Skebが忙しかったり、おえかきしてたり、コスプレ沼にどハマりしたりしてたら遅くなってしまいました。
笠松仮装の宴楽しかったです。
久保聡介トレーナーの審議会からしばらく経ったある日の放課後、いつものようにプロキオンの部室でくつろいでいたチームメンバーたちに、戦慄が走る。
「て、てぇへんだてぇへんだ! 一大事だぜこりゃ!」
荒々しく部室の扉を開け放つなり、イナリワンはこう叫んだ。
「だ、旦那が……旦那が、あの佐岳メイと……デートに行くらしい!」
たった一言。
彼女のその言葉によって、部室の空気は一瞬にして様変わりした。
「まったまた〜! ダーリンがウチを差し置いてデートなんか行くわけないやろ〜!」
笑顔で強がったことを言いつつも口元は引き攣ってるし動揺で若干声が震えるタマモクロス。
「う、ウソだよねお兄さま……ライス、信じてるから……」
目から青い炎を吹き上がらせてるのではないかと思うほど何やら危ない雰囲気を醸し出すライスシャワー。
「アイツ……ッ」
ギリと奥歯を噛み締めたナリタタイシンは、持っていたマグカップにヒビを入れてしまう。
「……問題ありません。あの方の心は、我々の元にあるのですから」
そう言うダイイチルビーは、持ち上げたティーカップとソーサーが震えて凄まじい勢いでカタカタなっている。
「ああ、また彼にたかるコバエが現れたのですね。まったく……」
唯一、後方家内面でやれやれと肩をすくめるドリームジャーニーだけは余裕そうな顔である。
「てやんでい! こいつはチームの一大事だろうが!? 旦那がどういうつもりか、んでもって佐岳メイってのがどんな女か、確かめに行こうじゃあねえか!」
怒りに震えるイナリワンの号令が部室に響き渡ると、各々が立ち上がって彼女の後に続いていく。
「で、アイツの場所は?」
「こんなこともあろうかと、トレーナーさんには発信機と盗聴器を仕掛けておきました」
「みなさまの位置情報アプリに、リアルタイムで場所が表示されるようになっています」
「でかした! これでダーリンのところに一直線やな!」
「フン、浮気なんかしてたら蹴っ飛ばしてやる!」
「ついてく、ついてく……お兄さまに、ついてく……」
目指す場所はただひとつ、チームプロキオンのトレーナーにして、メンバー全員に情熱な告白をして手篭めにした(誤解を生む表現)久保聡介の元である。
なお、こんなことを言っているが全員トレーナーと付き合ってないし、そもそもそういう目で見られてもいない。
◇◇◇
「す、すまない! 待たせてしまって……!」
「いえいえ、自分もさっき着いたところだったので」
「そうなのか? なら、いいんだが……」
「それより佐岳さん。今日はお食事に誘っていただき、ありがとうございます。いろいろお話も聞けるということで、とても楽しみにしていました」
「へ、ぇ……!? い、いや……そんな、楽しみだなんて……!」
トレセン学園から少し離れた場所。
府中駅の近くにある神社の前で待ち合わせをした久保聡介トレーナーと佐岳メイは、今ちょうど合流したばかりだった。
「今日はいつもの格好ではないんですね?」
「あ、そ、そうなんだ! せっかくの、君との……その……で、でー……ん゛ん゛! お出かけだからな!」
佐岳はそう言って、少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
今日の彼女の服装は、なんと言っても気合が入っている。
いつもの帽子やジャケットなどの男っぽい服は脱ぎ捨て、仕立ての良い白いシャツと髪色に合わせた薄黄色のカーディガン、それに上品なロングスカートという、真っ当に女の子した可愛らしいファッションなのだ。
足元もおろしたてのローファーで揃える徹底ぶりで、まさにデート専用というに相応しいだろう。
「ありがとうございます。いつもの格好もいいですけど、今日の格好も、うん。綺麗ですごく似合ってますよ」
そんな気合の入った彼女を息を吐くように褒めそやす女の敵ムーブをかます天然野郎はこの男、チームプロキオンのロリコン(冤罪)トレーナーこと久保聡介である。
