祈りの宝玉   作:こてこて

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プロローグ


未だにあの日のことは夢に見る。

4年前のあの日に見た光景、嗅いだ匂い。


青々としていた樹木達が赤く燃え上がり音を立て崩れ落ちていくになっていく。
何百年もの歴史がある建造物は見る影もなく焼け焦げていた。

蒼天だった空も厚く黒い雲に染まり、赤黒く大きな翼を広げ悠々と羽ばたく、破壊の神が焼け焦げた街を見下ろしていた。

私がこの街に来たのは、アイツを止めるためだった。
でも、間に合わなかった……もう遅かったのだ。


破壊の神をただ呆然と眺める私に近づく足音が聞こえ、顔を向ける。

「…なんで」

どんな面してここに来たんだよ。
そんな言葉を発するほどの気力は無かった。
破壊の神を目覚めさせたアイツが私の目の前に現れたのだ。

「…俺はもう、お前達と関わる気は無い
お前もさっさとここから失せろ」

そう言って私に背を向け灰の中へと消えていくそんな姿に声をかけることは無かった。


あいつを復活させるきっかけを作ったのは私。
信じてアイツに伝えてしまったのは私。
全ては…私が悪いのだ………。


脳裏に、アイツが背を向け消えていく姿がこびりついて離れない……………。


自己満足の旅

 

 

鐘が鳴り響き、木々の間をぬってマメパト達が羽ばたいていく。

人々が集まっている場所にはフラべべ達が花弁を降らしながら飛びまわる。

 

そんな姿を見たあと、再び目をつぶり手を合わせ

暗闇の中見えもしない人々に向けて祈りを捧げる。

『静かに眠れますように』

望んで眠りたかった訳じゃないのに……。

 

ここは、オルトロスシティ。

何万年という時を生き続ける大樹に囲まれた街。

生命と死が交わり合う場所、そう言われ続けていた。

 

4年前の今日、この街に『破壊の神』と呼ばれしポケモン、イベルタルが降臨した。

イベルタルはこの街を焼け野原にし、多くの人とポケモンの命を吸い取った後、再び眠りについたのだ。

ここレクエルド地方の歴史の中でも過去最悪の事件となった。

 

4年後の今日、オルトロスシティでは式典が行われている。

私は毎年、止めれなかった事への後悔を拭うため、罪滅ぼしとして参加している。

参加したからと言って罪が消える訳では無いことは最初から承知している、だからどうか怒らないで欲しい。

ずっと私の自己満足なのだ…。

 

「こんな感じなんだね、式典って」

 

その声に閉じていた目を開ける。

毎年ぼっちで訪れていたこの式典、今年は寂しい思いをしなくて済んだのだ。

焦げ茶色の髪色をし、紺色の瞳を覆う真面目そうな眼鏡をかける懐かしい顔。

4年前、共に旅をした”ルテウス”が今年は付き添ってくれた。

 

「黙祷もしたし、もう終わるよ」

「そっか、なんだか寂しい気持ちになるね」

「…………うん」

 

この式典に参加しているのは、立場上義務で参加しているお偉いさんか、家族を失った遺族達だ。

場の空気が重く悲しみに満ちている、そんな場所で楽しい気分になんてなるわけが無い。

そんな空気に心が押し潰されかけた時、今年の式典は終わった。

 

 

「付き添ってくれてありがとうね、何か奢るよ」

「奢りなんていいよ、いつか行かなきゃとは思ってたから」

「戻ってきたお祝いもしたいから気にしないで」

 

ルテウスは先日までガラル地方に行っていた。

連絡もそこまでしていなかったので、帰ってきたと連絡を受けた時はとても嬉しかったのだ。

美味しいご飯ぐらい奢らせて欲しい。

 

「じゃあお言葉に甘えようかな」

「それでいいんだよ、この街で見つけた美味しいお店紹介するね」

 

オルトロスシティは4年前の事件以降、復興作業が進められている。

大樹は草ポケモンやフェエリーポケモン達の力のおかげで面影を取り戻しつつある。

人々の心の傷はまだ残っているが、前に進もうと動き出す者も多かった。

私が見つけたこのレストランも、復興への希望として生まれたお店らしい。

 

「うん、美味しい」

「それは良かった」

 

