アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 シンシュー戦争のモデルが武田軍・上杉軍の信濃侵攻なのでジンザモ郊外決戦のモデルは川中島合戦です(じゃあジンザモ地下要塞=松代大本営はなに)

 ジンザモ郊外決戦は、第1ラウンドとしてユキコシ軍とシンシュー軍によるコーシュー軍強襲そしてキョダイマルヤクデGXとフロックス姉妹の対決、第2ラウンドとしてコーシュー軍若き総大将のゼクロム&レシラムTagteamGXによるアリア・カナサシ襲撃とユキコシ軍とコーシュー軍の戦闘が行われた。

 そしてフジナドシティからシンシュー軍の増援が現れたこと、絶体絶命のアリア・カナサシを言祝アリアが助けに来たことで、決戦は第3ラウンドへ…!


♪75 第二次ジンザモ郊外決戦③ ゆえに完全で絶対の偶像

ー*ー

 

 ユキコシ軍の、誰もが、それはありえないと思っていた。

 

 17日ー昨夕、言祝アリアがチューリップだいぐうじを打破し、フジナドシティは包囲網を突破…対コーシュー決戦に備えて軍勢のほとんどを秘密裏にジンザモ方面へ移動させていたユキコシ側は、もはやフジナド方面での戦闘を諦めてシラアイタウンまで撤退した。つまりフジナドシティに籠もっていたシンシュー軍は自由になっていた。

 

 だが、フジナドとジンザモの間には3000メートル級の山脈が存在し、峠を通る街道とて細い。大軍の山越えなどとてもできないのだ。

 

 本来はこの2都市の連絡は南のエクリプスタウン方面へ迂回して行くものだが、道中のエクリプス、ロクショウ、コウジはコーシュー軍の勢力圏である。ユキコシ軍はその絶大なインフラ力で以てユキコシ地方経由の移動ルートを確保していたが、こちらもシンシュー軍には論外だ。…この戦時下、ジンザモとフジナドの2都市は分断され、包囲網から解放されたフジナドのシンシュー軍が山越えか迂回ルートの突破を果たすには2日はかかる…誰もがそう思ってきた。

 

 だが、現実は。

 

 「アテぐうじより通信!ヌレバおみや隊、崩壊しています!」

 

 「ウスベニおみや旅団、呪いが効かないため撤退する、と!」

 

 「ホープ団空軍、急ぎ下ろせ!レックウザがいてはどうにもならん!」

 

 「モロコシ大将より緊急電!糧食庫、野戦病院、共に敵中に孤立しつつあり!」

 

 山肌を逆落としに駆け下りて戦場へ乱入したシンシュー軍の新手…山津波と見紛うほどのポケモンの大群が、まさにコーシュー軍と戦闘中であったユキコシ軍の背後へ突き刺さる…ユキコシ軍は一転、コーシュー軍とシンシュー軍に挟み撃ちされる構図になっていた。

 

 「こちらアルソミトラ!ジンザモと地下要塞のシンシュー軍が動き出しています!」

 

 詰みーその2文字が、ユキコシ軍の幕僚の脳裏をよぎる。

 

 「あたしが出るわ。フジナドのシンシュー軍は勢いに乗っているだけで少ない!時間を稼ぐから混乱を立て直して!」

 

 ホープ団陸軍大将のハッカが駆け出していく。

 

 「やられたなっ…!/それにしてもどうしたのかしら…?」

 

 「私としたことが、龍神を舐めていました。」

 

 身体のあちこちに包帯を巻き付け、点滴を引きずりながら、ウコンジムのジムリーダーカタクリが姿を見せる。

 

 「道がないから来られないだろう。レックウザは奥の手として温存しているのだろう。…そう思っていましたが違いますね。

 

 レックウザによって、空から山に道を拓く…そうすれば、半日でも山越えが達成できる。

 

 私としたことが、神格を見くびるとは…」

 

 それはまさしくチート(反則)。インフラやロジスティクスという概念への冒涜。邪魔な山も森も、遥か成層圏から消し飛ばせばいい…暴威そのもの。それによって峠道を、街道を広げ、フジナドシティからジンザモシティを打通し、戦時中どころか平時でもありえない山脈の超速踏破を成し遂げたのだ。

 

 峠道から駆け降りた、1000mを超える標高分の位置エネルギー。その勢いのままになだれ込んだフジナドシティシンシュー軍に、ユキコシ軍はたじたじ防戦一方だ。

 

 そんな戦場の一角、ミミッキュを肩に乗せた老練な紳士が、半ズボンの女と向かい合っている。

 

 「ホープ団陸軍大将、ハッカ、でしたか?

