・桐生院葵(後輩)
主人公、久保聡介トレーナーの後輩。怪物を超えた怪物。タフという言葉は桐生院のためにある。
主人公の優秀ではあるがいろいろなクソボケを見た結果、尊敬という概念が消失してめちゃくちゃ気安くなった。
「すごく優秀なトレーナーだと思って近づいたんです」
「……ただのクソボケでした」
・葉隠陽子(29歳)
知っている人は知っている、前作のトレーナー。出てきた理由は単純に、前作を読んでくれた読者へのサービス。
主人公、久保聡介の同期で主人公より年上。「タメ口でいいよ〜」と年齢を意識しない気安い態度で接している。たぶんちょいちょい出番ある。
「久保くん、いい子なんだけどね〜」
「ちょっと言葉が足りないと言うか、おバカ感が拭えないよね〜」
・カムイアヴァランチ(オリウマ)
知っている人は知っている、前作の主人公。出てきた理由は単純に、前作を読んでくれた読者へのサービス。と、作者が気に入ってるから。いいでしょっ。
今回は狂言回しのために登場してもらっただけなので、今後の登場予定は今のところない。
「言葉が足りないだけならいいのだけれど」
「天然で人をたらし込むのはずいぶん悪質じゃないか」
「これ、今日の弁当」
「お、ありがとうタイシン! 今日もごめんね、わざわざ」
「……べ、別にアンタのためじゃないし! これは、その……ついでだから! アタシの分のついで! 勘違いすんな!」
「それでも、だよ。タイシンのお弁当。俺への気遣いつーか、気持ちっていうの? そういうのが感じられてさ、好きなんだ。だから……」
「は、はぁ!? い、いきなり何言ってんの!? ひ、人いるとこで……信じらんない!! このばか! へんたい! おたんこにんじん! アタシもう行くから! じゃあね!」
「あ、タイシン! ……行っちゃった」
お昼、いつものようにタイシンが持って来てくれたお弁当を受け取った俺は、なんでか足早にトレーナー室を飛び出して行ったタイシンに首を傾げた。
なんだろう、何か急ぎの用事があったのかな。だとしたら引き留めたのはよくなかったかな……。
「うっわぁ……久保くん、今日もやってますねぇ……」
「やってますね、ってなんだよ」
「先輩は今日もスケコマシのニブチンさんだなと」
と、そんな時に横から声を挟んでくる女性が2人。
ボサボサの長髪と目のクマが特徴的なのが俺の同期にあたる葉隠トレーナー。
こいつとは対照的に明るくていかにも社交的そうなのが後輩の桐生院トレーナーだ。
「なんだよ、いきなり失礼な奴らだなあ」
「いや、あそこまで思わせぶりなこと言ってその気が微塵もないとか、言われてもしょうがないよ」
「逆になんでその気もないのにあんな言動できるんですか? さすがにわざとかと疑いますよ」
2人がじとりと睨んでくる。特に葉隠は長髪がボサボサで目のクマがすごいから眼力がすごい。
しかしなんの話をしてるんだ? 思わせぶりとか、わざとやってるとか、意味がわからん。俺はただタイシンから弁当を受け取っただけなのに……。まったく失礼しちゃうぜ。
「まあいいや。とりあえず飯だ飯」
女の敵を見るような目でこっちを見てくる2人を無視して弁当箱の蓋を開ける。
途端に良い匂いが立ち上り、見目も綺麗な白米とおかずたちが現れて俺の空腹を刺激した。
「ワァ……! タイシンちゃんからの愛を感じる……!」
「タイシンちゃんも健気ですよねぇ……それなのに、この鈍感ときたら……」
「さっきからうるさいぞ」
弁当はバランス良くおかずが詰め込まれており、アスパラのベーコン巻きに、ミートボールとパスタ、ポテトサラダ、ミニトマト、それからいつもの甘い卵焼きが入っていた。白米にはサクラでんぶでハートマークが描かれており、なかなか手が込んでいる。
タイシン、なんでかわからないけれど弁当にはいっつもハートを作ってくれるんだよね。可愛いからいいんだけど、手間じゃないのかな?
