アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
最愛の姉、アオバが死んだことへの怒りで、カグヤ・フロックスが暴走…反転世界から呼び出したギラティナにより、コーシュー=シンシュー地方の「秩序の崩落」「論理的破綻」から混沌へ導き再構築するという暴挙に出る。
ユキコシ軍で唯一彼女を止めようとした「最強」チューリップだいぐうじはあっけなく敗退。もはや誰もカグヤとギラティナを阻めないかに思われたが…その時、立ち上がる巫女がいた!
ー*ー
アリア・カナサシは、足音一つしない静謐な絶対零度の世界に、パリンと音を立てた。
自らを包んでいた薄い氷の皮が割れ落ちる。
「…あなたが、この氷を破れるなんてね。」
カグヤ・フロックスが、ギラティナを背に悠然と見つめ…いや、その視線は鋭く、怒りが籠もっていた。
「龍神様のおかげよ。」
空高く飛ぶレックウザ(アルビノ)にはさすがの「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」も届かなかったし、そして空高くから白き龍神は自らの力を巫女たるアリア・カナサシに注ぎ続けた。だから彼女は、凍結を打破できたのである。
「そう、龍神…
じゃあ遠回りで近道、みたいな話になるのかな?
お姉ちゃんの目的は、コーシュー=シンシュー地方を鎮定して、完全な統治を確立することで、すべてのEX、GXオーバーラップの技術を接収することだったから。
コーシュー=シンシュー地方を消し飛ばしても、オーバーラップ技術の抹消は達成できる。お姉ちゃんの望み通り、世界は救われる。だったら…
…不器用で、肝心なところで何もできない妹の私には、ちょうどいい!」
「…何、を…」
カグヤの言葉の意味が、アリア・カナサシには理解できない…けれど、それがシンシューの破滅を意味することくらいはわかる。わかってしまう…カグヤとギラティナを、好きなようにさせてはならない。
「ロストインパクトッ!」
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
黒い閃光…とっさに、白き龍神レックウザは身を大きく宙空に泳がせ、ビームのように絞られたそれを回避した。
星空の下、
アリア・カナサシは振り向き、その山がなんであったか確認して、絶句した。
ジンザモ地下要塞…標高659メートルの火山岩の山を丸ごとくり抜き鉄筋コンクリートで補強した堅牢な要塞は今や、捻くれた大木と溶けかけの氷山と支離滅裂な流れの滝となり地底から溢れる月の光に照らされている。あまつさえ、重力を無視してわずかに浮いてさえいた。
決戦のために地下要塞が無人となっていたから良かった…けれど、こんな攻撃を生身の人やポケモンが受ければ、良くて原子レベルで消失…悪ければ、生きたままカオスなオブジェである。
(…なんとか、しないと。)
龍神レックウザが排除されれば、カグヤ・フロックスはあの黒い閃光をシンシューの大地に向ける。しかも、コーシュー、シンシュー、ユキコシのほぼ全兵力がこの平原で凍りついてしまっている今、暴虐を止められる者はいないだろう。
(なのに…コトホギさん…!)
シンシューの、何よりアリア・カナサシの希望だったその少女は、心臓を撃ち抜かれたまま氷像となって倒れていた。
“「我が依代の巫女よ!
あまり猶予はないぞ!長くは逃げられん!」“
4度目の「ロストインパクト」がかすめたことにより、龍神の細長いヒゲが瘴気となって消える。
反撃してもいい…だが「ロストインパクト」が範囲攻撃にも迎撃にもなれることは1度目でわかっており、攻撃することに意味があるのかすら謎で近づくなどもってのほかであった。逃げ回れば時間を少しは稼げるのだから、龍神はそうするしかない。
“「今のままでは力不足!如何するぞ!?」“
龍神は急かす、己の巫女を。
アリア・カナサシは惑う、道標を失って。
ー*ー
コトホギさんは希望だった。この荒れるシンシューを、私にはまとめられなかったシンシューを、コトホギさんならまとめられる、そう思った。
だけど、コトホギさんは死んでしまった。シンシューをまとめ上げて、あふれかえる侵略者から救う…その寸前で。
本当は、折れたい。だってこれは、シンシューの運命を背負うことは、私にとって重すぎるから。…だけど、コトホギさんが、他の世界からやってきて私を救ってくれた、私に光をくれたコトホギさんが、それを喜んでくれるわけない。
英雄も現人神も背負えなかった私だけど、託されたのなら…これが、シンシューのためにその屍を超えろという天命なのなら。
私は、現人神をやめて、護国の鬼にだってなってやる。
「龍神様ッ!