当時同じ目的のために旅をし何ヶ月も共に過ごした筈なのに、4年ぶりの再会となれば久しく感じる。

旅のメンバーはルテウスの他にもう一人いる、だが、彼との連絡は完全に途絶えていて、共通の友人に聞いても分からず、消息不明となってしまった。

彼もどこかで生きていてくれるといいな……。

 

この4年間何があったか、今は何をしているのか。

この空白期間を埋めるかのように私達はずっと話し続けた。

 

 

気づけば日が落ちかけ始め空は赤く染まり始めていた。

店内から窓の外を見なければ気づくこと無く夜まで話し込んでいただろう。

会計を済まし、名残惜しいが解散することとなった。

 

「しばらくはこっちにいるから、いつでも連絡して」

「分かった、またご飯のお誘いするね」

「うん、その時は割り勘だからね」

「はいはい、気をつけてね」

「メルもね」

 

そう微笑み、ルテウスは空飛ぶタクシーに乗り帰って行った。

久々にこんな人と話し込んだ気がする。

日頃から仕事上様々な人と話す機会は多いし、心を許している人物だっている。

それでも、当時を知る人と話すのは本当に久しぶりだった。

 

今日は、いい夢が見れそうだ…。

 

私も空飛ぶタクシーを呼び、大樹に見送られながら家へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

式典から数日後、他のジムで扱かれているせいか中々挑戦者が訪れないスタジアムを掃除し、併設されている保護施設へと向かう。

 

こんな身なりだが、一応私はレクエルド地方7つ目のジムリーダーとして6年ほど努めさせてもらっている。

他のジムリーダーが強すぎるのか、中々挑戦者が訪れず、最後にバトルをしたのも相当前だ。

チャンピオンへの挑戦資格を得た者なんてここ数年居ないのではないだろうか。

 

そんな状態なのでとても退屈だ。

ここアエラキシティのスタジアムには水ポケモンの保護施設が併設されていて、私はそこの管理もしている。

バトルができず暇な時はここでポケモン達の面倒を見ながら過ごすのが私の日課になっている。

 

ガラスのドーム状で作られた庭園に入れば、人工的に作られた川からポケモン達が顔を出しこちらを見る。

林からもポケモン達の声が聞こえる。

 

「みんなおはよう、朝ごはんにしようか」

 

定位置にポケモンフーズを置いて回っていると、気づけば足元にポケモン達が集まり、着いて回っていた。

 

「早く食べないと、他の子に全部食べられちゃうよ」

 

そう言われ渋々戻って行くポケモン達、そんな中私をじっと見つめ動かない子が1匹。

大きな耳と目が特徴的な、どくざるポケモンのタギングルだ。

 

この子はパルデア地方に行った際、怪我をしている所を保護し、そのまま保護施設に連れてきた子なのだが

私にだいぶ懐いているようで、ご飯の時間の度にくっついてくる。

それを嫌がる気もないので気にせず肩や頭に乗せながら1日過ごしている。

 

「今日も一緒に来るの?」

〈タギ!〉

 

当たり前だ。というかのように頷き私の足をよじ登って肩に乗っかる。

 

「落ちないでね」

 

タギングルを肩に乗せながら朝ごはんの用意をして行った。

 

 

掃除も終わり、林エリアから海エリアへと移動する。この保護施設のデザインを考えたのは私なのだが、ジムリーダーの特権を乱用しすぎてとても広くなってしまったのだ。

それでポケモン達が過ごしやすいなら文句なんて言わせないけれども。

 

海エリアはスタジアムのそばにある海から海水を引っ張ってきた特大プールと砂浜がある。

プールの深さも6m程ある。

 

このプールの掃除はスタジアムのスタッフさんが協力して済ませてくれていた。

とても大変な作業なのに率先してやってくれていて、本当に感謝の言葉しか出ない。

 

サンダルを脱ぎ、プールサイドに座り足を入れる。

ひんやりとした海水がとても心地いい。

タギングルも肩から降りて膝の上で寝転ぶ。

 

すると、私の足に気づいたのか、いつも顔を見せてくれるポケモンが今日も顔を見せてくれた。

 

「おはよう、ミロカロス」

<ミロミロォ!>

 

綺麗な鱗を優しく撫でてやれば気持ちよさそうに目を閉じ擦り寄ってくる。

 

この子はヒンバスの時にポケモンハンターに捕まっていた所を保護したのだ。

ヒンバスの時に出来てしまった傷は今も跡が残っている。

海に返す事も考えたのだが、産まれたばかりの時に捕らえられてしまった事もあり、バトル経験も無く、海に放ってしまえば縄張り争いで勝つのは厳しいだろう…。

そう考え、この子はここで育てることにした。

 

