ギャグコメ、ラブコメが苦手なので練習がてらエタらないようにチマチマ書いていくのでよろしくお願いします。
それは、よく晴れたある日のことだった。
朝から秋川やよい理事長たちに呼び出されていた俺は、会議室に座って理事長たちと対面していた。
なんでも、俺に関してよくない噂が立っているようで、その真偽を確かめたいとのことだった。
「開始! これより、君に対する噂への調査を行う。よろしいな?」
「はい、問題ありません」
しっかりと返事をした俺に秋川やよい理事長は「うむ!」と言って、隣に座った駿川たづなさんへ視線で指示を出した。
駿川たづなさんもまた彼女の視線に頷くと、手元の資料を捲った。
「それではみなさま、お手元の資料を元にトレーナーへのご質問をお願いいたします」
合図に合わせて、今日この場に集まった4人の視線が俺と手元の資料とを交互に行き来する。
おそらくあの資料に俺に関する悪い噂とやらの情報が載っているのだろう。いったいどんな噂なのやら……内心、戦々恐々としながら全員の返事を待った。
「私から、よろしいでしょうか」
まず最初に手を挙げたのはURA所属トレーナーの、樫本さんだった。
「どうぞ」とたづなさんに促されて立ち上がった彼女は、ひとつ咳払いをすると少し聞きにくそうな様子で口を開いた。
「単刀直入に、聞きますが……気を悪くしないてください」
「は、はいっ」
何を聞かれるのか。固唾を飲んで次の言葉を待つ俺に、樫本さんは驚愕の言葉を投げかけた!
「あなたは……
ロリコン、なのですか?」
「……はい?」
◇◇◇
「えぇ……と、あれ? え? なんですか? 俺の悪い噂の調査だったんじゃ?」
あんまりにもあんまりな不意打ちに動揺して思わず敬語も忘れて聞き返した俺に、樫本さんはかなり申し訳なさそうというか、とても言いにくそうな雰囲気で、言葉を選びながら言った。
「その、この資料によればあなたの担当しているチームのウマ娘たちが、全員……背が小さいと」
「そ、そりゃあ……確かに平均よりは小さいですけど……ロリコン? え? あの、じゃあその悪い噂って……」
「はい、まあ……」
「君が背の小さい子ばかりをスカウトしているから、周囲からロリコンなんじゃないかと、そう思われてるのさ」
どうもやりにくそうに頷いた樫本さんの言葉を引き継ぐように、URAトレセン学園強化部門の佐岳メイ役員が言う。
「……えぇ?」
なんじゃそら。俺がロリコンって噂が立ってるから、佐岳メイ役員まで集めてこんな仰々しいことを?
……暇なのか? URAって、もしかして。
「ご自分の担当しているウマ娘を、今一度思い返してください」
「タマモクロス、イナリワン、ライスシャワー、ナリタタイシン、ダイイチルビー、ドリームジャーニーですが」
「……やはりどう見ても小さい子を中心に集めているようにしか見えませんね」
「それもそうなのですが、はい。警察の方々から職務質問に関する問い合わせが多くてですね……こうして一度、確認の場を設けようという話になりまして」
「プロジェクトL'Arcに協力してくれている君を疑うのは、あたし様としても好ましくないんだ。けれどなにぶん、センシティブな問題だろう? だからURAも少し敏感になっていてね……」
俺がクッソ失礼なことを考えていると、駿川たづなさんと佐岳メイ役員は溜め息混じりに今回の件について説明した。
……いや、まあ? 確かに? 担当の子と出かけるたびに職質はされてますけど? それでロリコン呼ばわりされたり、こんな裁判みたいな場を設けられるのは心外だなあ……。
「まあ君のトレーナーとしての腕は確かだから、いまさら性癖がどうであろうと関係ないと思うんだけどね。それこそ? あたし様みたいな、ちんちくりんで可愛げのないこんな女を好きでも……」
「佐岳さん」
URAへの不平不満をつらつらと考えていたが、佐岳さんが自分を卑下するようなことを言ったので、俺は失礼ながら口を挟んだ。
「女性は身長ではありません。それに、佐岳さんは可愛げがある良い女性ですよ」
「……ふぇ?!」
「トレーナーさん?」
「トレーナー?」
「いえ、すみませんたづなさん。ですがプロジェクトL'Arcに関わる身としては、佐岳さんがこう自身を卑下する言葉を言うのは許容できないんです」