 

 私はフジナド大学のレンゲと申します。フジナドのジムリーダーと言った方がわかりやすいでしょうか?」

 

 「いんや、もっとわかりやすい言い方がある。

 

 あたしが倒せばいい相手、この学生やら義勇軍やらの総大将、そういうことでしょ。」

 

 パチン!指を弾く。

 

 【オオニューラの フェイタルクロー!】

 

 -ホープ団は手段を選んだりしない。かつての反体制ゲリラ組織としてのころよりはおとなしくなったが、それでも彼女たちの倫理は「勝てば官軍負ければ賊軍」以上でも以下でもない。ゆえにハッカの相棒は、悠々と会話に興じる老教授の背後へ毒手を差し込み。

 

 そしてそれは、影によってからめとられていた。

 

 「『かげうち』ご苦労様ですミミッキュ。

 

 …私は音楽家であり、学者でもあります。相手を分析し研究することも、会場、演奏仲間、観客、それらを事前に頭に入れて演目を考えておくことも…汚い手も想定のうちですよ。

 

 さて、お行儀の悪い生徒には教育が必要ですね。…ラウドボーン。オーバーラップです。」

 

 「こんな18禁同人作家を捕まえて、行儀の悪い生徒とは大胆な教師様もいたものよね。

 

 オオニューラ、奴を歌わせないでちょうだい!」

 

 オオニューラが地面を駆け、ラウドボーンGXへと迫る。

 

 【オオニューラの じごくづき!】

 

 ゴスッ!重たくもどこか気の抜けた音とともに、そのじごくづきは阻まれた。頭のホネで突きを受け止めたのだ。

 

 「悪いですが、GXオーバーラップによってこちらのほうがすばやさは上ですよ。

 

 さらにこちらには、我らが寿ぎ(言祝アリア)がついていますから…ね!」

 

 レンゲは指揮棒を取り出して大きく振り。

 

 【ラウドボーンGX(祈声)の りんしょう!】

 

 大きく、骨の空洞から高音が響く。追随するように、レンゲの肩の上のミミッキュもまた、被り物の下から僅かに顔を覗かせ。

 

 【ミミッキュGX(祈声)の りんしょう!】

 

 そして合唱は、レンゲのポケモンだけではない、隣へ、その隣へ、戦友から戦友へ、伝播していく。

 

 「これは…『シンシューの国』!?」

 

 気づけば、オオニューラは倒れ伏している。ボールに戻して、代わりにトドゼルガを出すー出したと同時に戦闘不能になる。

 

 自身も耳鳴りを催しながら、ハッカは気付いていたー完璧に調律され途切れない多重りんしょうは、既に、並のポケモンでは近寄って攻撃するまで保たない威力になっている、と。

 

 (遠距離攻撃か、「ぼうおん」持ちか…!そうでなくては無理ね…!)

 

 退くしかない…同じ結論の者が、後方にもいる。

 

 「お姉ちゃん、あの『りんしょう』を止めない限り、私たちじゃ勝てないよ。」

 

 「カグヤ、わたくしにもわかりますわ。遠距離からでも突破力のある戦力は…」

 

 それがあれば、先程のキョダイマルヤクデGX戦に投入できている。とかく、コーシュー軍との連戦で消耗しすぎた。

 

 「ないことはないけど大した戦力にならない…結局近寄られたらやられるだけだしね…」

 

 それは「ぼうおん」持ちにも言える。ここには数万人のトレーナーの数十万のポケモンがいるが、その中のぼうおん持ちなど1000に満たないだろう。それで一万以上のポケモンの大群りんしょうを止める?圧殺されるのがオチだ。

 

 令嬢姉妹は舌を巻かざるを得ない。言祝アリアは、彼女の束ねたシンシューは、彼女が連れてきた軍勢は、ここに現れそこにいて動くだけで多くの人々と3つの地方の命運を揺さぶったのだ。