ここに居るポケモン達は密猟や捨てられていたところを保護した子達ばかりだ。

そんなポケモン達に囲まれ始め1匹1匹撫でてやっていると、海エリアの扉が開かれた。

 

「失礼しますメルさん、スマホロトムが鳴ってます!」

「えっ、嘘!ありがとう」

 

スタジアムのスタッフさんがスマホロトムを抱えて来てくれた。

水に濡らすのが怖くて、ここに来る時は置いて言ってしまうのだ…。

 

置いていかれたことに不機嫌そうなスマホロトムに謝りながら、着信に応答する。

 

《もしもし、メルさん》

「イブさん!お久しぶりです〜!」

 

発信者はイブさんだった。

伝説のポケモンに関して研究をしている博士であり、4年前、私を旅に出させた張本人だ。

事件直後は話すことが多かったがココ最近はあまり連絡を取りあっていなかったので、声を聞くのは久々だ。

 

「イブさんからかけてくれるの珍しいですね、何かあったんですか?」

《えぇ、何かありました。

詳しいことは後ほどお伝えしますが

 

奴らが再び動きを見せました。

今から私の研究所に来てください。》

 

「……え…」

 

 

一瞬、頭の理解が追いつかなかった。

イブさんの言う奴らとは…4年前破壊の神を降臨させた悪の組織【カソドス団】の事。

奴らが再び動き出したということは、また同じ事件を起こす可能性があるということだ。

 

《必要な物を準備して待っています。

それではまた後ほど》

 

頭の整理がやっと落ち着いた頃には通話は切れていた。

ポケモン達に謝り、タギングルを抱えながら荷物が置いてある事務所へと駆け込んだ。

スタッフさん達に空飛ぶタクシーを呼んでもらうよう伝え、しばらく帰ってこない可能性があることを説明した。

4年前にも同じことをしていたのもあって、快く受け入れてくれた。

 

タギングルを庭園に返そうと思い肩から下ろそうとすると服を強く握り離れようとしない。

 

「タギングルどうしたの?」

〈……〉

 

ムスッとした表情をして服を握る力を強くする。

 

「離れたくないの?」

〈タギ…〉

 

この子のモンスターボールは一応ある、連れていくことに問題は無いし、この子が着いていきたいと言うなら…。

 

「分かった、着いておいでタギングル」

〈タギ!!〉

 

タギングルはキラキラと目を輝かせながらうなづいた。

モンスターボールの中に入ってもらい、必要なものを全て持って空飛ぶタクシーに乗り込んだ。

 

「コスモスシティまでお願いします!」

 

カソドス団の事を思い出すと胸の動機が激しくなる。

深呼吸をして落ち着かせていると、腰に着けたモンスターボールがカタカタと揺れる。

大丈夫と言ってくれているのだろうか…。

そっとモンスターボールを撫で心を落ち着かせているうちに、中央都市コスモスシティの象徴であるシリウスタワーが見えてきていた。

 

 

イブさんの研究所はコスモスシティのビル群の路地裏にひっそりと存在する。

目立つことを嫌う彼らしいが、分かりにくすぎるためイブさんのことを認知している者は少ない。

研究している内容や結果は本当に偉大な事なのに、その功績が褒められないのは知り合いとしては歯がゆい。

 

空飛ぶタクシーから降り、慣れた足取りで路地裏へと向かう。

段々と夏らしい暑さを迎え始め、ビル街というコスモスシティの環境によって起きる暑さは少し歩くだけで汗ばんでくる。

 

研究所の入口は地下へと続くエレベーターがあるだけ。

ボタンを押しエレベーターに乗り込む。

目的の階へ着くと静かに扉が開き、見慣れた空間が広がった。

 

無人の受付、4年前は休憩スペースとしても使われていた場所だが、今では当時使われていた椅子や机は1つを残して片付けられていた。

それだけ来訪者が少なくなっているということだろう。

 

寂しさを覚えながら受付に行くと

『用事のある方はベルを』とメモ書きが置いてあった。

横に設置されたベルを押すとピピピっと電子音が研究所に響き渡った。

 

その瞬間受付の右側にある扉からドドドドっと足音が近づいてくる。

あまりの音に思わず後ずさりした瞬間…

 

