ち、違う!俺はロリコンじゃない!   作:四十九院暁美

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ちょこっと情報
チーム・プロキオンのイカれたメンバーを紹介するぜ!(その3)
チームメンバー:ライスシャワー
自分の妹属性を活かしてグイグイ攻めるやべー奴。
最初は自分に自信がなくて気弱な感じ……だったのに、気付いたら自分の武器を剛腕でぶん回して図々しく久保トレーナーに甘えまくる激ヤバさん。一応人目のある場所ではやらないという理性はある。
ライスシャワーのせいでプロキオンメンバーのタガが外れた節がなくもない。
ライスシャワー、恐ろしい子……!


俺は君(の走ってる姿)が好きなんだ!

 昼下がりの午後。

 イベントやら物販やらの報告書をまとめて提出した俺は、チームの部室でひと仕事終えたあとの優雅なティータイムと洒落込んでいた。

 茶葉は……よくわかんないなんか美味しいやつ。ルビーが実家から持ってきた? らしいなんか高級そな茶葉なのでとても美味しい。

 お茶請けはライスが持ってきたクッキー。これもなんか高そうな感じのカンカンに入ってる美味しいやつ。甘さ控えめなのが紅茶と合っててついつい食べすぎちゃうんだよな〜。

 なんて考えていると、不意にドアがノックされた。

 

「はーい!」

 

 誰だろうか。

 生徒が授業中のこの時間に来るなんて、だいたいは学園の関係者かトレーナーくらいだけれど。

 

「あれ、東条先輩?」

 

「久保か、いるならちょうどいい」

 

 扉を開けると、そこには大先輩の1人である東条ハナ先輩が立っていた。

 赤縁メガネが特徴的な、いかにもできる女って感じの人だ。実際マジでしごできトレーナーで彼女のチーム・リギルは凄すぎて厨パもいいところなので俺も沖野さんも頭が上がらないのである。

 

「なんか用です?」

 

「今度、うちからひとりデビューする予定のウマ娘がいるから、併走の相談をね」

 

「マジっすか! 全然いいですよ! あ、立ち話もアレなんで中にどうぞ、お茶用意するんで」

 

 併走の相談、こちらとしても断る理由はないというか、むしろ願ったり叶ったりだ。うちのチームは併走相手に飢えているのでね……主に俺の風評のせいで、割と切実に。

 

「紅茶とクッキーです。クッキーはちょっと摘んじゃってますけど」

 

「これ、かなり良いところの茶葉じゃない? クッキーも老舗のだし。いったいどこから貰ってきた……って、あなたには愚問だったわね」

 

 やれやれって感じで応接用のソファに座った東条先輩は、優雅な所作でティーカップを取ると一口飲んだ。

 やはり彼女ほどのトレーナーになると、この茶葉とクッキーの良さも一瞬でわかってしまうようだ。名家と繋がりがあるとそういうのにも詳しくなるのかな。

 ……俺には美味しい以外あんまりわからないんだけど。

 

「で、併走の話っすよね。誰とします? タイシン、ライスあたりっすかね?」

 

「話が早くて助かるわ。そうね、ライスシャワーを貸して欲しいかしら。中、長距離を見据えてるからその辺りの経験を積ませたいのだけれど」

 

「ライスっすか、いいですね。そろそろ併走させようと思ってたので、願ったり叶ったりです」

 

「決まりね。日時は……」

 

 こうして、ライスシャワーを併走相手としてリギルに出張させることで話を進めることになった。

 日時は来週の頭くらい、ジャパンカップの前だからライスにもいい刺激になるだろう。

 あとはレース場の貸し出し申請とか備品の用意だけど、それに関しては東条先輩が持つってことなので俺はノータッチ。あったとしてもスポドリとかタオルみたいな小物くらいかな、用意するのは。

 

「こんなところかしら。……ごめんなさいね、急な話で」

 

「いえいえ全然いいですよ! 大先輩な東条先輩の頼みなら、そりゃあ断るわけないじゃないですか!」

 

