連載中の少年漫画の世界にTS転生したら多分死ぬ味方最強キャラの弟子になった 作:木蛾
静かな空間に緊張が走る。私の一挙手一投足に注目が集まっていた。
「まあそんな気はしてたけどさぁ……気ぃ抜きすぎじゃない?」
その空気の馬鹿馬鹿しさに耐えきれずに、ガタガタ揺れる馬車の中でぼやいてしまう。
「何言ってんだ、お前の番だぞ。真面目にやれ」
「はいはい……」
先日"燃える玉虫亭"に連れ出された時から一週間ほどが過ぎ、私、ジーク、エノウ、トンブの4人は馬車の中での移動中、カードゲームに興じていた。
ジークとエノウは軽装だが、トンブは頭以外はゴツい全身鎧を着ているというのに器用にもカードを捌いている。
「あれ、これアガリ?」
「はあぁっ!?」
私が自分の手札を2枚公開するが、エノウの素っ頓狂な叫び以外誰からも宣言がない。つまり私のアガリでこのラウンドは終わり、そしてゲームも終了した。
私はこれで最下位を回避し3位になった。負けは負けだが元々経験が無いため不利ということで、負け分はジークの金から出す約束で参加していたため何の感情も動かない。うん、無の時間だった。
負けたエノウが慟哭する横でしれっとカードを回収したジークが私にだけ嫌な笑みを見せる。……イカサマしたな。
「よし、帰ったらちゃんと精算しろよ」
「そういうこと言うなよ、どさくさ紛れに殺したくなる」
ジーク曰く"燃える玉虫亭"の面子は『友だち』ではあるが仲間ではない、とのことだった。バカ話に花を咲かせ賭けを楽しむが、もし仕事で敵対勢力についていたら躊躇なく──それどころか喜び勇んで殺しに行くような間柄。だから私がエノウに殺されそうになったことも反撃で殺しかけたことも全部受け入れられている。
今回の同行は、ジークが彼らを雇っているという扱いであるから渋々共闘するらしい。『公的にこいつらを雇えるわけないだろ』とか言っていた。出発前の会話を思い出す。
『個人として聖女や軍属を自分の思い通り動かすにはめんどくさい手続きがいるからナシ。俺は王国に仕えてる扱いだけど独立してる役職で指揮権とか無いからな。貴族としても末席だし。そうすると野良を雇うことになるわけだが、その中だとあいつらくらい実力があって指示に従順な奴らはいない』
『従順……冗談?』
『俺がこうすれば勝てるって言えば疑いはしない上、俺を裏切って殺されるリスクを取ることも無い。金払いを渋らないことを分かってるからな。他のやつらだとこうはいかないぜ、俺の采配に口を出したりそもそも金を持ち逃げしたり勝手に自分で判断して独断専行したり……』
……つまり、どんな形にせよ信頼関係はあるということだろう。
「よし、時間調節はぴったりだな。そろそろ降りるぞ」
「カードはどうすんだ?」
「御者にやる、荷物は少ない方がいい」
「じゃあそもそも最初から持ってこなくていいじゃん……」
エノウが黒いマントを身に纏い、トンブが兜を被る。私は剣と短剣が何本かとラミゼルに貰った薬が少しあるだけなので特に準備することはない。一応ちゃんと留められていることは引っ張って確認しておく。
馬車が止まった。なんてことない街道の途中である。
「予定ですと私はここまでです。ご武運を」
騎士であるらしい御者に声を掛けられる。どこか期待に満ちた目で見られることで思い出す。何だかんだで王族が手を出されたため国がピりついていて、私たちはその解決のために奔走する一番槍ということになっているのだ。
「あいよ、ありがとな」