 

 「…なるほどアイドル(偶像)か。例えるなら、尊き皇帝として人々を跪かせるような天性。握手しただけで支持者にする優れた政治家のような研鑽。/美貌、振る舞い、そして声…生まれついての才を持つ者が努力を重ねた末にある、あれは魅了の怪物ですわね。」

 

 血筋と財力だけでは届かない境地ーそういうことだ。

 

 「ユキコシのみなさん!ここは退きますわよ!」

 

ー*ー

 

 ユキコシ軍の撤退…それは、ユキコシ軍との決戦でシンシュー地方を奪い取ろうとしていたコーシュー軍にとって望外の慶事…そのはずだった。

 

 あまりにもタイミングが悪すぎた、その一言に尽きよう。開戦前の検討では、ユキコシ軍にさえ勝利すれば虚弱で分裂気味のシンシューなど素手でも征服できるはずだったがそうはならなかったし…しかも現在、彼らの若き総大将は歌姫アリア・カナサシと絶賛戦闘中であり...なお間が悪いことに、ユキコシ軍を退けたフジナドのシンシュー軍だけではなく、回復を済ませたジンザモのシンシュー軍と地下要塞のシンシュー軍が迫っていた。

 

 3方向からすり潰されそうなこの凶時、もっとも頼りになるはずだった3人の四天王はと言えばエースポケモンを先ほど倒され回復しきっていない。国力も技術力も不足している中で兵站を遮断された遠征軍ともなれば、ガタが来ていたのである。

 

 北のジンザモ方面からは、3日の籠城の鬱憤を晴らすかのようにジンザモ市民とそのポケモンたちが。

 

 西の地下要塞方面からは、四天王3人を倒し自信を付けたジムの精鋭のポケモンたちが。

 

 東からは、勢い絶頂にあるフジナド市民・学生のポケモンたちが。

 

 濁流のごとく押し寄せ、蝗害のごとく攻め荒らし、逃げ場はなく…こうなってはどんな防御陣形も意味をなさない。

 

 かくてコーシュー軍は、列島史上最凶の軍事国家は、すり潰されるようにして、ついに圧壊を始めた。

 

 …だが、彼らにもまだ、最後の希望が残っている。そう、伝説ポケモンのタッグチームGXという超常戦力を抱えた、彼らの若き総大将だ。

 

 「ここで退くわけにはいかぬし、退く理由もない。

 

 まとめてかかってこい、2人の偶像。シンシュー地方などという幻想ごと、粉砕し、征服してくれるっ!」

 

 龍神レックウザの背から飛び降りるなり、言祝アリアは応える。

 

 「まとめてかかる?

 

 あなたごときにレックウザは不要です。伝説ポケモンであっても『禁止級』なだけでポケモン…バトルで勝てない道理などありません!

 

 イーブイ!アシレーヌ!ラプラス!チルタリス!チラチーノ!イワパレス!クライマックスと参りましょう…オンステージ&オーバーラップッ!」

 

 投げられる6つのモンスターボール、その隣で、枯れかけの声ながらも立つ、ボロボロの仲間がいる。

 

 「まだやれるわよね?サーナイト!」

 

 ここに、シンシューのツートップが、伝説ポケモンのタッグ相手に並び立った。

 

ー*ー

 

 (…耳栓、イヤホン…それらをしている様子はないのに、私のアイドルとしての「魅了」を弾いている…驚きました。

 

 歌姫さんはもともと仲間だから干渉が弱い…それ以下ということは、本当に人の上に立つために生きている、頂点意識の塊…としか、考えられません。)

 

 人々の希望となり願いの核となることで、ファン(信者)にとっての神に至る、アイドル。

 

 人々を従えて国を統べる頂点として生きようと、頂点の資格を示すために神たるゼクロム・レシラムすら従えた、コーシューの王。

 

 正反対であり、そしてそれがゆえに、2人はぶつかる運命にある。

 

 「弑せッ!クロスサンダー、クロスフレイム!」

 

 【ゼクロム&レシラムTagteamGX(呪歌)の クロスサンダークロスフレイム!】

 