久保トレーナーのほうはいつものスーツではなくスニーカーにジーパン、それに白いシャツと薄手のジャケットというラフな格好。
スーツ姿のかっちりした印象からは一転して、年相応な親しみやすい人懐っこい印象に様変わり。普段から浮かべている人好きする笑みと素直な言動も相まってなかなか年上キラーな好青年になっていた。
「はっ……な、にゃに……!? あ、の……き、急にそんな……あ、ありがと……」
控えめに言っても犬系な爽やか好青年(ロリコン冤罪野郎)に褒められて、佐岳は一瞬にして茹で蛸みたいになった。
落ち着かないのか横髪を指先でくるくると弄ぶ姿は、まるで初心な少女のようで非常に可愛らしく見えた。
「じゃ、じゃあその……い、行こうか!」
「はい!」
嬉しさと照れでにやけそうになる顔を取り繕うみたいに佐岳が言う。久保トレーナーも嬉しそうに頷くと、彼女の案内に従ってゆっくり歩き始める。
そんな初デートの初々しいカップルみたいな二人を追いかけるように、怪しげな影たちもまた動き出す。
「なんやあのメス顔はァ……! トレセン学園は婚活会場ちゃうねんぞコラァ……!」
「まったくだぜ! 婚活なら相応の場所でやてっれんでい!」
電柱に隠れながら様子を見ていた久保トレーナー追跡チームA班、タマモクロスがまったくプリティではない顔でビキビキしながら呟くと、隣でイナリワンがムッとした顔でそれに答えた。
自分たちに断りも入れずに久保トレーナーをデートに誘うだけでも言語道断だというに、あまつさえあのような乙女全開で隣に立つなど人でなしも極まってる。
今すぐ邪魔してやらなければ気が済まない。怒りがタマモクロスとイナリワンの腹をムカムカさせた。
しかしここで、彼女たちがつけたイヤホンから冷や水を浴びせて落ち着かせる声が響く。
『落ち着いてください、お二方。ここで飛び出してしまっては、尾行の意味がありません。それにお二方の役割は、あの二人が怪しげな場所へ入るのを防ぐことです。出過ぎてはいけません』
「せやけどジャーニー、アレを指咥えて見てろっちゅうのは酷やぞ!」
「てやんでい! 見てるだけで怒髪天ってもんだ!」
『ええ、ええ。私もですよ……コバエ如きが彼と2人きりで食事に行くなどっ……フゥー……失礼。ですが感情に任せてここで邪魔をしてしまっては、彼にも迷惑がかかってしまいます。そうなっては最悪、彼に嫌われてしまいますよ?』
「むっ……」
「ぐぬっ」
いきり立っていた2人が、最後の一言でピタリと動きを止める。
いくら怒りで震えていても、久保トレーナーに嫌われるとなれば我慢せざるを得ない。
「はぁ……しゃあなしやな。ここは我慢して見に徹するしかあらへんか」
「不埒モン相手たぁいえ、旦那の楽しみを邪魔しちゃあこっちも道理にもとるからな」
『ありがとうございます。では、A班のお二方は引き続き背後から尾行を。B班の方々は各自ポジションからの監視をお願いします』
プツリ、と通信が途切れる。
釘を刺されてしまった以上は見に徹するしかない。タマモクロスとイナリワンは肩を竦めると、再び久保トレーナーと佐岳メイの尾行に戻るのであった。
一方で、各ポジションで監視を行うメンバーは、双眼鏡と最新鋭ドローンで2人の動向を見つめていた。
「アイツ、どこ行くつもり……?」
「ご飯、食べに行くんだよね?」
『都内にあるフレンチレストランの予約を、佐岳メイ氏が取っていることが確認されています。おそらくそちらへ向かうのかと』
双眼鏡を覗きながら明らかにイライラした様子のナリタタイシンと、表面上は冷静なライスシャワー。彼女たちはコソコソと近くの喫茶店から2人の動向を逐一監視していた。
「フレンチレストラン? 気取り過ぎ……アイツ、カレーとハンバーグ好きな子供舌なのわかってんの?」
「お兄さまのこと、きっと知らないんだよ。お兄さまの好みも、ね……」
2人の動きを監視しながら、ライスシャワーとナリタタイシンそれぞれ不機嫌な気持ちを表情に滲ませた。
久保トレーナーと佐岳の行き先は、すでに名家の力を使って調べが付いている。
都内某所にあるフレンチレストラン、いいところを見せたい佐岳が選んだお高めなフランス料理の店だ。
