アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
(やはり、おかしいです。)
言祝アリアは、すぐ横に
まず、この白き龍神が突き飛ばされてくるにあたり、明らかに、言祝アリアを巻き込まないようにダイヤストームの角度が調整されていた。
思い返せばずっとそう。龍神そのものがデュアルメガディアンシーから射程範囲外にあっても、言祝アリアは射程内にいたのだ。なのに、一度も攻撃されなかった。それどころか今回は巻き込まないよう気さえ使われた。
(侵略のためならそもそも、私の安全に気を使う必要などないはずです。お嬢様だからフェアに…というほど手段を選ぶ余裕はないでしょうし。)
それに…アイドルとしての彼女の卓越した聴力は、もう一つの不審な点に気づいていた…バトルが始まってから、ディアンシーがデュアルメガシンカしてから、アオバの口調が安定しないのだ。
(…ファンの前では人が変わるアイドルがいました。まるで彼女のような…)
しかしそれでは腑に落ちない。
(場面によってキャラを切り替える人間は少なくない…けれど、あれほど激しい切り替えをコロコロ繰り返す理由も必要もありません。それに、切り替えようとしてしたというよりは…)
…まるで、そちらのほうが本当のアオバ・フロックスで、バトルで余裕がなくなってそうしているかのような。
(…さぐりを、入れてみましょうか。)
すでに、白き龍神は土埃を振り払い浮かんでいる。
「レックウザ!上へ!高く!」
音速の壁が突き破られる轟音…そして、白き龍神は夕焼けと星空のあわいへ消えた。
「ディアンシー、来るぞ…/備えはよろしくって…?」
ダイヤの細剣を消し、デュアルメガディアンシーが構え直す。隙のないその体勢と、目を細めて空を見上げる蒼玻/アオバの姿に、言祝アリアは自分の直感が正しかったことを悟った。
数分の静寂。風すらも、遠慮したかのように沈黙する。
ふと誰かが、空の1点を見上げる…流れ星?いや、違った。
ゴウゴウ、大気圏を破壊する音とともに、空に輝点が現れた。
【
宇宙から、巨大な槍となって龍神が堕ちてくる。
「…今だっ/ですわっ!」
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・ディセラレーション!】
時間減速の竜巻が、龍神を受け止めた。
宇宙から落ちて地上へ下される天罰と、地質学的なスケールで起きる現象を生物的なスケールに落とし込む天文学的時間圧縮。壮大な2つのスケールがぶつかり合う。
ー*ー
爆風。
極めてスローモーションながら、傷だらけの龍神がデュアルメガディアンシーから離れていく。
「…やっちまったか…/もはや詰みかけですわよ…!」
クワズとバックレアの予想よりは、蒼玻とアオバは健闘した。長時間のデュアルメガシンカと4度の時間操作に及びながら、まだ立てているからだ。…だが2つの魂を宿すその脳は悲鳴を上げ、きしむ意識は気を抜けばすぐにでもシャットダウンしてしまうだろう。5回目の時間操作?命にかかわる。論外だ。
(それに…レックウザが宇宙へ飛んで戻ってくるまでの数分、彼女を攻撃する余裕があったのに…
/…シンシューの求心力になったアリア・コトホギを万一殺せば、シンシューに早期に統治を確立することは不可能になりますわ。問題は、その縛りをおそらく見抜かれたこと…!
/アオバちゃん、今の状態じゃどうしようもない。時間操作なし短期決着はできそうにないし、こっちの縛りプレイを見抜かれたんならレックウザを遠ざけられて時間稼がれて終わりだ。
/引くしかない、と?…レックウザを倒せてもわたくしたちが力尽きて敵中に孤立するわけにもまいりませんし、道理ではあるのかしら…けれど、アリア・コトホギがそれを許すと思いまして?)
