アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
10の都市が分立しまとまりのなかったシンシュー地方は統合シンシュー地方体制準備協議会(
コーシュー軍がジンザモ方面への戦力集中のため撤退したフジナドシティでは、ユキコシ軍が街を包囲し、その司令官であるサンゴジュおみやだいぐうじチューリップがフジナド大学学生たちの挑戦を跳ねのけ続けている。
シンシュー最大都市のジンザモでは、北からのユキコシ軍と南からのコーシュー軍が睨み合いつつ、ともに街を包囲している。特にコーシュー軍は全軍10万でジンザモシティの防衛線攻略を進めていた。
ー*ー
6月17日昼、ジンザモシティ南方、コーシュー軍本陣。
「ピリュス、兵糧は如何ほど残っている?」
「2日分がギリギリにござりまする。他に、運ばれてくるぶんが…」
「塹壕と土塁はあと2日でなんとかなるであろうな、あとは市街戦か…」
攻城中のジンザモシティの方を睨み、将たちが話し合っていたその時。
「伝令ーっ!」
陣幕を破らんばかりの勢いで、ウォーグルを肩に乗せた兵士が走り込んできた。
「ロ、ロクショウタウンからの兵糧隊が、襲われましてございます!」
キレながら、将たちが立ち上がり怒鳴る。
「またゲリラか!オシロイの奴め!」
「い、いえそれが…」
「で、伝令ーっ!」
「今度は何だ次から次へと!」
「コウジタウンへの街道、敵の大軍により寸断されたとの由!
輸送隊、救援を乞うています!」
「…待て待て待て、コウジへの街道ということは、それすなわちロクショウ、本国への街道…」
瞬間、将たちはあまりの空気の重さに固まった。
「ええい!
何をぼやっとしておる!
兵糧の輸送が絶えるなど大事!ただちに掃討せんか!ジャグランス、行って参れ!」
「は、はっ、若様っ!」
ー*ー
コーシュー四天王の1人、ジャグランスが率いるコーシュー空軍精鋭部隊…数百体のカイリューGXのみからなる超精鋭が、ジンザモ郊外の平原を東、コウジタウン、へ向かって飛ぶ。
「敵の大軍というのは、どこだ…?」
「殿、あそこらへんでは、ございませぬか?」
草原の只中、煙と焦げで黒くなり、打ち捨てられた材木らしきものが転がっている。
「第一中隊、『はかいこうせん』で焼き尽くせ!」
数百体のカイリューのはかいこうせんというだけでも絶大な威力だが、すべてが種族値2倍のポケモンGX、空から撃ち下ろされる無数の光線はもはや天罰の如しであった。
「さて…どう動くか…?」
広い範囲で燃え上がる草地。それを見下ろし、ジャグランスは考える。
(輸送が寸断され、街道に輸送物資の残骸が転がっている…ならば、街道のまわりのどこかに敵が潜んでいるはず…
これだけ派手に燃やしたのだ。逃げ去るか、歯向かってくるか…いずれにせよ何かの動きは見られようが…)
その時。
ジャグランスの視界の隅で、何かがごそごそと蠢いた。
(街道脇の、あれは確かミナカミやま…?)
山の木が、不意にバタバタと、山崩れのように倒れる。
【ギガイアスGXの がんせきほう!】
【ゴローニャGXの がんせきほう!】
大小の岩が、倒れた木々の合間から続々と撃ち出された。
「旋回して回避!
