アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
因縁を解呪するための戦いが、始まる。
ー*ー
「カグヤ、待つのですわ。
この絵図、下半分が。」
コブシタウン、コブシ新城跡地。焼け跡から掘り出した掛け軸を洗い、その下半分がやっと見えるようになって…
「「「「なっ…」」」」
コーシュー全土を描いた絵図。その下側…つまり地中を描いた部分。
盆地の低地部の下に、黒いナニカが描かれている。
ナニカは、黒い身体を鏡餅のように上下二段に重ね、これも黒い腕で盆地の底を支え…そして、蹲踞をするかのように黒い脚で身体を支えていた。
雑学オタクの転生者中橋蒼玻が、ポケモンオタクの転生者言祝アリアが、同時に声を漏らす。
「手長、足長…」
「アクジキング…」
ー*ー
「…私の勘違いだった。」
メーターをしまい、カグヤは暗い声で告げた。
「推定される地下熱源と、絵図の黒い胴体が一致する。…神格ウルトラビーストの排熱が半径数十kmに広がっているんじゃなくて。」
神格ウルトラビースト自体が、100平方メートル、半径にして10km以上ある…
「地平線の向こうまである巨大なウルトラビースト!?そんなの、キョダイマックスだって…ありえないわ。」
カグヤもそう思い、だから熱源をポケモン本体ではなく廃熱だと思ったのだ。けれど。
「/Output待ってください。だったら、地中構造のマッピングは?End」
「滞水した礫と生体の水分含有量はほぼ同じ、だそうですわ。/盲点だったな。
俺の世界で、手長足長って妖怪の伝説があった。妖怪でもあり鬼神でもあるような奴だが…
東日本に伝わる、山をも超すような巨体と細長い手足で海から船をつまみ上げたとかいう奴だ。これくらいデカくてもおかしくない。…それに、カナサシ湖にネクロズマが出て、それがどうやらミシャグジ神に相当するらしいとわかった時に、コーシューに同じようなウルトラビーストがいたとしても相当する伝承が日本にないと頭を悩ませたんだが…」
「/Output東日本一帯の伝承、と。
私の知る限り、アレはアクジキング…最悪のウルトラビーストです。
ビルでも山でも食い尽くし、後には何も残らない、荒廃したウルトラスペースからやってきた、まるで歩くブラックホール…とは言えポケモン有数の巨体ではありますが常識的なサイズだったはずですEnd」
「…なんにせよ倒さないといけないわ。日本住血吸虫とミヤイリガイの流入を止めるのもそうだし…あんな巨大なウルトラビーストが地下にいたら、それも『すべてを食い尽くせる』みたいなウルトラビーストだって言うのなら。」
もし暴れれば、コーシュー盆地まるごと奴の胃に落ちる…アリア・カナサシはそう示唆した。
「ですがこの大きさ…戦うのも大変ですし、地上に出てきたのならコーシュー盆地の底が抜けることになりますわ。
/やるしかねえ。カグヤ、ナデシコシティ全域と周辺に避難命令だ。」
ー*ー
コウジ新城にて、アリア・カナサシは叫ぶ。
「龍神様、あの大地を穿ち下さいませ…ガリョウテンセイ!」
【メガレックウザ(アルビノ)(祝歌)(祈声)の ガリョウテンセイ!】
龍神の身体そのものを槍とし、宇宙からの落下速度を投擲力とし、ドラゴンの一撃がコーシュー盆地に突き刺さる。予想通りの相手ならば、効果抜群で何かしらのリアクションを起こすはず…
直後。
コーシュー盆地地下を震源に、マグニチュード6の地震が発生した。
あばら家しかないコーシューの家屋は軒並み倒壊、さらに隣接するシンシュー、カントー、ジョウトにも被害が出るその中で。
ナデシコシティだったものを吹き飛ばした砂塵の中、黒い巨大な影が見える。
「龍神様!手を緩めずにりゅうせいぐん!」