「え、えっ……な、なんで……?」
「佐岳メイという女性は、俺にとって理想だからです」
「り、理想!?」
俺は佐岳メイ役員を本当にすごいと心の底から思っているんだ。
世界最高峰のレースである凱旋門賞に挑み続けるために、自身を擲つ覚悟であれほどの一大プロジェクトを立ち上げて、よっぽどできることじゃない。
それにいつだって自信に溢れて、みんなを引っ張っていこうという情熱。気さくで面倒見が良くて、まさに理想とも言えるリーダーシップも備えてる。
とても尊敬できる人だ。まさにトレーナーの鑑みたいな性格で、俺もこうありたいと思ったほどだ。
だから本人が自分のことを否定するようなことを言うのは、できればやめて欲しかった。
理想の押し付けと言われたらそれまでだが。
「そ、そんな……そんなこと、男の人から言われたの……私、初めてかも……♡」
「佐岳さん?」
「メイ?」
「そうなんですか? 変だな……こんな人を放っておくなんて」
「トレーナーさん!?」
「トレーナー!?」
「そ、その……今度食事でもどうかな……私と、2人きりで……♡」
「佐岳さん!?」
「メイ!?」
「食事ですか? はい、もちろんですよ! えっと、確か来月の第二土曜日が空いているので、日時はそれで良いですか?」
「うん……楽しみに、してる……♡」
「佐岳さん!!!???!?!?」
「メイ!?!?!?!?!?」
メイさんのほうから食事のお誘いなんて光栄だ。俺の熱意が伝わったのかな。ぜひプロジェクトL'Arcについて有意義な話をしたいところだ。
それにしても、なぜ樫本さんは顔を覆っているのだろうか。
「メイ!!!! 目を覚ましてくれメイ!!!!! たぶんこの男はまったくそういうのは意図して言っていないぞ!!!!!!!」
「佐岳さん!!!!! チョロ甘すぎますよ!!!!! ダメですよこんなクソボケに惚れたら!!!!!!」
「……こ、こほん! それで、結局のところ君はロリコンなのかい?」
「まさか!」
なぜか気恥ずかしそうに咳払いをして聞いた佐岳メイ役員に、俺は声高々に言葉を返した。
「確かに私がスカウトした子はみんな背が小さいです。ですが、身長……体格のハンデなんでものともしない才気に溢れる子たちなんです! 俺……失礼しました。私は、彼女たちの背が小さいからスカウトしたのではなく、彼女の才能に魅せられたがゆえにスカウトしたんです! やましい気持ちなど、あろうはずがありません!」
疑いを晴らすために熱意を込めた声で、4人に自分の気持ちを伝える。
確かに言われた通り、俺のチーム「プロキオン」は身体の小さい子たちばかりがいる。
だが、彼女たちはその小さな身体に途方もないパワーを秘めた、G1級の才能を持つ子たちで、だからこそスカウトしたんだ。
実際、すでにデビュー済みの子は複数のG1を勝利して偉業を成している子もいる。
俺が体格で選んだのではなく、その小柄な身体に隠された才能を見抜いてスカウトしたことは、疑いようもないだろう。
「……なるほど。あなたの熱意は、確かに伝わりました」
言葉と気持ちを尽くした俺の訴えに、樫本さんは微かに表情を緩めて頷く。同じトレーナーとして、きっと俺の想いが伝わったのだろう。
けれど一方で、佐岳メイ役員は困ったような、納得したくてもできないような、なんとも言えない顔で秋川やよい理事長に目配せする。
彼女の目配せを受け取った秋川やよい理事長は複雑な表情をしつつも俺に向き直ると「疑問!」と言って扇子で手のひらを叩いた。
「……君の熱意は確かに伝わった! しかし熱意だけでは、君のスカウトした子たちがこのトレセン学園でも、特に背の小さい生徒ばかりである事実と、そこに付随する風評は覆せない……ゆえに、説明! 普段の様子を、ここで話してほしい!」
「普段の、ですか?」
妙なことを言われて小さく首を傾げると、駿川たづなさんは机に小さな機械……おそらくボイスレコーダーを置いた。
「話していただいたチーム内の様子を録音します。実はプロキオンに所属している生徒たちにも、今別室で聞き取り調査をしているんです。双方の言い分に矛盾がなければ、十分な証拠となるはずです」
なんだか仰々しいことになってきた。そこまでする必要があるのだろうか?