第二中隊、はかいこうせんで山を焼け!」
がんせきほうの岩弾を避けながら、カイリューGXの群れは一糸乱れぬ飛行により前後でフォーメーションを入れ替え、そして2度目のはかいこうせん攻撃が山を焼く。
すべての木々が打ち砕かれ激しく燃え、山全体から土石が崩れ落ちていく。
黒煙と土煙に覆われたミナカミ山。しかし、そのような「敵の逃げる隙」を与える四天王ではない。
「第一中隊、ぼうふう!」
再びのフォーメーション入れ替え、そして百体以上が同時に羽をぶんと動かす。
標高659メートルの火山岩が、煙の中から再びその全容を現して。
「なんだと…あれは…」
まだところどころが赤く焼けた、丸裸の岩山。その斜面の各所に…数えるのも億劫なほどの、穴が開いていた。
あちこちの開口部から、ポケモンが顔を出す。
【アローラサンドパンGXの れいとうビーム!】
【ユキコシバザギリGXの いわなだれ!】
【グランブルGXの ムーンフォース!】
【ジバコイルGXの かみなり!】
「全隊かわせっ!」
すべてカイリューGXにとってこうかばつぐん、しかも背中にはトレーナーを乗せている…まともにくらえば無事で済まない。
回避が間に合わず、堕ちていく何人かの戦友たち。心の中で冥福を祈りながら、ジャグランスは反撃の指示を下す。
「りゅうせいぐんっ!」
降り注ぐ、無数の、天からの打擲。石投げはかつて立派な処刑方法だったことを思い出させる…ポケモンたちは慌てて岩山の穴へと引っ込むが、ジャグランスは岩山ごと破壊してしまうつもりでいた。
ミナカミやまが、削れていく。りゅうせいぐんに岩を割られ、砕け、ボロボロと…
…しかし、剥がれ落ちる岩片の下には、コンクリートと鉄板がのぞいていた。
頑丈なトーチカ構造で山全体を覆い、地下にはおそらく地下壕が存在し多くのポケモンを隠し持ち、眼下に見下ろすはコーシュー本土とジンザモシティをつなぐ最重要街道…そこにあるのは、強力な地下要塞だった。
(そうか…コウジジムのジムリーダーは悪事と築城の名手、ジンザモジムのジムリーダーは重工業が発達した街だけありはがねタイプ…そう安々とは攻めさせてくれぬ、というわけか…)「いったん戻るぞ!」
ー*ー
「地下要塞だと!?なぜそんなものが!?今まで誰も気づかなんだ!?これでは余らは袋のコラッタも同然ではないか!?」
ジンザモ南郊外、コーシュー軍本陣。ジャグランスらの敗北の連絡を受けたそこは、パニックに陥っていた。
「いや、まだなんとでもなる。ジンザモにせよ、地下要塞にせよ、しょせんは弱兵で寡兵…いくらでもすり潰せるのだ。だが…」
あまりにも、時間が足りない。
人間用の食糧はともかく、ポケモン用の食糧…とりわけ消費カロリーの多いドラゴンタイプなどは枯渇が早い。そして地下要塞を陥としたところでそれが得られる保証はない。
「今、我らにはジンザモの持つ豊かな物資が必要だ。シンシュー経済の中心地としてたんまり蓄えていたであろう食物と財貨が。」
「とはいえコーシュー本国との連絡を絶たれたまま攻城はできぬぞ。士気に関わるし、万一我らが手持ちの2日分の糧食を使い切ってもジンザモが陥落せねば、我らは異国で飢え死にだ。」
要するに、すべきことの答えは見えているのだ。
「…やるしかないだろう。」
「若様?」
「2正面作戦だ。
ジャグランス、ピリュス、バイティス、3方面軍を率い地下要塞を攻め、本国との連絡を速やかに回復せよ。」
「…はっ!」「承知!」「しかし若様、ジンザモは?」
「ジンザモはこれより余がじきじきに攻める!近衛全軍、ついてまいれ!」
ほとんど一喝に近い、若き叫び。将たちが慌てて立ち上がり、コーシュー軍10万を分けるべく走り出した。
ー*ー
パニックとまではいかずとも、ジンザモ北方で高みの見物を決めていたユキコシ軍もまた、地下要塞出現の急報に慌てていた。
「衛星画像の解析結果が出ました。仮称『ジンザモ東方地下要塞』の戦力はおそらく1万人規模…」
「コーシュー軍は10万人、本国との連絡がかかっているわけだから、本気を出してすぐにでも陥とせるでしょう…が…」
「そうだったら何のための地下要塞だっつー話だ。なんの情熱もなく籠もったわけがねぇ。長引くだろうよ。」
無駄に戦争が長引いていいことなど、ユキコシ側には何もない。確かに兵站能力が高く継戦能力で群を抜いているが、例のない軍事侵攻を行ったことで国際的な非難がかなりあるのだ。
「…お姉ちゃん、コーシュー軍の弱体化、達成できてるよね?
