こんなつもりじゃなかったんですけどねー
「伏黒恵です。よろしくお願いします。」
そう言い私に頭を下げる子供を見てみる。まだ鮮明に記憶に残っている男とあまり似ていない。その目は私を見ていて、信頼に当たる人かを測ろうとしている。
「泉宝火だ、初めまして。歓迎するよ恵君。」
そう返すと何故か怪訝そうな顔を浮かべる恵君。おい、どれだけ最悪な初対面だったんだ。私にまで波及してるじゃないか。
「すみません、悟が脅すような言い方して。」
「僕の優しさと言ってもらいたいね。呪術師になるんなら厳しくいかないと。」
まあ的を得てるけど。呪術師になるなら小学生だからとか甘えたことを言ってる暇はない。この子の身の上を考えたら猶更か。
「大丈夫です。俺は俺のために努力するだけなんで。」
此方を突き放すような言葉。どれだけ酷いことを言ったんだと五条を睨めばバッティングしたと原因を漏らした。なるほど、禪院家のやつらとかち合ったのか。そりゃ呪術師に対する印象マイナスにもなる。
「でもそれは仕方のないことだ恵君。力のない君は、この世界で声を上げることもできない。」
「…俺が強くなれば…津美紀を守れるのか?」
「もちろん。そして見えないかもしれないけど、そこのお兄さん達はこの世界で一、二を争うレベルの力を持っている。それを生かすも殺すも君次第だ。」
おいいい話してるだろ。変顔でダブルピースすんな。せっかくカッコつけてあげてるんだから頼りになる大人でいろよ。
「ようこそ、呪術界へ。」
馬鹿どもの頭をひっぱたきながら、恵君にそう笑いかけた。
その日、禪院直哉は過去一のレベルで機嫌がよかった。長ったらしい扇の嫌味も、勘違い連中のくだらないうわさ話も聞き流せるほど、分かりやすく満面の笑みを浮かべていた。
一番大きいのは、憧れの存在であった甚爾についてだった。呪力を待たずして禪院家を打ち砕き、星奨体任務の際には五条を一度殺し夏油を嬲り、宝火の喉を割いたそうだ。最期は覚醒した五条に敗れたが、死に際であってもその格は落ちなかった。
いま呪術界を牽引しようとする五条悟と夏油傑。その二人が強くなれたのが甚爾のおかげというのが直哉にはたまらなく面白かった。元身内というのがばれ禪院家が騒然としていたとき、直哉だけが報告書を肴にしていた。
それと甚爾の子供。あの甚爾が一般人と子供をを作るというのは少し解釈違いだったが、自分も似たような状況だったし甚爾が認めた女性なので、方向の違う強さを持った人だったのだろう。柄にもなく会ってみたかったと思った。
それにその子供の術式は、過去には五条悟と同じ六眼持ち無下限呪術の使い手と引き分けに持って行った十種影法術だ。ここ最近扇の子供が生まれたが双子だった。その理由が扇の無能ならその子供の術式の良さは、甚爾の才能のおかげだ。
禪院家が認めなかった才能を認めざるを得ないという状況が、直哉の機嫌をさらに良くさせた。
だからこそ、急に呼び戻されても文句の一つも言わなかった。内容はどうせ甚爾の子供についてだろうし、五条と夏油に加えて宝火がいるなら禪院家に引き込むなんて無理だ。そんな無駄なことに時間使うなんてよっぽど暇なんやろなーと思うだけで口にしなかった。
「クソ、あのクズどもがっ」 「お、お姉ちゃん…聞こえちゃうよ。」
聞こえてくるのは噂の扇の子供の声。甚爾ほど呪力やしがらみを捨てられず、自分たちほど才能を得られなかった双子。
可哀そうだなとは思うが、所詮才能の世界。とっとと家を飛び出すなりした方が幸せだろう。まあわざわざしてやる義理もないが。まあ彼女たちが不完全であるほど甚爾が際立つので、個人的には視界の端でずっと不幸を噛みしめて欲しいが。
「覚えてろ…!いつか…あの人みたいになって…ぜっt」
そこから先は言葉にならなかった。直哉が服を掴み池へ投げ飛ばしたからだ。
思えば確定できたわけではなかった。甚爾と同じ呪力を縛る天与呪縛。本家の人間はかつて自分たちを脅かした存在の劣化の誕生に良い憂さ晴らしの相手ができたとさぞ喜び、そして安堵したことだろう。怪物が再び生まれなかったことを。
そう考えるなら話の途中だった憧れの相手は甚爾かもしれない。大の大人に囲まれて暴行を受ける中、なぜ自分だけ執拗に狙われるのか聞き、答えを得ていてもおかしくない。
だが直哉はすぐさま見抜いた。この子供が言っているのは宝火のことだと。女でありながらこの呪術界で一人で立っている彼女のような存在になりたいのだと。