いや、佐岳メイ役員が言っていたように上が敏感になっている以上、聞き取りだけでは納得してくれないからここまでしているんだ。
プロジェクトL'Arc……凱旋門賞を勝とうっていう一大プロジェクトで、トレーナーがロリコンだったなんてスキャンダルが出たらと思うと、そりゃあ慎重にもなる。
自惚れってわけじゃないが、俺のせいでプロジェクトがオジャンになったら死んでも死にきれない。ここはしっかりと証言して、身の潔白を証明しなければ!
「わかりました」
グッと気を引き締めて答えると、秋川やよい理事長は俺の決意をしっかりと受け取って「うむ!」と頷いてくれた。
「ではさっそく、聴取! 君のチームが普段、どのような活動をしているか、話してもらおう!」
「はい!」
秋川やよい理事長に促された俺は、駿川たづなさんがレコーダーのスイッチを入れたのを確認すると、チームが普段どんな様子なのかを話した。
◇◇◇
「ただいま、みんな!」
いつものように俺がチームルームの扉を開きながら言うと、すぐに5人の返事が……『ちょ、ちょっと待ってください?』
◇◇◇
「なんですか?」
「いや、あの."ただいま"とは? 普通は、こう……"おはようございます"や"お疲れ様です"だと思うのですが……」
俺がまだ最初のさの字も言っていないくらいの段階で、急に樫本さんが割り込んできた。
どうやら俺のチームメンバーへの挨拶に疑問を抱いたらしい。
「チームメンバーがみんなそうして欲しいと言うんです。トレーナーはもう家族だから堅苦しい挨拶はしないで欲しいって。そんな信頼されているなんて、なんだか照れちゃいますよね」
「……そ、そうですか……」
俺の答えに、樫本さんはなぜか引き攣った表情を浮かべた。
「お、おかえりか……私も言いたい、かな……♡」
「腹痛……! メイ、頼むから彼相手に色ボケないでほしい……絶対に後悔するから……っ!」
「えーと……つ、続けてください」
「……? わかりました」
樫本さんにとめられてなんだか変な雰囲気になってしまった。
俺は小さく咳払いをして気を取り直すと、改めて最初から話を始めた。
◇◇◇
「ただいま、みんな!」
俺がチームルームの扉を開きながら言うと、すぐにチームの6人が挨拶を返してくれた。
「おかえりやで! ダー……トレーナー!」
「おっと! ははは、今日も元気だなぁタマは」
「えへへ〜♡ 疲れなんて、こうしてたらなんも吹っ飛ぶで〜♡」
最初に抱きついて出迎えてくれたのは、最古参でチームの年長者でもあるタマモクロス。
「やれやれ、タマ公はいつもこうだよなぁ……っと、旦那。鞄、持つぜ」
「うん、ありがとうイナリ」
「よせやい、アタシと旦那の仲じゃねえか♡」
次に出迎えてくれて、鞄を持ってくれたのがタマに次ぐ古参メンバーのイナリワン。
「おかえりなさいませ。お勤め、ご苦労様でした」
「ありがとうルビー。ルビーもお疲れ様」
「いえ、当然の務めですので。……あとで、褒美をいただけたらなら、それで……」
丁寧な言葉と共に礼をして労ってくれるのはダイイチルビー。
「お、おかえりなさい、お兄さま! 上着、預かるね!」
「ありがとう。お願いするよ、ライス」
「うん! えへへ……お兄さまの匂い……♡」
俺が脱いだ上着を胸元に抱きしめて、嬉しそうに耳をピコピコと動かすのはライスシャワー。
「おかえり。……遅い」
「ただいま、タイシン。お弁当、今日もおいしかったよ。いつもありがとう」