コーシュー軍は地下要塞を攻めなきゃジンザモを陥としても戦い続けられない。でも全軍で地下要塞に向かったら、せっかく包囲で弱らせてきたジンザモが息を吹き返すかもしれないし、北側にいる私たちユキコシがジンザモを手に入れてしまうかもしれない。…コーシュー軍は軍を二分するしかないよね?」
妹令嬢の問いかけに、蒼玻/アオバ・フロックスは、数十秒の黙考ののちコクリと頷いた。
「…そう…ですわね。ジンザモシティを巡ってシンシュー軍がコーシュー軍を消耗させ、コーシュー側が減衰したのを見計らい決戦を仕掛けるつもりでしたが…
…全軍に伝達。コーシュー軍が地下要塞との交戦状態に入ったのを確認したのち、緩衝ラインを越境、コーシュー軍ジンザモ南方攻城部隊を掃滅しジンザモシティを『解放』、しかる後にコーシュー軍本隊へ決戦を挑みますわ!
皆様、御準備はよろしくって?」
ー*ー
言祝アリアは、季節外れの雪をステージにバトルを続けていた。
「…休んでいてくださいイワパレス。
オンステージ&オーバーラップ、アシレーヌ!」
ジンザモシティ郊外で地下要塞の存在が発覚するより、少し前。山脈の反対の西側、フジナドシティ郊外でのバトルは、ついにお互い残り1体となっている。
「久々に、バトルを、心から、本気で、楽しめたよ。
このバトルが、終わってしまうのが、惜しい。だけど…
あなたに、この雪は越せない。だからもう、終わり。」
「っ、アシレーヌ、避けて!」
「天候は『ゆき』、それは不可能…ふぶき。」
【モスノウの ふぶき!】
限界までちょうのまいを繰り返し…そして、未だ、モスノウがどこにいるのかすらわからない。絶大かつ必中の攻撃に、対処するすべがない。
「得体の知れないその歌声のバフ、GXオーバーラップの2倍効果…私にしては、手こずった。だけど、それも、これまで。」
夏場にはありえない、手足がかじかむ極寒。平原に広がる雪景色。そして、白いモスノウの姿は、吹きすさぶ猛吹雪に隠れどこにも見えない。
チューリップだいぐうじは、向かいに立つ言祝アリアまでもが吹雪に完全に隠れてしまったのを見て、さすがにやりすぎたかと反省した。
「モスノウ、いったんふぶきを停止して。」
ふぶきが止んでいく。一面に広がる銀世界、モスノウはどこにもおらず、アシレーヌGXは雪に埋もれて頭だけを見せている。
「しとめ…」
「られたかもしれませんね、アシレーヌ、なみのりです。」
【アシレーヌGX(祈声)の なみのり!】
分厚く積もった雪が、わずかに揺らぐ。
「まずっ、モスノウ」
チューリップだいぐうじの声は、間に合わなかった。
積雪が、急速に浸透した淡水とともに、凍りついた。
「すべてを凍りつかせる最強のトレーナー…そう聞いていました。
だから思ったんです。本気を出してくれれば、その低温はこちらの水を巻き込む…って。」
氷の塊の中、アシレーヌが首から上のみを出して項垂れている。今度こそアシレーヌGXは倒れたのだ…だがチューリップの顔は浮かない。
「…探してもどこにも見つからないなら、すでに目の前にいると考えるのが自然です。ポケットに忘れたまま、メガネを上に外したまま、辺りを探し回るかのように…大事なものはすぐそばにありながら見逃している、そういう歌を歌ったことがあるのですが。
モスノウは雪に紛れていた、そうですよね?この氷から、すぐに出てこられますか?」
「引き分けたことには、ならないよ。モスノウはこおりタイプ、全身を凍りつかされたとて、戦闘不能には」
「いいえ私の勝ちです。これはポケモンバトルである以上に、
氷が溶けてモスノウが再び行動できるようになるまで数十分、その間はあなたのポケモンは戦えない…フジナドシティの包囲をこの猶予のうちに突破すれば、私たちの勝ちです。」
最初から、ユキコシ側最強戦力たるチューリップの足止めが目的だったのだ、このバトルは。
「…なるほど?勝てなくても封じ込められればそれで損はしない…と。
あんまり、私を見くびらないほうがいいよ。」
ゾクリ、言祝アリアは背筋を震わせた。それは氷河期を恐れて以来の人類の遺伝子に刻み込まれた、恐怖。
「モスノウ…
…ザ・グレイシャルワールド…」
氷の塊が、金色の粒子を浮かべ、氷霧に包まれる。
(な…動けなくても、あのBREAKワザは使えるんですか!?)
