ち、違う!俺はロリコンじゃない!   作:四十九院暁美

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ちょこっと情報①

・久保聡介(クソボケトレーナー)
新人からいきなりチーム・プロキオンを率いてG1勝利の実績を積み上げている若き天才トレーナー……なのだが、トレーナー面接時にやよい理事長へ向かって「あなたのために来ました」と言ったりとか、レース前にタマモクロスを抱きしめていたり、イナリワンと頻繁に大井に出かけていたり、さらにはライスシャワーに「君はおれにとってのヒーローだ」と面と向かって言ったり、ナリタタイシンに「一生君の担当でいる!」と宣言していたのを目撃されたことで周囲から「おや……?」と思われた。
さらにその後、ダイイチルビーをスカウト面接で熱烈に口説いただとか、ドリームジャーニーには昔の縁(意味深)で逆スカウトされたという噂が広まった結果、ロリコン認定された哀れなやつ。
本人はロリコンではないと否定しているが、やってることだけ見たら残念でもないし当然の結果である。


お前それ外で絶対言うなよ

「俺、そんなロリコンに見えますかね……」

 

「え、うん」

 

「自覚なかったのか?」

 

「違うんすよマジで! 俺は本当にアイツらの走りの才能に夢を見たからスカウトしたんですよ! 本当なんです! 信じてください!」

 

 トレセン学園の近くにあるスーパー銭湯。そのサウナの中で、俺は先輩トレーナーの2人に必死に訴えていた。

 先日のロリコン疑惑審議会で一応はURAに対してロリコンの汚名を晴らした俺だったが、学園内ではいまだに俺がロリコンであるという噂が囁かれている。

 というかあの審議会で余計にその噂が深まった。ロリコンのせいで呼び出されたとか言われてるらしい。とんでもない風評被害である。訴えたら勝てるんじゃないか? 

 

「しかしなぁ……さすがに擁護できねえよ、あのメンバーは」

 

 俺の訴えに困ったような顔で頭を掻いたのは、沖野トレーナー。

 あのチーム・スピカを率いる名実ともに一流トレーナーで、今はキタサンブラックの育成に全力を注いでいる。

 

「いくらなんでも、側から見りゃあ相当だ」

 

 呆れたと首を振るのは渋い声の黒沼トレーナーだ。

 スパルタ的な練習で短距離適正と言われていたミホノブルボンを2冠ウマ娘にまで育て上げた超が付くほどのすごい人だ。

 沖野さんは昔タマのことで、黒沼さんはライスのことで何度か世話になった縁で、たまにこうして一緒にサウナに入ったりしているのだ。

 

「本当にそんな気はないんですよ! ってか俺が本当にロリコンならもっとこう……他の子を狙うでしょ!」

 

「いや、まあ確かに? お前の普段の態度からそいつはわかるんだが、チョイスっつうか……なあ?」

 

「見事に高等部の低身長組だけを狙い撃ってんのは、何も知らないとかなりヤバい奴に見えるぜ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 心外な評価だ。俺はまったく、これっぽっちも! やましい心なんて持ってないのに、チームみんなの背が小さいってだけでこんな不名誉な評価を受けるなんて! 

 こんな評価ばっかりじゃチームのみんなに迷惑がかかってしまう。早いとここの評価をなんとかして覆したいところだ。

 っていうか、そもそも身長でウチの子たちを判断しないでほしいんだが!? 

 確かに背は小さい。一番高いライスとタイシンですら145cmだ。でもみんな高等部で世間一般で言うロリの範疇にはないだろ! 

 それにみんなのあの走りを見れば、ロリだのなんだのなんて絶対に言えないはずなんだ。あんなに格好良くて、美しくて、気高い走りを見たら、口が裂けても言えないはずなんだ! 

 まったく、本当に頭に来る。何もわかってない周囲の奴らにも、みんなの魅力を伝えきれない自分にも。

 と、考えていた時にふと気づく。

 

「つか、それ言ったら沖野さんだってチームメンバー、サイレンススズカ以外全員中等部なんだから割とロリコンじゃないっすか?」

 

「おっと喧嘩か? 言い値で買うぞ」

 

 よくよく考えてみたら沖野さんのチームメンバーだって、スペシャルウィークを筆頭にトウカイテイオー、メジロマックイーン、ダイワスカーレット、ウオッカ、キタサンブラック、ゴールドシップ……はあいつ学年どこなんだ? 

 とにかく! 側から見たら沖野さんだって中等部のウマ娘を狙い撃ってるヤバいロリコンじゃないか! 

 

「……一理ある」

 

「一理ない!」

 

「ほらあ!」

 

「ほらあ! じゃねえよ、お前このっ!」

 

「うわ、扇ぐのやめて! めっちゃ暑い!」

 

 沖野さんがタオルでめっちゃ扇いでくるんで、慌てて黒沼さんの影に隠れる。

 沖野さんも大先輩である黒沼さんごと扇ぐのはさすがにマズイと思ったのか、どうにか回り込もうとしてくるがそこは華麗な上半身捌きでうまく躱す。

 タイシンの蹴りを回避するために身につけたスウェーは伊達じゃないぜ! 

