ち、違う!俺はロリコンじゃない!   作:四十九院暁美

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ちょこっと情報③
チーム・プロキオンのイカれたメンバーを紹介するぜ!(その1)

リーダー:タマモクロス
自分のことをトレーナーの第一夫人だと思ってるやべーやつ。
レース前にはトレーナーにハグして貰わないとバ群が怖くて実力を発揮できない(大嘘)と言って毎回レース前に控え室でトレーナーとハグしてる。
ギリギリ理性を保っているので人前では「だーりん♡」呼びしないようにしてるがちょいちょい漏れてる。理性とは。


うんそうだね風紀違反だね。

「お、オグリちゃんみっけ」

 

「オグリ、おはようさん。今朝ぶりやな」

 

「む……タマと、久保さんか」

 

「相席いいかな?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 小腹が空いたんで朝のカフェテリアに来ると、偶然オグリちゃんがテーブル一つを料理で占領してたんでこれ幸いとばかりに相席させてもらう。

 オグリちゃんといえばタマのライバルとして有名な子だが、プライベートでもバチバチ、なんてことは全然ない。

 まあオグリちゃん自身がすっごい穏やかな子だからね、レースの時はプリティー皆無な怪物フェイスだけど、普段は大食いで天然な可愛らしい子だから仲良くしてもらっている。それに俺のことをロリコン呼ばわりしないしな!

 さすがに朝からこんな山のように食べるのは驚くけどね。

 

「タマは……相変わらずくっついてるんだな」

 

「ん? ああ、朝にトレーナー寮まで迎えに来てくれてね。一緒に登校しようって言ってさ。いやぁ、毎朝こうだからもう慣れちゃったよ」

 

「だ……トレーナーを起こすのはうちの仕事やからな〜♡」

 

「……そうか」

 

 オグリがタマを見て言うんで、俺はタマの頭をポスポスと叩きながら答えた。

 タマは毎朝トレーナー寮まで俺のことを迎えに来るのが日課で、毎日毎朝俺の部屋まで来て待っていてくれる。

 まあ、タマはいい子だから悪いことしないし別にいいんだけど、気づいたら一番最初に見るのがタマの笑顔になっちゃったよね。

 

「よいしょっと。ふぅ、お腹すいたぜ」

 

「せやな〜♡お腹すいたな〜だー……んん! トレーナー♡」

 

 持っていたサンドイッチとコーヒーのプレートをテーブルに置いて、タマと一緒に席に着く。

 俺の朝食は、カリカリに焼いたパン(ここ重要)で挟んだハムとレタスのサンドイッチと、砂糖をひと匙いれたブラックコーヒー。

 タマの朝食は、サンドイッチは俺と同じだけどドリンクがオレンジジュースになっている。

 うーん、ご機嫌な朝食だ……。

 

「いつも思うんだが、どうしてタマは膝の上にいるんだ?」

 

「そらウチらは一心同体やからな〜♡いつでも一緒なんやで〜♡」

 

「タマ、さすがにご飯食べるのに膝の上は危ないよ」

 

「大丈夫やって! 危なくないよううちが食べさせたるからな〜♡あーんしたるでっ♡」

 

「……なんだろう、ご飯が甘く感じる……」

 

 膝に座ったタマはそんなことを言いながら、俺の胸に頬擦りしてくる。

 まったく困ったなぁ。いつもならただのじゃれ付きで済ませられるけど、ご飯中はさすがに隣に座ってて欲しいぜ……タマの頭にパン屑落とすわけにはいかないし。

 しっかしタマはいつからこんな甘えたになったんだっけ。最初の方は普通というか、ちょっと頑張りすぎるきらいがある負けん気が強い面倒見がいい子って感じだったんだけどねえ。

 なんて考えていると。

 

「コラー!!!!!! 風紀違反ッスよそこ!!!!!」

 

 どたどたとバンブーメモリーが駆け寄ってきて、俺たちのことをビッと指さして叫んできた。

 うんそうだね風紀違反だね。

 

「なんやバンブー、いまええとこやねんけど」

 