ーそんなわけがない。こちらの弱みは今や筒抜けだと考えた方が良い…それが2人の結論である。
(…済まないが、少しは痛い目を見てもらうしかなさそうだな。/同感ですわ。それはそれで繊細な攻撃になりそうですけれど…)
「ディアンシーッ!/突撃ですわっ!」
【デュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!】
複雑な事情と綿密な計算のもと、ダイヤモンドの細剣を振り抜きながらデュアルメガディアンシーは突進し。
「レックウザ、避けてっ!」
言祝アリアの予想と指示を裏切り、剣閃は白き龍神から逸れ。
言祝アリアのアイドル衣装は無惨に裂かれ、そして頬に一筋、血が奔った。
ー*ー
言祝アリアが並のアイドルであれば、衣装を裂かれる、顔に傷をつけられる、どちらであれ立ち直れないほどのショックを受けていただろう。
あいにくそうではなかった。アクシデントもケガも場数を踏んでいたし、肩と太ももが剥き出しになった裂かれ方や頬の血もまた自分の魅力になると気づいていたし、ポケモンに治癒を頼めば傷など消せると信頼していた。
だから、「ビビって屈伏してくれればもうけもの」という蒼玻/アオバの企みは言祝アリアを過小評価したものだったのだろう。
(私を倒そうとしているというよりは、怖がって遠ざかって欲しいという攻撃…)
「大丈夫!?コトホギさん!」
言祝アリアが普段どれだけ顔と服に気を使っているか知っているアリア・カナサシが、慌てて走り寄った。
「大丈夫です。それと…
…歌姫さん、手を抜きました。」
白い素肌に垂れる真っ赤な血…それに目を奪われていたアリア・カナサシの意識を、衝撃的な一言が引き戻す。
「…えっ?」
「私だけじゃないです。きっと彼女も…」
「…BREAKワザを切っていないとはいえ、あちらも必死に見えたけど?」
「いえ、このバトルの話だけの話ではなく…
…例えば、レックウザではなく私を直接狙ってもいいんです。そういう無法が…やろうと思えばいくらでもできたはずなんです。」
「言われてみれば、そうだけど…戦争なのにフェアプレーをする必要はないけれど…でも…」
「彼女なりに、きっとこの世界を愛しているのかもしれません。
だって、すべてがストンと、腑に落ちそうなんです。」
どうしてユキコシ地方がシンシュー地方へ軍事侵攻してきたのか。
どうしてユキコシ軍撤退開始の中で、フロックス姉妹だけが反転して攻め込んできたのか。
アオバ・フロックスに感じる違和感と手加減の理由は何か。
「私たちに必要なのは、ですから…
…すみません歌姫さん、セトリチェンジです。」
言祝アリアは、そう言って胸ポケットから端末を取り出し、マイクボタンを押した。
「ライブ再開と致しましょう。」
ここからは、龍神のトレーナー言祝アリアではなく、アイドル言祝アリアの本領発揮の時なのだ…アリア・カナサシが悟ると同時に。
「レックウザ!ここでGXワザですっ!」
暴風が巻き起こった。
ー*ー
【
それは、天空の神として竜巻を引き起こし、敵味方の攻撃すべてを呑み込んで戦場をしっちゃかめっちゃかにし、自らのエネルギーへ変換するGXワザ。エネルギーの媒体たる大気を掌握するワザ。
旋風はフロックス姉妹をも包み込み、砂塵ですべてを覆い隠して平原に屹立する。
「お姉ちゃん!」
どこから来るかわからない、気をつけろ…カグヤに口にされずともそりゃそうだ。
伸ばした手の先すら、砂塵で見えない…左腕で目を庇いながら、蒼玻/アオバはパートナーを呼び寄せた。
「わかってますわ/ディアンシー、こっちへ。」
ザワザワと風にかすれて、声が返ってくる。
「ええ、でしたらこれも、理解していただきたいものです。願わくば。」
「なんのことだ?/違いますわよ蒼玻くん!」
その声がディアンシーからの応えであるはずはないーまぼろしのポケモンらしくテレパシーを使えるのだから。
“「お2人とも、私は無事です、ですが…!」“
砂塵を透かす、ピンク色の輝き…それを背景にして、人影が見える。
(しまった…っ、ディアンシーと俺たちの間に/わたくしたちの間に、入られましたわ…!)
