祈りの宝玉   作:こてこて

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花咲き誇る街

 

 

コスモスシティから南に位置する、アステリシティ。

花畑が一面に広がる丘があり、その花を使った香水等の化粧品や紅茶、蜂蜜等様々な物に加工され

特にアステリシティ産の紅茶はとても香りが良く、カフェが多くある街でもある。

 

他にも1バッチ目のジムやトレーナーズスクールもあるので観光客の他に学生さんやジム巡り初心者も居るのでとても人が多い街だ。

 

そして、私達の目的地が…

 

「時空の遺跡?」

「そう、遺跡と言っても昔は音楽堂として使われてた建物みたい」

「音楽堂…」

「実際に見たらその意味が分かるよ」

 

晴天の中コスモスシティを出た私とナギトは雑談をしながらアステリシティへと向かっている。

広大な草原が広がる4番道路にはノーマルタイプや草タイプのポケモンが多く生息している。

平坦な一本道なので、すぐに着くだろう。

 

「その時空の遺跡とカソドス団にはどんな関係が?

カソドス団に関しては流石の俺でも知ってたからさ…」

 

「まぁ…知ってるよね」

 

「4年前の事件の犯人でもあるし

その前からポケモンへの残虐行為で事件になってただろ?」

 

「そうだね…あまり詳しく話せてなかったし

歩きながら話すよ」

 

ナギトが頷いたのを確認して、少し長話になるが話し始める。

 

 

「4年前起きたオルトロスシティでの事件の話は覚えてるかな?」

 

「もちろん」

 

 

「その事件の元凶破壊の神は”輪廻の遺跡”で祀られていたポケモン。

レクエルド地方にある全ての街に存在する遺跡の中には”祠”と呼ばれる石で出来た小さなお社があるんだけれど

その”祠”に”ある物”を捧げることによって遺跡にまつわる神のポケモンが現れるの。

破壊の神もそのやり方で現れた。」

 

 

「全ての街って事は…ネポスシティにもあったのか」

 

「そうだね、いつかは行くことになるからその時に詳しく話そうか」

 

「それは楽しみだ」

 

嬉しそうに笑うナギトを微笑ましく思いながら話を続けていく。

 

「”ある物”はその貴重さと危険さから厳重に保管されてるんだけれど、4年前はそれをカソドス団が奪った。

その結果破壊の神が現れその名の通りに街を破壊し尽くした。

あいつらは必ず他の街でも同じことをする、だからイブさんは私を呼んでこうやって遺跡を回って確認するようお願いしてきたの」

 

 

「なるほど、カソドス団相手ならバトルを避けることは難しいし

実力があるトレーナーをイブさんが求めてたのも納得だ。

そしてメルは、4年前も遺跡巡りの度をしてたんだっけ?」

 

「そうだよ、でもあの時はこんなにのんびり出来なかったから」

 

4年前はカソドス団の活動がとても広範囲に拡がっていた為、余裕がなく走り回って調査を進めていた。

 

「急がなきゃ行けないのは変わらないけど、あの時より心に余裕があるから

こうやって話しながら旅できるのとても楽しいよ」

 

「なら良かった」

 

ふっと笑ってナギトはそう言ってくれた。

そんな話をしていれば、甘い香りが漂い始め

アステリシティを囲む花畑が見え始めていた。

花咲き誇る時空の街アステリシティに到着した。

 

 

 

風に吹かれて花弁とフラベベ達が飛んでいく。

花の甘い匂いが街全体を包み込む。

久々に訪れたアステリシティは4年前と変わらずポケモンと人々で賑わっていた。

 

「実は俺、ジムリーダーになってからずっとネポスシティに居たから

レクエルド地方の事をそんなに知らないんだよね…」

 

「そうだったの!?」

 

「メルに会いに行くぐらいでほぼ店から出なかったからね

だから、俺にレクエルド地方の事教えてよ」

 

「もちろん!観光名所の事は私に任せなさい!」

 

