アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
主人公、死す!
~前回の「転生ポケモン令嬢」は~
主人公、死す!
ー*ー
すべてがスローモーションに見えて、そして、すべてが取り返しのつかないことだと、カグヤ・フロックスは瞬時に悟っていた。
近寄って脈を測る必要など、血のつながったこの妹にはない。そんなことをしなくても、心でわかってしまうから。
2人が崩れ落ちたのを見て、2人が地面にぶつかるより前に理解できた…カグヤにとって何よりも大切な唯一の肉親、たった一人の姉は、儚くも戦場の塵となったのだと。
だからそれは、発動というよりは、事実上の暴発だったのだろう…
「
…
何のスイッチを入れる必要もなかった。彼女の、当主なき今フロックス家の新たな主となったカグヤの「ユキコシの2000年の名家」としての激情が、「ユキコシという概念」放出・増幅器たるオーラピラーと共鳴し、起動させていた。
…
だから、概念的な強化によって理論値的かつ理想的なまでに強化された「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」は、半径数kmに渡る概念的な絶対零度の付与という破格の出力を顕現させた。
真空エネルギーによる量子零点振動以外でまったく運動する物質のない、マイナス273.15度の世界。シンシュー、ユキコシ、コーシューの3地方のすべての兵力が、凍りついてしまっている。
カグヤ・フロックスはただ一人、完全静止の世界に立ち、そして1つのボールを握った。
「…蹂躙の時だよ、マハリハグルマ。」
ー*ー
もう、私がどうしたってどうにもならない。
絶対零度で物質を止めたから、お姉ちゃんはこれ以上酷くはならない…物が動かない世界は、時間が止まったのと同じだから。だけど、時を止めたところで、穴が空いた心臓は動き出せるようにはならないし、魂を留め置いてるだけ。
…やり方はある。お姉ちゃんを生き返らせるやり方は。
アルセウスをもう一度呼び出して、創世の力で蘇生してもいい。ムゲンダイナで一巡して、もう一度宇宙をやり直してもいい。だけど、どうするにしてもコーシュー=シンシュー地方はダメ。
お姉ちゃんを殺せるとは思わなかった。それがありえる可能性があるなら、こんな甘い戦いはしてはいけなかった。
癌は、切除しなくちゃいけない。お姉ちゃんのために。
「…そういえば、こおりタイプには効かないワザだっけ?
BREAK力場にこれだけ頼った出力だと概念攻撃だもんね。絶対零度と言っても、元のワザの無効範囲は無効か。」
カクミガシ博士のユキコシメガアブソルと、チューリップだいぐうじのモスノウ、それにユキツヌシカミ…か。
「カグヤちゃん、なんで…」
…あ、チューリップだいぐうじ本人。ハナツメさん負けたんだ。
「モスノウの翅に守られた?ちょっと誤算だったかな。
…私がお姉ちゃんを失えばどうなるか、2度目がないとは言い切れないだから試算くらいしたことあるでしょ?」
「…あっ…
…でも、カグヤちゃん、ちゃんと正気を…」
ああそっか、正気に見えるんだ。…まあ通常運転ではあるよね。
「『どうなるか』じゃなくて『どうするか』だったってことだよ。」
ここからのチューリップだいぐうじの出方も、私がすることも、もう決まってる。
「…カグヤちゃん、それは、させられないよ。
絶対に、阻止する。ユキノオー!クレベース!グレイシア!バイバニラ!ハルクジラ!
…あれ?」
「ユキコシ地方でのモンスターボールの製造シェア率も、悪の組織対策として無線ロック機能があるのも、知ってるよね?」
ごめんね、世界。
でも、お姉ちゃんのためだから。
ー*ー
マハリハグルマすなわちギギギアルのユキコシ地方リージョンフォーム。その歯車の噛み合わせは原種ギギギアルと異なり歪な怪音を立て、世界へと黒いヒビー「亀裂」を伸ばしている。
亀裂が脈動し、幅数センチだったそれは、カグヤの絶望に共鳴し、瞬時に数メートルまで膨れ上がった。
【マハリハグルマの ジ・ニューワールド・オーダー!】
世界の亀裂…黒いヒビは、世界に開けられた穴は、あたかも別世界への出入口のようで…
「いけないっ!ふぶきっ!」
【ユキツヌシカミの ふぶき!】
【ユキコシメガアブソルの ふぶき!】
【モスノウの ふぶき!】
カグヤのしようとしていることを止めなければ…絶対零度の世界で、3体のポケモンが「ヒビ」いやもはや「穴」と言うべき亀裂めがけて攻撃を繰り出した。
9年前のワカナエシティなら、それで間に合ったのかもしれない。今回は…「ヒビ」の進行が早すぎた。
空間に開いた「ヒビ」の先に赤いツメが生え、金色の頭蓋と深紅の瞳がぎょろりと漆黒の「穴」の奥に光る。
ーギゴガゴビシャーン!