「メルさ〜〜〜ん!!!」

「うぐあっ!!」

 

綺麗な白髪の女性が私目掛けて突撃してきた。

支えきれずそのまま後ろに倒れ込んでしまい、思いっきり尻もちを着いた。

後ろが壁だったら頭を打っていた……。

 

「久しぶりだねシダレさん…相変わらず元気そうで良かった……」

「久しぶりだよほんと!ずっと会いたかったんだからね」

 

翡翠色の瞳をキラキラと輝かせながらそういう彼女は”シダレ”。

イブの秘書兼世話係をしている女性で、この研究所の母的存在だ。

とても優しく世話焼きなので私もよくお世話になっていた。

 

テンション爆上がりのシダレさんをなだめていると、同じ扉からくせっ毛の緑髪を揺らす白衣の男性が入ってきた。

 

「シダレさん、そろそろメルさんが潰れちゃいますよ…」

「助けて…アントロさん………」

 

シダレさんを回収してくれた彼は”アントロ”。

イブさんの助手でメカニック担当でもある。

ポケモン図鑑を作ったりロトムを活かした装置等々、なんでも出来てしまう天才である。

よく徹夜をする人で、限界突破をすると刃物を持って暴れ始める実はヤバい奴なのでシダレさんが徹底的に面倒を見ている。

 

「まだメルさんを堪能できてないのに〜」

「イブさんが呼んだんですから、邪魔しちゃいけないですよ」

 

いつもと立場が反対の2人に違和感を感じる……。

アントロさんにイブさんのいる部屋を教えてもらい、シダレさんの名残惜しそうな声を聞きながらその部屋へと向かった。

 

 

木目の厚い扉をノックすると、部屋から「どうぞ」とイブさんの声が聞こえる。

扉を開けると、足元には大量の紙と本が散らばっていた。

 

「すいません、少し部屋が汚いと思います」

 

PCに齧り付くように操作するイブさんはこちらを見ずにそう言った。

少し……?足の踏み場がない状態なのだが……。

どうにか踏まないようにしてイブさんの元まで向かう。

 

「お久しぶりです、相変わらず忙しそうで」

「あぁ、メルさんだったんですね、お待ちしてました」

 

そう言ってイブさんはやっと顔を上げた。

4年前と変わらず綺麗なライトブルーの瞳に合わない濃いクマ。

女性のようなキラキラとした金髪の髪。

彼がポケモン博士である”イブ”

その長い金髪のせいでよく女性と勘違いされるのだが面倒くさがって切っていないだけである。

 

「ちゃんと睡眠とってますか?」

「まぁ程々にです」

 

これは寝てないな…。

シダレさんも大変だ………。

 

やっていた作業を落ち着かせたイブさんは椅子を座り直し、私の目を見て話し始めた。

 

「奴ら…カソドス団が動きを見せた。と通話でお伝えしましたがまだその動きは小規模です。

ですが、動きが活発化してからでは手遅れです。

 

ですので、もうお察しかと思いますが…

4年前同様、メルさんにはレクエルド地方に存在する祠を守る為旅に出てもらいたいです。」

 

やっぱり…でも……

 

「……私が旅に出たとしても、4年前のように守りきれなかったらどうするんですか…」

 

「そうならないように、出来ることは何でもします。」

 

そう、覚悟した目で私を見つめる。

その目に何も言葉が出なくなる。

 

「正直、私はこの4年間何も手がつけれず、対策もまともにできている訳ではありません。

ですが、同じことを繰り返したく無いのは私もです。

 

私はメルさんのことを信じています。

 

だからこそ、メルさんが信じる人物やポケモンの事は信じたいと思っています。

 

どうか、過去の出来事を怖がらずメルさんがしたい旅をしてください。」

 

ずるい。

私が信じた人の裏切りによってイブさんが必死に集めた情報が漏れカソドス団に破壊の神を降臨させられたというのに…。

それを責めず、まだ私を信じてくれている。

そんな人からのお願いを断れるほど私は薄情ではない……。

 

「……ほんとにいいんですね」

「はい、これはメルさんにしかお願いできませんから」

 

「……今連絡取れる中で1番暇してるのは確実に私ですからね

分かりました、また自己満足の旅に行かせてもらいます」

 

そう笑って返した。

イブさんもその言葉と笑顔を見て微笑み頷いた。

 

4年前と同じ、自己満足の旅へ出ることが決まった。

 

 