「おぉ、頼もしい」

 

ということで…用事の場所には連絡をしないと入れないし

今日は観光の一日として、明日遺跡へ調査しに行くことにした。

 

「アステリシティは紅茶が有名なの、そしてここ”フラワーBB”ここのお茶が本当に美味しいんだよ〜」

 

目をキラキラさせながら話す私にナギトは相槌を入れながら楽しそうに話を聞いてくれる。

学生時代からナギトは私の話を楽しそうに聞いてくれるとても話しやすい相手だ。

 

 

フラベベが厳選した花を紅茶にして提供しているこのお店は観光客にもとても人気なお店なので混み合っていたが

雑談をしながら店内の雰囲気と紅茶を堪能することが出来た。

 

アステリシティの観光を楽しんでいる内に日は沈み始め、ポケモンセンターの部屋を取るために向かっていると

 

「時空の遺跡ってあれ?」

 

ナギトがそう聞きながら指を指している方を見る。

 

花畑の丘の真ん中に佇む建物。

大きな白い壁の大聖堂、ナギトの言う通りあれが時空の遺跡である。

中は音楽堂となっているが今は使われておらず、地下には祠が置かれているのだ。

 

「そうだよ、明日あそこを管理してる人に会って中に入らせてもらおうと思ってる」

 

「管理してる人?町長とかかな」

 

「んー、大体は町長とかジムリーダーとかなんだけど

時空の遺跡を管理してるのはただの市民なんだよね」

 

「え、なんで」

 

「町長が時空の遺跡に対してそんなに興味が無いみたいで….

ジムリーダーは多忙だからそんな時間もない。

だから4年前”護り人作戦”のメンバーだった一般市民の貢献を認めてその人に任せたの

明日は、その人に会いに行く」

 

なるほど。とナギトは納得したようだった。

その後ポケモンセンターで部屋を取り、夕飯やシャワーを済ました。

 

 

その日の夜、スマホロトムでその一般市民に電話をかける。

一般市民とは言え、忙しくしている人なので出てくれるといいのだが…。

 

数回コール音がした後、通話が繋がる。

 

「もしもし!」

「もしもし…メルさんが電話してくるなんて珍しい」

「お久しぶり、グラナダさん」

 

眼鏡をかけ直す音が通話越しに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

翌日。

お天気も良く、暖かい風が吹き渡る日、私とナギトはトレーナーズスクールに訪れた。

 

「イッシュ地方のトレーナーズスクールとはレベルが違いすぎるだろ」

 

私達が通っていたトレーナーズスクールはイッシュ地方ヒオウギシティのジムにもなっている学校でそこそこ大きいのだが、アステリシティのトレーナーズスクールはバトルフィールドが複数個あり、校舎も3階建てとめちゃくちゃでかい。

…パルデア地方の学校と比べては行けない。

 

「ここに管理してる人がいるんだっけ?」

「そう、ここで教師をしてるんだけど…その…」

「ん?」

 

ナギトは吃る私に首を傾げる、”彼”の説明をすべきなのだが、なんて話せばいいのか正直夜通し考えても思いつかなかったのだ……。

会ってから話すか…とため息をする。

 

「とりあえず入ろうか…」

「うん?」

 

生徒達がポケモン達と触れ合う声が響き渡る校庭を通り、校舎へとはいる。

昇降口はとても広いホールになっており、多くの生徒とポケモンが行き交っていた。

 

このホールで待ち合わせの予定なのだが…。

と、”彼”を探していると…。

 

「グラ先生!ここ分からないの」

「せんせー遊んでー」

「グラナダ先生!僕のポケモン見て!」

 

「皆、先生これから用事があるからまた後でね」

 

「「はーい!!」」

 

黒髪のストレートマッシュを揺らし、特徴的な桃色の瞳と赤ぶちラウンド型の眼鏡をした青年。

 

「お待たせ〜」

 

トレーナーズスクールの教師、グラナダ。

彼が時空の遺跡の管理者その人だ。

 

