アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
コーシュー盆地の底から出現したのは「可能性の捕食」という壮絶な権能を持つ、アクジキングそっくりの邪神だった...!
攻撃の命中と回避を「可能性の捕食」で制御するこの邪神に、アリア・カナサシ、蒼玻/アオバ・フロックス、カグヤ・フロックスの3人は太刀打ちできず...そこへ、カナサシ湖の争乱で姿を消していたツクバネ・モリヤが登場する。
…もう1つの「可能性」の邪神をたずさえて。
ー*ー
空から、矛盾した幾重もの可能性が打ち下ろされる。
【
大穴の底で、大口へと光爆が吸い込まれる。
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
世界がひしゃげる感覚…それだけで、立っているのも苦しいほどであった。
「…抑えきれぬか。」
「貴女…ツクバネ・モリヤ…!」
かつての後見人にして、師の1人にして、そして、裏切り者…アリア・カナサシにとって不倶戴天の婆は、次々と調伏の御札を取り出しては破り捨てている。
「封印を、解いたのね。」
言祝アリアとフロックス姉妹が、固唾をのんで見つめる。…1秒後には刃傷沙汰を起こしかねない殺気と気迫が、アリア・カナサシから溢れていたから。
「驚くことはあるまい。それともそなたは…
…ボールに入れて湖底に沈めたくらいで、あの邪神が鎮んだとでも…?」
視線の先、ウルトラネクロズマのようで微妙に異なるその怪物は、数多の可能性で現実を犯し破綻させて、法則の崩壊の向こう側から練り上げたエネルギーを振り下ろしている。
「吾はもとより、おひだりさまは正しく祀られるべきと考えておったのじゃぞえな。
それに、可能性を喰らう邪神には可能性を吐き出す神をぶつけるしかなかろうて。」
アリア・カナサシは、100通りほどの罵倒を呑み込んだ…なにしろ、「存在の可能性」も「勝敗の可能性」も捕食して思うがままにしていたアクジキングを、このミシャグジ神はなんとかできていたから。
毒をもって毒を制するように、邪神をもって邪神を制している…それに、いつまでもミシャグジ神を湖底に放置できないことも理解はしていた。
「…っ、『正しく祀る』?今やウルトラビーストかどころか、ポケモンかどうかもわからないのよ?」
レックウザの依代たるアリア・カナサシをして、あのミシャグジ神は胡乱で理解不能な神格…とても、人の手に余る。現に、ツクバネ・モリヤが取り出した調伏の御札は10秒と保たずにすべて灰となり破り捨てられている。
「わたくし神事には疎いのですけれど、それでもわかりますわ。アリア・カナサシのほうが正しいのではなくって?
/アクジキングには手長足長、ウルトラネクロズマもどきにはミシャグジ…ポケモンのいない世界の祟り神の可能性を宿してやがる。神を祀る体系ったって伝説ポケモンを従えるしかないこの世界じゃ、メソッドがない。」
蒼玻/アオバ・フロックスの言葉を聞き、ツクバネ・モリヤは、すっと肩から人差し指まで左腕を伸ばし。
「アオバ・フロックス…いや、その中の誰ぞか?