「…
【モスノウの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!】
キン!澄んだ音とともに、氷河の世界が訪れる。
地平線まで草地が氷に包まれ、木々は樹氷にしなり、巻き込まれた人やポケモンが氷像となる。
「強い者を畏れない…時には大事なことだけど、それは無謀と隣り合わせだよ…むっ?」
あるはずのものがない。
言祝アリアの氷像が、ない。
「逃げた?どこに?そんなわけ…」
凍りついた平原を見回す。近場には、少なくとも、それらしきものは…白い雪の上には、空から映る影くらいしか…
(…影…?)
細長い、黒い、影。
「まさか…っ!?」
鬨の声が、放置下のフジナドシティから聞こえてくる。
レックウザ。
純白のレックウザが、青空をバックに悠々と高空を飛んでいた。
「…っ、カナサシおみやの、龍神っ!」
チューリップは、手遅れを、そして読み違えを悟り、通信機をポケットから引っ張り出した。
「こちらフジナド方面総司令部、チューリップ!
負けた!負けた!フジナドシティが蜂起してる!
戦力シフトを済ませた今の包囲網では耐えられない!包囲を解き、シラアイまで撤退して!」
フジナドシティは最初から、ユキコシ軍は既にフジナドへ攻め込む気もその準備もないことも見抜いていて、言祝アリアがチューリップを封じる方へ賭けていたのだ...
「…これで、3地方のすべての戦力がジンザモへ集まりつつある…けど、私は間に合わない…
…お願い、アオバちゃん、カグヤちゃん。頑張って。」
「決戦要塞」のモデルは松代大本営です。
東ジンザモ決戦要塞
コウジジムのオシロイとジンザモジムのクロレラによって秘密裏に建造された地下要塞。6月17日に突如として蜂起し、コーシュー軍のコウジタウンージンザモシティ間の連絡を遮断した。
これによりシンシュー各地やコーシュー本土からの兵站支援を受けられなくなったコーシュー軍は、決戦要塞を陥落させ兵站線を復活させるかジンザモシティを陥落させて略奪しなければ2日と保たないことが確定し、ジンザモの包囲を解くこともできず、軍を2つに分けジンザモと地下要塞両方を力攻めすることになる。
一方でユキコシ軍にとっても、突如のこの地下要塞とその秘匿軍勢は青天の霹靂であり、大チャンスだった。コーシュー軍10万に対して半分と少しほどの戦力しかないユキコシ軍だったが、二分されていれば各個撃破を狙えるからである。
2正面作戦を行うコーシュー軍にユキコシ軍が攻め掛かり、ジンザモ市内シンシュー軍と地下要塞シンシュー軍が漁夫の利を狙って動き出す…こうして、地下要塞は狙い通り「決戦を引き起こす要塞」として機能したのである。