アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ロクショウタウンのコーシュー地方服属離脱宣言に始まり、コーシュー地方のシンシュー4都市電撃侵攻、ユキコシ地方の「人道的危機からの解放」を口実とした北シンシュー2都市進駐…そして、言祝アリアの下でのシンシュー地方団結成立。
各戦線での思惑と奮戦のすえ、シンシュー、コーシュー、ユキコシの軍はジンザモシティ郊外にて雌雄を決することになる。そして激戦の末にコーシューの若き総大将と四天王は戦闘能力を喪失…
…だが、軍事介入の口実を失い撤退しようとするユキコシ軍から突如、総司令官たるアオバ・フロックスとその妹カグヤが離脱。言祝アリアとアリア・カナサシに襲い掛かる。
通常のポケモンをすべて倒され、どうする、2人のアリア...!?
ー*ー
「それは、どうでしょうか…?」
言祝アリアは、不敵に応えた。
直後のことだった。
雄大にして繊細な旋律が、護国の強い意志を込めた歌声が、稀代のアイドルの背後から流れ始めた。
「…!?
『シンシューの国』!しまったわ!」
十数万にも及ぶシンシュー軍ポケモンの「りんしょう」。相互に共鳴し増幅するそれは、敵対者が「ぼうおん」持ちでない限り拒絶する…そしてフロックス姉妹のポケモンはいずれも、ぼうおん持ちではない。
「間に合いました、コトホギさん!」
フジナド大学の音楽教授でもあるレンゲジムリーダーからの通信を聞き、言祝アリアは内心で胸を撫で下ろしていた…強気に見せかけていたが、実際、コーシュー軍壊滅を終わらせるまで疲労し弛緩しその上でフロックス姉妹に襲撃され動揺したシンシュー軍が、集団りんしょうを成功させられるほど体勢を立て直せるかは、ギャンブルだった。
フロックス姉妹のポケモンが、バタバタ倒れていく。もともとダメージが蓄積していたところに、決定的なダメ押しだった。
ー*ー
お互い、ポケモンたちは死屍累々の有様である。それどころか、フロックス姉妹は生身にも集団りんしょうのダメージを受けつつある。
ことここに至って姉妹は、健在なたった1体を除きすべてのポケモンをボールに戻した。集団りんしょうに長く耐えられない並のポケモンなど、出していても回復させてもただただやられ損なのだ。
「そちらもこのつもりで、レックウザを温存してきたのかしら?
わたくしと貴女方の頂上決戦なのですから、やはり超常の力を存分に振るい、有象無象を寄せ付けぬ圧倒的な戦いをするべき、ということなのですわよね?
巻き込まれたならごめんあそばせ。
ディアンシーッ!!」
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・アクセラレーション!】
時間加速を帯びたナノダイヤの竜巻が、2人のアリアを…そしてその背後のコーシュー軍を襲う。2人のアリアは左右に走ったが、コーシュー軍はそう簡単な話ではない。
ダイヤストーム・アクセラレーションの風速は相対的には超光速。そこらのポケモンになんとかなるものではなく、それでいてダイヤとそれを囲むストームが等速であるため摩擦熱による損耗もしない。…数ミリ秒でもダイヤストームの中に呑み込まれれば、数年から数万年もの間ダイヤストームをくらい続けることになる。…本能的に危険を察知し、ポケモンたち、それどころかトレーナーも、イトマルの子を散らすがごとく逃げ出した。
ちょっと竜巻を振りかざして脅すだけで崩壊した集団りんしょう…それにはフロックス姉妹も2人のアリアも目もくれない。時間加速などという超常の力の前に、そうなることは明白だったから。
…だから、超常にぶつけるべきは超常、神格だ。
「歌姫さん、レックウザを!」
アリア・カナサシは、かぶりを振った。
「それをするのは、貴女よ、コトホギさん。」
「…えっ…」
「これは神託でもなんでもなくただの直感だけど…
…私は一度、アオバ・フロックスとディアンシーのあの力に絶望して、そして貴女に希望を取り戻した。だから…」
ーこの頂上決戦に立つのにふさわしいのは、誰か?