ふざけるな。餓鬼の妄想も大概にしろ。なれるものか。お前のような弱者が。男に屈し現状に甘んじようとする片割れを切り捨てることもできない半端物が。彼女の努力を一番近くで見てきたのは己だ。その過酷さはよく知っている。
決して恵まれた環境ではなかった。しかしその中から限られた機会を掴み、大きな賭けに出て強くなった彼女を知っている。時に弱くなりながらも見分を深め技術を身に着け、ついに大成した彼女を良く知っている。しかも彼女は家族のしがらみでさえ乗り切って見せた。数百を超える親族を裁き両親は彼女自身の手で下し、泉宝火は自由になった。上層部でさえ彼女の枷足りえない。
それに比べてお前はどうだ。片割れを捨てることもできず、修練に時間を費やすこともせず、ただ不平不満を垂らすのみ。それでは何も解決しないことなど分かりきっているのに。お前の不幸はその半端な天与呪縛ではない。それを言い訳にして人生を賭けるつもりでやれない未熟さに気づけないところだ。
禪院甚爾や泉宝火が強いのは生まれ持ったものが大きいからではない。そこで止まらず積み重ね続けたからだ。受動的か能動的かの違いはあるが、少なくとも甚爾が自分を慰めるようなことに時間を使わなかったのは事実だ。そんな彼らに、足踏みしているお前如きが追いすがろうなどとー
「笑わせんなや。」
胸板に足をのせて少しずつ力を入れてく。必死に足にしがみつきどかそうとするが体格がまるで違う。7歳にしては力はあるのだろうがその程度で揺れる直哉ではない。
ちらりと片割れに目を向けてみる。助けに行こうと駆けだしたはいいが相手が禪院家次期当主だと気づいたようだ。少し離れたところで声も出さずに怯えている。
欠片も才能がない。あれでは何者にも慣れない。
「足…どけろ…!」
「お、思ったより根性あるやん。まあ、だからなんやねんって話なんやけど。」
殺すか少し考える。いまこの餓鬼の価値は調度品から湧いてきた虫程度に落ちている。別にいなくなろうが痛くも痒くもないが、趣に欠ける。
「君死ぬで。俺が何もせんでもそのうちな。ちょっと弱すぎやし、反発してくる女中なんて要らんし。」
「ふざけんな…!私は…強くなって…この家の連中全員ぶん殴って…」
「この家の…当主に…! 」
おもわず力が入る。そして、いま己が踏みつけている存在を見てみる。
さっきまでは通り過ぎる人のようにどこかぼんやりとしてしか見ていなかった。だがどうだ。水面に浮かぶ顔を覗くと強い目がこちらを見ていた。そしてその目に映る己の顔が楽しそうに歪んでいるのが見えた。
「君、名前は?」
面白いと思ってしまった。中途半端でも正しく天与呪縛は作用している。でなければ何もできずに溺死していただろう。宿った力の使い方を知らない餓鬼。使い方を教えてやろう。知識をくれてやろう。そうやって力をつけて、最後には自分に挑んできて
「…真希。」
「直哉や。強くなりたいんなら着いてき。」
思いあがるなと粉々に粉砕してやろう。そんなことを思いながら背後に声をかけた。
立ち尽くした片割れは、最早その存在ごと忘れていた。
あのピリピリした初対面から数年、気づけば凄く懐かれました。いやまあ教師役が私と五条と夏油なら当然のチョイスか。私はあそこまでクズじゃない。
とはいっても術式については夏油がとてもいいお手本だ。呪術界のあれこれは御三家の五条が適任だろう。私が教えるのは体術だけ。顔を合わせる時間は夏油が一番長いのに懐かれてないんだからいい加減認めろ。お前らは尊敬するに値しないって思われてるんだって。
信頼されると噂の津美紀ちゃんにも会わせてもらった。目が焼かれるくらい善人だった。高専での恵が気になるようでよく話をした。それで恥ずかしがる恵と怪我を秘密にされたことに腹を立てる津美紀ちゃんをよく見ていた。
私には特別な身内とかはいないが、津美紀ちゃんに寄せる思いは恵の目を見て分かった。だから、ただのアパートの一室に術式を使って核シェルターみたいに改造し、指導にも熱が入った。五条達が入学するまでまともに話す相手なんて直哉しかいなかったのに。私も随分ほだされたもんだ。
だからこそ、弟子とその姉を傷つける様な奴は、
「泉さん、お願いします。津美紀を…助けてください…!」
「ん、任せな。」
ミンチ肉にしてやる。
マキマイって誰かしらからの助力がないとあの家で生きてけないと思うんです
こういうところからも直毘人おじさんの良いところが見えて好き
活躍させなきゃ(使命感)
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