「その割には気安いわよね。その方が話しやすくて助かるけれどね」

 

「よく言われるっす」

 

 と、一息ついたところでふと疑問に思う。

 そういやなんで東条先輩が直接こっちに来たんだろう? 電話で済みそうなことなのに。

 

「そういやなんで電話じゃなくて直接来たんです? 併走の相談なら電話でもいいと思うんすけど」

 

「ん? ああ……」

 

 聞いてみると、東条先輩はちょっと歯切れが悪そうに言い淀んでため息を吐いた。

 

「併走以外に、少し個人的な相談もあってね」

 

「……ほう?」

 

 個人的な相談とは、なかなか重大そうじゃないか。なんだろう……沖野先輩と関係が進展しないとか? でも2人って仲良いけどそんな雰囲気あんまりないし違うか。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

 

「ナニモカンガエテナイデスヨ」

 

 やべ、平常心平常心。

 

「……はぁ、まあいいわ。相談っていうのは、その……」

 

「なんです?」

 

 言い難そうに言葉を切った東条先輩に首を傾げると、

 

「……新入りのウマ娘に怖がられてるみたいでね……どうしたら仲良くなれるかしら?」

 

「……おぉう」

 

 この人がそんな相談をしてくるとは予想外で、思わず変に声をあげてしまう。

 てっきりそういうのは気にせずガンガン指導して行くタイプだと思ってたけど、まあ人は見かけによらぬものってことかな。

 

「少し気弱な子で、あんまり行くと逆に離れちゃうタイプなのよ。ウチにいるウマ娘は、ほら。みんな気が強いというか、我が強いタイプが多いでしょ? だから、ちょっと……どう接したらいいかわからなくて」

 

「なるほど確かに。あっ、だからライス?」

 

「そう。あの子なら相性が良いと思って」

 

「ははぁん……わかりましたよ。ちなみに、俺以外に相談とかは?」

 

「いつも絡んでるあのメンツ見て、相談しようと思う?」

 

「……スゥー」

 

 ムリですねハイ。

 先輩方みんな癖強すぎるからな……だから俺に相談しようと思ったわけね、納得ですよええ。

 まあ考えてみたらあのメンツの中だと俺が1番まとも(※自惚れ)なので、当然と言えば当然かな。

 

「そういうわけだから。……何かウマ娘と仲良くなれる方法、ないかしら」

 

「う〜ん、仲良くなれる方法かあ」

 

 しかし相談に乗るのはいいものの、改めてそう聞かれると返答に困ってしまう。仲良くなるのなんて、ちゃんとウマ娘に向き合ってたらそのうち仲良くなれるしなぁ……。

 

「ライスと同じタイプなんすよね? じゃあライスと仲良くなった時の話とか?」

 

「そうね、参考までにライスシャワーとはどう仲良くなったのかしら」

 

「うっす」

 

 ってわけで、俺はライスと仲良くなった時の思い出話を、東条先輩に話し始めた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 タマとイナリをGⅠウマ娘に育て上げて、結構名前も売れてきたな〜って頃。

 俺のところには時折、背の小さいウマ娘たちがやってくるようになった。未勝利の子や、オープン戦に苦戦してる子が主だった。背が小さい2人に重賞、しかもGⅠを勝たせるほどの力量を持つトレーナーなら、背が小さい自分のことも勝たせてくれるだろう。って考えてのことらしい。

 あれは2人の才能によるところが大きいんだけどな〜。とは思いつつ、断るのも申し訳ないので暇がある時に指導してあげていた。

 2人のトレーナーをしつつ、暇を見つけてはやってきた子の簡易トレーニングなんて忙しい日々。そんな時に来たのが、ライスシャワーだった。

 

「あ、あの! ここに来たら、小さくても強くなれるって、聞きました……ライスみたいなダメなのでも、変われるって……本当に、強くなれますか?」

 

「はい! 強くなれますよ」

 

