主に風邪とバイトのせいです
今話も途中の脱線が多いですが
途中で思いついちゃったから致し方なし
訪れた現場に広がる領域。見ただけで勝てないと悟る特級呪霊。他人からの言葉でなく肌で感じた死に足がすくむ。立ちすくむ俺と、攫われそうになった釘崎を助けた伏黒は、
「とろい。そんなんで当たるわけないだろ。」
目にもとまらぬ速さで呪霊を切り刻んでいた。
あれ伏黒って一級術師だよな?俺と同じ年だよな?特別動揺するわけもなく対処する同級生に、恵まれた身体能力とか意味なかったなと鼻が折れる。
「お前、領域の展開で精一杯で、術式使えないんだろ。領域も術式で満たされてない。なら、俺の敵じゃない。」
悪あがきのように俺と釘崎を狙った呪力玉は、発射する前にその手ごと握りつぶされた。伏黒の上に覆いかぶさり揺らめく狼の影。あれが伏黒の術式。鋭い爪と、発達した足。特級呪霊は触れることさえできない。
「俺の前で人を殺したな。ならこれがお前の結末だ。」
焦った呪霊の大振りを躱して懐に入り、胸元に一刺し。ずるりと引き抜かれたものが宿儺の指と分かったころには、その血も肉も灰になっていた。
「あんた、そんなに強かったのね…。」
「当たり前だろ。誰に鍛えて貰ったと思ってる。」
釘崎の問いにさらりと答える伏黒。その姿に疲労は感じられず。激闘を演じたと思っているのは俺たちだけで、当の本人は自分の動きに不満があるのか、表情は険しい。
優れた知識、優れた技術。そこには当然伏黒の才能も関係しているのだろうが、俺だって五条先生から直接期待していると言われたのだ。この身に突然のしかかった呪いだって何とかなるかもしれないと奮い立たせる。
帰ったら五条先生に稽古つけてもらおう、なんてさっきまでの絶望を忘れて考えていると、伏黒が急に止まった。その表情も先ほどまでと明らかに違う。焦りと驚きがまじったようなー
「なんで、領域が閉じない…?」
その言葉の意味を理解する前に、体が反射的に振り返っていた。茶色の素肌に長い黒髪。顔に真っ白の雑面をした呪霊。特別何もせず、ただそこに降り立っただけ。ただそれだけで、その姿を見ただけでひどい寒気がした。
さっきの呪霊は俺たちを弄ぶために呪力を絞ったり、逆に多量に噴出させたりしていた。でも目の前のアイツはそんなちゃちな存在じゃない。ただ何もせず、自然体でいるだけでさっきの呪霊以上の威圧感。俺にとっての死。それが形を成して目の前に現れたと思った。
そんなバケモノが俺たちに手を向ける。その手のひらに集まる白いもや。呪力は感じるが、それが一体何なのか判断できない。咄嗟に伏黒に頼ろうとして横を見ると、瞬きもせずに呪霊を見ていた。手は前に出した状態で固まっていて、呪霊の攻撃に瞬時に対応するためだと分かった。
白いもやが凝縮され、ハンドボール程度の大きさになる。そこから漏れ出る黄色の光。耳を澄ませるとバチバチと空気を叩く音が聞こえる。あれは電気。ならさっきのもやは雲か。天候を操る術式。術式が分かれば伏黒が対処できるかも、なんて甘っちょろいことを考えてしまった。
後から知った話だが、呪術には縛りという概念があるそうだ。何かを代償にして能力を上げる行為。今にして考えると、呪霊の行動は縛りが多そうだなと思う。手のひらを対象に向け、雲を生成し圧縮する。事前に固めてそこらにおいておくことは出来ないようだし、天候を操るならどの天候にするのか決めなければならない。
指定→生成→圧縮→選択の4プロセス。守らねばならない順序は隙の多さを意味し、
同時にそれほど大きな呪術を行使するという証明になる。
「
その雲から漏れ出る呪力量に気づくより、伏黒が俺を蹴飛ばす方が速かった。
同時に背を向け手印を結ぶ伏黒。その影が泡立ち伏黒にまとわりついてー
その影の名前を叫ぶ声は、俺たちがいる空間全域を埋め尽くす雷撃でかき消された。
伏黒恵が現在調伏している式神は、玉犬・鵺・大蛇・蝦蟇・満象・脱兎・円鹿の七体。このうち円鹿に、伏黒恵は一番手を焼いていた。円鹿の持つ術式は反転術式。例え伏黒が反転術式を習得していなくとも回復できるし、その身に巡る正の呪力で敵の攻撃を寛恕することができる。
しかし、前者の能力を行使するのは伏黒が怪我をしているとき。そして今や一級術師となった伏黒が怪我をしたなら、その容態は深刻であることが多い。術式持ちの呪霊との戦闘なら、指の一本なぞすぐ取れる。
伏黒の式神は手で作られた影絵を媒介に召喚される。その影絵の複雑さは式神に寄りけりだが、少なくとも円鹿の影絵は複雑寄りだった。すると何が起きるかというと、肝心の怪我をしたタイミングで円鹿が呼び出せないのだ。