 

グラナダさんの仕事部屋に案内され、ソファに座らせてもらった所で話を始める。

 

「グラナダさんの説明は長くなりそうだから、先に…

彼はナギト、ネポスシティのジムリーダーで、今回祠の調査の旅に同行してくれてるの」

 

「よろしく」

 

「よろしく〜、イブさんが無関係者を認めるなんて珍しい」

 

グラナダさんが”珍しい”と思うのは当たり前だろう。

過去にも参加させて欲しいと噂を聞いて研究所に来た人が居たが、イブさんは面会もせず突っぱねてきたのだ。

なので私もナギトのことを提案する時は断られる覚悟だったので、即OKになったことには驚いたのだ。

 

「そして…彼が時空の遺跡を管理してるグラナダさん

トレーナーズスクールで教師をしてるんだけど、その…」

 

「さっきも吃ってたよね…」

「慣れてるから気にせず話しなよ」

 

ケタケタと笑うグラナダさんに若干呆れつつ説明を続ける。

 

「グラナダさん、小さい子供が好きで教師になったんだよね」

 

「…………え?」

 

「だから…ロリコンなのに教師してるイカレ野郎って事」

 

「…今すぐジュンサーさん呼ぶか」

「「やめて」」

 

 

そこからナギトを制しつつグラナダさんの説明を続けた。

グラナダさんは先程言った通り生粋のロリコンで「ロリと合法的に交流できる職業とか天職だろ」と言い放ち伝説のポケモンの調査をしながら教師の資格を得た化け物なのだ。

 

資格の勉強をしながら行っていた調査の方も研究結果を本に出せば表彰され、その結果アステリシティの町長に認められ時空の遺跡の管理者になったのだ。

行動力と秀才さだけ見れば完璧人間なのだが………。

 

「まぁまぁ、ロリ達と親御さんの前では変な言動しないし手を出す気もないからさ、心に秘めてるだけだよ〜」

 

ニコニコと笑いながらナギトにそう説明するグラナダさん。

ナギトは完全にドン引きし、疑いの目で見ていた。

やはり事前に説明しておくべきだった………。

 

このままこの話を続けても疑いの念が強くなる一方に感じた時、コンコンッと部屋の扉がノックされる。

 

「あぁ、今開けるよ」

 

グラナダさんはそう言うと部屋の扉を開ける。

だが、そこには誰も居らず首を傾げると…

 

〈リニョ!〉

 

足元から声がして、視線を下に向ける。

 

「オリーニョありがとう、お盆預かるよ」

〈リーニョ〉

 

オリーニョがお茶を運んで来てくれたようだ。

 

「この子は僕のオリーニョ、お客さんが来るといつもこうやってお茶を作ってきてくれるんだよね

オリーニョが厳選した茶葉のお茶だから飲んでよ」

 

そう言われ、夏場だが温かいお茶を1口飲む。

ほのかな渋みと甘みが口に広がる、後味もスッキリしていてとても飲みやすい。

 

「美味しい…!」

「うん、こんな美味しいお茶初めて飲んだ」

 

「良かったな〜オリーニョ」

〈リニョリニョ!〉

 

オリーニョはグラナダさんの膝の上でジャンプしながら喜んでいる。

そんな姿と温かいお茶のおかげで落ち着いたので、本題に入ることにした。

 

 

「昨日の夜通話で話したけど、時空の遺跡に入りたくて

4年前と同じように開けて欲しいんだよね」

 

「それはいくらでもやるよ〜

それよりも、イブさんがまた組織を作るって言ってる事の方が気になる」

 

昨日、連絡をとった際に軽く伝えただけだったので気になるのは当たり前だろう。

何しろグラナダさんは組織に参加したことをきっかけに本格的に伝説のポケモンを調査するようになったようだ。

 

私はイブさんとの話をグラナダさんに話した。

ここに関してはナギトにも話していなかったのでイブさんの思いと考えを伝える。

 