「あ、あの……私は体も小さいし、悪いことばっかり起きてみんなに迷惑かけちゃう、不幸でダメな子なんです……それでも、強くなれますか……?」

 

「はい! 強くなれますよ! ……もちろん、個人差はありますけど」

 

 ライスの第一印象としては「ガッツがありそうだな〜」って感じだった。なんかこう、薄幸で儚げな雰囲気の割に目がすごく覚悟ある目だったから、他の子とは違って芯があるんじゃないかと思った。スカウト候補ってやつだった。

 少し話をして打ち解けたら、さっそく走りを見せてほしいと言って近くの河川敷にある簡易コースに向かった。

 

「それじゃあひとまず、走ってみようか。ウォームアップしたら、一周お願いできる? なるべく本気でね」

 

「は、はい! それじゃあ、行きます!」

 

 走らせてみると、なかなか目を見張るものがある。特にスタミナはすごくて、普通の子は一周走らせるとけっこうバテ気味なんだけど、ライスは息が少し上がってる程度。デビュー前でこのスタミナは化け物だった。それにフォームも他と比べて一段、いや数段上だ。洗練されていて、美しささえ感じるほどステイヤーとして完成されていると思った。

 それに走ってる最中のあの目、あの顔……今思い出しても好きだな。すごくいい……空想上の相手であろうとも射殺すような鋭い目、絶対に勝つという気概のこもった顔……! あんなかっこいい姿、絶対男の子の心をくすぐるよな〜! 

 

「あ、あの……どうでしたか……?」

 

「採用」

 

「ふぇ……!?」

 

「ライスシャワー、うちのチームに来ない?」

 

「え、えええええええ!?」

 

 ってわけでライスシャワーをスカウトしたんだけど、最初はやっぱり仲良くなれないというか、ライスのほうが遠慮してあんまり仲良くできなかった。

 

「さて、今日からプロキオンでトレーニングだけど。ライス、調子はどう?」

 

「……えと、普通だと……思います……!」

 

「そっか。ならまずはチームの先輩と一緒にトレーニングしてみようか。もちろん、メニューはふたりと違うやつだから安心してね」

 

「は、はい……!」

 

 普段は見た目通り気弱で、走ってる時みたいな雰囲気はいっさいない。話しかけても終始オドオドしてるというか、どう接したらいいかわかってないって感じだった。

 まあいきなりスカウトされて引っ張ってこられたんだし、そりゃあ戸惑うよな〜。

 そんなだから、タマとイナリにも恐縮しっぱなしでなかなか大変だった。

 

「チームプロキオン舐めたらあかんでぇ! 不幸だかなんだか知らんけど、そんなんで強くなりたいやとぉ? 強くなれるわけないやろ!」

 

「いやイキりすぎだろ……でも、手前の不幸が云々、だのなんだってのは確かにいただけねえな。よぉっし、いっちょイナリ様が揉んでやっか!」

 

「え、ええ〜!?」

 

 ……いやたぶん2人が初めての後輩だから張り切ってるせいもあるかもな。

 まあとはいえ現役シニア級、しかもGⅠを何回も勝ってる2人の指導だ。ライスにとってはかなりの成長に繋がる。

 それに、ライスには見込んだ通りガッツがあった。そりゃあもう不屈のガッツだ。

 

「も……もう練習は、お……終わりですか……?」

 

「……ええやん。えらいガッツあるな自分、気に入ったわ」

 

「デビュー前だってのに大したもんだ! こりゃアタシらも気合い入れなきゃあなんねえなあ!」

 

 メニューは今のライス用に別で渡して、ちゃんとオーバーワークにならないように管理して限界ギリギリまで追い込んであるんだけど、それでまだやる気があるのはやっぱり凄まじい。

 ただやっぱりメンタル面では不安が強いようで、自虐的な言動が目立ってた。この部分が改善できたらかなりの傑物になると思うんだけど……。

 自分でも変わりたいって言ってたし、どうにかメンタル面を上向きに……たぶん自分のことが信用できてないのかな。なんとか自分を認められるようにしてあげられたいな。

 どうメンタル改善しようかと考えながら日々を過ごしていたわけなんだけど。

 

「あ、あの……トレーナーさんは、どうしてタマモさんから……だ、だーりん? って呼ばれてたり、イナリさんから旦那って呼ばれてるんですか……?」

 

 ある日のトレーニング終わりに、いきなりライスのほうからこんなふうに話しかけられた。

 うん、そうだね! そこ疑問に思うよね! 実は俺もわかんねんだ! 