 ……最近はめっきり蹴られたりしないから出番ないけど。

 

「しかし、お前の理論でいくと」

 

「ん? はい」

 

 沖野さんとの攻防を繰り広げていると、溜め息混じりに黒沼さんが口を開く。

 

「中等部のウマ娘を持ってる奴ぁ……全員ロリコンってことになるが……いいのか?」

 

「えっ……とぉ……」

 

 黒沼さんに言われて、俺は気まずく目を逸らした。

 た、確かにそうなるとカノープスの南坂トレーナーも中等部で固めてるからやばいロリコンになってしまうな……。ツインターボみたいな割と幼い子もいるから余計にやばい。

 いや、あの人自体は穏やかでいい人なんだけどね? たまに発想が物騒なだけで。

 あとリギルの東条さんもグラスワンダーやエルコンドルパサーがいるから、そうなってしまう……かも……? 

 あとカペラとかサトノ全員まだ中等部だし。

 

「前言を、撤回いたします……」

 

「おう、そうしとけ」

 

「ここだからいいけどよぉ、お前それ絶対外で言うなよ」

 

「肝に銘じておきます……」

 

 考え出したら割と大変なことだと気づいて頭を下げる。2人は優しいので悪ふざけ程度で許してくれたが、言われた通り外では絶対に言わないようにしよう。

 たぶん学園の全トレーナーを敵に回す気がする。

 

「はぁ……しかし、どうしたらロリコンじゃないってわかってもらえるんですかねえ」

 

「う〜ん……」

 

 話がちょっと逸れたので、空気の入れ替えがてら話題を戻してみる。

 別に俺がロリコン呼ばわりされるのはどうでもいい。

 いやよくない。

 俺がロリコン呼ばわりされるとチームのみんなにも迷惑がかかるから。

 だからチームのみんなに迷惑がかからないように、うまいことこの不名誉な評価を払拭しておきたい。

 

「……恋人を作るっすかね?」

 

「やめろ」

 

「絶対にやめろ」

 

「なんでですか!?」

 

 とりあえずパッと思いついた案を口にしてみるが、しかし先輩2人の反応は芳しくない。

 

「なんでってお前……そりゃあ、アレだ。なぁ?」

 

「あ〜……ん〜……いやほら。トレーナーって、けっこう残業多めだし? 休日は基本レースで潰れるだろ? だから、向かねえよなあって」

 

「じゃあトレーナーを恋人にしたらいいじゃないすか」

 

「それは、マジで、やめろ!」

 

「お前、トレセンで仁義なき戦いを起こすつもりか?」

 

「大袈裟だな〜」

 

 トレーナーと一般人が難しいなら、トレーナーとトレーナーで恋愛したらいいじゃない。

 そう思って言ったんだけど、沖野さんも黒沼さんもガチめの顔で首を振って否定した。

 なんでだろう、トレーナー同士ならけっこう付き合いやすいと思うんだけどな。チーム運営も2人でできて負担が減るし、レースもデート感覚で一緒に見に行けるし。

 

「トレーナーじゃなくとも、URAの方とかでも全然。ってかむしろそっちの方が融通利きそうだし……」

 

「……一応、聞いておくんだが」

 

「はい?」

 

「お前、まさかトレセンの中で気になってる奴がいる……とか、言わねえよな?」

 

 俺がこんなふうに、こう考えてるんですよと話していたら、途中で沖野さんがふと何かに気づいたみたいな顔で恐る恐る聞いてきた。

 え、なに急に……恋バナ? 修学旅行の夜的なノリなの? 

 

「え……い、いますけど……」

 

「アカーン!!!!!!」

 

 ちょっと恥ずかしい気持ちになりつつも言うと、沖野さんが突然のけ反って大声を上げた。

 この人いっつもテンション高いな……サウナなのに。

 

「その、気になってる奴ってのは……」

 

「……か、樫本、さん……ですけど……」

 

「お前……よりによって……」

 

「お前それ絶対外で言うなよ!? マジでぜっっっっっっっっっったい言うなよ!!! フリじゃなくてマジだからな!?」

 

「あばばばばばっ」

 

 黒沼さんも乗っかってきたので、まあ……恥ずかしながら樫本さんのことを言うと、沖野さんが肩を掴んでグワングワン揺さぶってきた。

 そこまで必死になる程かと思ったけど、よく考えたらトレーナーなんて下っ端が上役のURA役員、しかも幹部役員にそういう気持ちを向けてるのはマズイのかもしれない……。

 い、いやでも樫本さんはそういうの気にするタイプじゃないと思うしっ! 全然受け入れてくれるタイプだと思うしっ! 割とチャンスはあると思うしっ!