「メルが信用する人を信用する…か

そんな事思われてたら裏切りたくても裏切れないな」

 

「裏切りたくならないのが1番なんだけどね」

 

照れ隠しに冗談を言うナギトにそう笑って返す。

グラナダさんは少し考えると…

 

「そっか…俺もオルトロスシティと同じ様な惨い参上はもう見たくない

戻った所で何も出来ないけれど、協力するよ」

 

その言葉にホッとする。

 

「何も出来ないわけないよ、グラナダさん重い腰上げたらなんでも出来ちゃう人なんだから」

 

「あはは、その重い腰が厄介なんだけどね〜」

 

話もまとまった所でイブさんの連絡先を伝え

オリーニョが入れてくれたお茶も飲み干し、時空の遺跡へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

生徒達に度々声をかけられながらトレーナーズスクールから離れ時空の遺跡へ向かう。

時空の遺跡は花畑の丘の真ん中にあるので、丘を登るため階段を使う。

 

「結構な段数あるな…」

「登りきったらすぐだから頑張れ〜」

 

グラナダさんの後を追って階段を上っていく。

最近まともな運動をしていないので息も上がってくる……。

 

「きっっつい…」

「メル頑張れー!」

 

ナギトに背中を押されながら一段一段上っていく、頭が真っ白になりかけた所で最後の一段を上りきった。

膝に手を付き息を整えていると…

 

「到着〜お疲れ様」

 

グラナダさんのその言葉に顔を上げると、街の方からも見えていた大きな大聖堂がそびえ立っていた。

 

「旧音楽堂は観光スポットにもなってるから良ければ案内するよ」

 

「気になるな」

 

ナギトの言葉に頷くと、グラナダさんは嬉しそうに大聖堂へと向かおうとしたその時…

 

「なんか見覚えあると思ったら、メルじゃ〜ん!」

 

聞き覚えのある少し低めの男性の声に振り向くと、階段を軽い足取りで登ってくる赤髪の青年がそこにいた。

 

「よっ、久しぶり〜」

 

「あ、アカツキさん!」

 

特徴的な赤髪を結び、パイロットゴーグルを頭に付け、緋色の瞳をした彼は”アカツキ”という男だ。

 

「また来たのかアカツキ」

 

「よぉ、グラナダ〜

何?ロリコンやめてメルに手出すことにしたの?」

 

「んなわけあるか!!ロリの方が何億倍も可愛いわ」

 

「はぁ???????」

 

いや……子供の方が可愛いか。

…いやなんで勝手に振られたことになって勝手に納得してるんだ?

 

「えっと…」

 

完全に空気になっていたナギトがそう声を漏らしたのが聞こえ、慌ててナギトの元へ駆け寄る。

 

「アカツキさん、紹介するね

彼は私の学生時代からの友人でジムリーダーのナギト」

 

そうアカツキさんに話すと、ニヤニヤし始める。

 

「メルの本命はそっちか、いやー挨拶遅れてごめんなぁ」

 

「本命って????」

 

「まぁまぁ、俺はアカツキ

気ままに旅してる暇人だよ〜よろしくねナギトくん」

 

「よろしく」

 

アカツキさんはレクエルド地方を中心に”放浪の旅”と称して旅をしている組織の元メンバー。

組織に入る前から時空の神を調査していたらしく、イブさんやアントロさんに並ぶ程の知識と情報を持っている人だ。

 

そう言えば、さっきグラナダさんがアカツキさんに対して”また来たのか”と言っていたが…。

 

「アカツキさんは変わらず時空の神を?」

 

「そりゃもちろん、時空の神は俺の浪漫だからな」

 

そうドヤ顔をしながらアカツキさんは言った。

この人も研究オタクだ。

 

「今日もその調査の一環として来たんだが

グラナダはもう遺跡にいると聞いてすっ飛んできたら、まさかイケメンを引き連れたメルがいるなんてなぁ」

 

「私とナギトはイブさんの指示で来たの」

 

