アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 ~これまでの「転生ポケモンアイドル」は~

 ポケモン原作に存在しない「シンシュー地方」に転生した、ポケモンオタクにして絶世のアイドル、言祝アリア。

 8年前に始まったコーシュー地方との戦争を3年間戦い抜いたシンシューの英雄にして、龍神レックウザの依代としてその(バフ・デバフ)を歌声に宿す現人神、アリア・カナサシ。

 2人はともにシンシューのジムを巡り、10に分裂したシンシューの統合を目指す。邪神を討伐し、シンシューの統合をも成し遂げた2人のアリアだったが…現代最凶の侵略軍事国家コーシュー地方は統合5日前にシンシュー地方へ侵略を開始していた。…そしてまた、世界有数の財閥フロックス家の後援を受けたユキコシ地方も、北シンシューへの侵攻を始め。
 
 みるみるうちにシンシュー地方は南北から侵略され、もはや無事な地域は3/10、そして最大都市のジンザモシティも北のユキコシ軍と南のコーシュー軍によって包囲され…

 だが、光明は残っている。

 ジンザモ東のシンシュー軍地下要塞によるコーシュー軍の兵站遮断と、それによるコーシュー軍の2正面作戦。

 フジナドシティ方面ユキコシ軍のジンザモ方面転換の隙を突いた、フジナドシティ包囲網の突破そしてフジナドシティ籠城シンシュー軍のジンザモ方面移動。

 なによりー略奪と征服を国是とする戦国マインドのコーシュー地方と、人道を主張し先進的な文明を誇るユキコシ地方が、決して相容れるはずはない。

 3地方の思惑、各戦線の戦況…すべてがジンザモへ集まり、今、十数万の人々、百万のポケモンは、決戦へといざなわれる…!

 


終祝 未来のために命を奏でろ_Lives should be like Live concerts
♪74 第二次ジンザモ郊外決戦① 斯くて舞台は整えり


 ー*ー

 

 6月18日早朝、ジンザモシティ当方、ミナカミやま。

 

 頑丈な火山岩からなるこの山は、今や、地下壕を幾筋を持ち無数の開口部を有する地下要塞となっていた。その最奥部で、この場の総指揮を任された将は泰然と座っている。

 

 「夜間の被害はいかがじゃ?」

 

 家来が、報告書を読み上げる。

 

 「報告しますオシロイ閣下。コーシュー軍の夜間攻勢により第4地下壕が半壊しましたが、その他の損傷は軽微、戦力も97%が継戦可能です。」

 

 築城、籠城、そして作戦立案にかけて、シンシュー地方でこの将、オシロイほど優れた人間もそういない。

 

 「…呼応作戦は充分可能、かの。」

 

 オシロイは、周りに座する、地下要塞へ集結した仲間たちを見回す。

 

 「マルス殿、ホンミツ殿、コヒガン殿、リンダウ殿。

 

 先ほどフジナドシティのレンゲ殿から連絡があった。

 

 街の包囲を突破し、ユキコシ軍は逃散せり、とのことじゃ。…援軍を率いてこられても今日中には間に合うまいが…」

 

 やはり、今ジンザモ周辺にいる戦力しかあてにならない。

 

 「この要塞に1万、ジンザモに2万…コーシュー軍は10万であるから、かなうまい。ここも長持ちはせぬ。航空戦力に至ってはないに等しいしの。」

 

 地下要塞の存在を知ったコーシュー軍は、すでに6万の軍勢で攻めてきている。空もコーシュー空軍がひしめき、まともに戦えばまず勝ち目はない。

 

 「じゃが…

 

 それは雑兵を相手にした場合、じゃ。」

 

 ジムリーダーたちの間に流れる空気が、引き締まる。

 

 「儂を含め、ここに集まる者は、街を棄てながらもシンシューを捨てられず、一軍を率い、同じ旗の下に集いし強者…そう心得ておる。

 

 ならば数で劣れども、志と強さに於いては、侵略者のやつばらに劣ること決してあらじ!」

 

 オシロイは、扇子を手に取り、ぱっと開く。それを目にしたジムリーダー4人の目もまた、限界まで見開かれた。

 

 「おのおの、抜かりなく!」

 

 扇子には書かれていたー「狙うは四天王3人のみ!」

 

ー*ー

 

 6月18日、払暁。

 

 空が白み始め、シンシューの山と大地に薄霧がかかるそのタイミングで、地下要塞からシンシュー軍が駆け出した。

 

 圧倒的な数を誇るコーシュー軍だったが、視界不明瞭な中での奇襲で混乱に陥る。あちこちでパニックを起こしたポケモンたちがワザを乱れ撃ち同士討ちする中。

 

 「コーシュー軍、水の四天王バイティス殿とお見受けする!