「いいとこやねんけど、じゃなーい!!!! 朝から風紀を乱すようなことはやめて欲しいッス!!!!」

 

「ええやん別に、なんもやましいことしてへんのやし。な〜トレーナーもそう思うよな〜♡」

 

「え? いやあ、俺は……」

 

「ダメなもんはダメッス!!!! ほら2人とも離れるッスよ!!!!!」

 

「何すんね、ちょ、やめーや離せ!!!」

 

「あだだだだだ腰が壊れる!?!?!?」

 

 風紀違反を取り締まりたいバンブーがタマを引っ張るけど、タマが俺にしがみついて離れないせいで、今度は俺の腰が変な形で引っ張られてとんでもないことになってしまう。

 ただでさえデスクワークの連続で辛い腰にさらに負荷をかけるのはやめて欲しい。このままだと20代で腰痛持ちになってしまう! 

 

「ぜぇ……ぜぇ……ご、強情すぎる……!」

 

「へっ、ウチとだーりん♡の仲を引き裂くなんて100年早いねんで!」

 

「くっ、こうなったら呼ぶしかないッスね……!」

 

 そのうち、どうやってもまったく離れようとしないタマに業を煮やしたらしいバンブーは悔しげにそう言うと、右手を天高く掲げると指を鳴らしながら叫んだ。

 

「出ろ────ッス!!!!! イナリせんぱ──────い!!!!」

 

「いやガン◯ム呼び出す時のドモ◯」

 

 思わず俺がバンブーにそう突っ込んだ直後、バンブーの背後からヌッと笑顔のイナリが現れて、タマの頭をがっしりと掴んだ。

 

「おうおうタマ公、旦那に迷惑かけてんじゃあねえぜ……」

 

「げぇ!? イナリ!? ち、ちゃうねん……これは、ほら……ただのじゃれつきやさかい、堪忍してもろて……」

 

「問答無用!」

 

「あ゛あ゛あ゛────!!!」

 

 何か言い訳しようとしたタマにアイアンクローを仕掛けて無理やり引っぺがすと、イナリはそのままタマを俵担ぎにしてのっしのっしとどこかへ去っていった。

 さすがプロキオンの肝っ玉母ちゃん枠、力関係が滲み出てるな。

 タマが暴走するとだいたいイナリが出てきて、ああして止めてくれるから助かるよ。

 

「風紀執行、完了ッス!」

 

「なんだかよくわからないが、楽しそうだったな」

 

「オグリちゃんは相変わらずだなぁ」

 

 目の前であんな面白いもの見せられてたのに、まったく気にせずご飯食べられるオグリも肝が据わってるというか、なんというか。

 まあ、そこがこの子のいいところではあるんだけどね。

 ってタマのやつ、サンドイッチもオレンジジュースも手をつけてないや。もったいない。

 

「バンブーちゃん、タマの分のサンドイッチ食べる?」

 

「え、いいんスかそれ」

 

「手を付けないまま行っちゃったからねぇ。よければ食べてほしいんだ」

 

「でも……」

 

 余ったサンドイッチをバンブーちゃんに食べてもらおうと誘ってみたが、どうも人の食事に手をつけるのは気が引けるのかバンブーは渋い顔をする。

 オグリちゃんにあげてもいいんだけど、もし減量中(あの量で? とか言わない)とかだったら怒られちゃうし。

 朝からお腹がキツくなりそうだけど、俺が処理するしかないか。

 

「うーん、しょうがない。タマの分は申し訳ないけど……」

 

「い、いや! アタシが食べるッス! 食べ物を粗末にするのは良くないッスから!」

 

 オグリちゃんにこっそりあげちゃおうかなと考えていたら、バンブーが咳払いしつつ席に座ってタマの分のサンドイッチに手を付けた。

 もしかして捨てると勘違いさせちゃったかな。それだったら申し訳ない。

 

「それじゃ、両手を合わせて……いただきます」

 

「いただきまーッス」

 

「私も、改めて……いただきます」

 

 サンドイッチを一口頬張ると、ハムの肉肉しい旨みと、レタスのシャキシャキした瑞々しい食感、そして特製ドレッシングの爽やかな酸味が口内に広がって頭がスッキリとしてくる。コーヒーも芳醇で流し込めば苦味とかすかな甘味で……うん、美味しい! 