そなたでも良かったんじゃぞえな。もっとも混ざりすぎてしもうておるし、その力の所以は此方の世界の魂というのが、痛くはあるが…」
「お姉ちゃん、いや蒼玻くんの、何を」
無数の御札にくるまれた丸い玉を、ツクバネ・モリヤが右腕でミシャグジ神へと掲げる。
「そなたの、出番が来たということじゃぞえ。」
左腕の指先は、蒼玻/アオバからズレて、そして。
言祝アリアを、指さした。
「ミシャグジ神は誰にも信じられずとも祀ろわれたる神じゃぞえ。本質は野生にして異物たるがゆえに、人にも神の力を宿し輝くことができる、神事にも縛られぬ…が、神の力を宿し輝く者、異世界から訪れし者…ならば、従えられようぞ。」
丸い玉をくるむ御札が、あっという間に灰となってツクバネ・モリヤの手からこぼれ落ち…
…一つのウルトラボールが、現れた。
「そなた、アリア・コトホギ!そなたこそ異世界の巫女であろう!この世界とは異なる可能性をその身に秘めた、ミシャグジ様にもっとも近き巫女じゃぞえ!」
調伏の御札が、いよいよツクバネ・モリヤから尽きる。御不能に陥りつつあるミシャグジ神が、ウルトラボールを睨み、閃光を奔らせた。
【
目的がなんであれど実現までの過程を無視し、実現の可能性さえあれば直截に狙った結果を出力する激ヤバレーザー…その虹色かつ漆黒の極光を浴びながら、言祝アリアはウルトラボールを受け取った。
「…これが、私の、運命だったと?」
幾万の可能性の閃光が、言祝アリアを呑み込む。
ー*ー
ー極光の中で。
「…これが、私の、運命だったと?」
「そうですよ、言祝アリア、もう一人の私。」
「…
「なら、答えは一つだと思いませんか?
あらゆる可能性を引き出すあのビームを浴びる前に、既に一度、私は話しているんですから。
もっとも、因果など些細なことですし、時間の矢印もまた然り、あまり言っても頼りにはなりませんけどね。」
「本当に、何を…?」
「本当に、わかりませんか?
この世界で、あなたは、私は、再び、偶像の頂点に…崇拝の対象、人心の核、願いの集中点に…
この座に、来たんです。あなたが恐れた、本当に恐れたものとともに。」
「本当に、恐れた、もの…
…あ…」
思い出した。いや、今となっては、どうして忘れていたのか。
「そうです、私、声を慎んだのは、アイドルの力を抑えようとしたのは、みんなを魅了で暴走させちゃうからじゃなくて」
「そうです。やっと、私であることを思い出しましたか。であれば。
わかるはずです。ミシャグジ…御左神…それを従える、おひだりさまと対等な座標、神の右側…それよりもさらに上に立つことが、どのような位階を座標に取るのか。
神に最もふさわしい巫女、いえ、神を従える巫女となることがどういう意味を持つのか。まして、アイドルという、不可侵の偶像としてそこに在ることが。」
「…
…神の中の、神…世界のための、神…」
「ならば成し遂げましょう、
可能性の神を従え、人々の祈りを託される偶像として、世界に対してすべきことを。」
ー*ー
そうして、言祝アリアは、覚醒した。
「私に従いなさいっ!ミシャグジィッ!」
ミシャグジに浴びせられた無限の色彩を、底の抜けたようなぬばたまの瞳へと収束させ。
「コ、コトホギさん?」
空高く、光爆のウルトラビーストが、浮力を失ったかのようにもがき、墜落…
…そして、そこがまるで運命の定位置であるかのように、ミシャグジ神は言祝アリアの手前にその身を置いた。
「ミシャグジ、慣らし運転と行きましょう。…私の。
プロバビリティゲイザー!」
【
極彩にして漆黒、カラフルにしてモノクロ、そして、拡散にして収縮。…そのビームは、色にだけではなくベクトルにも可能性を持っていた。
入力し試行できる可能性が増加すれば、出力できうる結果も増加する。
空が割れ、海が降り注ぎ、草木が砂鉄の嵐となり、地面から流星群が噴き出す…そのすべてが、アクジキングめがけ襲いかかる。しかも、それらすらビームの余波に過ぎない。
光が失せた時、アクジキングは1000回死に、そしてその可能性すべてを捕食して耐えていた。
「まだ、小手調べですよ?
さあ、踊りましょう!歌いましょう!私の!
邪神をどうすべきかも、言祝アリアをどうすべきかも、すべて、ツクバネ・モリヤが一番よくわかっていた。
大三輪遥は、ずっと目を背け、忘れていたものを取り戻した。
~次話、「完璧で救世の女神」~
「転生ポケモンアイドル」最後の戦いが、ここに幕を開ける...!