 

「自分でもよくわかんないんだよね」

 

「えぇ……」

 

「でも嫌われてるってわけじゃないからさ。ふたりなりの信頼の証なんだと思ってるよ」

 

「そ、そうなんですね……」

 

 あれ、なんか引かれてる? おかしいな、そんな変なこと言ってないのに……い、いかん話題を逸さなければ。

 せっかく話しかけてくれたので、俺はここでライスにちょっとでもライスシャワーという自分自身を、少しでいいから認めてあげられるようにできないかと思った。

 

「と、ところでどう? プロキオンの雰囲気には慣れた?」

 

「は、はい! すごく、明るくて……楽しい……です……」

 

「ならよかったよ。タマもイナリも、初めての後輩だからって張り切っちゃってさ。嫌になってないか心配になってたんだ」

 

「い、嫌になるなんてそんな! タマモさんも、イナリさんも、こんな私にすごく良くしてくれて……」

 

「うん、それなら大丈夫そうだね」

 

 他愛のない話で緊張をほぐして、ライスが話しやすそうな雰囲気になったら本題に入った。とはいえいきなり直球ってのもアレなので、それとなく聞き出せそうな質問をした。

 

「ライスはさ、なんでウチに入ってくれたの? 断るってのも全然あったと思うけど」

 

「……」

 

 ライスは少し黙ってから、ちょっと恥ずかしそうに答えた。

 

「か、変われるかなって……こんなライスでも、みんなを笑顔に、幸せにできる青い薔薇みたいに、なれるかなって……」

 

「青い薔薇……」

 

 なんか聞いたことあるぞ……確か絵本かなんかだったはず……内容は知らないけど。うーん、今度買って読んでみるか。

 しかし変わりたいから。ってなると、自分を認めさせるはまあ簡単そうだ。前と今とで変化があればすぐわかるし、その差の分だけ自信がつく。このままの調子でデビューまで持っていけば、それなりになるはずだ。

 

「そっか。なら、もっといっぱい頑張らないとな! まずはデビュー戦目指して、トレーニングしていこう!」

 

「は、はい!」

 

 と、まあこの時は思っていたんだが。

 問題はライスがデビューした後、クラシックで菊花賞に出走した時だ。

 ミホノブルボンが二冠達成して、すわ三冠ウマ娘の誕生か!? なんて盛り上がってた時期に勝っちゃったもんだから、まあ世の中がうるさかった。

 ウイニングライブでも不手際があったのがキツかった。明らかにミホノブルボンが3冠を取る前提で組んでるんだから、他からしたらたまったもんじゃない。

 その辺りは学園と一緒に運営へゴリッゴリに抗議文送りまくって公式に謝罪させた。

 それから匿名掲示板とか、あとウマッターとかでライスのことをあーだこーだ言う奴がいたし、俺のことを悪く言うやつもいた。

 

 261:ナナシのウマ娘

 ライスシャワーのトレーナー、調べたけど担当してるのチビしかいねーし絶対ロリコンだろコイツ

 

 262:ナナシのウマ娘

 キッショ、なんでトレーナーなんだよ

 

 263:ナナシのウマ娘

 プロキオンの久保トレーナーってやつは結構ロリコンだな

 

 264:ナナシのウマ娘

 久保の話はするな

 ワシは今メチャクチャ機嫌が悪いんや

 

「なんだこれはたまげたなあ……あとで開示請求しとこ」

 