 

 いざ尋常に勝負だ!キングドラ、ゲッコウガッ!」

 

 「ウスモエの、ホンミツか…?

 

 俺が街を陥とした時に、死んでいれば良かったものを…2度も逃がしはせん!カメックス、メガシンカッ!」

 

 ジムリーダーたちが、コーシュー軍四天王の陣幕へ殴り込みをかける。

 

 「草の四天王、ピリュスってのはアンタかい?

 

 アタシはリンダウ。アンタの伸び切った鼻を折る者の名前くらいは覚えな。」

 

 「女風情が何を!フシギバナ、さっさと殺せ!」

 

 「ふーん…

 

 敵を甘く見て、向上心を失っているうちは、アタシより強くはなれないでしょ… 

 

 ナッシー、モクロー、GXオーバーラップ。」

 

 空まで突き抜けるかに思える高い首が、長さ×質量の物理法則をそのままに、ピリュスの家来とそのポケモンたちを薙ぎ払う。

 

 そんな様子を見ながら、ドラゴンタイプの四天王ジャグランスは、霧の中だがカイリューGXに乗り飛び立とうとしていた。

 

 (奇襲のせいですでに乱戦ぎみだ…霧で良く見えないとはいえ、空から状況を把握できれば…)

 

 「アヤシシ、じゅうりょく。」

 

 ガクン、まさに地を離れようとしていたカイリューGXの足が、膝をつく。

 

 「さんざん空襲されましたからね、そろそろ決着としましょうか。」

  

 「…キナリジムの、コヒガン…貴様が、空を、飛行を捨てるのか…!?」

 

 「アヤシシ、あやしいひかり!」

 

 「カイリュー、しんそくッ!」

 

ー*ー

 

 6月18日、払暁、ジンザモシティ防衛線東脇。

 

 「アオバ嬢を1人にさせるかーっ!」「アオバ様に続けーっ!」

 

 地下要塞に霧がかかるのを衛星画像で確認し、蒼玻/アオバ・フロックスはクリムガンに飛び乗り、ジンザモの北方から南方へ駆け出した。

 

 地下要塞にコーシュー軍別働隊が食いつき、乱戦になったと同時に、ジンザモ南方のコーシュー軍攻城隊を撃破する…二分撃破の計略通りの行動なのだがそれにしても素早すぎる。置いていかれた部下たちは、部隊に号令しながら必死に追いすがることとなった。

 

 蒼玻/アオバ・フロックスを戦闘に、すぐ後ろに妹のカグヤ、少し離れてぐうじやらホープ団やらに率いられたトレーナーたちが、それぞれのポケモンに乗って突撃する。空から見る者がいれば、その陣形はまるで鋭いクサビのようであったろう。

 

 陣地の後方では、ピジョット、ムクホーク、ファイアローといった制空隊ポケモンが次々と空へ飛び立つ。この決戦からコーシュー空軍を排除するつもりなのだ。

 

 「な、なんだなんだ!?」「て!敵襲ーっ!」

 

 ジンザモ南方の広い範囲に広がり、防衛線の塹壕・土塁を攻略しきろうとしていたコーシュー軍…彼らは、東から唐突に回り込んできたユキコシ軍に対応しきれない。細長く東西に伸びていた布陣を横合いから突かれて、あっという間に瓦解寸前だ。

 

 「若様っ!ここはお危のうございます!