ジークが手を振る以外には誰も反応しない。私は軽く会釈しておく。こういう細かいところに気を配ることが良い評判に繋がるのだ。……私個人の評判なぞ無に等しいだろうが。
全員でぞろぞろと降りると、ジークは銀の短剣で僅かに自分の左腕に傷を付け空に投げた。途中まで放物線を描いていたそれは、急に不自然に浮かび上がり明後日の方向に直進していく。
「お前、よくそれ使えるよな。地獄で家族が泣いてるぜ」
それを見たエノウが嘲りを含んだ口調でジークに言った。
「物に感情を抱く余地は無い。便利だしな」
ジークはなんてことなく返す。エノウと付き合っていくには話す言葉は全て雑音だと思うのが最適解なのだろう。
「じゃ、作戦通りに」
そう言い残すと、ジークが駆ける。西に行ったことがかろうじて捉えられた程度で一瞬で視界から消えた。
……やっぱり、そうだよな。ついこの前ジークの戦いを近くで見られたこともあって、これまでジークと隔絶がありすぎてわからなかったことが目が速さに慣れてくることで気づいた。
元々心配はそこまでしていないが、あれなら露骨な対策を張られていてもなんとかなる可能性は大いにあるだろう。おそらく気取られてもいないし分かったところで対策のしようも無い。
「私たちも行こう。ここから結構歩くから」
「お前が仕切んの?」
そう口を挟んでくるエノウは、黒ずくめのいかにも怪しい装いだ。姿勢を低くしたらマントで手足が隠れ、不意打ちを行いやすくしている。
「まぁいいでしょ……一応クライアント側なんだから」
「一銭も出してねぇくせによ」
「負け犬は黙ってよ。私より長くやってるくせに殺し合いでも賭けでも弱いのにデカい顔するの?」
私の罵倒に不満気に鼻を鳴らすエノウとは対照的に、トンブは静かであった。全身を覆う金属鎧に背中に吊った2mにも及ぶ大剣はかなり威圧的な容姿である。二人は方向性こそ違えどどちらも明らかに物々しい。……私も肩書き込みで側から見たらこんな感じなのかもしれない。
「私たちの移動先はここから南西、付いてきて」
まだ時間は少しある。歩きながら改めて出発数日前のジークとの会話を回想することにした。
◆
私が知っている数体の魔神の直接的な能力の情報を共有する場を設けたときのことだ。
『まず旧王権派について。予想通りだが魔神と内通してて、最初に襲われたのも厳密には俺じゃなくお前の方だった。逆に言えばあいつらを辿れば情報は集められる』
『となると……私がそういう存在であることには早期に気づいていた…ってことになるけど、そうするとなんでもっと早く殺しておかなかったのかが分からないね』
『そうだな、俺の弟子なんぞになる前に一介の村人として殺しておけば楽だったろうに。俺の考えとしては、魔神が比較的自由に動けるようになったのが本当にごく最近…ってとこかな』
『そんな偶然ある?』
……改めて考えると、この世界が完全な異世界であるならまだしも、作為が紛れ込んでいるのはなんら不自然なことではない。何故ならここは娯楽作品の世界であり、私個人に対してはともかく物語上面白くするため主人公に都合よく物事が発生することはある程度当然であるからだ。現実と化したこの場でも時期に関するご都合主義なら十分起こりうる。
私がなんらかのエピソードに関係する場合、それがジーク、ひいてはレヴィの活躍する年と離れていないのは想像に難くない。
しかし、そこに関しては考えてもわからないため棚に置いておかれることになった。過去には戻れないし今私が生きてるのならまあいい……のか?