レクエルド地方の【祠】を守るための旅。

それが自己満足の旅の内容なのだが、そもそも【祠】が何なのかを改めて思い出す。

 

レクエルド地方の街には伝説のポケモンに関する遺跡が存在する。

街によって伝説のポケモンが違い、その街の特色も変わってくる。

【祠】はその遺跡の中にあり、特定の条件を満たすと伝説のポケモンを降臨させることが出来る。

その為遺跡周辺の警備は固いのだが4年前の事件もありここ数年はその警備もとても強化されている。

 

そして、その特定の条件とは……。

 

「【祈りの宝玉】に関しては、覚えていますよね」

 

「えぇ、場所は変わってないですよね」

 

「はい、ですが報告がないだけで変わっている可能性もあるので確認をお願いします。」

 

【祈りの宝玉】それが特定の条件に必要なもの。

遺跡の数だけ宝玉があり、離れた場所で管理され名の通り丸い宝玉である。

どれもガラスのような素材なのだが、物によって色や温度が変わる。

 

遺跡に正しい【祈りの宝玉】を置くことによってその遺跡の伝説のポケモンを降臨させることが出来る。

 

イブさんと旅の計画を話し合い、確認事項も決めた。

話がまとまったあと、再び真剣な目で私を見て話し始めた。

 

「オルトロスシティでの事件を受け【護り人作戦】は抹消し組織も解散させましたが、私は奴らにこのままやられっぱなしで終わりたくは無いです。

 

ワガママなのはわかっています。

ですが、もう一度【護り人作戦】を復活させたいと思っています。」

 

【護り人作戦】4年前イブさんの指揮の元活動していた組織の作戦名。

伝説のポケモン達を護り調査する、カソドス団に対抗するための組織だ。

 

私にとっての原点であり、忘れる事など出来ない場所

それを復活させると言ってくれるのはとても嬉しい事だ。

 

「私は賛成しますよ、お手伝い出来ることはいくらでもします」

 

そう言うとふっと微笑み

「ありがとうございます」とイブさんは言ってくれた。

当時のメンバーを集め直す所から始まるため、旅の最中もし出会う事が出来たら声をかけていこう。

 

「では、最後にもう一つ確認したいのですが、旅に同行者を付けるべきと私は考えています。

前回はルテウスさんとソラさんでしたがどうしますか?」

 

旅の同行者…ルテウスは先日の式典で久々に顔を合わせたが、帰ってきたばかりと話していたし、せっかくならゆっくりして欲しいと思う。

ソラに関しては音信不通となっている為、どうしようもないだろう…。

 

前回の旅を思い返すと1人では中々苦しいとも思う。

……”彼”を…誘うことはありだろうか………。

 

「無茶を言っていることは百も承知なのですが、当時組織に所属していなかった人物を旅の同行者に誘うことはダメですか…?」

 

「先程言った通り、私はメルさんが信じる人物のことを信じたいと思っています。

その方の事をメルさんが信じているなら良いと思いますよ」

 

そう、また微笑んで言ってくれた。

1から全部彼には説明しなければならないが、現状私が心から信用し頼りにしている人物でもある。

きっと、大丈夫。

 

「ありがとうございます」

 

「それで、その方はどういった方なんですか?」

 

「ネポスシティでソラの後任としてジムリーダーをしている、”ナギト”という青年です」

 

 

 

 

裏路地に隠れた店、その店内は照明に照らされキラキラと光り輝くガラス瓶が綺麗に飾られている。

シックな雰囲気の中慣れた手つきでグラスを磨く青髪の青年。

そこに鈴の音と共に扉が開くと男性が入ってくる。

 

「ナギトさん、やっぱりここ分かりにくいですよ」

 

「分かった人だけが来てくれればいいんだよ。

忙しすぎても嫌だからね」

 

「おかげでここ数ヶ月常連のお客様しか来てくれませんし、ジム挑戦者は0人ですけどね…」

 

「そうだなぁ…ジムに関してはそれが原因とは言い難いけど、暇になる時間は増えたか…」

 

そう、考え事をしながらグラスを片付けていると

再び鈴が鳴り扉が開かれる。

 

「お兄さん、いつものお願いできますか?」

 

久々に見る黒髪をなびかせる女性が笑顔で来店する。

 

「久しぶり、メル」

「久しぶり」

 

退屈だった時間が、変わっていくのを感じる。

 

 

 

 

 

 