 

 防御陣形を組み直しつつ、川の南までいったん退きましょうぞ!」

 

 攻城隊から少し離れたところに設置されたコーシュー軍本陣にも、ユキコシ軍が迫っている。広い視野で全攻城隊を監督するためにあえて開けた1キロの間隔、そこにユキコシ軍が入り込めば本陣はわずかな護衛とともに敵中に孤立しかねない。

 

 「…いや、何を弱気なことを。

 

 攻城隊に狼煙!全部隊を、ジンザモを背後にした鶴翼に組み直せ!東西の部隊を少し南下させ、スワンナの翼のごとくせよ!

 

 ユキコシ軍を迎え撃て!」

 

 「南向きの鶴翼の陣!?ですが若様!それは敵軍を陣形の南で…ここで待ち構えると言う事!」

 

 その肝心の、陣形の南、ユキコシ軍襲来予想地に彼らはいて、しかも敵中孤立しかけているのだ。

 

 「やはりここは危険!若様!急ぎ北進し、攻城本隊との合流を!さ!」

 

 家来が、自らもバンバドロの鞍に手をかけうずうずしている。

 

 「否…

 

 これより余ら本陣は南下、さらに攻城本隊との間隔を取る!」

 

 「なっ!」

 

 「疾くせよ!

 

 余と攻城本隊を分断しようと、敵が合間に入るその時が勝機よ…挟撃してくれるわっ!」

 

 「し、しかし!1000人に満たないこの本陣で、挟撃など…!」

 

 「くどい!

 

 余のポケモンは一騎当千ぞ!なればこの本陣、余の6000とそなたら家来の1000、気合で1万騎も同然なり!」

 

 若き総大将に引きずられるように、コーシュー軍の本陣は南へと転進していく。

 

ー*ー

 

 地下要塞西側の平原は、未だ霧がかかっている。

 

 その霧を斬り裂くように、アローラナッシーの長大な首がぶんぶんと回っていた。

 

 【モクロー&アローラナッシーTAGTEAM_GXの ドラゴンハンマー!】

 

 「フシギバナ、つるのムチで絡め取ることはできぬのか!?」

 

 М(メガ)フシギバナGXの つるのムチ!】

 

 幾本もの蔓。それらがウネウネと伸び、四方八方からアローラナッシーの10メートルの首に巻き付き…

 

 「決まったな!ソーラービーム!」

 

 蔓でアローラナッシーの動きを封じながらの、極大の光線。アローラナッシーには躱すすべが…

 

 「こちらのセリフね!」

 

 グイッ!アローラナッシーが、首に力を込め…М(メガ)フシギバナGXは、まるでクレーンに吊り上げられるかのように宙に浮いた。

 

 「は…?そんな力が…!?」

 

 至近距離に引き寄せられたМ(メガ)フシギバナGXの顔を、モクローとアローラナッシーがじっと見つめ…

 

 【モクロー&アローラナッシーTAGTEAM_GXの ソーラービーム!】

 

 二筋のソーラービームが、交錯する。М(メガ)フシギバナGXからのそれは押しやられ、押し戻され…そして本体を呑んだ。

 

 集束された陽光エネルギーの奔流はフシギバナをチリヂリに焦がしつつ吹き飛ばし、フシギバナは後方にいたピリュスに覆いかぶさり、下敷きとなった彼はしめやかに気を失った。

 

 「…さて、と、残り2人の四天王は…」

 

 ソーラービームの爆風で霧が晴れ…リンダウは戦場を見回す。

 

 四天王ジャグランスとジムリーダーコヒガンが、四天王バイティスとジムリーダーホンミツが、激戦を繰り広げていた。

 

 「…アタシが野暮な割り込みをしちゃ、悪そうね。」

 

ー*ー

 

 ジンザモ北方の陣地から急速に南下したユキコシ軍は、ジンザモ南方防衛線に張り付く攻城中のコーシュー軍、そのさらに南へ入り込み、背後からの強襲を目論んでいた。

 

 コーシュー軍はと言えば、攻城を一時的に中断し南へ振り向いて、数キロ南のコーシュー軍本陣にいる若き総大将とともに、合間に挟まったユキコシ軍の挟撃を狙っていた。

 

 …作戦というものは、常に、計画者の思い通りにはいかないものである。

 

 「土塁が崩れたぞ!」

 

 コーシューの兵の1人が叫ぶ。

 

 「今だ!ジンザモに攻め込んでしまえ!」「メシだ!メシがあるぞ!」「奪え!攫え!一切合切!」「抜け駆けすんな!」「奪われるぞ!出遅れるな!」

 