久保トレーナーの好みを知っている彼女らからすれば、外してはいないが的を射てもない微妙なチョイスで、好みも知らないくせにデートに誘うな。という気持ちと、誘うなら見栄を張らずに好みに合わせろ。という気持ちが半々くらいだった。
『B班、報告を』
2人が不機嫌に双眼鏡を覗いていると、耳の通信機から通信があった。
定時連絡だ。
「はい、こちらB班です。ターゲットを監視中。そろそろ目的地に到着するかと思います」
『了解。A班の2人には外で待機をお願いします。ジュエリー1、ターゲットが店内に入ります。以後の監視はそちらに』
『かしこまりました』
『以後、A班B班はターゲット退店まで休息とする。通信はオープンのまま待機してください。オーバー』
ドリームジャーニーからの通信が終わると、ライスシャワーとナリタタイシンは顔を見合わせて双眼鏡を置いた。
久保トレーナーと佐岳が店に入ってしまえば、あとは店内に潜入したダイイチルビーの報告と盗聴器からの通話から聴くしかない。
「とりあえず待機、だね。はぁ……」
「クッソ……早く食って出てこいっての」
店中の様子を覗けない2人は、待つしかできないことに歯がゆい気持ちを抱えたまま拳を握った。
頼みの綱は、すでに店内に侵入したダイイチルビーのみである。
さてもそんなことを知らない2人。久保トレーナーと佐岳は、無事にフレンチレストランに足を踏み入れて席に着いていた。
「ワァ、ここがオススメのフレンチレストランですか! いろんなメニューがありますね〜!」
「こっちがディナーのメニューで、こっちがドリンクメニューだ。アルコールはいるかい?」
「いえいえ! あんま飲めないんで、ソフトドリンクで問題ないっす!」
「そうか。……じゃあ、あたし様もそうするかな」
道中である程度打ち解けたのか、2人の間には気楽さがあった。
佐岳も最初の緊張がだいぶ和らいでいて、久保トレーナーも敬語は解かないまでも気安い口調でいる。
(それでも、まだ彼には遠慮がある。佐岳メイ、あなたが踏み越えられないラインが、そこにある)
楽しげな2人を遠くの席から観察しつつ、テーブル下に仕込んだ盗聴器から会話を盗み聞きするダイイチルビーは、久保トレーナーの声色からそう察した。
無論、他のメンバーも盗聴器を通して聞こえた声に、彼女と同様のことを思って勝ち誇っていた。
自分たちを相手している時とは違い、気安さの中に微かな目上への遠慮を含んだ言動が、彼女には手に取るようにわかっていた。
そりゃあ上司と食事なんだから当たり前である。
「こほん、それで何を食べようか?」
「う〜ん、どのコースセットも美味しそうで迷っちゃいますね……」
「Aセットはどうかな。君にも馴染み深い料理が出てくるようだが」
「食べたそう……ですけど、せっかくだからちょっと冒険してみたい気も……」
「ならCセットはどうだい? あまり聞かない料理と食材だろう?」
「確かに、ふ、フリカッセ? とか、びしそわーず? も知らないですね……うわーどうしよう! 本当迷っちゃいますね!」
「ふふっ、時間は逃げないから好きなだけ悩むといいぞ」
メニューと睨めっこをする久保トレーナーを見て、佐岳は眩しそうに目を細めて微笑んだ。
(なんですかその「はしゃぐ恋人を見てやれやれと言いながらも優しげな瞳で見守る彼女」みたいな言動は。あなたは彼女ではありませんよ)
『ザッケンナコラー!』
『ナンヤコノアマァ!』
『オニイサマドイテソノヒトブルーローズチェイサーデキナイ!』
『ナニソノカノジョヅラ……!』
『コバエガ……』
盗聴器でふたりの会話を聞いていたダイイチルビーはムッとした。
一緒に聞いていたみんなも阿鼻叫喚であった。
(しかし、皆さんの声で会話が聞き取りにくいですね……私も同じ気持ちですのでわかりはしますが……)
「じゃあ……うん、Cセットにします! あ、でも佐岳さんはCでいいんですか?」
「うん、き、君の選んだコースが食べ……君が選んだものでいいよ!」
頼むものを決めるとウェイターに注文を告げて、佐岳はワイングラスの水を一口飲んだ。
緊張でカラカラになった口と喉に染み渡る冷たさが、身体にこもった熱を少しずつ覚ましていくのを感じる。