気のせいだろうか…。

私がイブさんの名前を出した時、一瞬アカツキさんの眉間にシワがよった気がした。

地雷だっただろうか……。

 

「ふーん、イブさんの指示って?」

 

「4年前と同じ、カソドス団が動きを見せたから

また祠の護衛として回ってるの

それでね、イブさんから伝言で『”組織をもう一度再構築する”だからまた戻ってきてくれないか?』って」

 

イブさんからの伝言を伝えると、アカツキさんは少し考え…

 

「んー、俺はもういいかな

1人でも研究は出来るし、ごめんな」

 

「そっか…」

 

2人目にして断られてしまった…。

先程の反応といい、アカツキさんはイブさんに対して何か思うところがあるのだろうか…。

深堀する気は無いので、それ以上聞かなかった。

 

少し落ち込んだ私に気づいたのか、アカツキさんは私の頭を少し荒く撫でると…

 

「メルの力になれる事はいくらでもするからいつでも言えよ」

 

「ありがとう…!」

 

「話し終わった〜?行くよ」

 

グラナダさんのその声にボサボサになった髪を整えながら時空の遺跡がある旧音楽堂に向かった。

 

 

 

 

 

「うわぁ…でっか」

「何度見ても鳥肌が…」

 

旧音楽堂に入ると目に入るのは…

天井に伸びていく大きなパイプオルガンの存在。

壁を覆い尽くす程の大きさをしており、鍵盤の数も到底1人で演奏できるような量ではない。

そして、何百年も昔からあると言うのにパイプがキラキラと光り輝いている。

 

その輝きに見惚れていると、アカツキさんは腰に手を当てながら前に出てくる。

 

「この旧音楽堂は、シンオウ地方の天才建築家、ゴーディが試作として建設した建物

試作ってことはつまり実験作ってことだな

完成系はシンオウ地方のアラモスタウンにある”時空の塔”だ、一度は行ってみろ」

 

と…早口で説明し始めた。

その話は初めて聞いたので中々興味深い。

 

「その”時空の塔”は建物自体が楽器になってる

だから”世界一でかい楽器”として認定されてんだ

ちなみにこのパイプオルガンは2番目な」

 

「あんなの、どうやって演奏するんだ…」

 

「気になるかい?」

 

ナギトの疑問にアカツキさんがすかさず声をかける。

 

「俺達には管理者というつよ〜い味方が居るんだ

普段立ち入り禁止の場所にだって入れるんだぜ」

 

「怒られるの俺だから好き放題言うなよ…」

 

「いいだろ〜??」

 

呆れ顔のグラナダさんの肩を組み我儘を言うアカツキさん。

4年前から変わらずこの2人はずっとこの絡みをしているようだ。

 

「まぁ時間もあるし、案内するよ」

 

私もこのパイプオルガンから音が出る瞬間は見た事がないので、グラナダさんのその言葉に胸が踊った。

私達は関係者しか立ち入ることが出来ない、地下へと続く長い階段を降りていった。

 

 

地下は薄暗いが綺麗に清掃されているのか埃っぽさは感じない。

真っ直ぐ続く道の壁に扉が複数あり、小部屋があるのが分かる。

 

グラナダさんはその内の一室の鍵を開け、私達を中に入らせてくれた。

 

「ようこそ、楽譜室へ」

 

アカツキさんが手を広げながらそういう。

中は広く壁一面に敷き詰められた棚に大量の本が積まれ、まるで図書館のようになっている部屋だった。

この本全て楽譜なのだろう…とんでもない量だ。

 

「ここにある楽譜はゴーディがかき集めたと言われていてね、この楽譜をオルガンに持っていけば演奏することが出来る」

 

「あのオルガンで演奏するのは中々骨が折れそうだな…」

 

「そう思うだろ?だけどゴーディは天才建築家だ、ちゃんと考えてんだよ」

 

アカツキさんのその言葉に2人で首を傾げるがアカツキさんはニマニマと笑い、「後で分かる」としか言わなかった。

 