 迫るのは、すべてを焼き切り燃やし尽くす、電撃の龍腕と業火の龍腕。

 

 「チルタリス、ミストパージッ!」

 

 「サーナイト、サイコキネシス!」

 

 ドラゴンに効果抜群な妖精の霧で自分たちを覆い、サイコパワーで無理やり制動をかけ…それらをものともせぬかのように、ゼクロムとレシラムは突っ込んだ。

 

 イワパレスが、攻撃を受け止めようと飛び出し、岩殻を粉砕されて吹き飛ぶ。多少弱められた電撃と猛火は、他の5体を襲った。

 

 (…М(メガ)チルタリスEX・GX専用ワザ「ミストパージ」は仲間の回復ワザでもあります。私と歌姫さんがバフデバフを掛けているぶん、まだ戦えるはず…!)

 

 「らいげき!あおいほのお!」

 

 ゼクロムとレシラムを中心に、紫電と蒼炎がズドンズドン空から降り落ちる。

 

 慌てて逃げ出すポケモンたち。だがそれを追うように、雷炎の驟雨もまた広がっていく。

 

 (電気と炎の、結界…!どうやって攻撃を届けさせれば…?いや、そもそもゼクロムとレシラムが何をしているか見えない…!)

 

 「サーナイト、ムーンフォース!」「アシレーヌ、ラプラス、ハイドロポンプです!」

 

 攻撃を指示しながら、駄目だろうと2人のアリアは予感していたし、実際そのとおりになった。雷炎は攻撃を呑み、わずかな水蒸気爆発で終わる。

 「なら、みんなの力をあわせて!りんしょうッ!」

 

 「サーナイト、りんしょうッ!」

 

 7体のポケモンGXの、完全に旋律の揃ったりんしょう。共鳴しあう音波が、空気分子の運動エネルギーが、張り叩くような音圧として集束する。

 

 (見え…いや、これでも駄目ですかっ!)

 

 「お手上げか?

 

 手品のタネもないのなら、これで終わりだな。

 

 GXワザだ!」

 

 バチバチと、大気が絶縁破壊される音。

 

 焔の温度が上がって無色透明になり、上昇気流に巻き上げられた砂嵐によって空が濁っていく。

 

 「来るわ...!」

 

 ゼクロムとレシラムの姿が、陽炎の向こうにおぼろげに現れ。

 

 2体が、腕を振り上げ、纏った絶大な力を集束させていく。

 

 【ゼクロム&レシラムTagteamGX(呪歌)の クロスブレイクGX!】

 

 ー空の青も太陽の光もすべて塗りつぶし覆い隠す、莫大な光量。

 

 ー遠くキタカミまで響き渡る、大気圏をつんざく電気の轟音。

 

 ー火災旋風が巻き上げたすべてが瞬時にプラズマ化する、半径数百mの大気を数千度に加熱する、熱量。

 

 つまるところ、そこには顕現したのはただ「破壊」のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*ー

 

 「来るわ...!」

 

 ゼクロムとレシラムが腕を振り上げ、紫電と蒼炎を以てキロトン級のインパクトを引き起こそうというその時。

 

 2人のアリアは、いよいよ打つ手が本当にないことに、くじけてはいなかったがひたすら焦っていた。

 

 (龍神様にもう一度戦っていただいて…いえ、ゼクロムとのタイプ相性が悪すぎるわ。サーナイトと、コトホギさんの6体で解決するしかない。)

 

 だが、「らいげき」「あおいほのお」で作られた結界を抜く方法も、まもなく来る絶大なGXワザに抗う方法も、手持ちのポケモンとワザでは思いつけない。手詰まりだ。

 

 「…歌姫さん。

 

 こうなったら、ぶっつけ本番、一か八か、それしかありません。」

 

 アイドルの魅了力による強制力を伴う声、だがアリア・カナサシは首を横に振る。

 

 「タッグチームGXにはタッグチームGX、そう言いたいんでしょ?

