アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
コーシュー地方とユキコシ地方による南北からのシンシュー同時侵攻に対し、開戦5日目にジンザモシティで行われた結束「ジンザモ一和」ののちに発足した組織。
それまでシンシュー地方は「高度に分権的」であり、8年前まで10人の豪族がシンシューを10の勢力圏に分け合っていた体制を5年前の第一次シンシュー戦争講和で引き継いでいた。すなわち、10人のジムリーダーがシンシューの10の管区を分割統治しており、シンシュー全体を横断する体制が存在せず、ポケモンリーグですら10のジムの設置で終わり四天王もチャンピオンも定まっておらず、それどころか住民のほとんどに「自分はジム・都市の傘下である」意識はあっても「自分がシンシュー地方に帰属している」意識すら希薄なありさまであった。
ジンザモ一和で、郷土シンシューを唄う「シンシューの国」を全住民が歌ったことにより、シンシュー地方としてのナショナリズムが開花。まもなく、「10都市の連合から1つのシンシュー地方へと一致結束し、侵略から郷土シンシューを防衛するとともに、戦後に統合シンシューを作り出す」ための組織が必要となり、8人のジムリーダーと数十人の代表・識者からなる暫定政権POINSAが発足した。
POINSAシンシュー史初の統一政権であり、同時に戦時政権でもある。委員長はアリア・コトホギ、副委員長はアリア・カナサシ。下部組織には、戦後のポケモントレーナー統括組織でありポケモンジム・リーグのありかたを模索する「統合シンシューリーグ準備会(
コーシュー地方を独裁する軍事政権「コーシュー大本営(大本陣とも)」、ユキコシ地方からの侵攻を指揮する「ユキコシ地方シンシュー介入軍総司令部」及び後援者のフロックス家・7おみや連合に対し、POINSAはシンシュー地方の指導組織として第二次シンシュー戦争3番目のプレイヤーとなった。
ー*ー
6月15日早朝。
シンシュー地方は朝が寒く、広大なジンザモ盆地はしばしば霧に包まれる…そして霧が晴れ渡った時、ジンザモの南、川を越えた先には、数えきれないほどのポケモンと人が群れていた。
「あれが、コーシュー軍…先の大戦よりも強そうね…」
ジンザモシティを囲む土塁の上で、アリア・カナサシは双眼鏡片手に険しい表情をする。
「
護衛の市民兵がおそるおそる尋ねた。
「偉大な先代を持つ者は、それを超えようとするかどうか、超えようとして超えられるかどうか…それによって行く先が決まると言うわ。コーシューはどうなのか…
…1人のリーダーに命運を委ねたりしない民意の街には、くだらない話かもね。」
市民兵はぶんぶん首を横に振った。
「朝靄は晴れた、向こうの隊列は整っている…まもなく攻め寄せてくるわ。
渡河地点、塹壕線、そして街の土塁壁の3重ラインが生命線になる。任せたわよ。」
「「「「「はっ…!」」」」」
市民たちの敬礼を後に、アリア・カナサシは土塁の下へ飛び降りた。
「歌姫様!?」
「まずは一当てしてくるわ。護衛はここで待機。
さて…
畏くも貴き
柏手…そして、乱気流が吹き荒れ、りゅうせいぐんが到来する。
【シンシュー地方は
神の言葉で紡がれる祝詞が、アリア・カナサシの口から漏れる…
ー*ー
ジンザモの南の空に龍神が降臨したのと、同じ時刻。
ジンザモシティの北の土塁の外側に、ユキコシ地方シンシュー介入軍が布陣している。
100人ずつほどに分かれ整然と並ぶ人々、その周りで広々と英気を養うポケモンたち。それが数百も、まるで地平線の向こうまで埋め尽くすようだ。
「…アレが、世界有数の自治都市、ジンザモシティ…ですわね。」
介入軍総司令官たるアオバ・フロックスは、左手を目の上に当てて6月の陽射しを防ぎながら、右手でイーブイを膝に乗せる。
「お姉ちゃん、コーシュー軍へ歌姫が殴り込んだみたい。」