【メガレックウザ(アルビノ)(祝歌)(祈声)の りゅうせいぐん!】
宇宙から流星が降り注ぎ、黒い影を上から打つ。
黒い影からの反撃はない。砂塵が収まっていく。
…コーシュー盆地中央、底が抜けたような大穴にすっぽり収まり、巨体が鎮座していた。
黒い寸胴な胴体の上に、もう一つ胴体が乗っている。窮屈そうに腕をもぞもぞさせている姿は多分にユニークだが、異様な威容は疑いなく見る者すべてに恐怖を与えた。
アクジキング…あり得てはならないほど巨大なアクジキング。本来の脅威たる暴食の口こそ穴に嵌って見えないが、それでも巨体だけで充分に問題だ。それに…
「観測班から報告だよ。
ミヤイリガイとおぼしき物体が複数、周囲に出現してる。」
コイツが、コーシューの疫病に始まる全ての、発端だ…
「支援部隊に打電、全力で『じゅうりょく』!」
旧コーシュー軍と駐留シンシュー軍、駐留ユキコシ軍の合同部隊が、「じゅうりょく」を一斉にかける。アクジキング出現による崩落予想範囲から離れていたため距離があったものの、動員したポケモンの数が1000に及んではさすがに効かないわけがない。
高さ5.5メートルですら888kg…体積は長さの3乗に比例するから、この大きさならば質量は100万トンを超えるだろう。それでいて手足が頑健ではない…高重力下に置かれれば過大なダメージを受けるだろうと予想された。
ズン!大地が震え、アクジキングの巨体が傾ぐ。
(身体の一部分にだけ重力を偏らせている…かなり辛いはず。それに、足場はコーシュー盆地の滞水礫層、巨体は沈み込んで身動きも取れなくなる…!)
地中にいれば、アクジキングは平穏だったのだ。滞水礫層はただの水以上に浮力があり、アクジキングにかかる重力を軽減する…その結果としてアルキメデスの原理的に押し出された水が、温泉としてコーシュー盆地各地に湧き出していたわけで。だから、温泉が湧く範囲に祠を建てれば、地中のアクジキングを鎮めることもできたわけで。
(その巨体が、重量が、命取りよ…!)
果たして。
アクジキングの巨体から煙が上がり。
(来た!滞水礫層への排熱をできなくなれば、熱量もバカにならない!しかも巨体を支えるために踏ん張れば、消費エネルギーは増加して放熱も増える!)
アクジキングはしょせんあく/ドラゴンタイプ、ドラゴンゆえに口などの局所的な熱には耐えても、ほのおタイプではないから全身への熱には耐えられない…
熱と重力に、湯気を上げ傾きながらアクジキングが弱っていく。討伐成功は目前…
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
(なに、この不快感!?)
世界がズレたかのような。
何か大切なものを奪われているかのような。
違和感と不快感と不気味感に、全身が総毛立つ。
「ア、アクジキング、消失!」
そんなわけがない…そう思ってアリア・カナサシは、双眼鏡片手に大穴を覗き込む…何も見当たらない。湯気すら綺麗さっぱり消え去っている。
「ウルトラビーストだから、ウルトラスペースに逃げた?それとも、別の可能性世界に逃げた?」
「/Output違います歌姫さん!
倍率を上げて!大穴の一番中央です!
まだいます!本来のサイズで!End」
生存をバレたことが引き金になったとでも言うかのように。
【アクジキングGXの ヘドロばくだん!】
左の腕から吐き出されたのは、ミヤイリガイたっぷりの泥濘。
【アクジキングGXの あくのはどう!】
右の腕から吐き出されたのは、ドス黒い破壊のビーム。
レックウザがスルスルと空を飛び回避する。ところが、アクジキングは攻撃の方向を変える気配がない。
(何で…?
いえ、あの巨体をどうやってか小さくしたのよ。すぐには動けないし、もともと鈍重だから…よね?)