 

 開戦前に、リンダウに話を聞いて、12体全部の組み合わせを試した。それで、うまくいかなかった。

 

 ポケモンの種類の相性が悪かったのか、それとも単に個性とか実力の問題なのか…無理よ。」

 

 ゼクロムとレシラムだから強い、ポケモンGXだから強い…それだけではなくタッグチームGXとしてお互いを高め合っているから手が付けられない。ならばタッグチームGXをこちらも出すべき…だが、2人とも、自分たちの手持ちでは巧い組み合わせがないのを知っていた。

 

 「はい、それは知っています。私たちの12種類のポケモンではタッグが成立しない…

 

 …でももう8種類増やせます。特殊な8種類を。」

 

 (特殊な8種類…?…イーブイGXのGX特性「かくせいDNA!?」

 

 確かにそれなら…でもかくせいDNAによる一時的進化はGXオーバーラップ後にしかできないはず。タッグチームGXとしてオーバーラップするには…)

 

 オーバーラップ後に起きる一時的進化を、オーバーラップ前に起こさなければならない…

 

 「…多少の無茶はなんとかします。可能性を引き出すのがオーバーラップ技術、なんですよね?ならいけるはずです。

 

 歌姫さん、タイミングのあわせをお願いします。」

 

 (…ゼクロムとレシラムの攻撃が来るまで、残されたチャンスは一回…試せるポケモンの組み合わせは1つで、それがあたりかどうかは…)

 

 この稀代のアイドルが「なんとかする」と言うのなら、なんとかなるような気がする。ならば賭けるしかない…

 

 …言祝アリアが、片足だけかかとを上げて、GXマーカーを手に取る。

 

 「イーブイ、GXオーバーラップを解除してください!」「サーナイト、続いて!」

 

 ゼクロムとレシラムから、眩い閃光。

 

 【ゼクロム&レシラムTagteamGX(呪歌)の クロスブレイクGX!】

 

 目を開けていられない。だがもう、着弾まで猶予は数ミリ秒しかない。そしてタイミングは繊細…

 

 「イーブイ、ニンフィアにかくせいしつつGXオーバーラップ!」

 

 白熱の中、かかとが地面に叩きつけられる音。

 

 「サーナイト!オーバーラップしてGXワザ発動!」

 

 【イーブイは イーブイGXへ オーバーラップしている…】

 

 【メガサーナイトは М(メガ)サーナイトGXへ オーバーラップしている…】

 

 【イーブイGXの かくせいDNA!】

 

 地脈が震え、エネルギーが溢れ出し、可能性が重なり合う。

 

 イーブイ(ニンフィア)とメガサーナイトが オーバーラップしている…!】

 

 可能性が、膨らみ、重複し、併立し、共鳴し、さらに高め合い。

 

 サイコパワーとフェアリーオーラが互いに干渉し、複雑な光の屈折が万華鏡のように煌めいて世界を映しながら、一陣の風となって平原を流れる。

 

 М(メガ)サーナイト&イーブイ(ニンフィア)TagteamGX(祝歌)(祈声)の カレイドストームGX!】

 

 ーゼクロムとレシラムが放つ炎熱と電撃による、世界を破壊せんとするかのような、光と電荷と高温と衝撃の奔流。

 

 ーメガサーナイトとニンフィアが放つサイコパワーとフェアリーオーラによる、世界を美しく彩り映しながら穏やかに均すための疾風。

 

 2つの一撃は、衝突するやいなや、威力の隔絶している方が相手を呑み込み…

 

 …つまり、紫電と蒼炎が、莫大な破壊のエネルギーが、平原を焼き尽くし、後背の山々までも穿ち抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*ー

 

 ゲンシグラードンが闊歩したとてこうなるかは怪しいであろう…半ば崩れ去る山々を背景に、赤熱しところによっては溶融した平原。

 

 …だが、その中のわずかな、ほんの数十平方メートルの空間で、熱気の向こうに立つ者がいた。

 

 「サーナイト」

 

 「イーブイ、アシレーヌ、チルタリス、ラプラス、チラチーノ、イワパレス…」

 

 ー確かに、ゼクロムとレシラムの「クロスブレイクGX」は、純粋な威力では完全に上回り、メガサーナイトとイーブイ(ニンフィア)の「カレイドストームGX」を呑み込んだ…が、心や物の動きを操るサイコパワーと和らげるフェアリーオーラでできた風は、呑み込まれることで打ち消されることはなく、攻撃を受け流すかのようにして貫き、ゼクロムとレシラムまで届いていたのだ。

