来週中には解決するのでペースを上げて今年中には完結したい
自分を死刑にしろという声が強まったという話を聞いても、己に降りかかる「死」に対しての実感が強まることはなかった。特級呪霊の攻撃によって意識を失いながら、伏黒を助けるため指を飲み込み体を明け渡した判断に、いまさら後悔はない。
映画の中の主人公のように誰かを助け自死を選んだことに、多少の満足感さえ感じていた。呪いを託す選択、伏黒ならばたやすく背負って立つだろうと思ったそれは、呪いの王に自由を与える最悪の選択だったと自分だけが気づけなかった。
だから、こうやって打ちのめされ地に付している。
「君が死んでいる間、君はきっと宿儺と縛りを結んだのだろう。その報奨として、君は記憶を忘れ生き返った。現状を鑑みるとそんな簡単に生き返ったなんて言えないけどね。」
目を覚ました直後にあった、頭をわしづかみ五条先生の先輩と名乗ったその人によって、俺は全身の骨を砕かれ痛みに悶絶している。痛みに慣れないうちに白衣を着た女性に体を直され、また砕かれる。その繰り返し。
「はっきり言おうか、虎杖悠仁くん。私個人としては君の処刑に賛成だ。君が呪いに出会ってからこれまでにその脅威を知る機会はいくらでもあったはずだ。その上での選択があれなら、君は今ここで死んだほうが幸せだ。」
祖父の言葉を頭の中で反芻して立ち上がる。ここで死ぬわけにはいかないと改めて思うも、その動きは先ほどよりも緩慢だ。知識の無さが、彼女の言葉の意味を理解できないことが、取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという気を起こさせる。
「まあ私は君の処遇を決める立場にないから見逃すけどね、努々覚えておくことだ。」
うっす、と覇気のない合いの手を返す。理解しようと努めても、彼女の目を見ると寒気で思考がまとまらない。あれは人を見る目なんかじゃない。理解し合えない、敵を見る目。
今俺は、目の前の人の「目」から「死」を理解している。
「知識で無理なら、次は実感だよ。」
飲み込めず持ち帰った言葉を理解するのは、まだ先の話。
呪いとはどうやっても相容れないのだと、友人の死と嘲笑の中で理解するまで、あとー
「殺してあげたら?」
「出会うなりソレ?」
先輩後輩の会話のの第一声にしては随分穏やかじゃないな。まあ先輩の言いたいこともわかるけどね。運転手が伊地知でよかったな。他のやつなら騒いでめんどくさそうだ。
「何?先輩もしかしてビビっちゃった?半分呪霊みたいになっときながら呪いの王は怖がんの?」
「雑な煽り止めなよ。呪いの王とは、まあ戦って見たくはあるよ。かの呪い最盛期の伝説。体験してみたくはある。」
「でもなー、あの子クサいし。何より耐えられないでしょ。」
そうなんだよねー、と返す。
両面宿儺の指があったところに偶然適合者がいたなんておとぎ話誰も信じてない。恵の姉の件、最近呪詛師の捕縛数が少ないこと、呪霊の結託。全部つながっていると考えるべきだろう。
一級術師の恵の仕事に悠仁と野薔薇を同伴させたこともおかしい。上層部、保守派にも手がかかっているとみるべきだ。
敵の目的が両面宿儺の復活なのはほぼ確定。悠仁が完全に抑え込めていた以上その方法はないだろうと思っていたが、今回の一件で一気に現実味が増した。このまま干渉されて悠仁と宿儺の間に宿儺有利の縛りが増えていけば、ありえない話じゃない。
「一番の問題は、おぜん立てされた地獄を突破する力を悠仁が持ってないことなんだよね。」
「今回の一件みたいに、その際には私たちは干渉できないところに飛ばされる。まあ無視してもいいけど、そうなると本命の時に影響が出るかもしれない。」
手っ取り早く強くするためには現状高専が保管している指を飲ませればいい。でも当然黒幕は邪魔してくるだろう。呪術師としての強さについてはまだ心が問題。
いやーわかんないな。京都についたら直哉と傑にも聞かないとなー。なんて思ってたらふとアイデアが浮かぶ。ちょっと違うけど傑の真似をすればいい。流石傑、呪いの最先端を行く男。これならごまかせるかも。とりあえず皆の協力がいるけど。
「よし決めた。作戦名は宿儺ミキサーか、宿儺温泉か。先輩良いのある?」
「…とりあえずろくでもないのは分かったから。ちゃんと説明して。」
つまりー、と言いかけたところで同時に気づく。森の奥からこちらに突き刺さる呪力と殺意。よくわからないタイミングのお客さんだ。僕と先輩がいるのに襲ってくるとか、どれだけ自信過剰なんだよ。
「仕方ないから私が相手するよ。合流したらちゃんと説明してよ。」
「もち。先輩にも協力してもらうからね。あとできれば祓い切らずに持ってきて。」
また面倒臭いことを、と言いながら走る車から飛び出していく先輩。伊地知も慣れたもので、お気をつけてなんて言ってる。僕たちの教育の賜物だね。