アカツキさんは大量にある楽譜の山の中から1冊手に取り、私に手渡した。

 

「祠の調査の後俺のお気に入りを聞かせるから

落とすなよ」

 

とても貴重な品なのでアカツキさんに言われた通り落とさないように抱え持った。

私達は楽譜室から出て祠のある部屋まで続く通路を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

長い通路を歩いていけば楽譜室の扉とは違い

分厚く南京錠がかけられた鉄の扉に突き当たった。

 

「この先が祠の間ね、警備ポケモンがいると思うけど

俺の顔覚えてくれてるから安心して」

 

グラナダさんはそう言いながら南京錠を外し、重そうに扉を開ける。

中に入るとそこは…

 

「でっか…」

 

ナギトがそう声を漏らすのも無理はない。

部屋の真ん中にある祠を護るように佇んでいるのは

高い天井にも届きそうなほどの大きさをする、時間の神と空間の神の石像だ。

その石像から溢れ出す神秘性と威圧感に圧巻されていると…

 

〈キッパ!〉

 

「久しぶり、マスキッパ」

 

大きさの違うマスキッパが4体ワラワラとグラナダさんの元に集まっていく。

この子達が時空の遺跡の警備ポケモンだ。

 

「アカツキ、2人を案内してやって…」

 

マスキッパまみれになったグラナダさんの指示を聞きアカツキさんの誘導で部屋の奥へと進んでいく。

 

近づけば近づくほどその巨大さが分かる2体の石像。

伝説のポケモンの石像は全ての遺跡にあり、4年前の旅の中で1度は見ているが、何度見ても鳥肌が立つ。

 

部屋の奥へと着くとそこには石で作られた小さなお社。

その両隣には大きな神の石像。

 

「これが、祠か…」

 

「そう、ナギトくんはレクエルド地方の神話を知っているかい?」

 

「それが全く。

レクエルド地方の事を知るためにもメルに着いてきたからな」

 

「なるほどな、んじゃ俺が1つ話を聞かせてやろう

 

『昔々、レクエルド地方に大きな災いが訪れた…』」

 

 

『その災いは己の糧とする為にレクエルド地方を飲み込み、力を得ようと企んでいた。

何故ならレクエルド地方には神と呼ばれるポケモンが存在せず、簡単に乗っ取ることが出来たから。

 

護ってくれる存在や助けてくれる存在が居ない絶望感に人々は打ちのめされ諦めていたその時、1人の人間と小さなポケモンがレクエルド地方を訪れた。

 

人間が祈りを捧げると小さなポケモンは秩序の神へと姿を変えた。

人間とポケモンは災いを食い止めようとしたが、災いは止まることなく広がり続けていく。

暗闇に包まれていく世界で諦めず光を放つポケモンと人間の姿を見た人々は彼らの為に祈ったその時…。

 

天空から眩い輝きが放たれ一瞬にして暗闇が消え去っていく。

輝きを放つのは全知全能の神”アルセウス”だったのだ。

 

アルセウスは自分の二人の子供を呼び出した。

それは空間の神パルキアと時間の神ディアルガだった。』

 

「とまぁ、全なる神と時空の神が現れてなんやかんやあって災いは消えて、今のレクエルド地方があるって事よ」

 

と、ドヤ顔をしながら神話を話し終えたアカツキさん。

これでもまだ1部と考えると中々長い物語だ。

 

「その何やかんやが気になるんですけど…」

 

「これでもだいぶ割愛してあるね、続きは今度私が話すよ」

 

「そうしてくれると嬉しい」

 

そう話しているとアカツキさんが話を続ける。

 

「時空の神はここアステリシティの災いも消してくれたとも言われていてね、それで祠があるんだ」

 

「アステリシティ自体も時空の神に由来するシンオウ地方の文化が根強くて、花畑とかもシンオウ地方のソノオタウンから寄贈してもらった種から育てられてるんだって」

 