大丈夫。自分に言い聞かせて心を落ち着かせて、料理が来るまでの間、久保トレーナーとの他愛のない会話を楽しむことにした。
まさかその裏でチーム・プロキオンの面々が大変なことになっているとは、露知らず……。
(しばらくは静観……ですか)
『スッゾコラー!』
『コノクソボケガー!』
『ユルサレナインダ!』
『ナンダヨコノクソテンカイ!』
『ソウジノヨウイガヒツヨウデスネ……』
(まさかそのようなことがあるとは思いませんが……実力行使の準備はしておいた方がよさそうですね)
そうして。
2人が楽しく料理を食べたあと。
「いや〜美味しかった! フレンチって有名なやつ食べたことなかったんですけど、こんなに美味しいんですね!」
「そうだな、さすが世界三大料理のひとつと言ったところだ」
フレンチを楽しんだ2人は、デザートを待ちながら談笑に花を咲かせていた。
(これまでの会話内容は至って普通。恋愛や恋慕の匂わせなどはありませんでしたが……本番はここからでしょうね)
騒がしいを超えて不気味に沈黙した身内の無線を気にしながら、ダイイチルビーはこれからの久保トレーナーの言動を一字一句聞き逃さないように神経を張った。
佐岳は今、最高の気分だった。
美味しい料理に楽しい話。
まるでデートのような、いやもう完全に大人のデートなこの状況、佐岳を舞い上がらせるには十分すぎる。
この瞬間がずっと続けばいいとさえ思った。
ただ、やはり久保トレーナーは生粋のトレーナーであり、最低最悪のクソボケだった。
「そういえば、プロジェクトのことなんですけど」
「へ? ぷ、プロジェクト?」
急な話題に素っ頓狂な声を上げる佐岳に、久保トレーナーは真面目な顔で話を切り出す。
「L'Arcですよ、プロジェクトL'Arc!」
「あ、ああ……L'Arcか……そうか、君も参加しているんだものな」
「はい、佐岳さんをはじめ、海外経験のある多くの先輩方にはお世話になっています」
「気付けば、ずいぶん大きなプロジェクトになったな。うん、あたし様も誇らしいよ。でも、なんで急に……?」
急に仕事の話などしてどうしたのだろうか、と嫌な予感を覚えつつ佐岳が問いかけると、久保トレーナーはグッと握り拳を作って答えた。
「もちろん、ジャーニーの凱旋門賞挑戦に向けての相談です!」
「……は?」
(まあ、当然ですね。彼は私たち以外眼中にないですから)
嫌な予感が的中したことにショックを受けて愕然とする佐岳。
予想できた展開に何故か得意になるダイイチルビー。
盗聴器で聞いてたオーディエンスは爆アゲである。
知らないのは久保トレーナーだけである。
「これからジャーニーがデビューして、クラシック級になった時の予定についてなんです。おそらく、今まで通り宝塚記念が終わったあたりから、遠征になりますよね?」
「あ、ああ……そうなるだろうが……」
「ここのスケジュールなんですけど、ダービー直後にまで前倒しできないかと思いまして。やはりフランスへの遠征で体をある程度ならして、異国の環境への適応と洋芝への対応を考えると半年弱では足りないと……」
マシンガンの如く繰り出されるのは、フランス遠征の日程だとかトレーニングの見直しだとか、トレーナーとしての話ばかり。
浮ついた話なんてひとつもない真面目も大真面目な話である。
これは佐岳も内心打ちのめされて、鼻の奥がツンとするのを覚えた。
女性とデートに来ているのに仕事の話なんて、まるで自分が女性として見られていない。
彼の眼中には自分が写っていないのだと、理解してしまった。
(……ああ、でも)
けれど同時にもう一つ、理解できたこともある。
(話しているキミの笑顔を見ると……許してしまう……)
楽しげに自分の考えを話して提案する久保トレーナーの表情は、どこまでも透き通って活き活きとしていて、憎めない。
それはきっと、彼が心の底からトレーナーという職業を、まさかその裏でチーム・プロキオンの面々が大変なことになっているとは、露知らず……。誇っていて、何よりも楽しい仕事だと思っているからに他ならない。
(そうか。キミは、どこまでもトレーナーなんだな……)
それに気づいた時、不思議と佐岳の心は凪いでいた。