もし言祝アリアが肉弾戦に持ち込むつもりなら、ステージの上で踊り舞うためのレッスンで鍛えたアイドルに、ひ弱な令嬢が敵う道理はない…姉を傷つけさせまいと、カグヤが一歩前に出る。
だが、その後に起きたことは、姉妹令嬢の予想を超えていた。
「■■■■■♪」
その曲の歌詞を聴き取ることすら、アオバの魂にはできない。このポケモン世界には存在しない言語ゆえ、フォーマットが違う。
(あら、知らない、歌…?/な…こ、れ、は…)
ゴウゴウと暴風が鳴る中でも、不思議とその声は澄み渡って聞こえ、そして蒼玻の魂だけに響いていた。8年前、転生前の記憶を呼び覚ますかのように。
(どうしたのかしら蒼玻くん…?わたくしたちに「魅了」は効かないですわよね?/いや、俺は、この歌を知っているんだ…)
覚えのない言語で紡がれる、故郷への歌…ポケモン世界にまったく似つかわしくない歌。それを記憶の奥底から思い出せた者が、ただ1人だけ。
彼ですら意味は知らない。だが、当時開戦したばかりの…侵攻されたばかりの国のニュースで、聞いたことがあった。
「どうして、その歌を、今、選んだんだ?
ウクライナ国歌を。」
ビクッ...蒼玻/アオバ・フロックスの瞳は、片目だけ大きく震えていた。
「…確か、蒼玻くんの前世の国、でしたわね。転生者.../間違いなく、そうだと思っていたが…
…ここシンシューと同じ、軍事侵攻を受けた国だよ。」
はっと、アオバが息を呑む。…あてつけでそのチョイスをするほど無駄好みでもあるまいから、その暗喩するメッセージ性たるや。
一番が終わり、そして言祝アリアは問う。
「答えてくれますか?
あなたは、私と、国際正義と平和について、価値観を共有できるのですか?」
ー*ー
かかった…!ー言祝アリアは、ただ一曲をそばで歌うため、メッセージを届けるためだけのGXワザの成功に、そして自分の妄想じみた推測が正解でありそうなことに、音程を上ずらせそうにすらなった。
「私の知る限り、メガシンカにさらなる強化はありません。だいいちそのメガディアンシーはダイマックスでもテラスタルでもありませんし、BREAK進化とかいうものでもないでしょう。」
ポケモン原作にも、このポケモン世界に転生してからの経験にも、デュアルメガディアンシーは当てはまらない…リザードンのようにメガシンカのアナザーバージョンがあるという話も聞いていない。
「後は、アカツキガチグマのように特殊個体であるか、あるいはトレーナーが特殊であるか…それしかありません。」
ポケモンオタクである言祝アリアは知っているーディアンシーはメガストーンを自作する。映画ではそうだった。よってメガストーンは弄れない。…そしてメガシンカ前のディアンシーは通常と違いが見受けられない。
「バトル中の、あなたの二重人格かのような言動…そしてメガシンカのおそらく属人的な異常さ、まるで二重に重ね掛けしたかのような…ということは、二重なのは人格というより魂、ですか?」
蒼玻/アオバは応えない。応えられない。そこには、本物の転生チート、それも知識チートにしか出せない凄みがあった。
「魂が2つに増えることはないでしょう。あるとすれば憑依…それにあの歌に反応しました。…国境コンサートで歌ったあの歌に。…私と同じ世界から転生して憑依しましたね?それも日本人。」
もう蒼玻/アオバは黙って頷くよりない。
「でしたら…聞きたいこと、確かめたいこと、話し合いたいこと、わかりますよね?」
ー*ー
(…アオバちゃん、ごめん。負けだ。これだけバレて戦いの仕切り直しは不利すぎる。カバーストーリーなんてもってのほかだ。
/無理は言えませんわ。第一、彼女と貴方では人間としての格も経験値も違うようですわし。)
皮肉や嫌味ではない…蒼玻は転生前は単なる一般人であり、「絶世のアイドル」言祝アリアや「至宝の令嬢」アオバ・フロックスにはどうしても人間力で後れを取ってしまう。…もちろんそれでもアオバと2人がかりならば問題はないが、日本が絡む話なら別だ。
(蒼玻くんの考えも、わたくしたちの事情も、深いところまで洞察されている…そう考えるべきですわね。その上で、彼女がここまでの逸材ならば…わたくしは、悪くない選択と思いますわよ?