へぇ〜っと呟きながらナギトは祠に目をやる。

アカツキさんが来る度綺麗にしてくれているのだろう

何千年も昔から存在する石の祠は鏡のようにキラキラとしていた。

 

「この祠に”ある物”を置くことで…伝説のポケモンは訪れるのか…。

その”ある物”って…」

 

「それは、秘密だ」

 

ナギトの言葉を遮るようにしてアカツキさんは含みのある笑みを浮かべてそう言った。

ナギトは昨日軽く話した”ある物”に関して興味を持っていたようだ…。

実の所私も”時空の遺跡に捧げる物”の在処は知らない

きっと知っているのはアカツキさんとグラナダさん、そしてイブさんだけなのだろう。

 

ナギトは言葉を遮られたのもあり、それ以上聞くことは無かった。

 

「んで祠に来たけどメルはなにするん?」

 

忘れるところでした…。

 

「警備ポケモンの体調確認と設備の点検を行います!」

 

「前と同じか」とアカツキさんは笑った。

ちょうどそのタイミングでマスキッパに絡まれたグラナダさんも祠にやってきたので

まずはマスキッパ達の体調確認から始めることにした。

 

「やることは簡単、怪我とか無いかとか具合悪そうじゃないかとか丁寧に確認してあげる。

その後彼らの好物をいっぱいあげて終わり!」

 

なるほど、とナギトは納得し2匹ずつ分担して確認することにした。

グラナダさんのオリーニョの力も借りながら、日々遺跡の為に頑張ってくれているマスキッパ達を癒してあげた。

今回の好物はシンオウ地方の特産品『もちもちキノコ』である。

トレーナーズスクールに行く前買っておいたのだ。

 

 

彼らの体調も良好、次は設備の点検…

 

「設備のメンテ終わらしといたわ」

 

少し顔を汚したアカツキさんがそう言った。

仕事の速さに驚かされ、言葉の意味を理解するのに一瞬時間がかかった。

 

「ありがとう!天才すぎる」

 

「任せとけって〜これぐらい俺には楽勝よ

さて、他にやること無いなら早くオルガンを流しに行こうぜ」

 

「うん…やることはこれで終わりかな

後はグラナダさんとマスキッパ達に任せます!」

 

「任せとけ〜」

〈キッパ!!〉

 

マスキッパ1匹1匹頭を撫でた後

私達は時空の神の石像とマスキッパ達に見守られながら祠の間を出た。

 

 

 

 

 

 

祠の間の点検も終わり、私達はパイプオルガンが輝く最初の広間へと戻ってきた。

 

アカツキさんのお気に入りという曲の楽譜は大切に持ってきたが、どうやって演奏するのだろうか

アカツキさんがピアノを弾けるとは思えないし……。

 

「確かに俺はピアノを弾けないよ」

「えっ!口に出てた…?」

「メルが思ってる事は単純だからわかるよ」

 

そんなにわかりやすかったのか…?

アカツキさんの言葉にモヤモヤする。

 

「さて、ここまで持ってきてくれてありがとう

楽譜を貸してもらおうか」

 

そう言われ素直に楽譜をアカツキさんに手渡す。

どんな曲なのだろうか、どう演奏するのだろうか

ワクワクで胸が高鳴ってくる。

 

アカツキさんは楽譜を持ってパイプオルガンの元へ向かい、譜面台に楽譜を丁寧に置く。

 

「グラナダ頼む〜」

「おうー」

 

グラナダさんはそう返事をするとパイプオルガンから少し離れた所に設置されたレバーの元へ行く。

レバーの両横には水が入ったガラスの円柱タンクが置いてある。

 

グラナダさんはレバーを重そうに降ろすとタンクに入っていた水が勢いよく配管を通って下に流れていく。

すると譜面台に置いてある楽譜がパラパラとページをめくっていく。

 

そして、それに合わせるかのようにパイプオルガンが鳴り響いていく。

 

 

 