彼は自分を女性として見ていないのではない。
ただお互いの共通する話題で、かつそれがきっと楽しい会話になると考えているから、こんな話をするんだ。
そう考えると、久保トレーナーがなんだか仕方のないやつだと思えてきたのだ。
(せっかくのデートなのに……まったく、しょうがないな……)
ま、全然ハズレなんですけどね。
久保トレーナーの好みは樫本理子のような女性なので、そもそも土俵外である。
佐岳のことはURAの佐岳メイ役員としか見ていないのだった。
(まあ、私たちは彼に意識されているので、デートをしてもこのようなことにはなりませんが)
残念ながら君らも担当ウマ娘としか見られてないぞ。
「やはりダートを走れるウマ娘も招致するべきでは……」
「そうなんだがやはり役員の考えがな……っと、デザートが来たな」
「お、美味しそうなケーキですね!」
「ふふ、そうだな。話はまた今度、今はこれを味わうことにしようか」
「そうですね、へへっ!」
佐岳の言葉に子供っぽく笑って頷くと、久保トレーナーはフォークを手に取った。
◇◇◇
「今日はありがとうございました、ご飯ご馳走になっちゃって……」
「気にしなくていいさ。若い子に投資するのは年寄りの特権だからね」
店を出ると久保トレーナーは深々と佐岳に頭を下げた。
店の代金は全て彼女持ちである。
最初は久保トレーナーも財布を出そうとしたのだが、佐岳が「後輩に財布を出させるのは先輩の名折れ、ここは持たせて欲しい」と言ったので、彼女の意思を尊重したのだ。
しかしそれはそれとて、自分を卑下する言葉はいただけない。
「年寄りって……佐岳さん、自分をそう言うのは良くないですよ」
「ん? そうかな……」
自分自身を年寄りと称した佐岳に、久保トレーナーはわざとらしくムッと顔を寄せて注意した。
ただその注意は。
「佐岳さんは可愛いんですから、自分を悪く言うのはよくないと思います」
スケコマしすぎる言葉であった。
「は、ぇ!? かわっ……!?」
当然、これほど不意打ち気味にど直球の火の玉ストレートを投げつけられた佐岳は、顔どころか首筋まで真っ赤になって両手を頬に当てた。
「え、えへへ……そ、そんな、急に……ふ、ふへへへ……」
『旦那ァ!?!?!?
『ダーリン!?!?!?』
『お兄さま!?!?!?』
『アンタ!?!?!?』
『あなた!?!?!?』
『聡介さん!?!?!?」
「……?」
嬉しすぎて感情が制御できず乙女めいてにやける佐岳。
全員が声を揃えて叫ぶプロキオンのメンバー。
わかっていないのは久保トレーナーだけである。
こいついつか絶対女にいつか刺されるぞ。
「えへへ、えへ……ハッ!? ン゛ン゛ッ!! そ、それじゃあ……この後の予定なんだが……」
「このあとですか?」
「その……も、もしよければ……なんだが……わ、私と……」
恍惚状態から復帰した佐岳が、恥ずかしさを誤魔化すみたいに横髪を指先でいじりながら、行きつけのバーに誘おうと口を開いた。
が、しかし。
「い、いや! 今日はここまでにしておこう! うん!」
「ア、ハイ」
佐岳、日和る。
勇気を出して提案しようとはしたが、結局羞恥心が勝ってしまい慌てて取りやめてしまった。
クソボケ、命拾いである。
「それじゃ、今日はこれで失礼します。ご飯おいしかったです! ありがとうございました!」
「あ、ああ……それじゃあ、また……」
「めちゃくちゃ楽しかったっす! また誘ってくださいね!」
「へ!? あ……う、うん……♡」
こうして、佐岳と久保トレーナーの初デート(?)は幕を閉じたのであった。
『旦那ァ……よくないなあ、そういうのは……』
『ウチら以外にそないなこと言うのはアカンわ』
『お兄さまの言葉は……私たちだけのものなのに……』
『フンっ、あの天然タラシ……次やったら許さないから』
『あの方に、私たちだけを見てもらうためには……一計必要ですね』
『ええ、これ以上彼にコバエが寄るのは見過ごせませんから、ね……』
プロキオンのメンバーに、多大な危機感を残して……。
「今日は食事会楽しかったな〜! 佐岳さんともいい議論ができたし、明日からチームのために頑張るぞ〜!」
久保トレーナーの明日は、どっちだ。