 さらに南、本陣の若き総大将と呼応してユキコシ軍を挟撃…その計画は、この瞬間、破綻した。

 

 常日頃から飢餓、貧しさに苦しむコーシュー地方…その兵士たちが2週間以上も従軍して…そして、目の前にシンシュー地方最大の都市、富そして何より食事がある街が開けたのだ。兵士たちが我慢できるわけがない…いや、兵士たちが我慢できようと、そのポケモンたちが我慢できなかった。

 

 コーシュー軍攻城本隊の南方転進は、飢餓により…シンシュー侵略のそもそもの原因となったコーシュー地方の渇望により、破綻した。

 

 土塁の破れから、コーシュー軍の兵士とポケモンが、雪崩を打ってジンザモシティへ駆け込み…

 

 そして、彼らは見た。

 

 欲望で作られた街ジンザモが、コーシュー地方という欲望を、どう出迎えるのか…

 

 「敵さんのお出ましだ!行け!」

 

 「今だ!ジンザモ市政に栄光あれ!」

 

 「とーつげーきっ!」

 

 無数の鉄骨を組み合わせたバリケード、その向こうに見える群衆…そして、殺到するポケモンたち。

 

 「わ、罠だ…引き返せっ!」「後ろが詰まってる!戻れねぇ!」「こら!逃げようとするじゃなっ」

 

 ジンザモからのポケモンたちの気迫にひるみ、一部のポケモンが引き返そうとし…しかし後ろからはまだ、飢えた味方が押し寄せてくる。

 

 バリケードがあるし、そもそも土塁が崩れた範囲も狭い…この防衛線の隙間はボトルネックであり、一度に通り抜けられる数が少ないため、コーシュー軍攻城隊4万騎の数的優位はそこまで意味がない。むしろ、綿密に計算されたシンシュー側の布陣によって、侵入したそばから袋叩きとなるありさまだった。

 

 「なぜ…!どこからそんな兵力が…!」

 

 先程までは塹壕の9割が陥落し防衛線崩壊秒読みだったジンザモが、どうしていきなり逆襲してこられたのか…その答えを探して戦場を見回した者は、すぐに答えを知った。

 

 「市民の皆さんは私とともに西側へ!ジムトレーナー隊は東へ!その他の皆さんはバリケードを守ってください!

 

 突撃!」

 

 バリケードの向こう、ギルガルドに跨り先頭に立つ男…ジムリーダー、クロレラ。

 

 「…まさか、ジンザモの北側を守っていた軍勢…!?」

 

 ユキコシ軍が南下してコーシュー軍を強襲したことで、ジンザモシティ北方防衛線でユキコシ軍と対峙していた戦力が浮き、南方のコーシュー軍を叩きにやってきた…

 

 …その答えを悟った時、彼はすでに、引き換えしてくる味方のドサイドンによって踏み潰されようとしていた。

 

ー*ー

 

 「霧が晴れたとて、飛び立たせませんよ。

 

 アヤシシ、バリアーラッシュ!」

 

 ジャグランスとコヒガンの戦いにも、決着がつけられようとしている。

 

 霧もじゅうりょく状態もやっとなくなり、飛び立とうと羽ばたいたカイリューGXへ、とっしんからのバリアーラッシュで勢い良くアヤシシGXが跳び掛かり。

 

 「今だカイリューッ!」

 

 カイリューGXの二の腕が唸った。まるで、待ち構えていたかのようなタイミング、角度で。

 

 【カイリューGXの ばかぢから!】

 

 幾重にも重ねたバリアが、パキンパキンと割られる。カイリューGXの握りこぶしが、アヤシシの右角を折り飛ばす。

 

 折れた角から宝珠がこぼれ落ち、地面に落ち、ひび割れて。

 

 【アヤシシGXの…!】

 

 落ちた宝珠が、ヒビの間から不自然に光っている。

 

 「カイリュー、離れろっ!まずいっ…!」

 

 「サイコキネシスで止めるのです!アヤシシ!」

 

 地面を蹴って離れようとするカイリューGXが、不自然な体勢で固縛され、そして。

 

 【…シシガミバーストGX!】

 