さっき考えたことを実践すれば、多分悠仁は強くなれる。必要なのは勇気だけ。後は呪いの王が処理してくれる、とってもピースフルな作戦。あーでも上手くいきすぎたら先輩みたいになっちゃうかも。それは嫌がるかもな。
「まあその時は、殺してあげようか。」
幸せな記憶のままの方がいいでしょ、なんてのんきに考えながら出発前に買い込んだスイーツの袋を開けた。
「お帰り。随分なイメチェンだね鐘驪。」
笑いかけながらその外傷を見る。全身に走る切り傷。未だ回復せず残る傷跡は、そのすべてが大きさも深さも違うものだ。本来の両面宿儺ならば雑に斬撃を散りばめても、もっと深く、そしてもっと効果的な場所を狙っただろう。
全盛の力を取り戻せてないだけではない、そこまでやる相手と認識されていなかった。
「
「そうだよ!まじであぶなかったんだからね!」
そう言って泡立つ、鐘驪に付着した光を飲み込む黒い何か。影のようなそれは自分の存在を主張するように、子供のように波打っていた。
「…一つ聞かせろ。我を使わせたのはこれが狙いか。」
「そうだよ?確かに君たちは強いけど、五条悟や両面宿儺には及ばない。それを自覚して、今後の計画を円滑に進めようってね。」
ハッキリと言ったのが堪えた様でギリッと歯ぎしりの音がする。だが覆ることのない事実だ。もう百年待った方が確実に良いと言えるほどの戦力が今の呪術界には揃っている。
だからこそ面白いと思ったのが自分で、そして手を組むと決めた以上勝手な行動は困るのだ。鐘驪一人で埋まる実力差ではないが、鐘驪が欠けた時点で詰むような状況なのだから。
「今は受け止めよう。しかし見ていろ…!次こそ!空の使者たる我が頂点に立つのだ!」
「俺を無視して熱くなるなよ!呪いなんだから好きに呪えばいいのさ!」
そら、自我のある呪霊ときたらすぐこれだ。傲慢さを振り回して、自身が人より上の存在だと信じて疑わない。人の恐怖心から生まれたせいか、甘っちょろい考えが標準搭載だ。
確かに彼らの実力はなかなかだ。自然や概念から生まれた呪霊はその定義のあいまいさゆえに多くの呪いを身に宿しやすい。彼らが揃って呪術界に攻め入れば、半数程度の呪術師なら殺せるだろう。だが、そこ止まりだ。
あの五条悟が、夏油傑が、禪院直哉が、泉宝火が、いまさら災害なんぞを恐れるわけがない。そしてその強大さを知っている彼らの周りの術師も、あいつらよりましと向かってくるだろう。あっさり払われて終わり。私はまた待ちぼうけを食らってしまう。流石にまた長い待ちのターンは遠慮したい。
というかそもそも、
「-。」
そうこぼして、出来の悪い子供を見守るような心持で去っていく彼らを見送った。
「ミキサーと温泉。駄目だ。共通点が全く分からない。」
腹から格納呪霊を取り出しながら頭を悩ませるが、さっきの五条の言っていたことが分からない。まああいつのことだから、ガキの悪だくみのようなものなんだろうけど。
「っと、やっと来たか。遅いよ。」
空から降ってきた呪霊をステップでかわし、蹴飛ばして距離を取らせる。特級呪霊なのは確かだがそんなに上澄みってわけでもない。呪具はいらなかったかも。
「やってくれたな偽物如きが。」
恨み節と共に呪霊の呪力が回り始める。こちらに手をかざした瞬間、横の壁面には餌出てくる突起物。その先から光が漏れだし、それがを術式でうみだした火山の噴火口と気づいたときには、
「いやだから、遅いって。」
私はその先を握りつぶしていた。掴む手に熱は感じるがあいにく私は純粋な人間ではないので。というかこの程度なら五条達も単純な呪力強化で凌げるレベルだ。最初の印象通り問題なし。ただあちこちに火をまかれると後処理が面倒だし呪具使って早めに終わらせよう。
あ、五条が祓っちゃ駄目って言ってたな。面倒臭いなー、卵割るのとか苦手なんだけど。
「襲ってきたんだから名乗りなよ。八歳の時に私を犯そうとした叔父さんだってちゃんと名乗ってたよ。」
「偽物なんぞに教える名なぞない。本物の人間たる我らの宿願のため、疾く消え去るが良い。」
偽物?人間っていう生物に偽物も本物もないでしょ。呪霊の言いたいことはいつも分かんないな。人間…偽物ね。如きがとか言ってたし、見下してる人間が繫栄してるのが許せないとかかな。つまり人間にとって代わろうとしてる訳か。
ありきたりだな。つまらない戦いになりそう。
「いやいや。そういうのは願いじゃなくて夢でしょ。人の感情ありきで存在保ってる奴らが何言ってるんだか。ていうかそもそもさ、」
「-。」
そう言って笑ってあげたら間欠泉みたく炎が吹いた。突き刺さる殺意と熱気を流しながら、その熱源を断つために地面を砕く勢いで踏み込んだ。
この作品の五条は最高の友人に囲まれたことで、自分の生徒にも青春を味わってほしいと強く思っている反面、生徒に対しての執着が薄いためこんな発言ができたりもする。
真依について
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