 やっぱり朝はカフェテリアのサンドイッチとコーヒーに限るな。これがないと始まらない。

 

「そういえば、久保トレーナー。聞きたいことがあるんだが、いいだろうか」

 

「ん? いいけど、何?」

 

 サンドイッチに舌鼓を打っていると、不意にオグリちゃんが思い出したみたいに言った。

 なんだろう、オグリちゃんに聞かれることなんてそんなにないと思うけど。

 

「どうして久保トレーナーとタマはあんなに仲がいいんだ?」

 

「む、そういえばそうッスね! あんな風紀違反するまで仲がいいのはさすがに気になるッス!」

 

 どうやらオグリちゃんはタマのことを聞きたいらしい。バンブーちゃんも前から気になってたっぽいのか、これ幸いとばかりに乗っかってきた。

 まあ、最初の頃の切れたナイフみたいなタマを知ってたらそりゃ疑問だよね。

 

「そうだなぁ……ふたりはさ、タマがジュニア級の時にレース事故にあったのは知ってる?」

 

「聞いたことはあるッス!」

 

「不慮の事故だったとは聞いた」

 

「うん、その時にちょっとあってね」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 阪神のオープン戦だったかな。

 バ群がもつれた拍子に前を走っていた誰かが転倒して、後ろを巻き込んだ事故になった。原因はその子が荒れた内ラチで足を滑らせたせいらしい。

 それで、後ろを走っていたタマもその事故に巻き込まれて怪我をしてしまった。

 幸い転んだ子も、巻き込まれた子もケガの程度は大したことなかった。悪くて数週間、走れなくなるようなケガを負った子はいなかった。

 タマも数日安静にしたらすぐに復帰できる程度だったんだけど……タマには事故の経験がよっぽど堪えたみたいで、かなりナーバスになっちゃったんだよね。

 それこそ、あんなに熱心だったレースに難色を示すくらいには。

 俺はレースを走らないから、タマがどれくらいの恐怖を抱いたかなんてわからない。でもあのタマモクロスがそこまで怯えるくらいだ。人間には想像もつかないほど怖かったに違いない。

 

「ごめんなぁ……トレーナー……でもウチ、怖いねん。情けなくって、自分でもやんなるくらい……あの事故が……」

 

 どうして怖いのか、何がどう怖いかは言ってくれなかったけど、なんとなく予想はつく。

 タマの小さな身体に、数人のウマ娘が一気に押し寄せてくる恐怖もそうだけど、やっぱり一番は事故で走れなくなるかもしれない恐怖だったんじゃないかな。

 厄介なのはタマ自身が、自分でこれをなんとかしようとしているところで。

 

「タマ、その……カウンセリングとかは」

 

「あんがとなトレーナー。でもこれはウチの問題なんや……大丈夫やって! んな辛気臭い顔せんでも、またバーッとかっこいいタマモクロス様の姿拝ませたるわ!」

 

 見るからに空元気でこんなことを言ってくるんだ。まさにとりつく島もないって感じで、もうどうしたらいいのか。

 

「こ、困ったな……」

 

 俺も初めての担当だったから、どうしていいのか全然わからなかった。

 先輩に頼ってみても「カウンセリングで少しずつ治していくしかない」とか言われて、でもタマはカウンセリングを嫌がるしでまったく手詰まりだった。

 そこで、俺は一抹の望み……ってわけじゃないが、トレーナーになる前から知り合いだったジャーニーに、同じウマ娘としてどうしたらいいのか意見を聞いてみることにしたんだ。

 

『はぁ、なるほど。事情は理解しました。心中お察ししますよ』

 

「もう本当に、どうしたらいいかなって感じだよ……なんとかしてあげたいのに……。ジャーニー、ジャーニーならどうしてもらったら立ち直れるとか、ある?」

 