 

 攻撃を「カレイドストームGX」が受け流したのだから、その後ろにいた2人のアリアとポケモンたちも無事…どころか、次の攻撃をかまえる余裕すらあった。

 

 「いかぬ…!らいげき!あおいほのお!」

 

 「「りんしょうッ!」」

 

 ゼクロムとレシラムを、再び紫電と蒼炎が包み始める…それと同時に、7体のポケモンGXによる共鳴音波が到達。

 

 絶大な破壊によって乱れた大気は、電気や高熱の媒体として安定せず、ゼクロムとレシラムは「らいげき」「あおいほのお」を電焔の結界となせない。

 

 叩き込まれた共鳴音波は、旋律に起因する複雑精緻な振動波となってゼクロムとレシラムの体表に浸透、体内で共振し、分子レベルの波動となって内臓をシェイク。

 

 若き総大将の奥の手2体は、ここに倒れ伏すことになったのだった。

 

 戦場が、何度目かの沈黙、静寂に包まれ。

 

 …次の瞬間、どよめきと共に、コーシュー軍は瓦解した。

 

ー*ー

 

 結局倒されたとは言え、ゼクロム&レシラムTagteamGXの破壊力は絶望的なほどで…その後ろで戦っていたシンシュー軍とコーシュー軍はともかく、側面で傍観していたユキコシ軍は余波だけでも命からがらであった。

 

 「アオバ閣下、これは…」

 

 ゼクロムの莫大な電場が消えたことでやっと通信障害が回復し、レシラムの高温による上昇気流も消えて見通しが良くなり…そうして落ち着いてみれば、戦争の趨勢は明白なものとなっている。

 

 「勢いがノリに乗っているシンシュー軍に、コーシュー軍の逆襲はもはやできない…かしらね。」

 

 コーシュー地方は敗戦したのだ。完膚なきまでに。

 

 シラアイタウンの主たるホープ団大将モロコシが、重々しく、この戦況の意味するところを述べる。

 

 「シンシューに軍事介入して、人道危機を解決し、平和をもたらす…

 

 シンシューが1つに統合され、シンシュー軍がシンシュー地方を統べるとなれば、平和は戻るだろうな…」

 

 軍事介入の大義名分は、もはや失われた。賢い者はすでに、帰路について、あるいは全域を占領したシラアイ・ウコン両市の戦後交渉について考え始めている。

 

 「撤退…しか、ない…かしら…」

 

 蒼玻/アオバとカグヤは、そこで、すぐ隣へ視線を向ける。

 

 「…シラアイタウンはこれでいいみたいだけれど、ウコンタウンとしては、どう思われるのかしら?」

 

 シンシュー地方への進駐と軍事介入を求めたのは北シンシュー2都市。シラアイのモロコシは軍事介入の終了を示唆しているが、もう片方はどうなのか…?

 

 居並ぶトレーナーの歴々の注目が、1人に集まる。

 

 ところがウコンタウンのジムリーダーたるカタクリは…ただ、黙って、頷くのみだった。

 

ー*ー

 

 総大将の最後の奥の手たるゼクロム&レシラムTagteamGXは倒れ、四天王の3人はエースポケモンを倒され、コーシュー軍はシンシュー軍3部隊により圧搾され…

 

 コーシュー軍が、比喩ではなく音を立てて瓦解し、潰走していく…

 

 …そのただなか、コーシューの兵もポケモンも蹴散らし、平原の低空を爆走していく者が1体。

 

 「誰ぞ、あのメガリザードンを止めろ!」

 

 「奴はどこに向かっている!?」

 

 「わかるかよっ!もう俺たちの軍はシッチャカメッチャカに大混乱なんだ!」

 

 全軍が、すべての兵士とポケモンが、逃げる先もわからず混沌としながら壊滅に向かっている。一部の上級のトレーナーは配下をまとめようと頑張っていたが、直属の部下のトレーナーは止められても、無関係なトレーナーの無関係なポケモンの本能的な逃走などとても手に負えない。

 

 無人の野を行くがごとく、М(メガ)リザードンXGXが、背中にトレーナーを乗せて単騎でコーシュー軍を蹴散らしていく。

 

 「いけいけいけェ!かえんほうしゃ!ブラストバーンッ!全部吹きとばせェッ!」

 

 「き、貴様っ!ここは通さぬっ!