『話を戻して……ある程度は遡れるとは思うけど、仲介を何個か噛ませてるだろうし重要な部分に到達する前にトカゲの尻尾切りされるのがオチじゃないの?』
『そこで役立つのがフィッチだ。あいつの情報収集能力の本質は潜入させた時にある。あいつの周りにいたらいつのまにか全て知られてるからな』
『…まさかこの前邪教団に抱え込まれてたのって……!』
『全くの偶然。あいつは目先の金以外は何も考えてない』
そこで話されたことによると邪教団にいた時に知ったルートからそれらを援助している存在に繋がり、芋蔓式に情報を集められたとのことだ。
『あの世話になった教団の仇討ちだと気合を入れていたぜ。まあ俺が積極性を上げるために唆したんだけど』
『……直接的にその組織を滅ぼしたジークや私はいいの?』
『さぁ?あいつの頭の中どうなってんだろうな』
そうして得た情報によると、魔神と直接接触したと思われる人物までたどり着き、魔神の内一体の魔力の癖を掴むことに成功したらしい。一流の魔法使いでも通常は非常に長い時間が必要なものであるらしいが、フィッチの手により異様な数のサンプルが手に入ったから可能とのことだった。居所を掴むのも時間の問題らしい。
『どうやってあいつらを一網打尽にするかって言うと、このまま各個撃破されるより戦力を集中させてワンチャン俺やお前を殺したほうが得だと思わせる。意図的にこちらの動きを伝えるといった情報操作を行ってこっちはその魔神一体を倒すために動いてると誤認させる』
『でも新年祭で襲われた時には多対一でも普通にジークを仕留めきれなかったんでしょ?その一体だけ切り離されて動かれる可能性もあるけど……』
『そうなった場合、俺が動いたら結局あいつらは貴重な戦力の一つを落とすことになるし、それまで使っていた居城も追い出せる。神出鬼没だから忘れがちではあるけど奴らにも明確な肉体があるからな。拠点も複数用意できているとも思えない。その場合でもプラスではある』
曰くこれはジークも知らなかったことであるが、卓越した人間の魔法使いにもみられる傾向にある概念として魔神には実力を発揮するにもホームやアウェイがあるらしい。
魔神は封印されていた場所がその性質を帯びるように、居城は奴らの元居た世界をある程度再現しているということはほぼ確実だという。複数の魔神のフルスペックに近いを発揮できるようになっているようになっているため、そこにノコノコ乗り込むそぶりを見せれば罠にかかったとみて仕掛けてくる可能性は十分にあるとのことだ。
『ちなみにエノウが潜入してたって言い訳してたけどあれからは?』
『特にない』
◆
私たち3人は山の中腹にいた。
ここから気を張る必要があるため思い出すことに使っていた思考のリソースを状況把握に使う。
「作戦通りなら、私の位置は分かってるはずだしそろそろ魔神側も動きが……ッ!」
「なるほど」
私が回避行動をとろうとすると同時にトンブが背から大剣を抜き放ち振り回す。
中空に大量に現れた魔法陣から弾丸のように放たれた光弾を一刀のもとに叩き落とした。
「全く……人間以外を斬る感触はどうにも気持ち悪いな、取り巻きはいねえのか」
なるほど彼のテンションが低いのは魔神討伐自体にそこまでノっていなかったかららしい。
「走るよ!」
しばらく攻撃を凌ぎながら走る。すると、報告にあった場所に明らかに異様な門扉があった。そこは僅かに開かれており、既に誰か──ジークが侵入した形跡がある。
そして、その前に一体の魔神が佇んでいた。3mほどの体躯をした魔神にしては小さめの人型だが、顔は覆面で隠れておりその表情や視線は窺い知ることはできない。捻じれた角もあってこれみよがしに悪魔ということをアピールしている見た目だが、描写が無いうちの一体で私はその能力を知らない。
「たった一人?これまでみたいに、いの1番に私を攻めなくていいの?」
声をかけると攻撃が止み、男か女かもわからない声が返ってくる。
「最も脅威となる"音断ち"を先に全力で排除する。我が行なうのは足止めだ」
ならばやけに悠長なのも合点がいく。わざわざ会話に付き合っているのも足止めの一環というわけだ。……計画では私のことも無視できないため2体をぶつけてくる可能性もあったが、流石に内部に入り込んだ化け物には手を焼いているらしい。どちらかと言えば挟撃されないためと言ったところか。
「ダラダラうるせぇよ!」
それを理解してかエノウが叫びながら突撃する。
…いや、とっとと終わらせようとしてるだけだな。
エノウとトンブにはジークから特殊な装備が与えられている。彼らのパフォーマンスを落とさないようにしてあるがその攻撃は魔神に通じる仕様だ。
特有の地を滑るような軌道の読めない足さばきで距離を詰め、魔神に短剣を突き立てようとする。
しかし片手で防御され、エノウの持っていた聖別された短剣が砕け散った。
「あえっ」
「アホォ!」
バカが早速戦力外になってしまったが、若干私にとっては悪くない展開であると言えなくも無かった。
魔神の足が止まっていたことで後ろを取ることに成功した。
隙を作ってあげるために私がナイフを一本投擲するとそれを上に跳ね上げるように弾かれる。その隙にエノウはしれっと後ろに離脱した。お前なにしに来た!?