それに気づいた伏黒はそれはもう焦った。当然戦闘中のことだったので。欠けた指と出てこない円鹿に苛立ちながら、片手で召喚できる大蛇で敵を拘束し、影に入れておいた呪具でタコ殴りにすることでその場は何とかしのいだ。
高専に戻り治療を受けた後相談のため五条悟と、遊びに来ていた禪院直哉に相談してみた。そして大爆笑された。床でのたうち回る五条悟と口を押さえて必死に笑いを抑えようとする禪院直哉。
暫くして落ち着いた二人が言う。ようやく気付いたのかと。
御三家として育てられ、呪術について深い知識を持つ二人は当然伏黒の術式のリスクに気づいていた。気づいていたからこそ、座学を少なめにして、体術をメインに教えていたのだ。戦闘中に術式が死ぬなんてことが起きないように。
その配慮にようやく気付いた伏黒はその場では怒りを隠した。爪が肉を抉り骨に達しそうになるほど拳を握りしめて。一級術師への昇格試験直後。天才ともてはやされどこか満足している自分がいたことを認識した伏黒はすぐさま行動に移った。
グラウンドの端、人目につかないところで円鹿を呼び出す。治療を受けた後なので何の問題もなく現れる円鹿。式神らしくその目からは感情のようなものは読み取れない。昔は式神達の無機物さを残念と思っていたが、今回はそれがありがたかった。
調伏していない貫牛と虎葬の術式はそれぞれ突進と防御。貫牛にもたらされないのは少し残念だが、その運用方法は一撃離脱になりそうだし、分割数を増やすともたらされる恩恵が薄くなると思いなおす。蝦蟇と脱兎を除いた四体で分割しようと決め、己の影に手を入れる。
取り出すのは呪具の刀。伏黒の行動を読み取ったのか円鹿が目を閉じ首を降ろす。これを行えばもう二度と円鹿は顕現しない。円鹿の行動とその事実が一瞬伏黒の足を止める。
円鹿の首、ちょうどその横に立ち刀を振り上げる。進み続けると決めたのは伏黒自身。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。不平等に善人を助けるため。刀を握る手に力が入る。
刀を振り下ろしたとき、鹿の悲鳴と、何体かの獣の歓喜の声が聞こえた気がした。
「ふむ、これを耐えるか。それに反転術式も使えるとは。」
酷く重たい瞼をこじ開けて周りを見る。咄嗟に二人をかばうように立ったが、空間全体を埋めるように走った電撃全てを受け止めることは出来なかった。伏黒自身も
虎杖は呪肉体ゆえなのか天性のものなのか、気絶しているが目立った外傷はない。釘崎も、大きい電撃が脇腹をかすったようだが咄嗟の呪力強化が間に合ったらしく、同じく気絶しているが呼吸は安定している。
そして伏黒。電気に対して耐性を持つ鵺を纏っていたことで致命傷は避けている。背中におおきな傷があるが円鹿から継承した治癒能力で治りつつある。戦闘を続行するうえで気になるほどの問題ではない。
ただ一つ問題なのはその実力差。最初に遭遇して時点で看破していた。この呪霊は強い。伏黒よりも。最初の時点で逃げなかったのは、祓う算段をつけていたからではない。正しく実力差を理解して、逃げ切る自信がなかったからだ。
だが、釘崎も虎杖も善人に該当する。虎杖は特に何らかの企みに巻き込まれている。この呪霊が表れたのもただの偶然じゃない。呪いに侵される善人を助けるため呪術師になったのだ。ここでの仕事は助けが来るまでの時間稼ぎと相手の正体にたどり着くまでの痕跡を残すこと。死に足をすくませるな。原点を思い出せ。
「不意打ちで一発入れといて、倒せなかった奴が偉そうに語んなよ。」
これが精一杯。こんなもの虚言だとすぐばれるだろうから、無視できないよう、激昂してくれるよう急所を狙う。ここらで一つ笑うのがミソ。お手本はもう何度も見てきたあの人。教職とは思えないほど人の神経を逆なでする、自分の軸を持った最強の一角。
「案外小物なんだな。俺でも倒せそうでよかったよ。」
途端空間が歪むほどの呪力を放出する呪霊。何か大声で叫んでいるが耳に入れない。怒りに飲まれて呪力操作もお粗末だ。このチャンスを生かさない手はない。これから来るであろう立ち眩みのために膝をつき、影絵を作る。
「
玉犬や鵺ほどの変化は見られず、手の甲に
いつまでだったかは忘れたが、歴代術師と同様の手を奥の手としていた。自分の死は確定するが相打ちに持っていく、自滅覚悟の布留部の言。でもある時からその考えは変わっていった。呪術師としての在り方が変わったのもある。不平等に助けると決めたのだから、その任を最後まで放り投げないと考えていたのは円鹿の一件の時と同じだ。
そんなのよりも、もっとシンプルに。現在伏黒が師と慕っている人物たち。泉宝火・禪院直哉・夏油傑・五条悟。鍛え力をつけるたびに浮き彫りになっていく彼らとの差。
幼い伏黒恵は思った。え、勝てなくね?