『ふむ、そうですね……私ならあなたに愛し……』

 

「俺に、なに?」

 

『……失礼、言葉選びを間違えました。忘れてください』

 

「……??? えぇと?」

 

『少し考える時間をいただけませんか? 1分か2分で良いので』

 

「なんかわかんないけど、いいよ」

 

 当時はまだ中学生のジャーニーだったけど、俺の相談に乗ってくれて一緒に悩んで考えてくれた。

 タマのことは担当することになったと言った時にいろいろ聞かれて答えているから、頭のいいジャーニーはすぐに解決策を出してくれた。

 

『では、ご自身の気持ちを真っ直ぐに伝えてみるのはいかがでしょうか。幼子を慰めるように優しく抱きしめて、自身の言葉を伝えるんです』

 

「だき……!? さすがにそれは、セクハラになるんじゃ……」

 

『人前でやらなけれな大丈夫でしょう。聞いたところによれば、タマモクロスさんは長女としての責任感を強く持っているようですが、逆を言えば"他者への甘え方を知らない"方です。ゆえに問題を抱え込んでしまっている』

 

「……甘え方を知らないから、荒療治しようってこと?」

 

『理解が早くて助かりますよ。甘え方を知らず抱え込みがちだと言うなら、無理矢理にでもこちらに甘えさせる……そうすることによって彼女に、誰かと問題を共有しても良い、誰かに頼っても良い、という意識を植え付ける。そうしたらまあ、根本の問題は彼女の心持ちなのでそれで治るかはわかりませんが、多少は彼女の恐怖も和らぐでしょう。……どうするかはあなた次第です』

 

「……」

 

 ジャーニーの提案は、確かにと思う部分があった。

 タマの子供扱いするなという発言を受けて俺も彼女とは大人として接していたけれど、考えてみれば彼女はまだ子供だ。

 それも自分のキャパを超えてまで家族のために頑張ろうとする、強がりで意地っ張りな子供だ。

 

「わかった。試してみるよ」

 

『そうですか。それでしたら、最後にひとつだけアドバイスを』

 

「なに?」

 

『あまり強い言葉を使わないように。恋に恋する年頃は……いろんな意味で、あとが怖いですよ?』

 

「お、おう……?」

 

 最後の忠告は若干意図を掴みかねたが、たぶん思春期の女の子には気を遣えってことなんだろう。

 熱血系は俺のキャラじゃないしな、こういう場合は穏やかな口調と言葉遣いがマストだろう。

 とりあえず気に留めておくことにして、俺はさっそく次の日にタマにジャーニーのアドバイスを実践してみることにした。

 

「タマ、ちょっといい? 少し、今後のことで打ち合わせをしたくて」

 

「ん、わかった」

 

 放課後、打ち合わせと言ってタマをトレーナー室に連れ出した俺は、気落ちし切った彼女にまず走る意思があるかどうかを問いかけた。

 

「タマは、走りたい?」

 

「そらぁ、走りたいわ……レースで賞金稼いで、チビたちに……でも……今のウチじゃ……」

 

「そっか……うん、よかった!」

 

「は、はあ……?」

 

「タマがまだ走りたいって思っててくれて、よかったってこと!」

 

 走りたい。勝ちたい。まだタマがそう思ってくれているなら、こっちも遠慮なくぶつかって行ける。

 それに、走りたくないって言われたその時のこと、なんにも考えてなかったからね……。

 

「タマ、いやだったら言ってね」

 

「え、なに……ちょっ!?」

 

 俺はタマのことを正面からそっと抱きしめて、なるべく優しい手つきで頭を撫でた。労わるみたいに、慰めるみたいに、あるいは子供をあやすみたいに。

 タマは突然のことに硬直していたが、抵抗してこないところ見るにいやではないらしい。なら、次に進んでも大丈夫そうだな。

 

「と、ととトレーナー!? な、なんやき、急にこんな……!」

 

「タマ、君はすごいよ。今までずっとひとりで、よく頑張った」

 

「……と、れーなー……?」

 

