アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪83 未来へ

ー*ー

 

 氷が砕け散り、ピンクのダイヤが吹き荒れる。

 

 「おまたせしましたわ/しばらくぶりだな…

 

 で、アレ、どうする?/あら、あらあら…」

 

 デュアルメガディアンシーの横で、蒼玻/アオバ・フロックスは服の胸元の穴を腕で隠しながら立ち上がった。

 

 【ギラティナ(冒涜されしすがた)_BROKENの かげうち_BROKEN!】

 

 地平線まで広がる幾重もの空間断裂が、ムチ、いやむしろ投網のように振り回される。

 

 【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の リュウジンブレード!】

 

 星空を白く染めるような無数の氷剣の雨が、途絶えることなく砲撃される。

 

 「まさに、神話の大戦ですね。」

 

 傷一つないセーラー風アイドル衣装をなびかせ、言祝アリアが他人事のように言う。

 

 (雰囲気が、変わった…?/一皮剥けましたわね。)

 

 「…幸い巻き添えは起きてなさそうだが…どうやって止める?/割って入ったら被害が出ますわね、かえって。」

 

 誰も死んでいなさそう…というより地上に被害がないのは、単に2体が上空で戦っているから…そしてお互いの攻撃を完璧に当てようとし、かつ完璧に弾き落としているからだ。もし回避したり迎撃しそこねたりしていれば、地上にも少なからず被害が出る…

 

 …それはつまり、戦いを止めるにしても、寸秒たがわずギラティナとレックウザを同時に止めなければ、発動済みの相手の攻撃が攻撃停止によって撃ち落とされなくなり、それで地上が消し飛ぶ…ということでもある。

 

 「後先を考えてほしいものですね。…私に1つ、提案が。」

 

 言祝アリアは、そう言って蒼玻/アオバの耳元に口を近づけた。

 

ー*ー

 

 「カグヤ!」

 

 「歌姫さん!」

 

 「「っ!?」」

 

 ギラティナと、またはレックウザと完全に同調していた2人は、呼びかけられた声にびくりと身体を震わせ振り返り、「ありえない」と声を漏らした。

 

 心臓を貫かれ死んだ、大切な人…確かにそれが、立って声を出している。

 

 「頬をつねってる場合じゃないぞカグヤ!/ギラティナを反転世界へ戻すのですわ!早くなさいな!」

 

 「私が真実であることに、私の声と姿以上のものが必要ですか?

 

 歌姫さん、レックウザを。」

 

 幻覚でも幻聴でもない…そして呆然としている余裕もないと、カグヤ・フロックスとアリア・カナサシが気づいた時にはすでに、事態は破局へ向かっていた。

 

 戦闘へ割り込まれたことで、2体の神格はお互いの攻撃を適切にいなしそこね。

 

 空間を断ち切るヒヒが、藤香る剣雨が、星光を吸い取って空に荒れ狂う。

 

 「「あっ…」」

 

 同調している精神が乱れたからか…2体の神格ポケモンのワザは、暴走状態となりながら大地へ崩落しようとしていた。

 

 眼下に広がる、ユキコシ軍、シンシュー軍、コーシュー軍あわせて20万人以上…ポケモンも含めすべてが氷結し、逃げることができぬ彼らに、神威が降り注ごうとしている。

 

 「さて、始めましょうか。アオバさん!」

 

 「承知ですわ/準備OKだ!」

 

 言祝アリアは、この戦争最後の戦いを始めるべく、踵を地面に叩きつけた。

 

 カツン!

 

 【デュアルメガディアンシーは 祈声状態に なった!】

 

 「まいりますわよディアンシー!よろしくって?」

 

 “「もちろんです!」“

 

 「トリックルームだ!展開!」

 

 【デュアルメガディアンシー(祈声)の トリックルーム…】

 

 時空の歪んだ空間が、デュアルメガディアンシーを起点にぐんぐんと広がり、バトルコート1つ分などにはとどまらず、10つ分、100つ分、1000つ分、10000つ分…

 

 「す、すごいお姉ちゃん、ディアンシー…!」

 

 「地平線の向こうまで届くトリックルーム…コトホギさんとフロックスが手を組めば、こんなことが!?」

 

 「こんなものじゃないぞ…アオバちゃん!/ええ、ここからですものね。

 

 「発動、ディセラレーション!」」

 

 【デュアルメガディアンシー(祈声)の ディセラレーション・トリックルーム!】

 

 時間減速領域の函が、ギラティナとレックウザごと、「空間の亀裂」も「無数の神の氷剣」も包み込む。

 

 時がほとんど静止に近いほどゆっくりな空間。その中で、気を取り直したギラティナとレックウザが、互いの攻撃の相殺処理を始めていた。

 

 満天の星空が、シンシューの空に帰ってきている。

 

 「やっと、終わりましたね…」

 

ー*ー

 