「コトホギさん、貴女こそが、私たちの、希望の旗印なのよ!」
「話し合いの時間は終わりですわよっ!」
ダイヤの渦が、2人に迫る…答えは、決まっていた。
【
「…はい。であればこの舞台のセンター、この言祝アリアが承ります…
オンステージ&オーバーラップ、レックウザ!」
“「応えようぞ、新時代の巫女よ…!」“
【
高空より撃ち下ろされた円錐形の巨大な空気弾が、ナノダイヤの竜巻へと衝突する。
時間加速領域へと食い込んだ空気弾が、竜巻を歪ませ、そして食い破った。
ー*ー
無数のナノダイヤが散乱し、キラキラ輝く平原で。
「…1つお忘れのことがあるとすれば。
ディアンシーはいわタイプとフェアリータイプ。ひこうタイプとドラゴンタイプのレックウザでは、どうあっても不利ではなくって?」
精神的動揺を誘うためのそんな言葉に、言祝アリアは苦笑さえした。
「もう手口はわかっていますよ。
…それに、楽屋裏で妬み嫉みで余計な口を聞くライバルなら、いくらでもいましたから。
りゅうせいぐんっ!」
【
ドラゴンわざはフェアリータイプには効かない…などと余裕ぶっていられないのが現実である。宇宙から降り注ぐ赤熱した石礫は、当たれば無事で済む代物ではないーもちろんトレーナーもだ。
「ちっ、ダイヤストームですり潰せっ!」
とっさに指示が飛び、流星は地面に衝突する寸前でナノダイヤに粉砕された。
(…今、アオバさんの口調が…)
「こっちの番ですわよ!/ムーンフォース!」
デュアルメガシンカは、メガシンカの2乗としてポケモンの権能を拡張しているだけではなく、単純に強化もしている…それだから、ムーンフォースもまた、やたらと太く、やたらと輝いていた。しかもビーム攻撃にありがちな空気中での減衰もほとんどなさそうである。
こちらもまた、当たれば無事では済まない…しかも効果抜群だ。しかし言祝アリアに言わせてみれば、真面目に相手をする必要がない。
「かわしてくださいっ!」
スルスルと、白き龍神が空を這う。飛跡を追ってしばらくムーンフォースが空を薙いだが、詮無きことに終わった。
「エメラルドブレイクです!」
【
龍神の顎が閃光したかと思うと、山をも穿つ空気弾が発射された。
「避け/いえ無理ですわ!一刀で斬り捨てますわよ!」
【デュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!】
ピンクに光るダイヤの細剣がすらりと出現し…一瞬を切り取るような繊細なタイミングと、一点に全身全霊を込めた威力で、空気弾を斬り裂く。
はるか後ろで、斬り捨てられ逸れた2つの空気弾が森を吹き飛ばす音がした。
ー*ー
【
たった2人の頂上決戦をそばで眺められるのは、2人にとって唯一無二の仲たるカグヤ・フロックスとアリア・カナサシのみ…
…ではない。
ー「こけおどし!ですかな!ガリョウテンセイは防がれはしても!防がないという選択はありえませんので!」
アリア・カナサシの胸ポケットに刺さったスマート端末のカメラが、ズームしながらデータをネット上へ送信する。
【デュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!】
ー「なるほど?出方を探るにはそれで充分、さらに攻撃に代替する時間も削れる、と。」
人工衛星の高性能カメラを操りながら、ネット空間上にのみ生きるもう1人の存在が応えた。
ユキコシ地方の悪の組織ラスト団のボス、クワズ。
シンシュー地方エクリプスタウンのウルトラマッドサイエンティスト、Dr.バックレア。
紆余曲折の末に電子世界に意識を移した悪の狂人2人は、あっちこっちをハッキングして目と耳を得、戦場を観戦している。もしかしたら、俯瞰視点がある分2人がもっともこのバトルを理解できているかもしれない。
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム!】
おっかないダイヤの竜巻から逃げる
ー「これほど膠着するとは!思いませんでした!時間の権能と宇宙の伝説!バチッとぶつけあって一撃で決着と!思っていましたので!」
ー「なにしろデュアルメガディアンシーには制約があるからな。難しいのだろう。」
ー「制約!と申しますと!?」
ダイヤの竜巻に身を包むデュアルメガディアンシーへ、りゅうせいぐんが浴びせかけられる。
ー「デュアルメガシンカも、その結果得られる時間操作も、特殊な条件で魂を振り絞って行うものだ。なにしろ誰にも代替不可能なくらいだからな。
スタミナ勝負も回数勝負もできない。時間操作に至っては、死ぬ気で4回、いいとこ3回が限度だろう。…この場にゼルネアスがいれば話は違うが。
現に余裕がなさすぎて二重魂魄を隠しきれておらん。
むろん、一回使えば神格ポケモンであろうとねじ伏せるだけの威力はある。そもまぼろしのポケモンからして、神話なき伝説ポケモンのようなものだしな。が…」
ダイヤストームの殻に引きこもってしまったデュアルメガディアンシーを、白き龍神は遠巻きに睨んでいた。お互い迂闊に近寄れないというわけだ。
ー「レックウザのほうが素早い…ましてGXオーバーラップ化ですからな!しかも!レックウザという神格は時間操作への相性が…あくまで形而上での話ではありますが!」
ー「宇宙に棲み、地上の争いに対して介入する…そういう性質の神格であるからして、ディアンシーの『時間スケールの変更』へ潜在的な優位があるということか。」
デュアルメガディアンシーの時間操作とは、数秒という生物的時間とダイヤモンドができるまで数百万年規模の地質学的時間を行き来できるところに本質がある…が、地質学的な時間スケールより宇宙天文の時間スケールのほうが長大かつ壮大な現象だ。
ー「グラードンとカイオーガすなわち!大地と海洋というまさに地学的な争いを!レックウザという宇宙的神格は超越して裁きを下す!