「…これで決戦にもつれ込む…なんてことにはならないかしらね/小手先だろうな。代替わりしたコーシュー軍を計りたいんだろ。」
「…レックウザを出したんだからそうだと思う。神様に全ベットするにはまだ早いし…」
「とはいえここで、レックウザでどうにもできそうにないくらいコーシュー軍が強固…って結論になれば/ジンザモシティは動けなくなり籠城、そしてコーシュー軍とわたくしたちユキコシ軍がジンザモを獲り合う…という展開になりますわね。
カグヤ、全軍に伝達。対コーシュー軍の決戦に備え、準備と警戒を更に厳に!」
ー*ー
【
ジンザモ南方の空、白き龍神がコーシュー軍10万の本陣めがけ巨槍と化す。
【カイリューGX(呪歌)の ばかぢから!】
【
【
3人の四天王がエースポケモンを繰り出し…それでも龍神は止まらない…どころか、カイリューGXは突き飛ばされて地面にめり込み、残り2体の攻撃も粉砕され、本陣からわずかにそれたあたりにクレーターが刻まれる。
粉塵を振り払い身を起こし、とぐろを巻く龍神。つかの間沈黙し、それから恐慌に陥るコーシュー軍本陣。
「若様!ここはひとまず退避を!」
「某が盾となりまする!」
ギルガルド、トリデプス、ツボツボ、ハピナス…防御型のポケモンが一斉に並び、「まもる」「リフレクター」を使う。
【
…多重に重ねられた障壁は粉砕され、ポケモンたちは毬玉のごとく宙を舞う。
邪魔者を吹き飛ばし、今度こそ敵の総大将を攻撃しようとして、龍神は相手を見つめた。
果たして彼は…動ずることなく泰然と立っていた。
「余が、怖気づくと思うてか?
マルヤクデ…オーバーラップっ!」
焔の大百足が、全身の温度を赤から白に上昇させ、熱光を四方へ照射しながら巨大化していく。
「オーバーヒート!」
白熱。電子レンジどころではない強烈な熱線が、幾筋ものビームとなって大気中を奔り、龍神の下半身へ集束する。
対する龍神は、文字通り尻に火が付きかけているのを気にもとめず、再びの突進を試みる。
【
「捕らえて焼き尽くせっ!」
【キョダイマルヤクデGX(呪歌)の キョダイヒャッカ!】
衝撃波を伴い躊躇なく大地へ突進する龍神を、白熱する焔大百足が長大な身体で受け止め、絡め取る。
粉塵、猛爆。衝撃で飛散した土砂が、放射される熱光によって溶解し、あたかも火山の噴火の様相を呈する。
揺らぐ陽炎の中、2体のもつれ合う姿が、遠巻きに見守る人々とポケモンたちには見えていた。
アリア・カナサシが、ふいに祝詞を止める。
「潮時よ龍神様っ!」
「逃がすなマルヤクデっ!」
戦場の両側で、同時に掲げられるGXマーカー。
「龍神様よ、天空神の猛威をここに…テンペストGX!」
「余らコーシューの力を見せる時ぞ!マルヤクデ、GXワザだ!」
【
【キョダイマルヤクデGXの フウリンカザンGX!】
龍神の吐息とともに、にわかにして巻き上がる竜巻。それを突き破り、ゴウゴウと響き渡りながらそびえ立つ、煉獄の業焔。
地面がドロドロと溶けて、竜巻もろとも業焔が沈み込んでいく。その中から、天を裂くような啼声…そして、全身を真っ赤に染めあちこちから煙を引きながら、白き龍神が宇宙へと逃げていった。
陽炎揺らめく高熱の平原で、焔大百足が勝利の雄たけびを上げ、牙をガチガチ鳴らす。
カナサシの龍神レックウザを、敬愛する主人の相棒が追い払った…その事実は、呆然と遠巻きに見守るコーシュー軍の人々、ポケモンたちの脳へ徐々に浸透し…
…ジンザモ南方に、大歓声が上がった。
「よし!勢いに乗じて、第一から第三の方面軍、攻め寄せよ!」
ー*ー
「完っ全に、包囲されたわね。しかもいっちばん厄介なふうに。」
ジンザモシティの中心街、本来は金融業務を行うためのモニタールームでは、ジンザモそしてシンシュー各地の戦況が映し出されている。その部屋を見渡せる席で、アリア・カナサシは状況をそうまとめた。
ジンザモシティの北側にはユキコシ軍が、南側にはコーシュー軍が布陣している。両者は1kmほどの間隔を開けてはいるがその間を通過すれば集中砲火されること請け合いだ。