/ありがとうな。)
幸い、このジンザモ郊外決戦までのユキコシーシンシュー戦線での死傷者は「不幸な軍事衝突」の範疇に収まる程度だし、コーシュー軍瓦解までの死傷者についてはシンシューの人道危機の解決のためで言い訳できる。そしてコーシュー軍瓦解後は姉妹の突撃だけなので死傷者はいない…話し合いでなんとかできる状態なのだ。
それに、この戦いを通して、蒼玻/アオバは言祝アリアのことを、ポケモンバトルでも人間としても強力すぎるライバルというだけではなく、2人の高すぎる希望に応えうる実力と人間性を兼ね備えた稀有な人物として捉えていた。
「…対話に応じよう。君の問いにも。
/ディアンシー、デュアルメガシンカを解除してくださるかしら?」
そうして、言祝アリアと蒼玻・フロックス、2人の転生者は初めて歩み寄り、互いに右手を差し出した。
2人の転生者が握手しようとした、まさにその時。
蒼玻/アオバの視界の隅に、コーシュー軍幹部たちが映った。
それまで戦闘に夢中で目に入らなかったが、どうやら、崩壊し烏合の衆となったコーシュー軍はシンシュー軍により武装解除され、総大将・四天王ら幹部はジムリーダーらによってとりあえず監視状態にあるようだ。
アオバは気にしなかったが、蒼玻はふと彼らが気になり、蒼い瞳を向け。
(な.../どうしたのかしら?)
蒼玻が絶句しながら視線を向けるその先、コーシュー軍幹部の一人…蒼玻には判別できなかったが四天王バイティスが、そこにいて。
そして、その手に、この世界にあってはならないものを持っていた。
「あれは...まさか、カラシニコフ!?どうしてこの世界に!?」
アサルトライフル。史上もっとも人を殺した兵器。ーポケモンのいない世界の、一つの可能性。その銃口は、自分たちの方へ向いているように見えて。
「カラシニコフ!?嘘!?」
驚く言祝アリアの手を掴み、そのまま押し倒す。
「/ちょっと、何をしてまして!?/まさか、並行世界との融合は、もうそこまで進んで...ッ!?」
銃声が、ポケモン世界に響いた。
ー*ー
なぜそれが自分の手にあるのか、彼にはわからなかった。それでもバイティスは、戦士としての直感で理解していた...「コレの引き金を引けば、人を殺せる」と。
それがこの世界にあってはならないものだとは知らず。
それがポケモンのいない別の世界の可能性の一つ、戦い方の可能性の一つだとは知らず。
ただバイティスは、麻痺毒の不意打ちによりシンシューのジムリーダーに敗れた四天王は望んだーこの決着には納得がいかない。もっと戦争がしたい、そして望む決着を得たい。
だから...
彼は引き金を引いた。そうすれば、シンシュー地方とユキコシ地方のリーダーが同時に暗殺されれば、この戦争は終わらなくなると思ったから。
銃声が、ポケモン世界に響いた。
ー*ー
箱型弾倉から装填され、ニトロセルロースの爆発力とライフリングによる回転によって秒速900mの初速を得た5.56×45mmNATO弾は、カラシニコフAK-19ライフルの射程1キロというスペックを存分に活かし、己の持ちうる戦果の可能性としておよそ最大のものを発揮した。
訓練を受けたことのないバイティスは、「長距離狙撃は風向きと弾道の下方への垂れを考慮する」なんてことは知らなかったし、そもそも照星すら使っていなかった…だから、垂れた弾道と、言祝アリアを押し倒すことで低くなった蒼玻/アオバの低くなった姿勢が重なったことは、奇跡的なまぐれだった。
奇跡的といえば、言祝アリアとアオバ・フロックスの背丈がほぼ同じだったことも、だろうか?
…ありうる可能性のすべてを引き出し最大限に発揮して…
…銃弾は、言祝アリアの背中へ銃創を穿ち、心臓を貫いて前へ貫通、そのまま蒼玻/アオバ・フロックスの胸元に吸い込まれるように抜け、再び心臓を貫き、背中から血とともに飛び出し、ぽとりと落ちた。
崩れ落ちる2人。その上、夜空に、一際大きな星が、凶兆を示して輝いていた。
世界は、蒼玻/アオバ・フロックスと、言祝アリアを、失った。
「『どうなるか』じゃなくて『どうするか』だったってことだよ。」
あまりにもあっけない、取り返しのつかない、「おしまい」。
「5年前、私は、あのピンクの輝きに諦めた!折れた!だけど、今度は!」
それでもまだ、彼女たちは戦い続ける。
【??????GXの プロバビリティバイキング!】
まだ、
「ですから、この世界が嫌になって、この世界から消えたのですよね?」
むしろ、ここからが本当の始まりなのだから。
「転生ポケモンアイドル」、ついに大詰めへ。
「私が、シンシュー統合の象徴になります!そして、世界を救ってみせます!」