あちら側が戦いに横やりを入れられることを嫌うなら、私に注目が向くはずである。
相対すると数瞬の間も無く腕を振るわれ、こちらの剣と打ち合う形になる。
──数合剣を交えていると、どこか冴えるような感覚があった。
まるで数秒後の未来がどうなるのか何となく見えるようだ。
近接戦闘の合間に放たれた弾がするすると体の横を抜けていく。それは私に限ったことではない。
挟む形で戦っているトンブにも当たらないようにする。指示しているわけではない。どういう風に魔法を使用しているかの理屈も理解していない。けれども魔神が放つ軌道や、それに当たらないような位置に味方をコントロールすることができた。
トンブの大剣が横凪に振るわれる。本来魔神のとれる回避の余裕を考えれば当たらない距離のはずだ。しかし、そこにいけば私に致命打を当てさせられる。と、思わせ受けさせる。
クリーンヒットはしなかったが姿勢が下がるのを利用し一気に距離を詰めて魔神の肩を蹴り上空に飛び跳ねた。魔神の体はより大きく傾くが、魔法の行使には影響がないらしい。
「焦ったな!」
宙を舞う私の目の前に大量の魔法陣が展開される。しかし、その間に割り込んでくる小さな影があった。さっき投擲して弾かれた投げナイフ。
計算通り──というほど、理論に基づいていたわけではない。しかし、なんとなくそうなることはわかっていた。飛び跳ねる前に元々構えていた足を振り抜きそれをそのまま蹴り飛ばす。
角を擦る程度に止まるが、それにより魔法の制御に支障をきたしたようで私への攻撃が僅かに逸れる。何の回避行動もとっていないのにまるで光弾の方が私を避けているかのようで、どこかおかしくて笑ってしまう。
そのまま自由落下に身を任せ、大量の光弾を凌ぐためにバックステップで魔神から少し離れていたトンブの大剣の先に着地した。目を丸くしているトンブに短く呼びかける。
「飛ばして」
剣の上で小さく飛び跳ねると同時に、大剣がうなりを上げながら機械音を立てる。歯車が周り蝶番が開き、剣が火薬によって加速する。
「後悔すんなよ!」
バットのように振るわれた大剣の腹に打ち飛ばされた。足をバネのように使って射出するように飛び出す。
それと同時にエノウがスライディングをしながら地面に落ちた投げナイフを拾い上げて投擲する。
トンブは意識して狙ったわけでもないだろう。しかし、吸い込まれるように私の剣が的確に奴の体の内の魔中を貫いた。そうなる確信があった。
「…なぜ?」
突き刺さった剣を支点に体を翻し、ちょうどそのタイミングで手元に来たナイフで詠唱を潰すよう喉を切り裂いたため、それが敵の最期の言葉となった。
「フゥッ…勝った……」
トンブが深く息を吐きながらそう言った。
警戒しながらも近づいて確認してみるが、動く様子は無い。終わった。
「これで金貨がもらえるなんてちょろい仕事だぜ。あぁー、もっと魔神湧かねえかな」
「アンタはほんと楽だっただろうね」
エノウがもう気を抜いてその場に座りこむのを見ながら、文句を言いつつも私は僅かにその意見に賛同してしまうそうになっていた。もちろん金が欲しいからではない。もう、金貨をもらうのにも慣れてしまった。
すんなりいきすぎた。ヒリつくような感覚が薄い。前に魔神と戦った時はもっと……。
「お前、去年にジークに拾われる前は戦闘経験は何一つ無かったんだってな?」
唐突にトンブが私に問いかけてきた。
「え?そうだけど…それがどうしたの」
「今の戦いぶり……俺たちは自由に動いているはずなのに完全に動きが読み切られ誘導されて、まるで世界がお前の都合のいいように動いているようなあの感じ。……10年前に初めてあいつと同じ戦場に立ったときと似ていた。お前なら、あるかもな」
それだけ言うとエノウの近くに行き、他愛のない話をし始めた。警戒は怠っていないがここから動くつもりはないらしい。
確かに元々あった計画では私がやることはここまでで、ここからは臨機応変に、としか言われていない。多分寝てても作戦に影響は無いだろうが……。
