青衣さんメンテナンス係の日々 作:──
ルミナ分署の
[昨日に続きすまぬが、時間に空きはあるか?]
[ありますよ]
[ルミナスクエア交差点前へと来られたし、待っておるぞ]
[……?わかりました]
言われた通りの場所に向かうと、いつも通りの格好の青衣さんがそこに立っていた。
「呼び出してすまんな。我はどうしても、先日の事について話がしたかった」
「先日の……?」
「我のパーツの件だ。正直に、如何程の金額だ?」
「えっと……すいません、本当にわからないです」
「そのようなはずがなかろう、実際に支払いをしたのはお主自身のはずだ」
「そうなんですけど……、あんまり後先考えずに払ってたので帳簿を確認しないことにはわかりませんよ。青衣さんのメンテナンスって楽しいですから、趣味にお金を使ったくらいのことだと思ってください」
これは僕の正直な感想だ。
もしかしたら思い込みかもしれないが、ある程度仲良くなったお陰で、メンテナンスが終わると青衣さん自身がその後の調子を報告してくれることがある。
メンテナンスを行った相手からその評価をされるなんて、今まで様々な機械をいじってきたが初めての経験だった。
それが存外に楽しくて、気づけば不足したパーツも費用が降りないパーツも自分で買うようになっていただけなのだ。
「……む?お主、顔色が悪いぞ」
「え?そうですか?」
「今にも死相が浮かびそうな顔色をしておる。家に戻り休息を取るべき顔つきであるな」
「そうですか、では青衣さんと話し終わったら帰って寝ることにします」
「その必要はない、我がお主の家まで同行しよう。話の続きはそちらでな」
「……え?青衣さんが僕の家に?」
「そうだが、不都合が?」
「いや、そうじゃないですけど」
「ならばよかろう」
そんな流れで、追加で何回か断ろうとしたが、半ば押し切られるような形で青衣さんを家に招き入れることになってしまった。
「案外片付いているな」
「あはは……、ありがとうございます」
「だが、少し散らかっている部分も見える。日頃の礼として我が掃除を承ろう、お主は寝室で眠っていると良い」
「え?いや、でも……」
「おや、恩返しには足りんと?ならば寝かしつけまでしてやろう」
青衣さんは半ば強引に僕を寝室へと運ぶ。
いつも寝室のドアを開いたままにしていたのがこんな時に裏目に出るとは思わなかった。
ベッドに押し込まれると、眠気が押し寄せる。
青衣さんが何やら言っている気がするが、一切認識できない。
僕は、眠気に任せて意識を放り出した。
────────────
(青衣視点)
(──眠ったか。プランB、開始だな)
さて、我が今日なんとしてもすべき事は、これまで彼に払わせてしまった金額を何としても知ること。
彼は我が治安官となってから今まで、一度も欠かすことなく整備を行ってくれた男である。
だからこそ、彼に全貌すらわからぬ借りを作ったままではいられなかったのだ。
そんな彼への借りを知るための作戦は二つ、プランA:素直に聞いて教えてもらう、プランB:どうにかして彼の帳簿を手に入れる、この二つ。
前者は最も穏便な方法だが、実際に失敗した。
後者が今から行うことだ。
実際、彼は今にも死にそうな顔をしていた為申し訳ないが少し好都合だった。
実際に彼の部屋を探索すると、予想外の様々なものが出てきた。
「……なんじゃ、これは…………」
一つ目は使用不能のパーツの山。
様々な理由で我から取り外されたパーツの数々が、本来ならば洋服を保管するはずのクローゼットの中に所狭しと、しかし丁重に保管されていた。
他にも、部屋の至る所に様々な機械のパーツが保管されていた。
端的に言えば、機械部品と手足が詰め込まれた光景である。
我の手足は人に近い形に作られている分、ますますこのクローゼットが連続殺人犯のクローゼットに見えてくる。
我はそっとクローゼットを閉じた。
そして
「……あやつの健康に気を遣ってやらねばならぬやもしれんな」
二つ目は、冷蔵庫に限界まで収納されたエナジードリンク類。
おそらく定期購入をしているらしく、毎月の始めが配送日となっているエナジードリンクの箱がそばに畳んでまとまっている。
そして三つ目、目当てのものではなかったが、大きめの手帳。
それはおそらく過去数年分がまとめて綴られた彼の日誌であった。
我の中に、彼の個人としてのプライバシーを侵害してはならぬと考える思考がある。
しかし、同時に彼のプライベートが気になるのも事実。
我のために消費したその大金を何処で手にしたのかも気にかかる。
彼は機械を口説こうとする変質者ではあるが、それと同時に良識を弁えた人間だ。
もし犯罪に加担していたりするのなら、我はそれを止めなくてはならない。
結局我は、その日誌を開けることにした。
日誌の大体中央のあたりを開き、数ページ捲る。
『xxxx/⚪︎/× ルミナ分署の機械メンテナンスとして雇われた』
我と初めて会うよりも前の日付の一文。
どうやら彼は我のメンテナンス係となるよりも前から技術部の人間としてルミナ分署に居たらしい。
『xxxx/⚪︎/◻︎ 僕の職務はルミナ分署
「……は?」
書かれていた内容に我が目を疑った。
ルミナ分署にある機械類を全て?それはおよそ人間一人が可能な仕事量ではない。
とにかく、彼の大金の出所はわかった。一人で数人分の働きをし、数人分の給料を手に入れていたのだ。
さて、彼の大金の出所がわかったところで次に求めるべきは彼が購入した私のパーツの総額を示す帳簿、もしくはそれに準ずる記録だ。
そして……どの収納を開こうともおまけのように空き缶や機械パーツが入っている魔境のような家を探索すること約10分。
我はついにそれを発見した。
さあ、これで彼が我に使った金額を些細把握することができる。
今すぐに返すことができなくとも、返すべき額を把握するのは大きな一歩だ。
そう思い、その小さな手帳を開いた我は6桁以下の数字が書かれていないという凄まじい光景に一瞬思考を放棄したと同時に
「……青衣さん?そういうのはちょっと、良くないと思います」
後ろから聞こえた声に、現実へと呼び戻された。