アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
姉アオバの死にキレてギラティナを暴走させるカグヤ・フロックス。
言祝アリアの遺志を受け継ぐかのように、レックウザをデュアルメガシンカへ導いたアリア・カナサシ。
激情と激情がぶつかる戦場で、シンシュー地方の命運や如何に...!
そも。
結論として。
当然ながら。
ポケモンとしてはともかく、神格としては、レックウザではギラティナには勝てない。
ギラティナとは反転世界という1つの宇宙・位相の神であり、創世神アルセウスとタメをはれる神なのだ。オゾン層あたりでうようようねうねしている程度のレックウザでは、大地の神と海洋の神のケンカに出っ張ってくるような神では、お話にならない。
これは、レックウザをタケミナカタに書き換えたところで変わらない。いやむしろ悪化する。諏訪神話ではタケミナカタは諏訪の守矢神に勝ち大明神となったが、古事記では国譲り神話の際に天照大御神の手下に叩き出されて命からがら諏訪まで逃げ出しているのだ。要するに土着の相手には強くても外来のより強大な神に勝てないので、相手が太陽神どころか反転世界の神ではどうにもならない。
法則ベースでも、やはりギラティナにレックウザは勝てない。レックウザは…この場合タケミナカタでも良いが、神として超常の力、オカルトパワーを用い、物理実体としては風や隕石を用いる。…しかし法則とは秩序であり、オカルトにせよ物理にせよ何らかの法則に則っている以上「反秩序」のギラティナには届かない。なにせ今のギラティナは全パラメータが虚数である。
従って、「リュウジンブレード」と呼ぶべき無数の氷剣が降り注いだとて、ギラティナは身じろぎ1つしなかった。剣身はギラティナに突き刺さらず、透過する。
「それじゃ、ギラティナには通用しな」
氷剣が突き抜けた部位が、氷結していく。
氷の結晶によってギラティナの触手を磔にするかのよう。もがいても氷は刺さったままで、藤の香りを撒きながら花のように成長していく。
「シャドーダイブで抜けてっ!」
ギラティナが、影となって姿を消す。…しかし触手の破片がちぎれ、氷の花によって空中で縫い付けられていた。
(…BROKENフォルムのギラティナは、座標も虚数をとったまま法則を歪めて実数空間に顕現しているから、攻撃を通すには虚数的な攻撃か概念攻撃しかないはず…でも虚数存在そのものがギラティナによって乱れた法則が可能にした観念論だからありえないし、あの氷の剣は確かに神格のシンボリックな概念っぽいけど…)
どちらにせよ、虚数を乗算することも概念による攻撃も、レックウザにできることではない…カグヤは脳内で、敵への警戒レベルを一段上げた。
「抜けたらロストインパクト!」
「テンペスト!」
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の ロストインパクト!】
白き龍神の背後、空間を割り開いてギラティナの頭蓋が覗き、そして黒い閃光。
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の テンペストGX!】
龍神がとぐろを巻くとともに、藤の香りが吹き抜け、そして竜巻が巻き起こる。それは黒い閃光を吸い込み、それどころか「ヒビ」の中からギラティナを引きずり出した。
竜巻は、木の葉や火の玉や月光に変換されながらも渦巻き続ける。連続的な高速の気流は、「ロストインパクト」の混沌化を超える速度で空気を入れ替えていた。
竜巻の上部が、徐々に輝き始める。吸い上げたものを蓄積させ、放出しようとしているのだ。
「…なんだか知らないけれど、相殺されてるし干渉されてるね。だけど…」
「龍神様、放出して!」
竜巻が閃光し、多種多様なあれこれを束ねてビームのように噴き出し。
「…こっちが真打ちだったり?」
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の…】
直後、世界が揺れた。
それは、世界の法則そのものを弓となして引き絞り、
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の スターレクイエム!】
たった1体のポケモンを攻撃するために、宇宙が歪んだ。
銀河が一点に収束するかのような、衝撃。
星々が、またたきを失って虚無を映す。
竜巻?論外だった。見えない拳に殴られたかのように雲散霧消である。その中から、血飛沫となって、レックウザだったものが落下していく。
アリア・カナサシが、心臓を押さえて倒れる。
(あっけない幕引きだよね。
お姉ちゃんもだけど、デュアルメガシンカはメガシンカより負荷がかかる…ダメージも魂にフィードバックされるし、やられたら魂のリンクが切れてその衝撃が来る。
まして宇宙丸ごと使ってのショック攻撃。法則系を含めた概念攻撃にもなってるはずだし、一発で廃人かな。)
カグヤは、それきりアリア・カナサシから興味を外した。
「ギラティナ、目標『コーシュー=シンシュー地方』。スターレクイエム。」
再び、宇宙そのものが弓として引き絞られ、反転世界の混沌が矢となりきりきりと弓を離れる。
余波だけで、遠くの恒星がいくつも白色矮星になり、銀河が波打つ。
命中させる必要?ーない。その攻撃は、概念の領域を経由して直接顕現するから。
調整する必要?ーない。その攻撃は、必ず標的の粉砕という結果を出力するようになっているから。
約2000年前、ギラティナは暴走したまま「ロストインパクト」を三日三晩乱射し秩序・法則をしっちゃかめっちゃかにすることでユキコシ地方を概念的に崩落させた。だが今回は、たった一撃で、コーシュー=シンシュー地方は消滅する。
「おしまい。」
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の スターレクイエム!】
巨大で長い、両手両足…それを、幻視した。
【??????GXの プロバビリティバイキング!】
「…今、のは!?」
アリア・カナサシは、心臓を押さえながら立ち上がる。
「ギラティナ、目標『コーシュー=シンシュー地方』。スターレクイエム。」
それをさせてはいけない…させてしまったのならどのようなことになるか、その可能性の世界を、すでに見てしまったから。
(というか、今のはまるで、可能性を見たと言うより、すでに起きてしまった可能性をなかったことにされたような…?