空はと言えば、北の空にも南の空にも無数のひこうポケモンが群れ、ジンザモ側に制空権を取り戻す目処などない。
シンシューの他の都市はと言えば、フジナドシティ・ワスレナタウンを除く7都市が陥落ーコウジジムはまだ水上で持ちこたえてはいるがーし、フジナドはユキコシ軍の包囲下でジムバトルまがいのまやかし戦争中、ワスレナは遠すぎる上にジンザモまでの道中をコーシュー軍に占領されている。陥落した都市の抵抗勢力は山中などにまぎれ各所でゲリラ戦を続けているが、これも引き抜ける戦力ではない…要するに外からの救援は望めない。
「後詰めのない籠城なんて、本来なら成功しない…か…」
ユキコシ軍とコーシュー軍が潰し合えば都合がいい…が、両者は睨み合いながらも衝突には至っていない。
「なんで潰し合いがないか、わかる?」
「物資が不足するコーシュー軍はこの街の資材を奪っての決戦を、戦力が不安なユキコシ軍は決戦前のこの街によるコーシュー軍の損耗を、期待しているのでしょう。」
「そう。」
おかげでジンザモシティは、互いに敵対する両軍から同時に包囲されている…
「歌姫様!渡河地点C、渡河地点D、ともに破られました!コーシュー軍、川を渡り塹壕線へ接敵します!」
デスクを指先で叩き、立ち上がる。
「今出せる予備戦力は!?」
「商店街の義勇隊と、コンビナートの防衛隊、ジムトレーナー隊第5班が出られます!」
「それらはただちに塹壕線の応援に出撃!私も行くわ!」
ー*ー
ジンザモシティは現在、街を囲む小高い土塁と、その外側を囲む塹壕で守られている。さらにコーシュー軍が相対する南側には川が流れ、コーシュー軍を阻んでいた…が、川の狭隘な部分は今や人とポケモンの血で赤く染まり、その中をコーシューの兵士がライドポケモンに乗り駆け抜けていた。のみならず、やどりぎのタネやハードプラントを用いた仮の橋まで作られようとしている。
川を越えれば、塹壕線までは百メートルほど…けれどそのたった百メートルこそジンザモシティ防衛の要であった。なにしろこの百メートルは平原、もっと言えば川が増水してできる氾濫原にまばらに草が生えた半湿地なのだ。
泥に足を取られる、ケンタロスやムーランド、オドシシ。ドロバンコに乗ったトレーナーだけは泥濘を走破していく。…と、前方の塹壕から、ポケモンの首だけがにょっと現れる。
【パンプジンの やどりぎのタネ!】
泥濘に足を縛り付けられるドロバンコ。その背から兵士が飛び降り、やどりぎを斬り裂かせようとコマタナを繰り出す。
塹壕から頭を見せるポケモンが、パンプジンから入れ替わる。
【エンニュートの かえんほうしゃ!】
コマタナは一撃で倒され、鎧に火がついた兵士がのたうち回る。その脇を、戦友に目もくれず、兵士を乗せた装甲サイホーンが駆けていく。
「奴らを止めろ!ゴウカザルっ!」
塹壕から、ゴウカザルの手だけが覗く。
【ゴウカザルの きあいだま!】
横転するサイホーンたち。泥濘に転がり落ちる兵士たち。そこへ、塹壕を飛び出したゴウカザルが殴りかかり。
【ラグラージの みずのはどう!】
兵士の手のボールから飛び出したラグラージは、ゴウカザルを返り討ちするや、泥濘をものともせずに跳び上がり、そして塹壕へと身体を落下させ。
【チェリ厶の ソーラービーム!】
塹壕の向こう、土塁から放たれた光線が、塹壕に迫るラグラージを吹き飛ばした。だが、ラグラージの背中から何かが飛び降りる。同時に、地脈から力が噴き出し、世界の可能性が重複する。
【キリキザンGXの きりさく!】
塹壕に、血飛沫が舞った。
ー*ー
ー「ゼータ2、プサイ3塹壕、既に失陥!その他にもいくつかの塹壕が突入を受け、戦闘状態にあります!」
インカムからの声を聞き、アリア・カナサシは周りのトレーナーたちに指示を出す。
「商店街隊はこのまま土塁の上の部隊に加勢!襲来する敵を塹壕とともに迎え撃つ!