 ワカナエ講和条約(抜粋)

 

 本条約は、統合シンシュー地方体制準備協議会(P(Preparation)O(Office for)I(Integrated)N(New)S(Sinshu)A(Area))を代表とするシンシュー地方、チャンピオン・四天王3名を代表とするコーシュー地方、アオバ・フロックスを全権委任者とするユキコシ地方の3者によって締結され、カントーリーグ、ジョウトリーグを立ち会い責任者とする。

 

 なおPOINSA並びにコーシュー大本営は改組・移行が予定されているため、改組後は残り2地方の承認を得た継承団体によって条約を承継する。

 

 ・シンシュー・コーシュー戦線について

 

 コーシュー地方の侵略行為及び非人道的な行為について

 

 ①コーシュー地方現指導部をすべて更迭し、国際警察に戦争犯罪裁判を委託

 

 ②コーシュー地方の新体制はシンシュー地方POINSA、ユキコシ地方政財官協議会、カントーリーグの監督下に置かれる

 

 ③シンシュー地方が受けた人、ポケモン及び資産の全額をコーシュー地方は賠償。なお賠償は金または現物での支払いとし、追加協議により分割で支払うものとする。賠償金支払いが完了するまで、コーシュー地方の全鉱山はシンシュー地方に担保として租借される。

 

 ・シンシュー・ユキコシ戦線について

 

 ユキコシ地方による”人道的軍事介入”と”不幸な小規模の軍事衝突”について

 

 ①ユキコシ地方は3か月以内に、軍事介入に至ったプロセスについて公式に明らかにし、謝罪する

 

 ②人、ポケモン及び資産の全額をユキコシ地方は即時に賠償。賠償金はフロックス財閥の現金資産によって支払い、シンシュー側が必要と認めた場合は同等の復興支援によって支払う。

 

 ③コーシュー=シンシュー地方の国際的地位及び経済的安定についてユキコシ地方は後見の責を負う

 

 ・ジンザモ郊外決戦、”神格決戦”について

 

 ①コーシュー地方はゼクロム及びレシラムをカントーリーグへ没収、またシンシュー・ユキコシ両軍に与えた損害を賠償

 

 ②ユキコシ地方はシンシュー軍に与えた損害を賠償

 

 ②フロックス家は暴走の責を取り、現血統からの継承はこれを認めず、次代はシンシュー地方からの養子に家督を相続する

 

 ③本戦争の激化の戦力的要因である”EX・GXオーバーラップ技術”について、3地方は協力し回収・封印措置を取る。

 

ー*ー

 

 講和条約をまとめ、蒼玻/アオバはようやく肩の荷が下りた思いだった。

 

 すべてを投げ打つ覚悟で戦争に踏み切ったとはいえ、交渉次第で投げ打たなくていいのならそうしたい。特に戦争の最終盤でカグヤが暴走したことについてどう責任を取りどううやむやにするか…

 

 幸い、弁護の余地なき侵略行為であったコーシュー側と異なり、ユキコシ側は人道的介入を宣言して実際に被害を抑えた。「コーシューの悪逆からの解放軍」としており、カグヤの件はともかく戦争犯罪の追及は逃れられる。カグヤの暴走も被害者はゼロだ。

 

 今でこそ無理筋な軍事介入と甘すぎる講和条件に国際的な非難がなされているが、EX・GXオーバーラップ技術を接収した後でなら「オーバーラップにまつわる世界の危機」を開示でき、講和条項の「軍事介入の説明と謝罪」を果たすだけではなく世界の救世主を名乗ることができる。

 

 戦争行為で与えた被害についての賠償は世界的大企業グループであるフロックス財閥の潤沢な資金で解決し、さらに現金よりも復興が必要なシンシュー側に「同等の復興支援によって支払う」条項を書かせたことでシンシューへ経済的に食い込むことができる。「国際的地位及び経済的安定について後見の責」に至ってはコーシュー=シンシュー地方をユキコシ地方の政治的・経済的共同体へ取り込む条項だ。

 

 「ごめんお姉ちゃん、ユキコシにもフロックスにも損のない条約交渉になるはずだったのに…」

 

 カグヤが詫びるのは、今回の軍事介入を強引に主導したフロックス家、そして最終盤にシンシューに喧嘩を売った姉妹ましてギラティナを召喚したカグヤに対する懲罰…

 

 …2000年の名家フロックス家に、養子による継承…それもシンシューからの養子を認めさせる条項のことであった。それはただカグヤの廃嫡というのみならず、フロックス家の純系血統の断絶を意味する。

 

 「ああ、あれもわたくしの策の一つですわ。/というより、お互いに生涯連れそうつもりの俺とアオバちゃんはもちろん、カグヤちゃんだって結婚するつもりはないだろ?」

 

 「それはそう、お姉ちゃんと一生いっしょのつもりだけど...」

 

