自分の環境短パンとサンダル禁止なんでマジできついです
皆さんもお気を付けください
今回長めなんで、涼しい所で読んでね
下品な笑い声が暗い校舎に響いている。己の口角も上がっていることに気づく。
なんてことはない。ただ、虎杖悠仁というあまりに愚かな存在に、思わず嘲笑が漏れただけ。
両親は居なかったが、友人、環境に恵まれた。唯一の家族の死を静かに見送ることができた。あの夜の事も、己が選んだ結果だと納得している。ここまで恵まれた自分が意地汚く生きていて、正反対のような友人が弄ばれ、目の前で命を散らした。何もできなかった自分に何故と溢して。選んでいなかった。覚悟さえ、満足にできていなかった。なのに人として死ねなかった友人を他所に、呪いを抱えながら、人として立っている自分が、酷く愚かしくて、可笑しかった。
人としての最後の権利さえ踏み躙られた友人が倒れ伏して、己が五体満足で立っているなんて、
それは、なんて呪いだろうか
「お、やる気満々だねー。いいじゃん。そうでないと嬲り甲斐がボハッ」
此方を見て笑っていた真人の体が吹き飛び、窓ガラスと壁をぶち破って外へ落ちていく。自分も真人も反応できない速度で近づき殴り飛ばせる人、自分を助けてくれる人など一人しか思いつかない。
「すみません、遅れました。」
「ナナミン!」
一級術師七海健人、現着
「で、私たちは何をすればいいんだい?」
自身の生徒を殺すなんて教育者として失格の言葉を平気で吐く五条にまたコイツは…と非難するような目を向ける夏油。自身の発言はすでに棚の上である。まだあったことのない虎杖悠仁は、夏油傑にとってまだ拾う側ではなく捨てる側。なんなら五条がかばわなければ自分で始末し、後処理を上層部に丸投げするつもりだった。
「よさそうな呪霊がいたら生きたまま持ってきてほしいんだよね。取り込んでも意味がなくなっただけで降伏自体はできるんでしょ?帳で覆えば高専の結界にも引っかからないし。
直哉もそんな感じ。核だけ残して持ってきて。直哉の足ならヨユーでしょ。」
「人の術式を宅急便扱いすんなや。」
直哉のスタンスもシンプル、自身の益になるかどうか。呪術界のなかでも選りすぐりのゴミ溜めで育った彼に配慮を願う方がおかしい。泉宝火との出会いによって多少は改善されたが、ゴミに消臭剤を振りかけてもゴミはゴミである。現在自身に影響のない実家の切り捨て方を模索している彼は、爆弾に対する慈悲など持ち合わせていない。
「手っ取り早く強くしたいなら人手が欲しいね。先輩と、他に誰か声をかけたのかい?」
「七海には来る途中で話したよ。いま厄介な特級とやりあってるらしいから、ちょうどいいでしょ。」
「へえ。七海は嫌がりそうだけどね、悟の作戦。」
「七海も俺らと同じこと考えとったんやろ。あの子宝火ちゃんの影響もろにうけとるからな。」
高専時代、七海は泉宝火になついた。選択肢が悪かったとも言える。なにせ先輩が天才のクソガキ、吹っ切れた無敵の人、火力馬鹿、呪術界の負の面である。まだ取り繕える宝火の方が良い、というかマシである。
宝火が努力型というのも相性が良かった。術式が発現してから積み上げてきた夥しい数のトライアンドエラーは、非術師家系出身の七海が足踏みすることを防ぎ、戦闘スタイルも近かったため、直哉を除けば七海が一番組手の回数が多かった。宝火もそんな後輩を可愛がり、卒業式には自身の髪を混ぜて作成した鉈型の一級呪具を送っている。
なお、本人は重い…とこぼしていた。
「なんでも魂の形?みたいなのが認識できないと攻撃は通じないんだって。七海相性悪そー。」
「ふむ…、悟のような特殊な目が必要ということか?私でも駄目か。」
「死ぬまで泥臭い削り合いやらんといかんってことやろ?貧乏くじやな。」
「可哀そうに、その呪霊。」
ここにいる三人とも、七海の勝利をこれっぽっちも疑っていない。呪術界の頂点にしごかれ続かれたという価値は大きいのだ。行く先が術師であれ補助監督であれ、その指導を受けた物の実力を軽んずるやつはにわかというのが呪術界の通説だ。
総本部の影響もあるが、泉宝火と禪院直哉が一級術師であるということは、呪術界全体に大きな影響を与えている。特に任務失敗等の失態がなかったのに等級を下げられた事例が起きるほどだ。そして、一級術師のハイブランド化が起こるなか、五条ら革新派に属していながら一級術師になり上がったという実績が七海健人という存在を保証している。
「呪力が尽きるまで一方的な蹂躙。何とか生き残ってもトラウマもんやな。」
「噂の器もいるけど大丈夫とは思ってるんだけど。七海はねぇ…加減が下手だから。」