「俺は一人っ子だからさ、タマの苦労なんて全然わかんない。けどさ、タマがずっとお姉ちゃんとして頑張ってきたんだってことはわかる。お姉ちゃんだから、お姉ちゃんだからって、頑張って頑張って頑張って……今も、自分でなんとかしなきゃって、そう思い込んでるんだよね」

 

「……っ」

 

 ジャーニーに言われたようになるべく強い言葉を使わないように心がけつつ、タマの頭を優しく撫でながら語りかける。

 

「でも、もういいんだタマ。家だとタマはお姉ちゃんだろうけどさ、できれば自分だけで悩まないでほしいな」

 

「……そ、れは……でも……」

 

「迷惑なんて考えないで。ここでは君もひとりの生徒で、俺の担当してるウマ娘なんだ。苦しかったら周りに頼っていいんだ。友達でも、先生でも、教官でもいい。他のベテラントレーナーの人たちだっている。もちろん俺でもいい。まあ、大人としてはちょっと不甲斐ないかもだけど……」

 

「そんな! そんなこと、あらへんよ……」

 

「そう? なら、嬉しいな」

 

 俺の語り掛けで少しずつ身体の、そして心の強張りが解けてきたのか、タマはおずおずと俺の背中に手を回してきた。

 もう少し、あとひと押しあれば、タマのずっと着けていた仮面が、抑え込んでいた本音が聞けるかもしれない。

 俺は緊張でかすかに震えた息を飲み込んで、努めて明るい声でタマに言った。

 

「とにかくさ。ひとりで抱え込まないでほしいな。俺にも背負ってる荷物を分けてほしいよ。タマと一緒に怒ったり、泣いたり、悩んだり、楽しんだり、嬉しがったり……そういうふうにさせてほしい」

 

 まだまだ新人ではあるけどこれでも一端のトレーナーなんだ、頼りないかもしれないが辛い時は頼ってほしい。

 偽らざる気持ちを、真っ直ぐにタマに伝えた。

 

「……ええんかな、ウチ……」

 

「もちろん! 俺たち、コンビで二人三脚、2人でひとつ、だろ?」

 

 消え入りそうな声のタマに、笑顔で背中をポンと叩いて応える。

 すると、どうだろう。

 

「ふっ、う……ぐぅぅぅ……!」

 

 タマは俺のことを強く抱きしめると、胸に顔を埋めて泣き出してしまった。今まで我慢してきたいろんなものが噴出したのだろう。

 ずっとひとりで、誰にも頼らずに、頼れずに頑張ってきたんだよな。そりゃ泣きたいよな。

 

「大丈夫、タマはひとりじゃない。もうひとりで頑張らなくていいんだ。今は俺が付いてるからな……」

 

 俺はタマが泣き疲れて眠ってしまうまで、ずっとタマのことを抱きしめて頭を撫でていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「って感じで、そっからかな〜。タマとの距離感がグッと近づいたのは」

 

「そうか……タマにそんなことが……」

 

「うおおおお!!! 感動するッス〜!!!! ……でもなんでその、だ、だーりん……なんて呼び方を……?」

 

「アレでしょ、星◯美希がプロデューサーのことをハニーと呼ぶのと同じ感じ」

 

「ア◯マスネタはルールで禁止ッスよね」

 

 いや、さすがに俺もいきなりだーりん呼びされるのはビックリしたけどね。でもそれもタマなりの甘え方なんだろうってのは教えてもらったし、ちょっとこそばゆいけど信頼されてる証だと思うと嬉しくはある、かな? 

レース前に抱きしめてほしいってのもたぶんそういうことなんだろうけど、そろそろ別の……って言い方もアレかな。まあ、タマが少しずつ甘え方を覚えていってくれたらそれに越したことはないよね。

 

「そういえば、ドリームジャーニーとは前から知り合いだったのか? かなり古い付き合いに聞こえたが」

 

「うん、かなり前から知り合っててね。トレーナーになる前に行ったレース場でジャーニーが……わひゃあ!?」

 

 と、そこまで言ったところで急に後ろから肩を叩かれたから、俺はビックリして飛び上がってしまった。

 あやうくコーヒーを溢しちゃうところだったぞ! 

