囲気にびくびくしている少女に目配せを送る。
「…そこの、彼女が?」
「私の、一番の価値は、やっぱり、バトルが強い、ことだから…
…私に、立ち向かって…そして、思い知って。私たちユキコシに勝てないことを。」
【サンゴジュおみやだいぐうじの チューリップが しょうぶをしかけてきた!】
「全員いっしょに、かかってきて。
おいで、ユキノオー。」
3人の学生が、おそるおそる椅子から立ち上がり、背後に目配せする。
「エンブオー、いきますよ!」「ダイケンキ、ゴー!」「ジャローダ、かかれっ!」
【エンブオーGXの ブラストバーン!】
地面が燃え上がり、ユキノオーめがけ爆裂が連鎖する。
【ダイケンキGXの シェルブレード!】
大きく跳び上がった勢いをそのまま、ユキノオーへと貝剣が振り下ろされる。
【ジャローダGXの リーフストーム!】
緑の暴風が、ユキノオーを全方位から襲う。
爆炎。ダイケンキGXが斬り抜けた直後、ユキノオーはリーフストームの粉塵爆発によって炎に包まれた。
「やったか!?」「いやまて…」「まさかっ!」
炎がみるみるうちに弱くなる。虹色の輝きが炎の奥に光り、そしてあたりに雪が降り始める。
【ユキノオーは メガユキノオーに メガシンカしている…!】
「今日が『晴れ』てて、良かったよ。…もう、『ゆき』だけど…
それともう一つ。ポケモンバトルは、始める前も大事だよ。始める前からポケモンを控えさせておけるなら、なおさら。」
晴れ天候を使って「せいちょう」でパワーアップしてから、メガシンカによる特性変更で雪を降らせるテクニック「スノー晴レーション」…その要となる雪下必中ワザこそ。
「ユキノオー、ふぶき!」
【メガユキノオーの ふぶき!】
「エンブオーこらえなさい!」「ダイケンキ、バリア!」「ジャローダ、もぐれっ!」
エンブオーGXが宙を舞い、ダイケンキGXが地面にめり込み、ジャローダGXが潜った穴は瞬く間に雪に覆われる。
「しのげた…って思っているなら違うけど。でも、長々とふぶかせ続けるのも、冗長だよね。
終わらせよっか。」
チューリップは囁くようにそう言って、正二十面体の結晶…ユキコシ地方ならではの「強さの概念の結晶体」たる「BREAKオーラ結晶」を取り出した。
結晶が金色に光り、同時に、フジナド周辺の村々にさされたオーラピラーから金色のビームが空へと照射され…そして呼応するように、金色の粒子が、空気中から、地面から、草木から、空に流れる雲から、湧き出し、空間を満たしていく。
「なっ…これは…」「話に聞く…BREAKオーラの反転暴走状態…!?」「は、離れて…!」
「暴走じゃ、ないよ。
このオーラを構成する概念は、『強さ』なんて、漠然としたものじゃ、ない。私たちは、ユキコシ2000年の歴史、それそのものの強さを背負ってる!」
BREAKオーラと名付けられる概念力場、特別に調整されたそれがもたらすのはだから、
「ユキノオー、BREAKワザっ!」
【メガユキノオーの…】
澄み渡っていた空が、あっという間に白く塗りつぶされ。視界のすべてが、冷たい霧に包まれ。
【ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズイデアリー!】
…そして、平原は凍り付いた。
氷像と化したエンブオー、ダイケンキ、ジャローダが、グラリと倒れる。
「私に勝てる自信、まだ、あるって言える?言えるようになったら、またおいで。」
「…必ず、あなたを倒し、包囲網を破ってみせます。」
ー*ー
6月12日の夜。
学生たちが再挑戦を約束し帰って行った後、サンゴジュおみやだいぐうじチューリップは秘密回線でユキコシ本土と電話している。
「…そういうわけで、いささか、奇妙な状況になったよ…アオバちゃん。」
チューリップ1人を倒せない状況で、フジナドシティは迂闊に動けない…ゆえに、しばらくはフジナドシティの攻囲突破はチューリップへの挑戦によってなされるだろう。