 ってか沖野さんはいつまで揺さぶるの。ちょっと気持ち悪くなってきたんだけど……。

 

「沖野、その辺にしてやれ。気分悪そうだ」

 

「あっと、わ、悪い……」

 

「だ、だいじょぶれふ……うぇっぷ……」

 

 黒沼さんが止めにはいってくれたおかげで、おきのさんがやっとこさ肩から手を離してくれた。

 おぉう、だいぶ気持ち悪くなってきた……揺さぶられたのと恥ずかしいのとで、ちょっとのぼせちゃったかもしれない。

 

「そろそろ上がるか。こいつが倒れでもしたらマズイからな」

 

「うっす……」

 

「本当にすまん、ついな……風呂上がりに牛乳奢ってやるから許してくれ」

 

「ふ、フルーツ牛乳で、お願いします……げふっ」

 

「ちゃっかりしてんなぁ……」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「お? 旦那に先輩方じゃねえか」

 

「おや、奇遇ですね。トレーナーさんに、みなさんもこちらにいらしていたとは」

 

 奢ってもらったフルーツ牛乳を飲みながら、フラフラする頭と身体を休憩室のソファで休めていると、偶然にもイナリとジャーニーに出会った。

 タオルを首に巻いてるところを見るに、2人もさっきまで風呂に浸かっていたようだ。

 

「ふたりとも来てたんだ、偶然だね」

 

「あ、ああ……奇遇だな」

 

「……そうだな」

 

「ここはあたしの行きつけ銭湯のひとつだからな。偶然会うってのもあり得なくはないだろ?」

 

「たまにはと思い、イナリさんについて来ましたが……ふふっ、良いこともあるものですね」

 

 そういえば、ここはイナリがよく通ってる銭湯のひとつだった気がする。

 それなら偶然会うってのもなくはないのかな。

 

「にしても旦那、まるで茹で蛸みてぇじゃねえか。なんでい、つい長湯してのぼせちまったか?」

 

「ああ、実は……」

 

「じ、実はそうなんだよ! ちょっとサウナで長話しすぎちまって! いや〜悪いな!」

 

「そうだったのですか? ふむ……それなら、仕方がありませんね。しかし何の話を? ずいぶん盛り上がっていたようですが」

 

「男同士のバカな話だ。……生徒には聞かせられねぇような、な」

 

 2人の問いかけに俺が答えようとすると、急に沖野さんと黒沼さんが割って入って来た。何でか知らないけど妙に焦った感じで。

 いきなりどうしたんだ? なんかまずいことでもあったかな。何にもなかったと思うけど。

 

「男同士裸の付き合いで赤裸々にってか! そりゃあ粋じゃねえかい! いいねえ、あたしらもやってみたいこったぜ」

 

「ええ、そうですね。……家族水入らずで、みんなで大きなお風呂に入りたいですね……」

 

 イナリとジャーニーは顔を見合わせると、そう言って笑った。わざわざ、家族水入らず、と言うあたりにジャーニーの家族愛の強さを感じる。

 そういえば俺も最近は実家に帰ってないな。今度顔を出して、親父の背中でも洗ってやるか。

 

「っと、そろそろ門限だな。旦那、一緒に戻らねえかい?」

 

「そうだね、戻ろうか。おふたりはどうします?」

 

「ああ……いや、沖野と一杯引っ掛けてから戻るつもりだ」

 

「えっ、俺ぁ今月金が……」

 

「付き合ってくれるよな?」

 

「よ、ヨロコンデー……」

 

 フルーツ牛乳を飲み干して、ソファから立ち上がろうとするけど、上手く立ち上がれなくてまた座り込んでしまう。

 のぼせた身体はまだ回復していないようで、ちょっと頭がぼうっとして足元がおぼつかない。

 このまま歩いていくのはちょっと危ないかな、タクシーを使うか。

 

「おっとと。大丈夫か、旦那? 無理するもんじゃねえぜ」

 

「さあ、私の手を掴んでください」

 

「ごめんね。イナリ、ジャーニー」

 

 差し出された2人の手を握って、

 2人とも手がちっちゃいなぁ。それにイナリの手はあったかいけど、ジャーニーの手は冷たいな。

 

「それじゃあ、お二人ともお疲れ様でした〜」

 

 イナリとジャーニーの助けを借りながらよいしょとソファから立ち上がり、2人に手を引かれながら先輩たちに別れを告げて外へ出る。

 吹き抜ける冷たい夜風が熱った身体に気持ち良くて、俺は思わず大きく深呼吸した。

 

「さて、んじゃあ湯冷ましにゆ〜っくり歩いて帰ろうぜ♡」

 

「少しだけ遠回りをして、話をしながら帰りましょう……ね♡」

 

「そうだねぇ……」

 

 月明かりに照らされた2人の笑顔に頷いて、ゆっくりした足取りで歩き出す。トレセン学園のトレーナー寮へ帰ったのは、それからだいたい1時間くらいあとのことだった。

 道中では2人から家族の話がよく出たけど、子供は何人欲しいとか、子供の名前とかを今から考えるのは早いんじゃないかな……。まだ高校生なんだし、そういうのは大人になっても好きな人ができてからがいいと思うんだけどな。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ここの銭湯……男湯と女湯の壁、天井までなかったっすよね」

 

「サウナじゃなかったら、あの会話……全部あいつらに聞かれてたかもしれねぇって、ことだよな……」

 

「……」

 

「……」

 

 背筋に冷たいものを感じたふたりは、今日の話を墓場まで持っていくことに決めたのだった。

 




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