 

「おやおや、失礼しました。そこまで驚かせるつもりはなかったのですが」

 

「じゃ、ジャーニー! もうビックリさせないでよ!」

 

「ふふふ、すみません。楽しそうにお話ししていたものですから、声をかけるのは憚られて」

 

 心臓に悪い登場をしたジャーニーに文句を言うと、彼女はいかにもおかしそうにクスクスと笑って、かと思えばすぐに腕時計を指して言った。

 

「それよりも、時間は宜しいのですか?」

 

「へ?」

 

「今日は朝からトレーナー会議のはずでしょう? そろそろ行かなければ、遅刻してしまいますよ」

 

「うぇ!? あ、ほ、ほんとだ! ありがとうジャーニー!」

 

「いえいえ」

 

 時計を見ればすでに8時前。ジャーニーの言うとおり今日はトレーナー会議が朝からある……それも開始時間は8時! 

 ジャーニーに教えてもらわなかったら確実に遅刻してた……! 

 

「食器は私が片付けておきましょう。トレーナーさんは、お早く」

 

「ごめん、ありがとう! それじゃ、行ってくるよ!」

 

 残ってたコーヒーを一気に飲み干して、慌ただしく食堂を出ていく。走ればまだ間に合う距離だ、ちょっと辛いけど全速力で行こう。

 ……そういえばなんでジャーニーはトレーナー会議のこと知ってたんだろう。

 教えた記憶はないんだけどな……まあいいか。ジャーニーは昔から不思議と物知りなところがあったし、どこからか情報収集してきたんだろうな。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふふふ……本当に、お可愛らしい人だ……」

 

 トレーナーが口をつけたカップを妖しく指先でなぞりながらこちらを見てくるドリームジャーニーに、バンブーメモリーは異様な圧を感じた。

 圧倒的に自慢げで、フフーン! なんて擬音がついていそうな表情! 

 そう、このドリームジャーニー。

 トレーナーと自分の仲の良さが周知されただけでご満悦なのである! 

 しかもさらに惚気……もとい、自慢したい気持ちがムンムンなのである! 

 

「ドリームジャーニーは、前から彼と知り合いだったのか?」

 

 そしてここで踏み込むのが恐れ知らずのオグリキャップである。

 明らかに広げたら長くなりそうな話に頭から突っ込んでいく! 

 

「ええ。私がまだ小学生で、彼が高校生だった頃にレース場で出逢いましてね。あの頃から優しかったんですよ、彼は。私のために場所を譲ってくれて……」

 

「そうなのか、彼は昔から優しい人だったんだな」

 

「はい、もちろんです。それに、彼と縁ができてからはよく私とレース場へデー……」

 

 クソボケにイッチバン最初に脳を焼かれたドリームジャーニー……彼女を見て、バンブーメモリーは思った。

 

(これ早めに離れないと巻き込まれるやつッス……!!!)

 

 明らかにトレーナーと自分の話をしたいドリームジャーニーと天然のオグリキャップ、この組み合わせはオグリキャップが飯を食べ終わるまで永遠に続くだろう。そしてこの場に居合わせたバンブーメモリーに「質問しろ」という圧で類が及ぶのは想像に難くない。

 そう気付いたバンブーメモリーの行動は早かった。

 

「そ、それより! アタシたちもそろそろ行かなきゃ遅刻しちゃうッスよ!」

 

「おや……それは残念ですね。では、私はこれで失礼するといたしましょう」

 

「ああ、また今度話を聞かせてくれ」

 

 残念そうに目尻を下げたドリームジャーニーは、2人に別れを告げるとその場を後にするのだった。

 

「……男は女にとって最初の男になりたがり、女は男にとって最後の女になりたがる。ですが……欲張りですからね、私は」

 




皆様のおかげです日刊一位を取れたみたいです。
クソボケの下に集うウマ娘たちに悲しき過去……。

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