 

 カブトプスっ!」「ラムパルドっ、うちおとせっ!」

 

 「近衛…目標は近ェな!

 

 バシャーモ!露払いなんて砕いちまえッ!」

 

 【М(メガ)バシャーモGXの ムーンサルトブレイズ!】

 

 燃える豪脚が、カブトプスの甲羅を砕き、ラムパルドを荒野に沈める。それに目もくれず、主従は低空を疾走し続け。

 

 「曲者っ!」「若様を逃がせっ!」「誰だこの野郎っ!」

 

 ポケモンが次々と立ち塞がるのを、まるで轢いていくかのように倒し、そして彼らは目標へと到達する。

 

 「近衛だか旗本だか二十四将だか知らねェが、雑魚が多すぎるなァおい!」   

 

 血にまみれ死屍累々な天幕。横倒しになったドロバンコ。ひっくり返るカビゴン。

 「俺様はシンシュー地方ロクショウタウンが主、『ほのおのマルス!』

 

 若様、お覚悟ォッ!」

 

 地面に膝をついた若き総大将へ、マルスはМ(メガ)リザードンXGXの背から飛び降りながら刀を振り下ろす。

 

 「…ッ、この慮外者、全コーシューの裏切り者がぁぁぁっ!」

 

 コーシューの若き総大将は、とっさに軍配で刀を受け止め。    

 

 「ナゲツケザルぅっ!奴を倒せぇっ!」

 

 ナゲツケザルGXが、十数メートル背後からでんきだまをなげつける。

 

 「ウルガモスゥッ!」

 

 熱風が、でんきだまを吹き飛ばした。

 

 軍配に、キリキリと刀が食い込んでいく。若き総大将に、軍配から片手でも離して新たなポケモンをボールから出す余裕は、ない。

 

 「こんなしょうもない斬り合いでもいいが…

 

 …今なら動けねェよなァ!」

 

 「ちっ、しまっ」「焼き尽くせ、リザードンッ!」

 

 М(メガ)リザードンXGXの口が大きく開き、内部に猛火がチロチロと覗く。

 

 【М(メガ)リザードンXGXの…】

 

 (余も、コーシューも、もはやこれまで、か…!)

 

 若き総大将の耳に、崩壊していく自軍の喧騒が染み込む。

 

 若き総大将の肌を、攻撃前から漏れ出しているМ(メガ)リザードンXGXの熱気が焼く。

  

 若き総大将の脳に、コーシュー地方がシンシュー地方に負けたという事実、そして侵略と征服の国是に挫折したコーシュー地方の辿る道がよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンシューとコーシューの長きに渡る相克の、決着、それを。

 

 【グレイシアの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズイデアリー!】

 

 ユキコシ地方の、理想的かつ理論値的な雪撃が、感情ごと冷ましていった。

 

 「…今、のは…」

 

 凍てつくような風のおかげでほのお攻撃から免れた若き総大将は、呆然と軍配を取り落とす。

 

 「ユキコシ…ちっ、邪魔が入ったなァ…」

 

 刀を鞘に納めながら、マルスは顔を北に向けた。

 

 「…何が起こっていると言うのだ…ゼクロムとレシラムを治しておらぬ余には、気にしてもどうにもならぬが…」

 

 「こりゃ対処はうちのアイドル様と歌姫様しかねェ…というか、そこが狙い、だよなァ…」




 侵略者たるコーシュー軍の瓦解…誰もがこの戦争の終わりを感じていた。

 突然のカグヤ・フロックスの行動、それは何を意味するのか?

 「ですから、事前に言われた通り、変わりはない、ということですわね。」

 「ユキコシにとって正しい判断だって言うのかなんだよ…!?」

 「…なればこそ、このアオバ・フロックスが事をなすのですわ。」

 シンシューを巡る決戦は、ついに第4ラウンドへ移行する...!

 「さて、まだ俺たちに/わたくしたちに立ち向かおうという方、いらっしゃるのでしょうかしら?」

 次回、転生ポケモンアイドル第77話「第二次ジンザモ郊外決戦④ それは完璧で究極の令嬢」
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