 ……そういえば俺がロリコン呼ばわりされたのもこの辺りからだった気がする……。やはり匿名掲示板は悪い文明、滅ぼすべき。

 それはともかく。

 俺はしょーもないバッシングなんざそこまで気にしないんだが、ライスの方がかなり気にしてしまった。

 元々が気弱で周りに遠慮がちだったから、バッシングのせいでとにかく塞ぎ込んじゃってトレーニングにも出てこないどころか、学校まで休んでしまうレベルで落ち込んでた。

 

「ライス、どんな様子だ?」

 

「どうも部屋に篭りっぱなしで、声をかけてもてんでダメだ。ロブロイのやつも心配してるってのに……」

 

「う〜ん……でもあんなん言われたら流石に傷つくやろしなぁ。なんとか元気つけられへんかな」

 

 2人の説得ですらこうなのだからかなりの重症だろう。

 いや、リアルでもネットでアレだけ叩かれたらそりゃあ落ち込むか。

 せっかく自分に自信がついて、G1を勝ったってのに、こんなボコボコに批判されてたら普通は立ち直るなんて難しいだろう。

 このままでは最悪、ライスが引退すると言ってもおかしくはない。

 ……やっぱり俺は直接行くしかないか。

 

「イナリ。悪いんだけど、ヒシアマゾンに伝えて欲しいんだ」

 

「ん? な、なんでえ急に」

 

「今から美浦寮に踏み込む。ライスを説得するぞ」

 

「「っ!?」」

 

 こうして俺は、2人を連れて美浦寮に突撃した。

 ヒシアマゾンには今回は特例中の特例ってことで許可をもらったが、後日始末書を書かされるのは確定だろう。

 ま、俺の始末書くらいでライスが元気になるなら問題はない。

 

「ライス? 聞こえてるか?」

 

 美浦寮に着くなりイナリの案内に従ってライスがいる部屋の前まで来た俺は、軽く扉をノックしてから声をかけた。

 

「へっ!? トレーナーさん!? ど、どうして……」

 

「どうしてって、ライスが心配できたんだよ」

 

 聞こえるはずのない声に扉越しで驚くライスシャワーに、俺はこほんと小さく咳払いすると説得を始めた。

 

「ライス、今回の件は俺に非がある。君が気に病むことじゃない」

 

「……!? そ、それはちが「違わない。悪いのは俺だけだよ」

 

 今のライスシャワーはネガティブで全部を自分のせいにするつもりだ。だからライスの言い分は、自分が悪い子だからとか不幸だからなので、聞くことはしない。とにかく責任ずらしと褒め言葉とポジティブな言葉で上塗りしていく。

 

「俺は大人だから、ライスを守んなきゃいけなかったのに、それを怠ってしまった。コレに関しては本当に申し訳ない」

 

「で、でもトレーナーさんはライスのせいで……」

 

「ネットの言葉なんか、聞く必要ないよ。ああいうことを言うのは、顔も名前もバレないからっていい気になってるだけだからね。そんなちゃっちいことより、ライス! 菊花賞よく頑張ったな! やっぱライスはすごいよ、かなりステイヤー向きだと思ってたけど、うん。間違ってなかったな」

 

「……でも、でも……ライスは、タマモさんや、イナリさんとは違う……ライスは、悪役……ヒールなんだよ……! 祝福の名前をもらったのに……!」

 

 どうにかこうにか出てきてくれないかと試してみたが、バッシングがかなり堪えてたみたいで何を言っても全然出てきてくれない。

 なんとか言葉を重ねて説得を重ねるが、どうも思ってた以上に堪えているみたいだ。

 

「違う、君はヒールじゃない! バッシングばかりに目がいくかもしれないが、君のことを応援してくれる声もいっぱいある! もちろん俺たちもそうだ! 俺にとっても、君はヒーローなんだ!」

 

「……それでも、私は……もう、走りたく……」

 

 もっと強い言葉でなければ届かないか……? なら、もっと直接的に言うしかない! 