しかし残念なことに師匠の良くないところも継承してしまっている。呪術師になったばかりのころ、大事なスタートダッシュの時期にひたすら刷り込まれた七海は、見事に火力主義になった。余剰火力?余りは心の余裕につながるだろ、を地で行くようになってしまった。
ほどほどなんて言わなくなった七海は、宝火に続いて任務で周りの環境破壊する人ランキング2位である。呪霊を攻撃した余波で周りの木々や建物をなぎ倒し、マジかお前というドン引きの顔をさらりと受け流す立派な問題児。本人が聞いたら嫌な顔をするだろうが、やはり五条達と同類というのが周りの認識だった。
「せっかくなら賭けよっか。僕はおっきなクレーター作って帰ってくるに一票。」
「甘いわ。建物一棟くらい七海なら余裕やろ。」
「相手は一匹だよ?余波で付近の窓ガラスが数十枚割れて終わりさ。」
各地で出現する特級呪霊。これまで宝火が追ってきた伏黒津美紀をはじめとする案件。明らかに裏で繋がっている。それを感じながら、その上で踏み潰せばいいと三人は笑った。
「やあ、このあいだぶり。」
開けた校舎の壁から躊躇なく飛び降りる七海。ズドンと重い音が鳴るが砂煙は立たない。本人は制御しているつもりだが、それでもわずかに漏れ出る呪力の圧が抑え込んで離さない。一度目に戦ったときのような様子見ではない。ここで殺すという明確な意思を受け取った真人は、軽薄な笑みを浮かべながらも目を離さない。
「前は引きましたが今回は別です。これ以上の被害は見過ごせません。ここで祓います。」
「うーん。今は君と遊ぶ気分じゃないんだけどな。」
遅れて校舎から出てきた虎杖に目を向ける。怒っていますといった表情だがよほどにあの人間が死んだことが効いたらしい。魂がかなり摩耗している。さっきは拒絶されたが、確実に体の主導権を奪える機会が巡ってきたら宿儺に拒む理由はない。だから優先すべきはあいつだ。
修復した腹に手を突き立てる。肉体が破損し呪力は損耗するが、吐き出すという動作はこの術師を前では隙になる。変形できないほどに肉体を壊され、そこから虎杖との連携に持ち込まれたら面倒なんてもんじゃない。胃袋ごと引きずり出し術式を発動。破裂した胃袋の中から改造人間が動き出す。総数二十七。
「あのガキを殺せ。」
此方へ駆け出していた七三に流れ作業で捌かれる。持っていた呪具は使わない。手刀で切り裂き、拳で貫き、それすら面倒になったのか頭を掴んで握りつぶす。生き残ったのは五体のみ。それもわざと逃がしたような。元人間という事実にすくみ殴り飛ばされる虎杖を認識しつつも、助けようとする意志は見えない。
「助けなくていいの?あんなガキでも、一応は仲間でしょ?」
「必要ありません。彼がこの先術師として生きていくなら、あれは越えなければならないものです。」
「スパルタだね。泣きじゃくって死ぬかもよ?」
全身に呪力を満たしていく。術式は不明だが、とにかく攻撃力の高いこいつの一撃を食らってしまえばサンドバッグ確定だ。吹き飛ぶ肉体の規模が大きすぎてカウンターもできない。
ひたすらいなし、隙を作る。肉弾戦はあちらの土俵だが、やるしかない。
「問題ありません。」
「仮にそうなっても、私が全て祓います。」
腕を伸ばし先をモーニングスターに変形させて振り下ろす。当たったかどうかなど確認せず即座に自切し次に備える。直後に自切した腕が破裂し七三術師だ飛び出してくる。繰り出された拳を盾上に広げ硬化させた腕で受け止める。
「おっも!」
なんとか踏ん張りながら足から延ばした棘で地中から奇襲。躱しながら流し蹴りで砕かれる。足の自切が間に合わずまた距離を詰められる。迎撃か防御か、後者を選択。体を人間の子供サイズに縮め圧縮、攻撃を受け切り引き飛ばされて距離を取る。
今迎撃を選択していたら終わっていた。ダメージは与えられたかもしれない。だがそれで止まるような術師ではないことは事前に分かっていたはずだ。こいつは目がつぶれようが腕がもがれようが前に進んでくると。死と隣り合わせの状況で、ようやく知識ではなく経験として理解する。
今の自分では殺すどころか逆に祓われる。協力者の言葉をようやく飲み込めた。湧いてくる感情は恐怖と、怒りと、高揚。追い込まれていくほど、自分の可能性がむき出しになっていく気がする。
再び七三術師が詰めてくる。今度は一撃で祓うようなごり押しではなく、コンパクトに数を打ち込んでくるスタイル。大きなダメージではないが、うまく術式の起点や目をつぶされ動きが制限される。
背中から腕を生やし十対二の殴り合いをするがこれでも互角。術式を満たした手で殴れば終わりだが、相手のラッシュに押され、対応に追われて後手に回ってしまいそんなことをする余裕がない。
これでも。これでもか。
「ハハッ!」