「べ、別に……アンタのためじゃなくて、ただのついでだし……」
ぶっきらぼうに言いつつもちゃんと出迎えてくれるのが、ナリタタイシン。
「お帰りなさい、トレーナーさん。今日も"何事"もなかったようですね?」
「ジャーニー! もちろんだよ、今日も何事もなく仕事できたよ!」
「ふふっ、それは何よりです。……コバエは早めの対策が、肝要ですからね」
みんなからは一歩引いた場所で嫋やかに微笑むのは、一番新参のドリームジャーニー。
これが俺のチーム、プロキオンのメンバー。俺の大切な担当ウマ娘だ。
「よし、みんな揃ってるね。それじゃあ、まずはミーティングだ」
トレーニングを始める前は、必ずミーティングを行う。これは他のチームでもやっていることだから特筆すべきことはない。
あるとすれば、うちはタマとイナリがドリームリーグで走っているから個別の調整が必要、ってことくらいかな。
◇◇◇
「どう思う、メイ……! 私はすでに胃が痛い……!」
「どうって言われても、真面目なトレーナーで素敵だなって……♡」
「ダメだたづな! 助けて! 私もう見てられない!」
「理事長……私たちはもう見守るしか……」
「続きいいですか?」
「……どうぞ」
「どうも」
◇◇◇
ミーティングはまずデビュー済みのルビーとライス、それからまだデビュー前のジャーニーから始める。
俺は抱きついたままのタマを抱っこしてソファに座ると、ルビー、ライス、タイシンの3人にそれぞれトレーニングの指示を出した。
「今日のメニューは坂路が中心だね。ルビー、ライス、タイシンはひとまず3本から始めよう。ルビーは来年からティアラ路線だからね、今のうちにしっかりとスタミナをつけていくよ。ライスとタイシンも、秋のG1は間隔が短いから気合を入れていこう!」
「かしこまりました」
「うん!」
「わかった」
次はまだ身体ができていないジャーニー。
素質自体は十分すぎるくらいあるが、いかんせん本格化が来たのはつい最近だから無理はさせられない。今はまだまだ身体作りの段階だ。
「ジャーニーはまだ身体ができてないから、まずは1本。3人について行って。行けそうならもう1本。ダメそうなら戻ってクールダウンね」
「わかりました」
最後はタマとイナリ。と言っても、ドリームトロフィーは夏と冬の2回で、すでに夏のドリームトロフィーは終わっている。今は冬に向けて身体を休める期間だ。
「タマとイナリはいつも通り、準備を手伝ってくれ」
「ふへぇ〜……まかせとき〜♡」
「そう言うと思って、スポドリとタオルはもう用意してあるぜ」
「さすがだな、2人とも。頼り甲斐があるよ」
「へへっ、何年一緒に過ごしてんでい! 旦那のしてほしいことなんざお見通しってね♡」
俺が手で狐を作って差し出すと、イナリも狐を作って俺の指にチョンとくっつけ『アウトです!!!! アウト!!!!!』
◇◇◇
「なんですか手で作った狐でキスって!? 生徒と何やってるんですか!? それはもう明らかに隠喩じゃないですか!!! それにさっきから気になっていましたがなんでタマモクロスさんを抱っこしてるんですか!? どう考えても不純です!!!!」
「お、落ち着け樫本くん! 直接ではない! 直接ではないから一応はセーフだ! それにタマモクロスくんに関してもトレーナーからではないからどうも言えん!」
「し、しかし……!」
「大丈夫ですよ、これはただのスキンシップですので。そういうのはいっさいありません」
「……ちなみに、なのですが。やろうと言い出したのはあなたのほうからですか?」