 

「ライス、俺は君が好きなんだ!」

 

「ふぇ!?」

「んん!?」

「おん!?」

 

 俺の一言に野次ウマに来ていた周囲が一気に騒がしくなるが、俺は気にせずライスへ言葉で気持ちを伝えた。

 

「初めて君が来てくれた時に、初めて走りを見せてくれた時に、俺は君に惚れ込んだんだ!」

 

「あ、あわわ……!」

 

「だ、だーりん……?」

「だ、旦那ァ……?」

 

 なんか後ろからすんごい圧を感じるけれど、今はとにかくライスが最優先。ライスを立ち直らせてあげなきゃならない。

 

「君の走ってる姿、表情が好きだ! レースに勝った時に見せてくれる笑顔が好きなんだ!」

 

「き、急に、言われても……う、ううううう……!」

 

 ライスは悩んでいるようだった。けれど、心は確かに動いている。それを感じ取った俺は、畳み掛けるように本音をぶつけた。

 

「もっと君の姿を見たいんだ、ライス! 君の走っている姿が見たい! だから走りたくないだなんて言わないでくれ! また走ってくれ! 俺と一緒に!」

 

 寮の中全体に響くんじゃないかという大声で訴える。これでダメならば、もう打つ手がない。祈るように扉に手を当てて目を閉じる。

 頼む、ライス……どうか届いてくれ……! 

 

「……本当に」

 

「え?」

 

「本当に、ライスでいいの……?」

 

 数秒か、数十秒か。数分かもしれない。

 シンと静まり返った中で、不意にライスの声が響いた。恐る恐る、けれど期待したような声色だった。きっと俺の声が届いたんだ! 

 

「も、もちろん! ライスじゃなきゃダメなんだ!」

 

「そ、そっか……そう、なんだ……えへへ……」

 

 ライスの問いかけに声を大にして返すと、部屋の鍵がカチャと静かになって扉が開いて、顔を赤くしたライスが姿を現した。目元が赤く腫れぼったいから、きっと泣いていたんだろうとわかった。

 

「また一緒に走ってくれるか?」

 

「……うん」

 

「ありがとう、ライス! さすが、俺のヒーローだな」

 

 恥ずかしそうにするライスの頭にポンと手を置いて撫でる。この様子を見るに、ライスはもう大丈夫だろう。

 周りがザワザワしてる。まあ男が女子寮で騒いでたらそりゃそうか。そろそろライスを連れてここを出なきゃだな。

 

「ねぇ、トレーナー……」

 

「なんだ?」

 

 ひとまず安心していると、ライスがふと呼びかけてきた。

 なんだろうと返事をすると、彼女は遠慮しつつも期待してるような上目遣いで、こう聞いてきた。

 

「あ、あのね……今度から、お兄さま……って、呼んでも……いい?」

 

「……へぇ?!」

 

 お、お兄さま??? 

 急なことに頭の中を疑問符が駆け抜ける。お兄さま? お兄さまイズナニ? 立ち直ったと思ったら急に来るじゃん。思わず変な声出ちゃった。

 ……ま、まあでもタマにはダーリンでイナリには旦那とか呼ばれてるし、今更か! (※感覚麻痺)

 

「……うん、いいよ」

 

「やった……! えへへ……♡」

 

 俺は頷くと、ライスは嬉しそうに笑って手の甲で涙を拭った。

 何がともあれ、ライスが立ち直ってくれてよかった。これで一件落着……。

 

「ダーリン? ちょ〜っと話しよや……?」

 

「え? なぜ?」

 

「話は部室で聞こうか……な、旦那?」

 

「は? なんで?」

 

 と思ったら、両腕をタマとイナリに掴まれる。そしてそのままズルズルと引き摺られていく。

 あ、あれ……? なんで2人とも怒ってるんだ? 俺なんか悪いことした? 全然してないと思うんだけど??? 