「……あ?動くのか?俺たちは行かねえぞ。報酬分以上には働かん」
「いいよ、別に。私だけで行く」
「美しい師弟愛だねぇ」
一人で急いでジークの元へと向かうことにする。負けるとは思っていないが、もしかしたら助けになるかもしれない。今行かなければ強くなった意味もないだろう。
そこに、渇きを満たす何かがあると、少し期待しながら。
◆
城の中は静かだった。道筋を辿る立場の私としては好都合なことに、明らかに経年劣化などではない戦闘の形跡と思われる新しい瓦礫やら血痕やらがあちらこちらに飛び散っている。
進んでいくと一際大きな扉があった。閉じられている。物音はしないが、中に何かがいる。
躊躇するが、意を決して扉を開けた。
開けた空間だ。そこには死体が複数転がっていて、勝者が玉座に堂々と座っていた。
「セツナァ、遅すぎ」
ジークは数多く持っていた装備をほぼ全て使ったのであろう、色々準備していた道具は消え失せており、片手に持っている剣の鞘すらなくなっていた。最大限の軽量化を図ったのか上着もポーチも全て捨てて着の身着のままである。おそらく最後に取っておいたのであろう薬を口に含んで一気に飲み切った後は空き瓶も放り出し、持ち物が本当に剣のみになった。
転がっている死体は3つ。相当な死闘だったことは想像に難くないが、今回復活した魔神は全て死んだ。
呆気ない。拍子抜けすぎる。こんなもので終わりなのか?ジークが本気を出せば軽く片付いてしまう次元の話だったのか?私ごときが頭を悩ますことなどなかったのか?
「お前1人だけか…」
「…いや、あの2人も生きてるけど……」
「知ってるよ、だからだ」
……薄情だ、ということだろうか?
「まぁ、いいや。そうだな、帰るか」
何だかんだ魔神は弱くは無い、それなりの手傷は負わされたようだ。立ち上がってこちらに緩慢に歩いてくるジークを見る。腹に乱雑に上着の切れ端を巻き付けて止血しているし、よく見れば足も少し引き摺っているように思えた。
ジークは絶不調と言ってもいいだろう。それに引き換え私は作戦が成功したおかげで、ある程度体力は使っているがほぼ無傷である。むしろ体が温まって本調子まである。
──今なら、勝てるんじゃないか?
変な思考がよぎった。消化不良感が体に残っているせいだ。頭を振ってそれを振り払おうとするが、改めてジークを見ると足を止めたことに気づいた。
「……どうしたの、早く帰ろう。しんどいなら私が支えてあげてもいいから」
「ははは、舐めんな」
ジークが笑いに合わせて体を揺らす。──重心移動が分からない。次にどんな動きをするのかが一切読めない。
「なぁセツナ、さっきは遅いなんて言ったけどさ。お前本当に強くなったよ」
「急に何?らしくない」
ジークは私の言葉を無視し、淡々と言葉を紡ぎ続ける。
「でもよ、なんか満たされていないと思ってないか?」
「……何を…」
「それが強くなるってことだ。その気になったら瞬きの間に殺せるやつしかいなくなる」
感覚を研ぎ澄まされていく。意識してのことではない。本能が危険を察知している。
「頼むから粘ってくれよ、俺も頑張るからさ」
ジークが消えた。
いや、錯覚だ。視界から消えても私の感覚はその存在を捉えている。
左半身側の死角から迫る剣戟に合わせて弾こうとするが、余りに速すぎる上、ほんの僅かに軌道が予測とズレていた。瞬時に弾くのは無理だと判断し死に物狂いで逸らす。
重っ……!
ギリギリ軌道に干渉できたことと自分の態勢を不利なように崩してまで捻ったことで即死ルートから外せた。脇腹を剣が擦過し鋭い痛みが走る。それと同時に数瞬遅れで風切り音が耳に響いた。
弾き飛ばされるように勢いのまま必死で飛び退って距離を置くと、意外にも追撃は来なかった。脇腹は出血こそしているものの内臓には到達していない。
しかし、対応が数瞬遅れていれば急所を貫いていた。
これはつまり、宣言だ。
「殺しに来いよ」
ジークは、普段と全く変わらない調子で言った。