 宝珠に蓄えられていたサイコエネルギーが炸裂し、アヤシシもカイリューも呑み込んだ。

 

 「相打ち、か。では次の1体…」

 

 「その余裕、ありますか?」

 

 「なに…?」

 

 その時だった。

 

 彼らの北西、ジンザモシティの南のほうから、巨大な火柱が上がった。

 

 「わ、若様…!?」

 

ー*ー

 

 ジンザモシティのシンシュー軍が打って出たことにより、ユキコシ軍とシンシュー軍に南北から挟撃され、攻城本隊は崩壊しつつある…

 

 …これでは、合間に割り込んできたユキコシ軍を攻城本隊と本陣で挟撃する作戦は機能しない。4万騎もいるのだからいずれ攻城本隊が立て直すにせよ、それまで本陣が保たない。

 

 家来たちが慌てる中、若き総大将は1人、獰猛に笑う。

 

 「知っているか…?

 

 デカヌチャンは鋼を鍛えるため、丈夫な鉄床を選ぶと言う…だが本当に優れたデカヌチャンは、そこらの岩でも鉄床として使うと言う…」

 

 「若様…?」

 

 「余らはコーシュー軍を叩く(ハンマー)、そして鉄床となるはずの我が攻城隊は砕け散ってしもうた…が、余に鉄床を選ぶ必要はない。

 

 シンシュー軍とユキコシ軍は相容れまい。ユキコシ軍をジンザモシティに叩きつける!

 

 征け、マルヤクデ、オーバーラップッ!」

 

 大百足が、巨大な火柱となって立ち上がる。

 

 放射される熱光だけで、瞬時に周りの草木が燃え上がる。オーブンレンジがそびえたっているようなものだ。

 

 「キョダイヒャッカ!焼き潰せっ!」

 

 業火が、ユキコシ軍めがけ突っ込んだ。

 

ー*ー

 

 わずか一撃、それだけで、ユキコシ軍は甚大な被害を被った。キョダイマルヤクデGX、コーシュー軍の旗印たるそれは、そこらのトレーナーが何百人いようとすべて無意味となる怪物だった。

 

 人とポケモンの、肉が焼ける臭い。本能的に吐き気を催すそれが、風に乗って戦場を漂う。

 

 「ちっ…これで熱意を保てって言っても、気合いが足りない連中にそれは無理があるよな…」

 

 ワカナエぐうじのオリザは、歯噛みしながらダイマックスバンドを踏み潰すーユキコシ地方は、長年戦乱を続けるシンシューやコーシューと違い、荒事に慣れていない…凄惨な被害を一度受ければそれだけで士気がガタ落ちした。

 

 オリザの踏み潰したダイマックスバンドから、ガラル粒子が溢れる。

 

 「アップリュー、タルップル、情熱で負けるわけねえよな!キョダイマックス!」

 

 最強ぐうじたるチューリップがフジナドにいる以上、この場をまとめる責務を持つのは次に強い自分だ…オリザはそう考えるが、彼の思考から漏れる者もいる。

 

 「ここでコーシュー軍が勝てば、世界の未来は昏いものとなります…

 

 フーディン、いきますよ。」

 

 シンシュー地方ウコンジムジムリーダーにして、ユキコシ軍をこの地方に招き入れた根源…カタクリは、キーストーンを空へかざし参戦する。

 

 「おい!この場で一番強いのは俺だ!奴の相手はは俺に任せて、お前らは仲間を退かせろ!」

 

 「それはあなたの知る限り、ですよね?

 

 私もまた、あの焔大百足を食い止めるのに一番相応しいのは私と、自負していますから。」

 

 「ぬかす。それほどの根性があるなら、俺の手足を引っ張るなよ?

 

 アップリュー、キョダイサンゲキ!タルップル、ダイドラグーン!」

 

 強酸の匂いがツンと鼻を突き、戦場を満たす焼けた肉の臭いをごまかす。そのさなか、ドラゴンエネルギーが迸り、熱気を旋風が飛ばす。

 

 「そちらこそ、私を後悔させないでくださいね?