 一つの身体の中の2つの魂で永遠を契ってしまった蒼玻/アオバはもちろん、シスコンを極めているカグヤもまた、他人と結婚するつもりがなかったのはそのとおりだ。

 

 「わたくしたちは子どもを埋めませんし、カグヤに無理に男性と結婚させるつもりもありませんでしたし…養子を取らなければクローンくらいしか…といったところではありましたもの。/格下のシンシューからの血縁のない養子…となれば屈辱的な条項に読めるけど、まさかウコンジムのジムリーダーが2000年前の初代で分岐した分家とは誰も思わないだろ?」

 

 そこまで考え抜かれた、一見フロックスに損のようでありながら実は得という条項…それでもカグヤは名家の名を汚したことには変わりがないとしょんぼりしている。

 

 「…カグヤ」

 

 「お姉ちゃん、蒼玻くん、私...」

 

 「恥じる必要も悔やむ必要もありませんわ。カグヤは、自分が一番大切だと思ったことのために、自分を貫いた。それはカグヤにとってきっと、正しく高貴な輝きであったはずですわよ。

 

 /それに、まだもう一つ、俺たちは勝ち取ってるからな。」

 

 言うが、早いか。

 

 「アオバ閣下!カグヤ様!

 

 コーシュー地方で、大規模な反乱が発生しております!」

 

 駆け込んできた家宰の言葉に、アオバは…

 

 …ようやくかと、にやり、笑った。

 

 「やはり、コーシュー地方は破綻しましたわね。」

 

ー*ー

 

 ユキコシ地方ワカナエシティからの緊急電文を受け、アリア・カナサシは苦笑いをこぼした。

 

 「これだからフロックスには恐れ入るわ。

 

 講和会議にかこつけて、意図的にコーシュー地方をぶち壊すんだから。」

 

 「/Outputシンシューとしてもあれくらいコーシューから取り立てたかったのは事実ですけれど、ユキコシなしであそこまで強気な取り立てはできませんでしたからね…End」

 

 貧しいコーシュー地方に課せられた天文学的な賠償金、その担保として、わずかな現金収入源である鉱山の差し押さえ。

 

 なにより、貧しく飢えたコーシューをそれでもまとめ上げてきた原動力、「侵略してシンシューやその先から奪えば、我々は豊かになれる」という幻想...それらが木っ端みじんに打ち砕かれ、指導者層が戦争犯罪人として捕縛されたこと。

 

 コーシュー地方で一揆がおきるのも当然であった。いや一揆というよりは内乱、暴徒化、無政府状態と言うべきだが。

 

 「外の地方から奪えば生きていけるようになる…そんな希望がついえ、莫大な借金の担保として現金収入の租借…

 

 …外がダメなら中。コーシューの中で奪い合って、勝って食い扶持を確保するしかない。地獄の完成ね。」

 

 「コーシュー地方の新四天王はすでに全員戦死!支配体制は崩壊しているとのことです!」

 

 圧倒的な力を持つかつてのチャンピオンと四天王は、シンシューで拘置されたままだ。それほど実力が隔絶していない自称新四天王など、下剋上の対象でしかなかった。

 

 「…オーバーラップ技術の封印。そのための、コーシュー=シンシューにまたがるイニシアチブの確立。今なら大義名分がありますね。」

 

 ー賠償金と租借の確保のための、コーシュー全土保証占領。無秩序・無政府状態の今なら、シンシューによる、言祝アリアによる覇権が可能だ。

 

 「行くわよ、逆侵攻に!」

 

 ロクショウタウンの独立宣言に始まるシンシュー・コーシュー・ユキコシ戦争開始からちょうど1ヶ月というこの日、シンシュー軍は賠償金の取り立てのため、4都市から同時にコーシュー地方へと越境した。

 

ー*ー

 

 「『国際的地位及び経済的安定について後見の責』『コーシュー新体制の指導』...この条項が生きてくるわけだ。

 

 /カグヤ、気を取り直しますわよ。今度はコーシュー地方へ進駐ですわ!」

 

 同じ日…事前のシンシューとの秘密協定に従い、解散作業中だったユキコシ地方シンシュー介入軍は再び越境…抜群のインフラ力によってウコン・ジンザモ・コウジ・ロクショウを駆け抜けコーシュー地方へ殺到した。




 かくして、シンシュー地方を巡る物語は祖国防衛の成功によって大団円を迎え…

 …そして、言祝アリアとアリア・カナサシの、最後の旅が始まる。

 明らかになる、コーシュー地方の正体と、シンシューとの因縁の根。

 あってはならない宿痾。

 幾世代をもかけて勝利を掴めるかもわからない、史上最悪の敵。

 降臨する最凶のポケモンに言祝アリアが立ち向かう時、神話の幕が上がる…!

 ~転生ポケモン令嬢アンコール、「解呪 コーシュー地方」~

 「…これが、私の、運命だったと?」

 乞うご期待!
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