「いつもの」と言うとカルーア・ミルクを作り私の前に出してくれた。

私はナギトのこのバーに来る度このカクテルを注文している。

綺麗なグラスとカクテルに見とれながら1口飲む。

甘いコーヒー牛乳とふわっと香るアルコールが私の口の中に広まっていく。

 

「ん〜やっぱりナギトが作るカクテルは美味しい」

 

「はいはい」

 

私がここに来る機会は度々あったのだが、最近は通話でしかやり取りをしていなかった。

久々にナギトの顔を見ることが出来たのは良かった。

 

イブさんにナギトのことを話すと快く受け入れてくれ、まずは本人に確認し、それから旅に関しての必要な道具を預かることとなった。

あの後シダレさんに再び捕まったりしたので、ナギトのお店に着く頃には日が沈んでいた。

 

閉店時間間際に来てしまったのだったのだろう、ナギトは店の扉にある看板をクローズに変えていた。

 

「閉店時間?」

「別にメルなら居ていいよ」

 

”居てもいいのか”と聞く前にそう答えた。

その言葉に甘えさせてもらおう。

私がナギトのバーに来たのは”私と旅に出てくれるか”を尋ねるためだ。

その為にはまず、ずっと話せずにいた4年前に関しての説明もしなければならない……。

長話になるのは確実なので、まとまった時間が欲しい。

 

「実は今日、お酒目当てで来た訳じゃなくてね」

「うん?」

 

「色々と話したり相談したい事があって、ナギトの時間貰えるかな?」

 

そう聞くと、ナギトは微笑み

 

「断る理由も予定もないから好きなだけ貰って。

でも、先に店の片付けだけさせて」

 

「もちろん!

というか、手伝う」

 

「いいよ、座って待ってて」

 

そう言われ少し上げていた腰を再び椅子に下ろす。

ナギトはテキパキと片付けを済ませて行き、気づけば着いている照明も座っているカウンター席のみになり、店内は薄暗くなっていた。

 

「おまたせ、んでお話とは?」

 

そう言いながら水の入ったコップを私の前に置き、もう1つのグラスに入った水を飲みながら椅子に座った。

 

「長話になる覚悟をお願いします」

「はいよ」

 

そう笑ったナギトの顔を見たら、少し心が軽くなった様に感じた。

大丈夫、この人に話してもきっと失望されない。

深呼吸をして、私は話し出した。

 

「私、ナギトに話してなかったことがいっぱいあって、今日はそれを話に来たの

 

4年前、オルトロスシティで起きた事件のことは知ってる?」

 

「まぁ、悲惨な事件だったしね。

さすがに知ってるよ」

 

「そうだよね…。

私はあの事件の時、オルトロスシティに居たの」

 

「…なんでそんな時に」

 

私はナギトにある組織に入り伝説のポケモンを調べていた事。

イベルタルの情報が私経由で漏れてしまい、結果オルトロスシティでの事件を引き起こしてしまった事を話した。

ナギトは相槌を入れながら真剣に聞いてくれた。

 

「あの事件にはそんな背景があったんだ」

 

「うん、私のせいであの事件は起きてしまったから、話すに話せなかったの……」

 

「メルのせいでは無いだろ、詳しいことは分かんないけど

裏切り行為をした奴やそのカソドス団?が元凶なのは間違いない

メルが責任を1人で背負い込む必要は無いよ」

 

 

その言葉に、ずっと張っていた何かがプツリと切れ、久々に声を漏らしながら涙を流した。

その間ずっとナギトは何も言わず頭を撫でてくれていた。

 

 

 

どれくらい泣いていたのか分からないが、落ち着いた頃には鼻はズビズビで目は腫れきっていた。

少々恥ずかしいが、まだ本題を話していないので辞める訳には行かない。

鼻をかみ、ナギトが出してくれた氷で目元を冷やしながら話を続ける。

 

「組織はその事件で解散しちゃったんだけど、最近カソドス団の動きがまた活発になってきたみたいで、4年前と同じ事…もしかしたらあの時以上の事が起きる可能性が出てきたの。

 

だから今日、組織のボス的存在の人に呼び出されてね

私はまた、4年前と同じようにレクエルド地方を巡って伝説のポケモンを守る旅に出ることになったの」

 

「旅…ジムはどうするんだ?」

 

「最近挑戦者が少ないから少しお休みすることにした」

 

そう言うとナギトは何か考え事を始める。

挑戦者の少なさはナギトにも心当たりがあるようだ。

 

「その旅、俺も着いてくのはだめ?」

 

私が尋ねる前にそう言った。

そんなの…

 

「だめな訳ない!