カグヤが、啼き声に負けじと叫ぶ。
「ギラティナァァァ!」
世界のヒビから、金色の頭蓋がぬらりと現れ。
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
不快かつ不吉な啼き声…そして、黒い閃光。
ふぶきが、砂鉄に、火の粉に置換される。
秩序を奪い混沌をもたらすその神格ポケモンは、カグヤに感情を引きずられて怒り狂いながら、再び現世に降臨した。
ー*ー
それが起きた時どうするか、ユキコシ地方7ぐうじは、そのよりしろさまたちは、それどころか妹のシスコン度合いを知っている
シスコンを極めているカグヤ・フロックスは、姉が悲惨な死を迎えた場合、簡単に闇落ちして、マハリハグルマとの共鳴で反転世界への巨大な亀裂を生成し...ギラティナを、それも闇落ちさせたギラティナを呼び出す可能性がある。
実際、蒼玻/アオバの記憶の中では、ワカナエ大乱の時に一回、一周前の世界を離脱する直前に一回、そうなっているのだ。だから、そうなった時にはすぐに鎮められるようにメタを用意しておく必要がある。
けれどその対策、用意のすべては想定できていなかったーカグヤが、闇落ちするのではなく理性を完全に保ったまま自ら進んでギラティナとの共鳴を起こすだなんて。そして、よりしろさま2体の攻撃も瞬時に圧倒するだなんて。
ユキコシメガアブソルの黒い翼が逆立ち、大きく広がる。瞬く間にそれは星空を覆い隠す巨大な翼の幻影となり、そして味方への厄禍をその身に集め捻じ曲げていく。
「っ、よりしろさま、呼応して!」
ユキツヌシカミがぶるりと身体を震わせ、氷霧であたりを包んでいく。
【ユキコシメガアブソルの ディザスターウィング!】
【ユキツヌシカミの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!】
禍いを捻じ曲げ叩きつける幻翼と、全てを凍りつかせる凍気。どちらもギラティナには効果抜群でもある。
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
…タイプ相性やワザのタイプと言った「世界の秩序」が保たれていない場合は、そうでもないのだが。
黒い閃光とともに、星空が歪んで青空となり、大地から流星が空へ降り注ぎ、重力も光速も変数となる…「ロストインパクト」はそういうワザだ。それは法則をないがしろにする。
幻翼と凍気は、雑多なタイプのエネルギーに変換されて爆散し。
自らの発した攻撃の残骸によって、ユキツヌシカミとユキコシメガアブソルがむしろダメージを受けよろめく。
今やギラティナは、完全にこの世界へ顕現していた。それも、オリジンでもアナザーでもない歪で不快なフォルムで。
灰色の身体、金色の頭蓋、赤い爪。そして、数え切れない、黒い影のような触手。ゆらゆら浮かび、不気味かつ不吉に身体をくねらせている。
“「人の子よ、フロックスの者よ、再び世界に破壊をもたらさんとするか?」“
「ギラティナ、理解も納得もできないのはわかる。でも私は…そりゃ哀しみと怒りであなたを引きずってはいるけど、あなたをあの『失墜』儀式みたいに破壊と征服の手先にしたいわけじゃないの。」
“「ほう?」“
「私はただ…全部、やり直したいだけ。
お姉ちゃんを傷つけるこのシンシュー地方を消し去って、2000年前あなたとユクシー・エムリット・アグノムがそうしたように…破壊して再構築したい。
私と、お姉ちゃんが生きていくための世界を。」
“「余がアルセウスに負け、復讐を望んだあの日々と…今の貴様と、何が違うのだ?」“
「…
愛、だよ。」
ギラティナにそれができれば、ため息をついていたであろう。
“「もとより混沌とした秩序なき地方だ。混沌迫られる者、まつろわぬ者の神たる余が揺らがすとて、運命か。
ならば貴様、余を乗りこなしてみせよ。」“
「言われなくても、お姉ちゃんのためなら、私はなんだってやる。
それが神威の代行であろうと簒奪であろうと…
…大掃除であっても、私にできないわけないッ!
ギラティナ、『ロストインパクト』ッ!」
ー*ー
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
天地をないがしろにされたことを、肌で感じられる。
星々は下から、地響きは上から。風が燃え、音が輝き、世界がサイケデリックに乱れる。
それは永遠のようであり一瞬のようであり…
…チューリップが我に返った時、ユキツヌシカミ、ユキコシアブソル、モスノウの3体は地面にひっくり返っていた。
ギラティナ(冒涜されしすがた)
約2000年前、古代文明に支配されたことにより暴走しユキコシ地方を消し去ったフォルム。オリジンとアナザーが混ざったような形態で飛翔し、無数の影の腕によって世界を侵食、秩序を奪い混沌をもたらす。
すべてのパラメータが虚数値を取るため、対抗することすら困難。専用ワザの「ロストインパクト」は暗黒の閃光によって照射範囲を存在や概念レベルでかき乱す。
…死亡回数、言祝アリアのほうは転生時に1回と今回の1、中橋蒼玻は転生時1回と転生後に臨死1回と今回で1、アオバ・フロックスも被転生時に臨死1回と今回で1、カグヤ・フロックスも1周目の宇宙で死亡…アリア・カナサシの0回含めてもすでに平均死亡回数2回で、なんだか壮絶ですね…