単純に、十種影法術の奥の手を見せても面白がるだけで、倒しきれるビジョンが見えなかったのだ。どれほど強くても所詮は式神。人のまがい物はその膨大な鍛錬と思考まで模倣できない。ちょっと遊んで種が割れたらあっさり粉砕される未来を想像してしまった。
それからは頭を悩ます日々だった。過去六眼持ちの無下限呪術使いと相打ちまで持って行った最強の式神を超える切り札なんてそう簡単に思いつくわけがない。試行錯誤しながら、急ごしらえだが自作の拡張術式と絡めた技を生み出した。
「「「「「「「「「「満象」」」」」」」」」」
術式のルールの上を反復横跳びするような暴挙だが、伏黒のセンスと呪力を代償にしてぎりぎり形を保つ。しかし伏黒本人は過剰な術式の運用と呪力の大量消費に身動きが取れないほど憔悴し、召喚される式神の強度も格段に落ちる。
しかし、どれほど弱体化しようとも呼び出された計63体の満象によって放たれる水流は膨大であり、その勢いは怒りに飲まれた特級呪霊ではなすすべもない。
一挙に迫りくる水に
その時は素直に受け取ったが、後から特級に相当する実力を持つ人間によって作られた呪具の価値を考えてしまって恐る恐る自分の影に入れた逸品。これもまた複製に過ぎないが、その程度で落ちる格ではない。何本に増やされようとも、特級呪霊の肉に容易に食い込むだろう。
もう一秒で届く、というときに呪霊の雑面が水流によってめくりあがる。そこにあったのは、無。人の感情から生まれたのに、顔には凹凸がなく、人が持つべき器官もない。口はあるが、その歯は鮫のように鋭利で、舌は二枚。そしてその舌の上で転がる、ピンポン玉程の白い球。
その白い球から青色の光が漏れ出ているのを見て、伏黒は己の敗北を悟る。せめて生き残れるよう、最低でも背後の虎杖と釘崎を守れるよう、複製体が踏ん張れるよう己の影に足を入れ、呪霊との直線状に立つ。ハンドボールほどの大きさであの威力。ならばさらに圧縮すれば、その被害は甚大なものになる。
「
変化は一瞬だった。63枚の壁を突破して刺さる冷気。骨の奥から凍り付いたように感じる。先ほどの雷撃とは打って変わって、全ての物体が振動をやめたようだ。呼吸をしようと口を開けば、冷気が肺を凍てつかせる。完全に詰み。
「それで、誰が小物だって?」
さっきまでの無理な術式の運用でまともに呪力も回せない。自身の決定的な死が目の前に来て…特別な感情は湧かなかった。ただ、虎杖と釘崎が助かればいいなとか、金は残したが津美紀はきっと使わないだろうなとかその程度の物だった。後悔はあるが、人と呪霊との呪いあいの連鎖は千年前から存在する。自分の番が来たなら、最後まで自分の原点を貫くのみ。
そうして最後の悪あがきをしようとして、さっきまでの当ての無い思考の続きでふと思った。任務の対象だった、あの未熟な特級呪霊。確かに胸を突いて祓ったが、その時取ったはずの物。特級呪物、両面宿儺の指は何処にしまったのか。
「ケヒッ。いいなぁ伏黒恵。」
未だ領域は開かず、呪いは巡るのみ
円鹿要ります?初登場からずっと思ってたんですけど
呪力効率がいいとかの利点があっても回復中なんて絶好の的じゃね
真依について
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