だって、元々その旅に誘うために来たんだもん」

 

そう返すとナギトは「そうなの?」と笑い出す。

 

「じゃあ、一緒に行こうかメル」

 

「うん!」

 

私の自己満足の旅に仲間が増えた。

罪悪感と退屈に包まれていた日々が甘いカクテルによって色付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私とナギトはコスモスシティの研究所へと向かった。

イブさんとナギトは初対面なので、色々説明は私がしなければ。

 

研究所の前につきエレベーターのボタンを押す。

 

「研究所、地下にあるのか」

「そうだよ」

 

下に行くボタンしかないのを見て気づいたようだ。

昨晩、号泣からの説明によって私の旅に同行してくれる事が決まった後、祠や遺跡の説明を軽くし、イブさんに会い必要な道具を貰うため研究所に行く事となった。

ナギトもジムの挑戦者が少ないことを退屈に感じていたらしく、バーはスタッフに任せお休みすることにしたようだ。

 

エレベーターで地下の受付に着く。

昨日ぶりなので慣れた足取りで呼び出しボタンを押す。

その間ナギトはキョロキョロと部屋を見回していた。

 

それから数秒後またドドドドっと誰かが走ってくる音がする。

来る!!受け止める構えをした瞬間…

 

「メルさぁん!!」

「ぐっ…シダレさん、落ち着いて…」

 

綺麗に突撃してきたシダレさんを受け止めた。

その突撃にナギトも目が点になっている。

 

「シダレさん、今日は私1人じゃないから紹介させて…」

「えっ!?」

 

私がナギトの方を見るとシダレさんもナギトの方を見る。

その瞬間私の腕から離れ、着物を整え咳払いをする。

 

「は、恥ずかしいところをお見せしてしまいました…。

私はこの研究所で秘書兼世話係をしているシダレと言います。」

 

「え、あぁ。

俺はメルの友人でジムリーダーをしてるナギトって言います」

 

お互いペコペコと頭を下げ合いながらと自己紹介をし合う。

そのやり取りに笑いそうになるのをぐっと堪える。

 

「シダレさん、イブさんは昨日と同じ部屋?」

「うん、いつもの部屋だよ〜後でお茶でも持っていくね」

「ありがとう、それじゃあ行こっか」

 

ナギトを連れイブさんの部屋へと向かった。

 

 

昨日同様ノックをし入れば一段と足の踏み場が無くなっていた。

どうにか避けながらイブさんの元へ向かう。

 

「メルさん、早いですね」

待っていたのだろうイブさんは昨日とは違い扉を開けた時からこちらを見ていた。

 

「話し合いが直ぐに終わったので、紹介します。

彼がネポスシティジムリーダーのナギトです」

 

そう言うとナギトは1歩前に出てぺこりと頭を下げ…

 

「ナギトです、初めまして」

 

「そして彼がポケモン博士であり、私のボスイブさん」

 

「どうも、メルさんから話は聞いてます。

ジムリーダー程の実力があれば、何の心配もなく頼めます。」

 

「いや、俺は全然」

 

ジムリーダーの中でも最強の部類に入るのに何を言っているのだろ。

それから少しの時間イブさんとナギトは話し合い、イブさんもナギトのことを信頼してくれたようだった。

 

「今回の旅の目的は、前回と同じく

”祠を回り伝説のポケモンの降臨の阻止”になります。

回る順番はお2人に任せますがカソドス団の動向は私の方で調査していますので動きがあり次第連絡します。」

 

ルートはナギトと後で話し合おう。

カソドス団に関してはイブさんに任せて問題ないだろう。

話がまとまりだした頃、部屋の扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

イブさんがそう言うと扉が開き、シダレさんとアントロさんが入ってきた。

 

「お茶持ってきました……って昨日部屋掃除したのにもっと汚れてるのはどうしてですか?????」

 

「ぐっ………いやそれは…研究に夢中に…」

 

お盆を握りしめながら怒りを露わにするシダレさんとその圧に負けごにょごにょと言い訳をするイブさん。

これがこの2人にとっての日常なのだろう。

 

「2人の座る場所もないなんて……アントロさん、ちょっとお茶持っててください」

 

「分かりました」

 