 

 フーディン、ゼンフォース。」

 

 М(メガ)フーディンEXが座禅を組み、キョダイマックスマルヤクデGXへダメージ増幅の呪を掛ける。

 

 だが。

 

 【キョダイマルヤクデGXの キョダイヒャッカ!】

 

 仰ぐように高い焔大百足は、四方へ熱光を照射しながら再び突進した。なんら弱った様子もなく。

 

 「アップリュー、タルップルっ!」「フーディン大丈夫!?」

 

 百メートルほども突き飛ばされる、キョダイアップリューとキョダイタルップル。М(メガ)フーディンEXは空を舞い、赤熱しぐんにゃり曲がったスプーンが地面に突き刺さる。

 

 「…まだ気合い残ってるもんなぁ…

 

 ダイドラグーンっ!」

 

 「サイコキネシスで押さえつけて!」

 

 サイコパワーで動きを抑えたキョダイマルヤクデGXへ、キョダイアップリューとキョダイタルップルが左右の至近距離から同時にドラゴンエネルギーを浴びせかける。

 

 身動きままならぬまま両側面から攻撃され、焔大百足は怒り叫びながらもがくがどうにもならず、徐々にへたり込んでいき。

 

 「図体ほどの根性でもねぇか…?」「いえ、様子がおかしい…フーディン離れてっ!」

 

 直後。

 

 動けない鬱憤をも熱に変換したかのように。

 

 【キョダイマルヤクデGXの オーバーヒート!】

 

 焔大百足は、腹の放熱器官から膨大な高エネルギー赤外線を放射した。

 

 加熱され膨張した空気が爆裂し、オリザぐうじもカタクリジムリーダーも毬玉よろしく跳ね飛ばされる。

 

 「ちっ…こんなことで俺の根性は…ゴホッ…」

 

 アップリューとタルップル、それにフーディンがまだ戦えるとはとても思えない。オリザとてそれを察して、次のポケモンを出そうとポケットに手を…

 

 ポケットがない。爆風のせいでズボンが焼け焦げ、破れてしまっている。

 

 「くっ…」

 

 ふと、尋常ならぬ熱気を感じ、前を見る。

 

 「うぅ…」

 

 視界の隅で、襤褸切れのように転がりうめく、カタクリ。そして。

 

 「ここで余に逆らうが、そなたらの運の尽きよ。

 

 一切合切灰燼となせ、マルヤクデ。」

 

 正面にて、熱で陽炎のように姿を揺らめかせる、焔大百足。

 

 【キョダイマルヤクデGXの…】

 

 焔大百足の背後には上昇気流が渦をなし、砂塵が巻き上がって熱で赤く輝いている。

 

 「ここでGXワザかよ、キッツいなぁ…」

 

 ポケモンは出せない。生身で立ち向かうのは到底無理だと気付いている。気休めだと知っている。それでも…戦場に連れてきた数多のユキコシ市民を、少しでも、盾として護らなければ。

 

 「情熱…っ!気合い…っ!根性…っ!」

 

 不気味なほどに静かで身じろぎ1つなく、いつ攻撃してくるかわからない焔大百足。それを前に、オリザはボロボロの身体に力を込め仁王立ちしてみせる。

 

 「かかってこい…っ!」

 

 直後。

 

 焔大百足が生み出す、吸い込まれそうなほど強力で不気味に静かな上昇気流が、一斉に発火し、そして本体を包み込むように融合した。

 

 【キョダイマルヤクデGXの フウリンカザンGX!】

 

 山のように巨大な、ゴウゴウと燃え盛る獄炎。それはオリザを、一息のうちに呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焔の巨山、その麓に、金色の粒子が無数に輝いている。

 

 【グレイシアの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズイデアリー!】

 

 膨大な熱量にも負けない、絶対零度の氷霧…それによってキラキラとエフェクトをされ、純白の髪を輝かせる姉と黒い髪を翻す妹。

 

 「ご無事で何よりですわ、オリザぐうじ、カタクリジムリーダー。」

 

 汚れ1つなく、白い着物の姉令嬢と赤いドレスの妹令嬢は、そこに立っていた。

 

 「アオバ嬢に」「カグヤ様…」

 

 「後は私とお姉ちゃんで引き受けるよ。グレイシア、パワーを上げて!」

 

 「久々に腕が鳴るな…!/ですわね!ディアンシーも、準備はよろしくって?」

 

 “「もちろんです!いつでも!」”

 

 キーストーンが、愛情で結ばれた二重の魂魄と共鳴し、メガストーンへ二重の光を灯させる。

 

 「参りますわよ…/ああ…

 

 誇り高き俺達の燦然、誰にも超えられはしないさ!