コンビナート隊は突入を受けた塹壕へ加勢、侵入した敵を撃滅!ジムトレーナー隊は塹壕への新たな侵入を阻止!」
「う、歌姫様は!?」
「失陥した塹壕を潰す!敵ごと!」
ー*ー
レックウザは出せない。それがアリア・カナサシの結論である。レックウザに対処できるのが敵の総大将ひとりであるがゆえに、彼はレックウザに備えて出てこない…裏を返せば、レックウザを出せばあの若き総大将とマルヤクデが突っ込んできて、ジンザモの防衛線は焼き払われてしまうであろう。
「アマルルガっ、オーバーラップ!」
ボールを投げながら、敵に占拠された塹壕へひた走るアリア・カナサシ。
単身での突撃にたまげた敵方から、かえんほうしゃやあくのはどうが浴びせかけられる…が、アマルルガGXが先制でつららばりを使い、空中へ出現させた氷柱によって攻撃を弾く。
「いわなだれっ!それからサーナイト、サイコキネシス!」
【アマルルガGXの いわなだれ!】
【サーナイトGXの サイコキネシス!】
無数の岩塊が出現し、そして自由自在に宙を動く。敵から放たれるスピードスター、はどうだん、リーフストーム等々を防ぎながら砕けていくが、砕けるそばから岩塊が補充される。
「突入するわよ、メロエッタ!」
ボールを再び投げ、同時にインカムのスイッチを入れる。そしてアリア・カナサシの口から祝詞が、メロエッタGXの口からいにしえのうたが紡がれる。
【メロエッタGX(祝歌)の ハイパーボイス!】
狭い塹壕に、その音はとても良く反響した。
ー*ー
「首尾は?」
敵に占拠された塹壕2つを殲滅し、土塁まで戻ってきたアリア・カナサシ。しかしそこにいる市民兵たちは浮かない顔であった。
【ドータクンGXの ラスターカノン!】
どこからともなく、土塁へとコーシュー軍の攻撃が飛来する。
【ワタシラガGXの コットンガード!】
防御の成功に、しかしアリア・カナサシは冷や汗をかいている…土塁まで敵の攻撃が届くということは、土塁の外側の塹壕が破られているということだからだ。
「はっ…歌姫様が塹壕2つを破壊している間に、新たに5つの塹壕が陥落、塹壕線の一番内側へ入りこまれたため、包囲攻撃を避けるべく周囲の塹壕も放棄を検討しています。」
一歩進む間に二歩下がっているがごとし…臍を噛む。
「…私の歌声は届いていたわよね?インカムから流してそのままスピーカーで響き渡らせる手はずだったと思うけど。」
「でんじは攻撃を受け、電波障害を起こされました。」
舌打ち。
「塹壕の放棄はならないわ。土塁を丸裸にはできない。
失陥塹壕の奪還は可能?」
「不可能ではないかもしれませんが、維持する戦力が僅少になり…」
「そうよね。
今から破壊してくるわ。あなたたちは、塹壕の空白を抜かれないようにキリングゾーンの構築をお願い。
行くわよキュウコン!」
ー*ー
アリア・カナサシは、ポケモン6体を引き連れて旋風のように戦場を駆けている。この英雄は基本的に捕虜を捕らないので、歌声とともに攻撃が始まるやいなやわずかな攻防とともに大地が血に染まるありさまであった。
訓練された兵士ではないから、死屍累々を目の当たりにして土塁の上に吐く市民もいる。しかしそれでも彼らは、務めを投げ出すことなどないーコーシュー軍の残虐さはジェノサイドの域に達しているから、途切れた塹壕線の隙間から敵が土塁に到達すれば、血と肉片にされるのは自分と自分のポケモンたちなのはわかりきっていた。
小高い土塁の上、重ねられる「まもる」「リフレクター」の障壁。その隙間から、ありったけのポケモンにかわりばんこに攻撃をさせる。
土塁からの攻撃が向かう先、破壊され埋まりかけた塹壕の上を、コーシュー軍のトリデプスやハピナスのような大型・防御型のポケモンが前進してくるー当然こちらも障壁を張っていた。キリングゾーンと呼ばれるだけあり、ありとあらゆる遠距離ワザが殺到し…それらをなんとかいなしながら、盾ポケモンたちが地面を踏みしめる。その後ろには、キレイハナ、イオルブ、モルペコといった小さいながらも侮れない攻撃力のポケモンが隠れていた。