アントロさんにお盆を預けると、シダレさんはモンスターボールを取りだしポケモンを出す。

出てきたのは煌びやかな炎を灯すマフォクシーだった。

 

「マフォクシー、お掃除の手伝いお願い!」

〈マフォ〉

 

マフォクシーはそう頷くとサイコキネシスを使い床にちらばった紙や本をまとめていく。

そしてシダレさんはどこから持ってきたのか箒とちりとりを巧みに扱いあっという間にゴミを片付けた。

 

一瞬にして綺麗になった部屋に思わず拍手をし、本に埋もれていたソファに座らされ、シダレさんが持ってきたお茶を頂く

程よい渋さと冷たさに一息ついていると、説教終わりのイブさんが話し出す。

 

「旅に向けて必要になる遺跡のデータをアントロさんにまとめて頂きました。

アントロさんお願いします」

 

アントロさんはそう言われ頷き、ナギトの方を見る。

 

「ナギトさん、でしたね。

初めまして僕はここで科学者をしているアントロと言います、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「イブさんからお願いされて遺跡や祠のデータを一つにまとめました。

書類になると荷物になってしまうので、お二人共スマホロトムを出して頂けますか?」

 

そう言われスマホロトムを出すとアントロさんはモンスターボールを取り出す。

出てきたのはパチパチと電気を走らせ目にも止まらぬ速さで飛びまわる、ロトムだった。

 

「ロトム、2人のスマホロトムにデータを送ります、手伝ってください」

〈ロトロト!〉

 

ロトムはアントロさんのパソコンに一瞬で入ったかと思うとすぐに出てきて、スマホロトム達に電気を送る。

こうやってやり取りをしているのだろう。

 

暫くしてデータを送り終わったようで、ロトム達は楽しそうにパチパチと会話を始めた。

 

「ロトム、ありがとうございます

お二人のスマホロトムに無事送れました、何かあった時は活用してみてください。」

 

試しにスマホロトムにデータを開いてもらうと、各街の遺跡に関して細かく情報が乗っている。

これを見れば困ることは無いだろう。

スマホロトムをしまうとイブさんが話し出す。

 

「これで私たちから渡すものは以上です。

どの街から向かうかはお二人にお任せします、そしてメルさん、もし当時の面々に出会うことがあれば…」

 

「忘れてないよ、再構築の話ちゃんと伝える」

 

「お願いします。

ナギトさん、突然の話困惑されたでしょう。

それでも尚私達の願いを受けてくださったこと感謝します。」

 

「俺も暇してたんで、メルの負担が減るならいくらでも」

 

その言葉にイブさんは微笑み私を見る。

 

「メルさん、良い方と巡り会えて良かったですね」

 

「どういう意味です!?」

 

頬が暑くなるのを感じる。

なんでそんな意味ありげな言い方するのこの人!

 

「信頼に値する人という意味ですよ」

 

そうクスクスと笑う。

やられた…。

ナギトも後ろでクスクスと笑っている、なんだか悔しい。

 

その後、最初の街はコスモスシティの南に位置する”アステリシティ”へ向かうことが決まった。

旅の支度を整え…

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「メルさん、たまには顔見せてね」

 

アントロさんに押さえつけられたシダレさんがそう言う。

 

「他の街に行くにはコスモスシティを経由しなきゃ行けないんだからまた来るよ」

 

「何かあればいつでも連絡してくださいね」

 

「分かった」

 

3人に見送られながら、私とナギトの旅が始まった。

そう言えば…

 

「ナギトが旅に同行したくなったのって、ほんとに退屈だったから?」

 

「それもあるけど、俺はメルとスクール時代から一緒に居たのに何も知らなかった。

俺は、メルが背負う重みを軽くしたい。

その為ならどんな事でもするつもりだよ」

 

夏の生暖かい風が吹く、青髪がキラキラと揺らしながらナギトは微笑みそう言った。

 

あぁ、この人の事を…ナギトの事を…信じて良かったと心から思った。

 

きっとこれからも私は”あの人”によって生まれた罪悪感と後悔を背負って生きていく。

けれど、いつかは…”ナギト”によって軽くなる日が来るのかもしれない。

 

「…ありがとう!」

 

心から笑い合えるその日へ。




祈りの宝玉を見つけて下さりありがとうございます。
投稿方法に慣れていないため読みにくい点があったと思いますが感想など頂けると嬉しいです。
これからよろしくお願いします。
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