「今日も美味しそうだな。タイシン、毎日毎日ついでとはいえ弁当を作ってくれて……ありがたいことだよ。うん」
「ハートマークについてはどう思う?」
「ん? これ? あ〜……毎日これ作るの大変そうだな、とか?」
「葉隠先輩、やっぱりコイツ女の敵では?」
「処す? 処しちゃう?」
「なんでいきなり処刑されそうになってんの俺?」
女性2人の戯れに付き合いつつ、いただきますと手を合わせてからタイシンの弁当をいただく。
うん、今日もうまい。冷卵焼きもしっかり甘くて俺好み、冷めてても美味しさは変わらないね。
と、タイシンの卵焼きに舌鼓を打っていたら、勢いよく扉が開いて一人のウマ娘が入ってきた。
「おい、干物。弁当を持ってきたから食え」
「わ〜! ありがとうカムイちゃん!」
葉隠を干物呼ばわりする威勢が強そうなこのウマ娘は、名前をカムイアヴァランチという。
葉隠の担当しているウマ娘のひとりで、生活能力が壊滅的な葉隠のことを干物と呼んでる不遜なやつだ。
まだ未デビューなので、たまに同期のよしみでジャーニーと併走してもらったりしているから、俺とはちょっとだけ面識がある。
……あるんだけど。なんかいっつも敵視されてるというか、厳つい態度取られがちなんだよなあ。まあ原因はわかってるんだけど。
「カムイちゃん、今日も葉隠のお世話お疲れ様」
「む、なんだロリコントレーナー。そんなことを言われても、私はお前に靡かないぞ」
「ロリコンじゃないんですけど!? 勘違いしないで欲しいんですけど!?」
「あはは……ごめんね、うちのカムイちゃんが」
「いや、こればっかりは最初に噂を流した奴が悪い。カムイちゃんは騙されてるだけだから悪くないよ」
カムイちゃんから弁当を受け取ると、葉隠は申し訳なさそうに笑いながらカムイちゃんの頭を撫でた。けど、カムイちゃんは不機嫌な顔で払い除けた。相変わらず気難しい子だなぁ。
しかしロリコン呼ばわりに関しては実際、こればっかりは仕方がないのだ。
事実上の女子校であるトレセン学園で"ロリコン"なんて不名誉極まるあだ名を付けられたら、そりゃ生徒だったら普通は警戒する。
成人男性に邪な目で見られてる恐怖を思えば、むしろカムイちゃんの反応が正常だろう。
俺だって同じ立場になったら嫌だぞ、ロリコンのトレーナーとか。近づきたくもないわ。
はぁ……まったくこんな噂、誰が流しやがったんだか。おおかた俺のことをよく思ってないトレーナーか誰かなんだろうが、おかげでいい迷惑だ。
「ね、カムイちゃん。久保くんと何回か話してさ、悪い人じゃないってわかってるでしょ? なら、そろそろ許してあげても良いんじゃないかな〜?」
「フン、大人ってのはみんな腹の中じゃ何を考えてるかわからないんだ。そう信用できるもんか」
「そこをなんとか! 私の顔に免じて、ね?」
なんというか……カムイちゃんを宥めようとする葉隠。嫌いな奴が来て不機嫌になってるペットを嗜めてる飼い主みたいだな。ちょっとおもろい。
なんて考えていると、桐生院が訳知り顔で横から口を挟んで葉隠に助け舟を出した。
「葉隠先輩の言う通り、先輩はロリコンではないですよ。すごく優秀なトレーナーなんです。……クソボケではありますけど」
「ひどくない?」
「そうそう、ウマ娘思いのすっごく良い人だよ。全然ロリコンなんかじゃないからね。クソボケだけど」
「ひどくない? ねえ?」
「……じゃあコイツは本当にただのクソボケトレーナーなのか?」
「うん」
「そうですよ」
「ひどくない!?」
いくら説得のためとはいえ2人揃って俺のことをクソボケだのなんだのと、なんて酷いことを言うんだ。
そんなクソがつくほどボケてないぞ俺は。ってかそもそもボケてないし!
「じゃあ……なんでクソボケなんだ? ロリコンに比べたらマシかもしれないが、それでもなかなかだ」
2人のあんまりにもあんまりな説得を聞いて、なんか妙に居た堪れない顔でこっちを見ながらカムイちゃんは聞いた。
なんだろう、一回りくらい年下の女の子に気遣われるのって……ものすごく精神的にクるね。俺泣いちゃいそう。
ほんとにもう2人して酷いんだから。葉隠は同期だからまだ良いけど、桐生院……前は俺のことを尊敬した目で見てくれていたのに……どうして今はこんなふうに……。
「なんでって……毎日毎日あんなん見せられたら、ねぇ?」
「はい。先輩のしでかしたことを見ていたら、そうも言いたくなりますよ」
だってのに、俺の気持ちなんて知らないとばかりに2人は俺をじとりと睨みながら言う。
どういう訳かわからないが、2人は俺のやってることが気に入らないらしい。
えぇ……? 2人から嫌われるようなこと、した覚えないんだけどな。何が原因なんだろう。
「先輩、ちょうど良いんで理事長さんとのあの話、聞かせてあげてください」
「あの話って?」
「ほら、久保くんが面接で理事長に言ったやつ」
「あ〜……」
言われて思い出す、面接の時の話。
俺がこの中央トレセン学園でトレーナー試験の面接を受けた時に、緊張で焦りまくった俺が秋川やよい理事長に言った言葉。あの時は本当に死ぬかと思った。
ってか、別にあの失敗談を話すこと自体はいいんだが、それが今の話題といったいなんの関係があるんだろう? 特におかしなことはしてなかったと思うんだけどな。