 

 /直視すること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!」

 

 無数のピンクナノダイヤが、チカチカと瞬き吹き荒れる。

 

 【ディアンシーは デュアルメガディアンシーへ デュアルメガシンカした!】

 

ー*ー

 

 地下要塞東側の平原。

 

 「ゲッコウガ、みずしゅりけん。」

 

 ウスモエジムのジムリーダー、ホンミツ。彼が。もっとも手こずっていた。

 

 「何度やっても同じだ。」

 

 ゲッコウガGXが水霞と消え…しかしコーシュー四天王バイティスの切り札たるポケモンは、キョロキョロ敵を探したりはしない。

 

 М(メガ)カメックスGXの ハイドロボンバード!】

 

 ドン!衝撃波を伴い、巨大な水弾が宙へと撃ち出され…そして水弾は爆裂して、高速移動で姿を消していたゲッコウガGXを吹き飛ばす。

 

 忍者ポケモンゲッコウガの名のとおりに忍んで攻撃しようとしても、この巨砲亀は絶大な威力と範囲攻撃力で以て虚空からゲッコウガGXを弾き出してしまう。そしてそうなれば。

 

 М(メガ)カメックスGXの ラスターカノン!】

 

 「みずしゅりけんで弾いて避けろっ!」

 

 必死に回避しなければ、やられてしまう…攻め手が見つからない。

 

 「そろそろ頭を垂れてはどうだ?お前の街と同じように。この四天王バイティス相手にここまで持ちこたえたのだ、末代まで誇れよう。」

 

 どうせ生かすつもりもないくせに、バイティスは尊大にそんなことを吐く。

 

 「…まだ負けたと決まったわけではないっ!もう一度みずしゅりけん!」

 

 再び、ゲッコウガGXが水霞と化して消える。

 

 虚空、一見何もなさそうなところから投げつけられるみずしゅりけん。それをМ(メガ)カメックスGXはこともなげに水の砲弾で撃ち落としてみせ。

 

 「ふん、何度来ても同じこ、と…?」

 

 チクリ。

 

 「は…?」

 

 バイティスの首筋にピックが突き立ち、そして彼はゆっくりと後ろへ倒れた。

 

 「バトルに熱中すれば、これが戦争だと言うことを忘れてくれる…そう思っていたよ。

 

 俺たちの街、俺たちの川を踏みにじった報いは受けてもらう。」

 

 声を出すことができない。みずしゅりけんを囮にして投げつけられた麻痺毒の針、それがバイティスの首に刺さっている。

 

 「カメックス…メガシンカするほどこの四天王と絆があるのなら、一歩でも動けばどうなるかわかるな?賢明な選択をしろ。」

 

 ホンミツは迷い彷徨わない。故郷の川を取り戻すためなら、彼は正々堂々という言葉など投げ捨て外道になれる。

 

 バトルでは優勢だったのに…悔やむバイティスの目の前で、ただ突っ立つしかないМ(メガ)カメックスGXがゲッコウガGXに斬りつけられ倒れる。

 

 (もはやこれまで…か…)

 

 「武人ならば相手を言い訳にせず油断を悔いるんだな。さて…

 

 …!?避けろゲッコウガっ!」

 

 【カイリューGXの しんそく!】

 

 豪速の拳が、ゲッコウガGXを吹き飛ばす。

 

 「バイティス、ずいぶんなやられようにござるな?」

 

 麻痺毒針を乱暴に引き抜き、解毒薬を無理やりバイティスの口に突っ込む男。

 

 「ジャ、グ、ランス…」

 

 それだけではない。もう1人の四天王、ピリュスもいる。苦戦を見かねて助けに来たのだ。

 

 「3対1…不利か。ゲッコウガ、退却だ!」

 

 ホンミツはすたすたと歩き去っていく。

 

 麻痺から解放されたバイティスは、カメックスをボールに戻すのもそこそこに、ホンミツを追おうと立ち上がり…そこでピリュスに肩を掴まれた。

 

 「何してるバイティス!ここは退くぞ!立て直して若様と合流するっ!」

 

 「し、しかしピリュス殿!それでは地下要塞の攻城は…!あやつへの逆襲は…!」

 

 「何を言っている!