殴られながらも思わず笑みがこぼれる。これほどの強者がいるのか。これ以上のバケモノがいるのか。こいつを殺せば、そいつらを殺せたら、俺もきっと。この先の自分の輝かしい未来に心が弾む。バケモノどもをいたぶって見下す未来の自分にゾクゾクする。
そんなバラ色の夢を想像していたらノイズが入る。思っていたより早い。
「興覚めだな。お前がいていい舞台じゃないだろ。」
目を赤くした虎杖が帰ってくる。さっきは天敵だのなんだの思っていたが、お構いなしに殴ってくるとバケモノと比べたら数段下だ。七三も下がってしまった。仕切り直しなど面倒だ。サクッと虎杖を殺してやり直す。宿儺など今はどうでもいい。
「いいから死んでろよ。おまえなんtー」
右腕を突き出して生まれた陰にすでにいた。拳を引き構える姿で。一度戦った時も見た隙を埋める独自の歩法。急に映った死神の姿に体が硬直するが、術式の発動は止められない。右手に上ってくる呪力を視認しているのか、手のひらに集まる呪力と突き出した拳がぶつかる。
虎杖悠仁が泉宝火と組手をした際、宝火はただ虎杖を追い込んだだけではなく己の技を教えていた。呪力とは人の悪感情が現実に影響を及ぼすまで煮詰められたもの。他人の呪力など毒でしかなく、仮にぶつかった際は反発し弾き合うのだと。術式や大技の使用時に集まる呪力に故意に呪力を当て、迸る自身の呪力で肉体を中から破壊する。名を、
「
呪力が逆流し体内で暴れまわる。その流れは腕だけで収まらず、上半身に多数の穴を開けてようやく収まる。真人もいくら七海からの攻撃ではダメージにならないとはいえ初めての感覚と現状に混乱し動きが遅れる。既に距離を詰めている七海の追撃を捌く余裕などなく、虎杖の接近も許してしまう。
こうなってしまうと真人に打つ手はない。真人の反撃の芽をつぶしつつ虎杖の攻撃につなげるよう立ち回る七海とただ一心不乱に拳を振るう虎杖。負担すべてが七海に降りかかっているがそれを感じさせない、淀みのない連携。真人の死は確定している、はずだった。その口内に掌印を確認するまで。
虎杖はまだ五条に領域展開に教えられていない。何か大技を発動させようとしているのは感じれるが、七海との連携で阻害可能だと考え前に踏み込む。その行動は正しい。虎杖自身は理解していないが、一度宿儺の怒りを買った真人が虎杖を領域に招けば、宿儺の裁きを受けることは確実だろう。七海に術式を使えず、真人の領域は無駄骨となる。
そんな虎杖の行動を止めたのは、それによって救われる七海自身。肩を掴まれ、力任せに後ろへ投げ出される。真人はその行動にニタリと笑みを浮かべる。七海の厳しいながらも虎杖を導こうとする行動指針では、虎杖を危険な領域から逃がすだろうという考えからの賭け。そしてその賭けに真人は勝った。
黒い手が七海と真人を包み領域の外殻を形成する。あとはその内部に心象風景を投影するだけ。初お披露目の真人の領域、自閉円頓裹。対策として最も有効な手段である領域の力勝負に持ち込まないことから七海が領域を使えないと判断。いくら別の対策があったとしても領域には及ばない。後はじっくり嬲り殺すだけ。真人は勝ちを確信した。
だが真人は気づいていなかった。そして気づけなかった。七海健人が、『あの』、泉宝火からもらった呪具を使っていない理由を。見捨てる発言をしたはずの七海が虎杖をかばうような行動をした理由を。
ーただ、不必要になっただけ。殴った方が強いから。
ーただ、邪魔だっただけ。巻きこんでしまうから。
術式を浸透させるため呪力が濃い領域内で七海が飛ぶ。縦横斜め、全ての座標軸で七対三に区分される一点へ。原理は炎崩しと同じ。呪力と呪力がぶつかり合えば、反発し弾き合う。それは領域でも変わらない。体に打ち込むよりはるかに呪力が多い領域内では、必要とする呪力は多くなるが、その分威力は大きくなる。領域の対策は一つではない。その破壊も、強者にのみ許された手段の一つである。
「十劃呪法、『
七海が叩いた空間から発生する衝撃波と、雷に似た呪力の奔流。雷を束ねて一か所に落としたと思われるほどの轟音と勢いは勝ちを確信していた真人の肉体を吹き飛ばし、領域を吹き飛ばして帳内を襲う。場所がよかったのか、奇跡的に生徒たちが眠っている体育館の方に余波は向かわなかったが、その代わりに校舎がひどい有様になった。まともに残っているところを探す方が難しい。
先ほどまで怒りに飲まれていたはずの虎杖と、多分負けると思うから回収お願いと頼まれた、影の中に潜む
「「ええ…マジ?」」
七海の新技についてはいろいろ考えてたんですが、「訌」が内輪もめを意味すると知ってこの名前になりました
ちょっと安直すぎたかも?
ちなみに任務で周りの環境破壊する人ランキング3位は直哉です。理由はお察し