だとすれば…)
余裕はない。猶予もない。だが、これがロールバックだとすれば、きっと。
「応えて、龍神様!」
血飛沫と消えたはずの龍神レックウザは、まだ、揚々とアリア・カナサシの背後にいた。
「な…確かに倒したはず…!?
ギラティナ、標的をレックウザに変更!」
誰の助けか知らないが、また先ほどのロールバック事象が繰り返すとは思えない。
「龍神様、今度は私たちが奇跡を起こす番!」
やらなければならないし、できるはずなのだ…デュアルメガディアンシーが時間を操作したように、デュアルメガレックウザにも何かできるはずなのだ。
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の…】
宇宙がきしむ。破滅はすぐそこ。
(急いで。でも、掬い上げるように丁寧に。
きっとうまくいく、いいえ、そうしなければ…!)
デュアルメガレックウザ(アルビノ)GXの白い全身が、星の光を纏って絢爛に輝き始める。それはギラティナによって地上へ届かなくなった星空が龍体へ乗り移ったかのようで…
(空を飛び風を操るひこうタイプ。
強大な力を持ち咆哮するドラゴンタイプ。
天空にあって地上に干渉するレックウザ。
かつて邪神を鎮め、力を巫女に託した龍神。
それらを束ねて、一段上へ…!)
“「…みなぎるぞ…!これが真の『龍』たる力か…!」“
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の…】
【ギラティナ(冒涜されしすがた)の スターレクイエム!】
軋み歪んだ宇宙から、解すら持たない無秩序な破壊と混沌が解き放たれ。
ー*ー
龍、ドラゴンとは何か?
西洋では4足の翅の生えたトカゲであり、悪魔の力、宇宙論的悪、安寧を脅かす邪悪な混沌の象徴とされた。
東洋では空を飛ぶヘビであり、神秘性の象徴、風や水の流れに関わる神であった。
このポケモン世界では、伝説と称されるポケモンを多く含み、知勇兼備、強大な力を持つタイプとして認識されている。
…それらに共通する要素は、一見なさそうに思われる。だが、「人間に対立しかねない未開の神秘、風や水のような強大な力、神にも及ぶ賢強さ」と言ったものはすべて、一つに帰着する...それは、「人間が制御できないところにある、自然界や宇宙の力。それらを操りうる超越存在があるだろうと古代人が空想した強大なスピリチュアルであり、時に崇拝すべきであり時に調伏すべき自然を象徴するイメージ」だ。西洋のドラゴンスレイヤーとは未開の地や民の征伐の暗喩であり、龍神八岐大蛇とは人々に災害をもたらす溶岩流か斐伊川氾濫の暗喩であり、そしてポケモン世界では時間・空間までも含めた神秘を司る属性でもある。
ドラゴンとは、人間が干渉できない領域=「自然」の象徴、より詳しく言えば風や水そして時間のような「自然の”流れ”」を司るものなのだ。
そう、人間が干渉できない自然であり、強大な自然の流れ。それは、ギラティナがもたらす混沌、反秩序ですらも、その範疇に入る。いいやむしろそれこそが、タケミナカタの「(天照≒朝廷王権に)まつろわぬ領域を治める龍神」という性質とも共通するファクターだ。
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の ナチュラル・サーキュレーション!】
宇宙そのものを弦に使った、壮大な概念的弓矢。その形而上学的矢は、神秘の力のベクトルを通じて干渉を受け。
もちろんレックウザは、ついでに言うのならタケミナカタも、「混沌」「反秩序」を司っていない。だからいくらそれが「自然の流れ」だからと言って思い通りにすることはできないが…それでも、宇宙という大自然の中にある一つの奔流、その行き先へ影響を与えることはできた。
混沌は霧散し、世界の均衡はギリギリで維持された。
「…今、私たちの龍神様は、貴女たちと同じ土俵にあるわ。
宇宙すら攻撃に使うギラティナと、宇宙の流れにすら干渉する龍神様。宇宙を危ぶめながら権能を弄びあってもいいけど...」
神様の畏ろしさを良く知る歌姫が説く。
「…アリア・カナサシ。巫女だから神様の扱いには長けているだとか、もっと建設的な提案があるだとか、そんな興ざめなことを言わないでよ。
私は怒ってる。シンシューもコーシューも許さないし、お姉ちゃんは絶対によみがえらせるし、そのためにまずあなたも龍神も消す。その過程で宇宙がどうなろうと、そんな些事はどうだっていい!」
”宇宙の一巡”にすら関わった妹令嬢が吼える。
「それは知ってる。だから...
…ここからは、素手で、泥臭く、殴り合いましょう。
下々よろしく地で手足泥まみれになって未来を論じるのも、また一つの
-なぜだか、ふと、カグヤの脳裏を、旅の中激戦で薄汚れた姉の姿がよぎった。
「っ...
…あなたが、あんたが、お姉ちゃんを、語るなぁぁぁぁッ!」
ギラティナの全身から、金色と黒色の粒子が湧きあがる。
【ギラティナ(冒涜されしすがた)_BROKENの りゅうせいぐん!】
「鎮めるわよ、私たちで!」
龍神の身体から、藤の花と星の光が舞い散る。
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の りゅうせいぐん!】
無数の流星が、上空で衝突した。