 

 ユキコシ軍が北から、若様の陣を襲ったそうだ!ジンザモも街から打って出た!

 

 もう決戦にござるぞ3地方の!攻城どころではない!」

 

ー*ー

 

 コーシュー軍四天王3人が地下要塞攻略部隊6万を率い、地下要塞を諦めてユキコシ軍VSコーシュー軍攻城隊決戦の救援に向かい始めていた頃。

 

 ジンザモシティ南方では、まさにその決戦の決着がひとまずつこうとしていた。

 

 「5年ぶりかしら?

 

 コーシュー軍はわたくしを/俺たちを攻略する方法を、見つけられたんかな?

 

 ディアンシー!」

 

 ”「準備はできています。いつでも!」“

 

 「よろしくってよ!さあ...」

 

 デュアルメガディアンシーの周りに、無数のピンクナノダイヤが浮かび上がる。それはキョダイマルヤクデGXの作り出す獄焔の山の中にあって焔を阻む、いわば結界であり、そして。

 

 ディアンシーというまぼろしのポケモンは、ダイヤモンドという「数百万年の地質学的時間」で作り出されるものを、「数秒の生物学的時間」のうちに生成するという、時間スケールを超える権能を持っている。それは二重の(デュアル)メガシンカという限界を超えた奇跡的な進化によって拡張され…

 

 「「ダイヤストーム・アクセラレーションッ!」」

 

 数百万年レベルの事象を数秒の間に発生させられる権能があるとすれば、それは時間操作、時間加速能力に他ならない。

 

 射出された無数のダイヤモンドの弾丸は、時間加速によって相対的亜光速へと達し、キョダイマルヤクデGXへ迫る。もちろんダイヤモンドは亜光速に耐えられる物体ではないから、GXワザ「フウリンカザンGX」の熱と高速射出による空気摩擦熱で瞬時に蒸発し...しかし時間加速の効果によって酸素との反応が追いつかず、炭素プラズマのビームと化してキョダイマルヤクデGXへ到達し。

 

 焔大百足の巨体は、無数の穴を胴体に開けられ、崩れ落ちた。

 

 「なっ…

 

 マルヤクデ、戻れっ…!」

 

 燃え尽きた平原の、余熱で揺らめく陽炎の先。鎧武者の射抜くような視線が、令嬢姉妹へと向けられている。

 

 「お姉ちゃん、いったん撤退だよ。」

 

 「ですわね。わたくしは良くても周りが保ちませんわ。早くオリザさんたちとポケモンたちを野戦病院へ連れて行かなければ。

 

 /これでは終わらないな。すぐに回復して再戦するぞ!/えぇ、きちんと勝たなければ性に合いませんわ!」




 ~次回「転生ポケモンアイドル」は~

 地下要塞のジムリーダーの逆襲により、エースポケモンをやられたコーシュー軍四天王。

 ユキコシ軍の強襲とジンザモシティの逆襲により崩壊した、コーシュー軍ジンザモ攻城部隊。

 フロックス姉妹によってコーシュー軍の象徴たるマルヤクデをやられた、若き総大将。

 …だが、彼らにはさらなる切り札があった。

 「マルヤクデやられし今、おそれながら、若様の奥の手しかござらぬでしょう。」「…それしきがそなたらの可能性ではあるまい!」

 侵略の大罪を冒しても故郷コーシューを救う覚悟。

 「どっちでもいいですわ。勝ったほうがわたくしたちの敵になるだけ、いえわたくしたちの獲物になるだけ、そうではなくって?」

 気丈に微笑む、二重魂魄の令嬢。

 龍神レックウザも言祝アリアもいない戦場で、アリア・カナサシは一人、伝説と立ち向かう。

 ー第75話「第二次ジンザモ郊外決戦② 王たる者のための神VS神なき現人神の祝詞」

 かくして、決戦の第二ラウンドが始まる…
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