「いえ、イナリワンのほうからですが。タマモクロスに関しては気付いたら、というか成り行きでというか」
「そ、そうですか……あの、この人はもしかしなくても……」
「はい、その……鈍感天然タラシです……」
「……スゥー……」
「あ、あわわ……そんな、キスだなんて……で、でもいつかは私も……♡」
「メイ……!」
◇◇◇
俺が手で狐を作って差し出すと、イナリも狐を作って俺の指にチョンとくっつけてにっと笑いあう。
2人とも古参なだけあって、こっちのことをよく理解してくれているからとても助かる。
「今日もケガなく安全に、トレーニングしていこう!」
こうして今日もプロキオンのトレーニングが始まるのである。
トレーニングに関しては、特に何か起こることはない。ケガには万全の注意を払っているし、そもそも今日はそこまで高負荷のトレーニングはしない。
「よーし、最後もう一本! ルビー、2人に負けないように全力で行って! ライスとタイシンも、ルビーに負けないように全力で!」
「はいっ!」
「よ、よし……!」
「ふっ!」
短距離とマイルが主戦場のルビーは、中長距離を走る2人と比べれば要求されるスタミナ量は少ない。
しかし彼女の望むティアラ路線を走り切るには、少なくともシニア級のライスとタイシンに喰らい付ける程度のスタミナと根性が必要だ。
「みなさん、すごいですね。私ではまだまだ追いつけそうにありません」
「そんなことはないよ、ジャーニー。君だってあの3人に2本も付いて行ったじゃないか。まだデビューしてないのに、本当によく頑張ったね」
ひと足先に休んでいたジャーニーが自嘲したように笑うから、俺は彼女の頭を優しく撫でながらそう褒めた。
実際ジャーニーはすごい。彼女にも言ったように、まだデビューもしていない段階で坂路を2本なんてそうできることじゃない。やっぱりこの子には素質があるんだ、チームのみんなと同じG1級の素質が。
「あっと、ごめん。何も言わずに撫でちゃって」
「い、いえ……不快では、なかったので……少し、驚きましたが」
「そう? ならよかった。みんななんかわかんないけど、よく頭撫でて欲しいっていうから、ついジャーニーも撫でちゃって。次からは……」
気をつけるよ。と言いかけたところで、ジャーニーが俺の腕をそっと掴んだ。
そして、その手を自身の頬に持っていくと、こちらを見上げながら言った。
「私は、気にしませんから。むしろみなさんと同じように……撫でていただけたらと、思います……♡」
夕日の赤色に染まった笑顔が眩しいジャーニーにこう言われて、俺は困ったような嬉しいような気分で頷いた。
「わかった。……ジャーニー、今日はよく頑張ったね。3人ももうすぐ終わるから、クールダウンして休んでいて」
「ええ、わかりました……♡」
ジャーニーの頭を撫でて頑張りを労っていると、不意にタマとイナリが後ろから声をかけてきた。
「旦那、3人が終わったみたいだぞ」
「トレーナー♡ウチも撫でて〜♡」
「おっと、よしよし。まったくタマはいつからこんな甘えたになったんだか」
「ふへへへ……♡」
「やれやれ、レースじゃああんなに厳ついってのに旦那の前じゃいっつもこうだねえ」
「まあ、それもタマモクロスさんの良さ……なのでしょう」
ひょいと抱きついてきたタマの頭を撫でながら、イナリからスポドリとタオルを受け取る。スポドリもタオルもキンキンに冷やされていて、きっと坂路終わりの3人にはこれ以上ないご褒美だろう。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……練習終わったよ、お兄さま!」