であれば、すぐに仕留めたほうがいい。
「龍神様、エメラルドブレイク!」
「ここで倒す!グレイシア、ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!」
「お前の神話も、ここで終わりだ/わたくしたちにトドメを刺されること、光栄に思うとよろしくってよ!」
【メガレックウザ(アルビノ)(祝歌)(祈声)の エメラルドブレイク!】
【グレイシア(祝歌)(祈声)の ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!】
【デュアルメガディアンシー(祝歌)(祈声)の ムーンフォース・アクセラレーション!】
空気の槍が、絶対零度の凍風が、時間加速された月光ビームが、アクジキングを一斉に襲う。
間違いなく、どれか一撃でも当たれば勝利…にもかかわらず、アクジキングは動くことなく。
胴体の大きな口を、目いっぱいに広げ。
(…攻撃を食べるつもり?)
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
叫びだして恐怖に震えたくなる、不快感、違和感、不気味感…
…アクジキングに向けられていた攻撃すべてが、消失した。
アクジキングが撃ち出していたヘドロばくだんとあくのはどうが、デュアルメガレックウザを撃ち落とした。
何が起きたかすら、わからなかった。
【アクジキングGXの りゅうせいぐん!】
仕返しだと言わんばかりに、大きく開いた口の中から、十数の岩弾が撃ち出された。
ところで、開かれた口の奥は、極彩にして漆黒、カラフルにしてモノクロ、矛盾した輝きを放っていた…
ー*ー
ぺたん、言祝アリアは、地面に崩れ落ちる。
…既に、レックウザもディアンシーも敗北した。だって、かなうはずがないのだ。
こちらのすべての攻撃が、次の瞬間に消失する。
アクジキングのすべての攻撃が、避けたはずなのに命中している。
…知覚は不可能でも、類推は可能だった。このアクジキングはカナサシ湖底の
「可能性の捕食…奴め、自分に攻撃が当たる可能性、敵に攻撃が当たらない可能性を、捕食しているんだわ...」
そうであるリスクに、考えが及ばなかった…けれど、目の当たりにしてしまえばアリア・カナサシには心当たりがあった。
「ジンザモでの最終決戦の時、カグヤ・フロックスは確かにギラティナに、シンシューとコーシューを破壊させた…
…なのに、ロールバックされたかのように、気がつけばそれはなかったことになっていた。あの時と、同じだわ。」
だとすれば、インチキとかそういうレベルではなかった。宇宙1個まるごと費やしたギラティナの攻撃ですらもなかったことにできる相手…後出しジャンケンの権化みたいな相手に、どうやって勝てと?
アクジキングの目が、こちらを睨む。
(不味いです、その気になれば、奴は私たちの存在の可能性だって…!)
歌姫も令嬢姉妹も、同じ結論に至る…が、防ぐ術がない。
「ちっ…遅らせる!/トリックルーム・ディセラレーションですわ!」
【デュアルメガディアンシーの トリックルーム・ディセラレーション!】
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
時間を静止させられるのならまだしも、時間を減速させるだけでは「可能性の捕食」から逃れられるわけではない…
詰み、その2文字とともに、走馬灯が流れた。
ー*ー
極彩の漆黒、暗黒の閃光…そうとしか言えない、矛盾に満ちた光爆が、コーシュー盆地へと突き立った。
「いよいよ、時は満ちたり。そういうことじゃぞえな。」
【
「は…?」
カナサシ湖底に封印されていたはずの邪神。
光ではなく可能性を放出するネクロズマ。
「ドラゴン」に至る前の「未分化の蛇」にして、「モリヤ氏の左に座する神『
コーシン地方もう1体の邪神が、アクジキングに天鎚を下していた。
言祝アリアとはなんだったのか?
神と呼ばれしポケモンに、どう立ち向かうべきなのか?
…大三輪遥とはなんなのか?
~次回、転生ポケモンアイドル第88話「”固く定まった彼女の天命 あの世界の中からこぼれた光”」~
さあ、踊りましょう!歌いましょう!