コーシュー軍が攻撃を防ぎきって土塁に到達、破壊するのが早いか、土塁からの攻撃がコーシュー軍を力尽きさせるのが早いか、それとも…
神経をジリジリとすり減らすような攻防は、しかし十数分で終わりを告げる。いよいよ土塁まで数メートルに達したトリデプスを、背後からフェアリーエネルギーの矢が襲ったからだ。
【
正面には「まもる」「リフレクター」を張っていても背後には手薄だったし、何よりその矢は脆弱な部分へ集中的に突き刺さった…トリデプスのうち1体が戦闘不能に陥るやいなや、体勢を立て直させる余裕を与えず、メロエッタGXが殴り込み、残り4体がハイパーボイスを浴びせかける。
「歌姫様、ありがとうございます!」
土塁の上からの声に、アリア・カナサシが返す。
「ここだけじゃないわ!あちこちで危なくなってる!だからあなたたちがここを支えて!また危なくなったら呼んで!」
巨体すぎるアマルルガGXをボールに戻し、英雄歌姫は攻防のあわいを駆け抜けていった。
ー*ー
「ジンザモシティ奮戦す 籠城戦は2日目に突入
統合シンシュー地方体制準備協議会(
カナサシ氏は、昨日より始まったジンザモシティ籠城戦について、『ユキコシ軍とは睨み合いが続く一方、コーシュー軍の侵攻により南部塹壕線の3割が失われ、防衛線の再編と土塁の強化によってコーシュー軍を押し留めている』と発表し、またフジナド戦線については『フジナドシティはユキコシ軍による包囲を破る目処が立たず、敵最高戦力であるチューリップ氏の攻略法を模索している』と発表した。また本紙記者の『率直に、ジンザモはいつまで持ちこたえられるのか?』という質問に対し、『いつまででも持ちこたえられるし、私たちにはそうなるよう街を凌辱から護る義務がある。』と応えた。
(シンシュー中央新聞、6月16日朝刊)」
「シンシュー政情を憂う一人のヲタとして(16日朝)
この戦争は驚かされることばかりだ。コーシュー軍の凄まじい電撃侵攻、ユキコシ地方の突然のシンシュー2都市進駐・北シンシュー侵攻、そして5日の統合シンシュー体制いわゆるPOINSAの結成。それだけでも驚いたが、ほとんど瓦解寸前だったシンシューの戦力は、やはりそして予想よりずっと強大なコーシュー軍も、当たり前に着実なユキコシ軍も押し止められなかった…けれどその過程ですら、コウジジムの大戦果、エクリプスタウンの消失、フジナドのファニー・ウォーなど驚きに値することばかりだ。
そして最大のものが、昨日からのジンザモ籠城戦だ。
ミリヲタの多くが、コーシュー軍もユキコシ軍も、ジンザモ郊外の平原で決戦に至ると考えていた。しかし実際には、南側のコーシュー軍はユキコシ軍との決戦を避けジンザモ攻城を行い、ユキコシ軍は決戦も攻城もせず北側で傍観している。
物資をコウジタウンで大幅に失い、略奪を必要とするコーシュー軍。戦力に不安があり敵の損耗を望むユキコシ軍。利害の一致から決戦が後回しとなっているのだろうが、この状況が続くとは思えない。コーシュー軍は長期戦が不可能で、ユキコシ軍も国際的非難から早期決着を望んでいるし、ジンザモは1週間保たないだろう。
些細な衝突から決戦に至るか、ジンザモ陥落またはその寸前にユキコシ軍がコーシュー軍に殴り込むかたちで決戦に至るのか…いずれにせよ、シンシューの戦乱が大詰めを迎えようとしている。
(呟き型SNSにて匿名の投稿、6月16日10時14分)」
「第二次シンシュー戦争の死傷者、少なくとも10万人規模か ポケモンは7桁
我々は、シンシュー地方にて惹起した戦争に於ける、現時点までの損害について、各種メディア、現地協力者、インターネット上の情報を元にとりまとめた。それによれば、コーシュー地方によるシンシュー地方への損害は死傷者あわせて10万人以上、ポケモンは飼われているものだけで70万に上る。さらにはコーシュー地方はシンシュー地方において大規模な略奪、虐殺、リージョンフォームポケモンの浄化を行っており、その被害は40万体に達するとみられる。第二次シンシュー戦争対コーシュー戦線はまさに、今世紀最大の人道危機と言えるだろう。