「…ジンザモの開城の目処がなくなったのに、フジナドで地上軍事衝突なんてしたら、シンシューの反ユキコシ感情は決定的になってしまいますわ。
ええ、それが最上ですわ。シンシューの未来はジンザモでの対コーシュー決戦で決まるのですから…ですからフジナド戦線など如何様でも良くってよ。
…もっとも、チューリップさんが負けてしまえば…攻略法を知り、士気も上がった学生と市民たちは介入軍に襲いかかってきますわね。」
「負けないよ、絶対に。」
「信じていますわ、チューリップさん。」
ー*ー
「コンジキおみやぐうじ、カクミガシ博士ですね。」
「フジナドジムジムリーダー、レンゲ教授であっているかい?」
老教授と女博士は、フジナドシティ郊外の河川敷の橋の下、誰にも見つかりえない藪の中で向かい合っていた。
ミミッキュとユキコシアブソルが引き裂いた草切れのサークルの中央、2人はまるで往年の友人かのような笑みを浮かべている。
「…かつてある人物は、戦争とは1つの芸術だ…と言ったそうです。私の芸術、どうでしょうか?」
「我がコンジキ大学に招聘したいほどだね。20万人の指導教官と呼ぶことにしよう。
もっとも
私たちは共に、お互いの思考の裏を読みながら軍勢の意思決定への示唆を与え続け…そして、この
「音楽と同様、戦争も指揮者が大事ですからね。指揮棒を握る人間として、才覚の限りを振るうだけですよ。コンサートでも、戦場でも。
しかし1つ、わからないことがあります。」
「いいだろう。君は生徒…ではないな。いくらでも素人質問をしたまえ。」
敵地なのに尊大すぎないかこの女博士…?とレンゲは首をひねり、ミミッキュは今にも飛びかかりそうなそぶりをする。
「…では、私は軍事学の研究者ではないので、素人質問ですみませんが…
私がこのまやかし戦争を演出してきた理由は、市民、そして学生たちが無駄に命を失わないようにです。フジナド戦線など、決戦で大勢が決まるこの第二次シンシュー戦争の趨勢から見れば楽譜の落書きですから。
…ですが貴方は?自分の学生でもない、義勇兵とはいえコンジキ以外の市民もいる、それどころか因縁深いホープ団もいる。…もったいなくない命などいくらでもありますでしょう?」
「いいや、まったく?なにせ、ホープ団どころか市民義勇兵もいないものでね。」
「…は?」
レンゲ教授ははじめて、慇懃無礼の籠もったポーカーフェイスを崩し、呆気にとられた顔をした。
「キミが言ったんだろう?フジナド戦線などアーボの足…って。
まやかし戦争の維持などチューリップくん1人で充分だよ。あとはカカシでも置いておけばいいからね。」
フジナドシティを包囲しているはずのユキコシ軍、その実体はがらんどう…老教授はふむふむと頷き…そしてニヤリと笑いながら顔を上げた。
「ほう…それは面白いですね。
このレンゲに勝利できるのなら、黙っていて差し上げましょう。」
「勝ち続ける限り、キミを黙らせ続けられる、と。…こんなに愉快な実験もないね。さあボールを出したまえ。」
【コンジキおみやぐうじの カクミガシ博士が しょうぶをしかけてきた…!】
「さて、第1楽章と参りましょう…ラウドボーン、オーバーラップっ!」
「さあ、実験初回としようか…アブソル、メガシンカっ!」
6月12日、フジナドシティ攻囲開始。
開戦初日にシラアイタウンに進駐したユキコシ軍は、4おみやのジムトレーナーとホープ団の軍勢を以て南下、フジナドシティ周囲の集落を着実に支配していき、12日にはついに街道1つを残しフジナドシティを包囲した。これに対し、フジナドシティ郷土防衛隊の主力であるフジナド大学学生自治会は無駄な消耗を避けて市街と街道の防御に注力。しかし12日にはとうとう両軍の衝突は確実と見られていた。
12日、降伏勧告を行ったユキコシ軍幹部に対し、学生たちがポケモンバトルを挑み、市街戦を避けたいフジナドの学生たちとフジナド市民の心を折りたいユキコシのぐうじたちの利害が一致。フジナド郊外にてジム戦さながらの光景が繰り広げられることになる。
戦時中には似つかわしくないこの状況は、「