「……いつもの、お願い」
そんなことを考えていると、最後の坂路を終えた3人が戻ってきた。さすがにルビーは疲労困憊と言った様子だが、シニア級の2人は息切れはしてるけどまだ余裕そうだ。
「うん、3人ともお疲れ様。よく頑張ったね」
目の前に並んだ3人にまずは労いの言葉をかけて、俺は1人ずつ、順番に頭を撫でながらその頑張りを褒めた。
「ルビー、今日はよく頑張ったね。ジュニア級なのに、2人に付いて行けて本当にすごいよ。この調子なら、来年のトリプルティアラは君のものだね!」
「んっ……一族として、あなたの期待に応えるのは当然の務めですから……♡」
「ライス、お疲れ様。坂路往復、5本もやったのにまだ余裕そうだなんてさすが一流のステイヤー、ううん。最高の、ヒーローだね!」
「え、えへへ……ありがとう、お兄さま♡ 明日はライス、もっと頑張るね!」
「タイシン、今日は走りのキレが増してたね。勝負根性とスピード、それにこの末脚があれば誰にも負けないよ! やっぱり君のスピードは日本一だ!」
「……ま、まあ……あいつらに負けるのは、癪だし……♡」
3人をめいっぱい労ったあとは、みんなでクールダウンをしてから解散。タマとイナリは俺と部室に戻って、タオルの洗濯やボトルの洗浄をしてから帰る。
「な〜ダーリン♡こうして並んどると夫婦みたいやな〜♡」
「ん? ……そうかな」
「せやで〜♡ウチらもう完全に夫婦やろ♡な〜イナリ〜♡」
「へん! タマ公の身長じゃせいぜい親子ってとこだな?」
「なんやとぉ……! それ言うたら自分も並んだらガキやないかい! ウチより背が低いしな〜、嫉妬してんのか〜?」
「ああん!? うどんと白飯一緒に食うやつがナマ言うなや!」
「はぁ!? 何が悪いねん!? うどんはおかずや!!!!」
「あははっ。なんかわかんないけど、喧嘩はほどほどにね」
いつものようにタマとイナリの騒がしい声を聞きながら、俺は最後のボトルを洗い終えるのだった。
◇◇◇
「……と、まあこんな感じですね」
俺が話し終えると、樫本さんがものすごく微妙な顔をして俺と理事長を見比べていた。秋川やよい理事長は無言で首を振り、駿川たづなさんは沈痛な面持ちだ。佐岳メイ役員だけはなぜか終始顔を赤らめてもじもじしている。
……トイレにでも行きたいのだろうか? けっこう長時間話していたし、俺もなんか少しトイレ行きたくなってきたな。
「どうですかね? これで私がロリコンではないという証明になりますよね?」
とにかく、ここまできちんと話したんだ。潔白なことは確定的に明らかだろう。4人も納得してくれるはずだ。
「鈍感! 今世紀最強のニブチントレーナー!」
「ロリコンではないけどクソボケですかね」
「正直、擁護できないレベルの察しの悪さで驚きました」
「なんでぇ!?」
結局今回の騒動で俺に対するロリコンの疑いは晴れたけど、その代わりに不名誉すぎる評価を得たのだった。
鈍感だのクソボケだのとは、まったく失礼だなぁ……。
ちなみに、佐岳メイ役員とは後日ちゃんと食事に行った。プロジェクトL'Arcに関する有益な情報交換と、彼女のプライベートな連絡先を渡された。
来年はいよいよフランスへの遠征だし、きっとその時にはいろいろ込み入った話をすることになるから、今からありがたく使わせてもらう。