 

「お兄さま!」

 

 タマとイナリに引き摺られながら大量のクエスチョンマークを頭の上に浮かべていると、ライスが俺に向かって優しく微笑みながら言った。

 

「これからも……末長く、よろしくお願いします!」

 

「おう! 任せとけ〜!」

 

 俺はそれにとびきりの笑顔とサムズアップで答えた。

 

「ダーリン!!!!」

「旦那!!!!」

 

 このあと2人には何故かしこたま怒られた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「って感じっす」

 

「……あのね。誰がそこまで話せって言ったのよ。仲良くなるだけなんだから、前半部分だけでいいのよ、前半だけで。そこもう少し重点的に話しなさいよ」

 

「あれぇ〜?」

 

 話を終えると、東条先輩は頭痛が痛いみたいな顔をして額を抑えた。

 

「……まあいいわ。あなたじゃ参考にならないってことがよくわかったから」

 

「え〜? そんなことないと思うっすけど」

 

「はいはい。とにかく、併走の件お願いね。あとで日時とかまとめてメール送るから目を通しておいてちょうだい」

 

「オッケーっす!」

 

「それじゃあ、よろしくね」

 

 東条先輩は最後にそれだけ言ってサッと部室を出て行った。行動が早いよなあ〜この人も。

 

「ふぅ、とりあえずライスに連絡をしなきゃ……」

 

「併走のお話だよね?」

 

「だあああ!?」

 

 一息ついたと思った途端、後ろから急に声をかけられて、思わずソファの上で飛び上がる。

 慌てて後ろを向けば、いつの間にやらライスシャワーが立っていた。

 

「ら、ライス!? いつからいたんだよ!?」

 

「えと……お兄さまが『ライスを説得するぞ』って言ったあたりから、かな?」

 

「まあまあ聞いてるのね……来てたなら声かけてよ」

 

「えへへ、ごめんなさいお兄さま。でも、お兄さまったら楽しそうにお話ししてたから、邪魔したら悪いかなって」

 

 ちょっと嬉しそうに言いながら、ライスは鞄をテーブルに置くと、そのまま俺の膝の上に腰掛けた。

 恐ろしく自然な膝上座り、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「ライス、膝上に座るのは行儀悪いっていつも言ってるだろ? ちゃんと座りなさい」

 

「ごめんなさい、お兄さま。でも、今は2人きりだし……いいよね?」

 

 俺は注意すると、ライスは申し訳なさそうにしつつも上目遣いでそう言う。小首を傾げて言うあたり、自分のかわいさを自覚してるタイプだよね。そしてダメって言っても多分どかないつもりの顔してる。

 なんと図々しい……まあそこはライスのいいところなんだけど。

 

「ったく、誰か来るまでな」

 

「やったぁ〜! お兄さま大好き♡」

 

 しょうがないんで条件付きで許可すると、ライスは甘えた声を出して抱きついてくる。甘え上手なライスにはお兄さまとして甘やかさねばならん……気がする。たぶん、おそらく、メイビー。

 

「ライス。聞いてたならわかると思うけど、併走の件は受けてくれるか?」

 

「うん、お兄さまの頼みならいつでもいいよ! その代わり……ライス、ご褒美欲しいなあ〜♡」

 

「ご褒美ぃ? よっぽどじゃなきゃいいけど」

 

「楽しみにしてるね、お兄さま♡」

 

「はいはい」

 

 頬擦りしてくるライスの頭を撫でながら、なんとなく思う。

 一人っ子だからわかんないけど、妹ってこんな感じなのかしら。だとしたらなかなか羨ましいよな〜。格差感じるんでしたよね? 

 

 

 

 後日に行った併走ではライスと東条先輩のウマ娘がたいそう仲良くなっていた。

 ライスの取りなしで東条先輩とも仲良くなれたらしいし、よかったよかった。

 俺? 俺は相変わらず針の筵でした。とほほ……。




冬コミやらSkebやらで時間が取れなかったんです。私は悪くないんです。許してください何でもしますから!

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