「まあ、いいけどさ」
少し考えてみたけど思い当たる節がないので諦めて肩をすくめた俺は、弁当を突っつきながらその時のことを3人に話し始めた。
◇◇◇
中央のトレーナーになるには筆記試験に加えて、トレセン学園で理事長から面接を受けなければならない。
ただでさえ厳しい倍率、難しい試験を潜り抜けなければならない以上ここまで来るのは容易ではなく、面接に辿り着くのは毎年両手で数えられる程度。あるいは誰一人として辿り着けない時もある。
トレーナーとはまったく狭き門である。
幸運にも面接まで駒を進めることができた当時の俺は、浮かれに浮かれていた。
筆記試験に受かった時は友人と徹夜でパーティーをして、大盛り上がりしたもんだ。未成年だったから酒は飲めなかったけど、ジュースとお菓子を食い過ぎて吐いたくらいには、がっつりはしゃぎまくってたくらいだ。
とはいえそんなのは数日続けば良いほうで、普通は来る面接への不安にアレコレ考えて練習や対策でてんやわんやすることになる。
実際不安で眠れない夜が続いて、当日はゲロ吐きそうだった。
「自己紹介をお願いします」
「は、はい! ◯◯大附属◯◯高等学校から来ました、久保聡介です!」
「ありがとうございます。それでは、着席してください」
「はい!」
そんな調子で面接に挑んだワケだからまあガッチガチに緊張する。しかも面接するのが、秋川やよい理事長、駿川たづなさんで、トレセン学園のトップだ。
だから面接官の駿川たづなさんに促されて席に着いた瞬間、緊張でもう頭が真っ白になって、用意してた受け答えが全部吹っ飛んだくらいだった。
「質問! 君がこの中央トレセン学園のトレーナーを志望した理由を聞かせてくれ!」
「は、はい! あの、えと……あ、あなたの、ために来ました!」
「……はい?」
「な、なにーっ!?」
で、そんな時に質問されたもんだからマジで変な答え方しちゃったんだよね。
本当は「あなたの掲げるウマ娘を第一とした姿勢にうんぬんかんぬんで、なのでトレーナーという職業に大きな憧れを抱いたためここに来ました」って感じで言おうとしたんだけど……まあ、こればっかりは緊張のせいだからしょうがない。
「き、驚愕! 私のために来たとは!?」
(まずいまずいまずい! なんとか誤魔化さないと……!)
秋川やよい理事長に向かってそんなこと言ったら、当たり前だけど駿川たづなさんからは懐疑の視線が向く。なに言ってんだコイツ? って感じで。
「はい! あ、あなたの、秋川やよい理事長のウマ娘に対する真摯で愛情深い姿勢に感動して、ぜひ"あなたの側で"支えたいと思いました!」
「!!!???!?!?」
「はわわ……!」
「ひと目見た時から思ったんです、こういう人の下で……いえ! この人の側で! 共に働きたいと!」
マジでこの時は本当に焦ったし、とにかくリカバリしなきゃって思って、勢いでバーッと捲し立てたんだよね。
そしたらそれが功を奏した……って言ったらいいのかな。
「あの〜……確認しますけれど、今おっしゃったのは本当ですか? その、側で……理事長を支えたいと……」
「は、はい! もちろんです! 人生を賭けてもいいと思っています!」
「ふぇえ……! そ、そうか……えと、うん……わかった……」
(や、やったか……!?)
秋川やよい理事長は顔を扇子で隠してるけどかなり雰囲気が和らいだし、駿川たづなさんも微笑ましいものを見るような目になって見つめてくるしで、誤魔化しがかなり上手く行ったんだと思った。
俺も俺でこのおかげで緊張もかなり解れて、このあとは特に突っかかることもなく受け答えできたから、いわば怪我の功名ってやつだね。
「そのっ! ……ま、まずは……お友達からでいいかな……?」
「……? はい!」
でもなんで友達からだったんだろう。そこはトレーナーとかじゃないのかな?
◇◇◇
「って感じで合格した」
「うん、こいつは確かにクソボケだ」
「あっるぇ????」
話し終えたら、何故かカムイちゃんの表情が苦虫を噛み潰したみたいな納得顔になった。おかしいな、今の話でそんな顔になることないと思うんだけど。
「でしょでしょ〜?」
「やばいですよねこの人」
「ロリコンとは別で嫌いになったぞ」
疑いは晴れたのに嫌われるとはこれいかに。
変なことなんて少しも言ってないはずなんだけどなぁ……。
「でも疑いは晴れたってことだよな、うん。ならヨシ! 好感度はこれから稼げばいいさ」
「えぇ……? なんだそのポジティブは?」
「バカなんじゃないの?」
「ってかバカなんじゃないですか?」
「2回言うな!?」
とはいえ、とりあえずロリコンの汚名が晴れたならそれに越したことはない。
この調子でドンドン汚名を濯いで行けば風評被害も消えるはずだ……なんとか地道にやっていこう!
「ロリコンの汚名、挽回してみせるぜ!」
「汚名は返上するものでは?」
「挽回でも間違いじゃないらしいですよ」
「無駄な努力だろうに……」
「そこ! うるさいぞ!」
頑張れ俺!
風評被害なんかに負けるな俺!
俺たちの明日は始まったばかりだ!
「もう認めちゃった方が丸く収まるのにね〜」
「どうせ婿入り確定なのに……」
「それよりとっとと飯を食え干物。私はまだ食べてないんだぞ」