龍神様も先ほど拝見なされたはず!
秘めたる権能を一段上に引き上げる、空前の手段を!」
空前であっても絶後にはしない!だって私は依代の巫女!他者の力を自分のモノにし、さらに再配分する役目!神様のごとき力を分け与える役柄!
「龍神様、レックウザ…
…私の祈りに、御合わせ下さいませ!」
“「良かろう。一興でもある…!」“
…ポケモンの古来からの本来の力を、遺伝子の底から呼び覚ますメガシンカ。
…あらゆる局面で世界に存在する、オモテとウラ、正と負、有と無、そういった可能性の分岐を束ねて望ましい可能性を現実へと汲み出す、オーバーラップ。
どちらでも足りない。あの、ギラティナって言う、創世のころからいる混沌の邪神には。だって、天空の神がいくら本領を発揮したり可能性を活かしたところで、宇宙の秩序を崩す神には敵わない。
だけど私は、さっき、コトホギさんと見た…本来はダイヤモンドを作るだけのはずのディアンシーが、まるでその能力を拡大解釈したかのように、時間を操るのを。
「5年前、私は、あのピンクの輝きに諦めた!折れた!だけど、今度は!」
あの領域に、達してみせる。メガシンカの重ねがけ、その極致に。
「龍神様!私の心に応えて!」
コトホギさんが言っていた、アオバ・フロックスの2つの魂…それは私には真似できない。けれど、前にレンゲ教授に言われた…私、アリア・カナサシには龍神様の依代としての力が宿っていつつも、一人のポケモントレーナーとしての自我があって、その2つを和音として調律しなければならない、と。
逆に。
依代、現人神としての私と、ただの少女としての私、その2つの自覚を意図的に分けたら、どうなる?
メガシンカを形成するライン、力のラインは、2つ重ならないか?
「デュアル、メガシンカ…ッ!」
ー*ー
急速に気配を強める、オーラと呼ぶにはあまりにも聖的な、神気としか言いようがない何か。
乱気流が光の屈折を乱すため、星空がチカチカと激しくまたたく。
翻るアルビノの白い身体は、神を直視することまかりならぬとばかりにわずかに透き通っている。その周囲には氷の剣が自律的にいくつも浮かび、こおり4倍弱点という宿命すら凌駕せんとしていた。
身体から伸びるいくつもの長いヒゲが藤のツルに置き換わっていき、あちこちから紫の花が咲き誇る。その先端には翠の「梶の葉」がはためいていた。
「…それは、デュアルメガシンカは…っ、お姉ちゃんと、蒼玻くんの、あの旅の、結晶なのに…ッ!」
カグヤが、物理的な気苦しさを覚えるほどの神気に気圧されながらも手を振り下ろす。
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
無造作に振りまかれる神の力など、この邪神の黒い閃光にかかれば物の数ではない…それどころか、破壊のエネルギーに変換されて爆発として現出する。己の強大化したオーラが、レックウザへ牙を剥いたのだ。
爆風…それに対し白き龍神は、ただパッと藤の花を咲かせるのみ。それだけで、爆風は藤の香りを避けていった。
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の…】
お返しとばかり、無数の氷の剣の雨がギラティナめがけて降り注ぐ…それも、放ったそばから次から次へと剣を顕現させ。
【リュウジンブレード!】
無数の氷剣が、ギラティナめがけ殺到した。
デュアルメガレックウザ(アルビノ)
カナサシ湖の龍神レックウザのデュアルメガシンカ形態。
そもそもこのレックウザはカナサシ湖…つまり諏訪湖にあたる地域の神であり、諏訪明神タケミナカタに比定されるべき存在である。そのため、デュアルメガシンカにより神としての力を増幅された結果タケミナカタと同じ「風と狩猟そして軍武の神」という権能を得た。
顕現した氷の剣は「(タケミナカタは)先づその御手を取りて、即ち氷を成り立て、又剣を取り成しつ」に典拠し、ヒゲに置き換わった藤のツルと花は「洩矢は鉄輪を持して争ひ、