また北シンシューに於けるユキコシ地方の軍事侵攻は、現在までに数百人の死傷者を出し、少なくとも1000体のポケモンを殺傷したのではないかと考えられている。
(国際倫理団体報告書、6月16日15時47分)」
「場外乱闘か フロックス財閥、105品目で逆経済制裁
第二次シンシュー戦争に於けるユキコシ地方によるシンシュー地方『侵略』に抗議するとして、24の地方から10日より行われている対ユキコシ地方・フロックスグループ経済制裁。これに対し、ユキコシ地方・フロックスグループ・
会見でアオバ・フロックス嬢は『必要な戦争への不必要な横やりを認容するほど、わたくしたちは甘くありませんわ』と述べた。この逆制裁には、経済制裁の拡大を阻止する狙いがあるとみられる。
(列島経済電子版、6月16日17時00分)」
「我々はなんとしても、シンシュー全人民のために戦い抜く。
ジンザモ塹壕は未だ5割が健在であり、土塁の損壊は許容範囲内にある。さらに都市外郭を接収し、市街戦を行う準備を進めている。我々の奮戦の前に、コーシュー軍は必ずや力尽きるだろう。
共に、コーシューとユキコシによる侵略の企てを粉砕しよう!
(POINSA会見、6月16日21時39分)」
ー*ー
6月17日、朝、フジナドシティ郊外。
「今日の、チャレンジャーは、あなた?」
サンゴジュおみやのだいぐうじにして「ユキコシ最強」ことチューリップは、この日までにこの地で10回はチャレンジャーを退けてきた。
チューリップ1人すら倒せないようでは、フジナドシティを包囲するユキコシ軍は撃破できない。ゆえにフジナドシティは包囲されたまま力尽きるのを待つしかない…
…だから挑戦してきたチャレンジャーたちはそれぞれに自信と作戦を以て挑んできたが、すべて呆気なく敗北させられた。サンゴジュおみやの
「今度のチャレンジャーは、どんな策を、練ってきたのかな?」
夏の陽射しをものともしない涼やかな表情で、チューリップはボールを構え。
…そして、チャレンジャーが、深めにかぶった麦わら帽子を脱ぐ。
チャレンジャーの顔、所作、一挙一動から目を離せない。どうしようもなく惹きつけられる。
(しまっ…もしかして今度のチャレンジャーは…!)
チューリップが耳栓を嵌めると同時に、チャレンジャーは言った。
「策なんて必要ありません。機材も準備もなくても、私がいればここがステージですから…
オンステージ&オーバーラップ、イーブイ!」
「何度来ても同じです!ユキノオー、ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!」
ダイヤモンドダストが平原を満たし、辺り一帯が凍りつく。
雪景色の中に佇む、イーブイの氷像…それが、火炎で赤く光って、みるみるうちにドロリと溶け落ちる。
「…仕留めきれていない…ユキノオー、ソーラービームで追撃!」
溶けかけの氷像を、光線が消し飛ばす。
「ブースターからサンダースにチェンジして回避!ついでグレイシアにチェンジしてふぶき!」
光線をかいくぐって電光が奔り、そして次の瞬間にはメガユキノオーの直上に
「…そういう、器用で、精緻で、華のある、ポケモンとトレーナーが深く連携した戦い方…
…私の好きな、私のあこがれる、御令嬢…アオバちゃんと、同じ…!
久々に、楽しめそう…!ユキノオー!」
絶望の3日
第二次シンシュー戦争半ば、ジンザモシティで行われた籠城戦のことである。
市民の団結を得たジンザモシティでは、入り組んだ塹壕線と、塹壕へ襲来する敵を高所から撃ち下ろす土塁によって、街を防御していた。そこへ南からコーシュー軍10万、北からユキコシ軍5万が現れ、街を包囲する。
歌姫アリア・カナサシ、ジムリーダークロレラらの指揮の下、当初は長期の籠城が可能と見られていた。しかしクロレラは北側でユキコシ軍と睨み合い動けず、南からのコーシュー軍の猛攻により塹壕は次々と陥落、頼みの綱の龍神レックウザや歌姫の歌声は封じられ、援軍もなく、対コーシューの防御はたちまち危機に瀕した。