ならば地質的スケールの上位に宇宙的スケールがあると!少なくとも神格的記号としてそういうものならば!ディアンシーはレックウザに上回られてしまうかもしれません!」
ー「アオバ嬢は時代の傑物だ。わかっているのだろうな、場面を見極めなければ、時間操作という回数制限つきの切り札が無駄になりかねないことを。」
お手並み拝見…そんな会話が電子空間で行われているさなか。
頂上決戦は佳境を迎えていた。
ー*ー
デュアルメガディアンシーと
不利な点とは、それ以外のほとんどすべてだ。
デュアルメガシンカとはメガシンカの2乗。メガシンカした上でGXオーバーラップの能力2倍を受けている
その気になれば宇宙から攻撃し続けられる、それがレックウザというポケモンであり、現にデュアルメガディアンシーは高空でとぐろを巻く龍神を見上げるしかなくなっていた。
(メガシンカの原作描写では、ポケモンや人に負担がかかるような描かれ方がありました。だからトレーナーは一度のバトルで2度メガシンカさせられないだとか、逆にポケスペでは5体同時のメガシンカによる負荷だとか…
ましてあのメガディアンシーは異常です。となれば負荷も大きいはず。いずれタイムリミットが来るはず…)
だんだんと夕焼けが薄れ、空が暗くなっていく。
ふいに、アオバ・フロックスがガクンと膝をついた。
「お姉ちゃん!?」
「…っ、そろそろ決着を…/つけなきゃな…!
ディアンシーッ!」
【デュアルメガディアンシーの…】
「来ますレックウザ!」
デュアルメガディアンシーの合わせた両手の間がピンクに輝き。
人の背ほどもある巨大なダイヤモンド。それが、威力と射程の問題に対する回答だった。
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・アクセラレーション!】
亜光速で発射された、ピンクダイヤの巨砲弾。あまりに大きいそれは摩擦熱で蒸発しきることなく、回避不可能な圧倒的速度と貫通力、熱量、運動エネルギーを以て空に輝線を描いた。
…もっとも、回避不可能というのは、発射を見たときには着弾しているという意味であり、発射前から回避していればその限りではなかったのだが。
【
【
ピンと伸ばした己の身体を槍とし、纏った空気を鏃とし、龍神の神撃が大気圏を突き抜ける。
ピンクダイヤの巨砲弾と龍神自らの空槍がすれ違い、お互いの衝撃波が交錯して成層圏に真空を生み、爆音…その時にはもう、ピンクダイヤは宇宙へ達していたし、そして龍神は地上へ着弾していた。
土壌が蒸発し、地盤どころか岩盤まで達した衝撃がジンザモ一帯に地震を起こし、土煙どころか熱土の爆風が吹き抜け。
溶融でガラス化した十数メートルのクレーターの上で、ゆっくりと龍神はとぐろを巻いた。
乾坤一擲の巨砲弾発射のその隙をつく…裏をかいたつもりの言祝アリアの策のそのさらに裏を、蒼玻/アオバはかいていた。
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・ディセラレーション!】
膝をついてしまうほど、体力が限界?-確かに体力も気力も限界だが、膝をついたのは、追い詰められていると見せかけるために過ぎない。
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム!】
魂が2つあるということは、同時に物事を表裏両面で考えられるということーしかもディアンシーも知能が高いポケモンだ。知力勝負で不利なのは当然であり…そしてそれに気づいていなかったツケは極めて大きかった。
龍神の槍の衝撃を
そして減速領域の解除によって撃ち出されたダイヤストームは
言祝アリアのすぐ横の地面を、白き龍神が突き飛ばされて抉った。