その曲は…落ち着いたメロディでどこか寂しさを感じるのに心が安らいでいく不思議な曲で

素敵なメロディに旧音楽堂に居た人々やポケモン達も目を閉じながら聞き入っている。

 

 

そして、転調する……というタイミングで当たりは静寂に包まれた。

 

 

「この曲、途中から破れててこれ以上はいつも聞けないんだよなぁ…表紙もないからタイトルもわかんねぇの」

 

そう言いながらアカツキさんは楽譜を取った。

 

「素敵な曲だね」

「神秘的っていうのはこういう感じなんだな」

 

「だろぉ?続きが絶対どこかにあるんだ、それを聞きたいなら自分で探せって感じも俺が気に入ってる理由」

 

タイトルも分からず途中までしか聞くことが出来ない曲…か。

確かに探究心が強いアカツキさんが好みそうな曲だ。

それにしても本当に素敵な曲だった。

 

「それにしてもどんな仕組みで勝手に…」

「水が流れて行ったでしょ?

本来は鍵盤を押すことで空気の圧を作って演奏しているのを

水を利用した水圧とゴーディの天才的設計によってどうこうしたってアカツキが前話してたよ」

 

水圧か……だから水のタンクがあったのか。

 

「さて、俺のお気に入りも聞かせれたし

そろそろメシでも食べにいかねぇ?」

 

その言葉でお昼をとうに過ぎていることに気付き

グラナダさんのオススメのお店でお昼を取った。

お料理はどれも美味しかったそして何よりも

ミツハニーが厳選した蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキが天才的に美味しかった、また来よう……。

 

 

「そういえば、ナギトくんはジムリーダーなんだっけ?」

 

お茶を飲みながら談笑をしているとふとアカツキさんはナギトにそう聞いた。

 

「一応、まだ新米だけど」

 

「ふーん」

 

お茶を一口飲むと、何か思いついたようでニヤリと笑を零し

 

「じゃあさ、俺と一戦交えてくんない?」

「えっ」

 

何が「じゃあ」なのか……。

 

「護り人作戦にいたジムリーダー達は全員ポケモンバトルの腕前がイカれたぐらいに強くて俺誰一人勝ったことないんだわ

もちろん、メルにも昔コテンパンに負けた」

 

「そんなことは無いような…」

 

「あるよ、相性的には完全に勝ったと思ってたのに

しっかり対策されたの俺覚えてんだから」

 

確かに彼の手持ちには電気タイプの子がいたのを知っていたから蓄電を持った子で対応したな……。

 

「そして、珍しくイブさんが認めたジムリーダー

そんなの強いに決まってんだろ

だから俺と戦ってくれよ」

 

「よく勝ち目ない相手に挑戦するよなお前も」

「勝ち目が無い方が燃えるだろ?」

 

ナギトはしばらく考える素振りをすると…

 

「いいよ、やろうか

ポケモン達も長い間挑戦者が来なくて身体を動かしたくて堪らないだろうしな」

 

「話がわかるじゃ〜ん、グラナダ早速バトルフィールド貸してくれ」

「そんな急な…はぁ……手続きするよ」

 

アカツキさんの思い付きから、グラナダさんはスクールのバトルフィールドをすぐに準備してくれた。

スクールの生徒達も見守る中、アカツキさんとナギトのポケモンバトルが始まるのだった…。

 

 

 

 

 

2人が位置につき、グラナダさんが審判として真ん中に立つ。

私は興味が湧いたのかモンスターボールから出てきたタギングルを膝に乗せて観戦席から眺めている。

横にはスクールの生徒達が集まってきていて、皆目を輝かせながらまだかまだかと話している。

 

「ルールどうすんの?」

「そこは先生が決めてくれよ〜」

「えぇ…じゃあ…

『1対1交換無し、戦闘不能にさせた方が勝ち』

1番シンプルなルールで行くけどいい?」

 

「異議な〜し!」

「了解」

 

「OK、各自ポケモンを!」

 

「久々のポケモンバトルなんだろ?本気でかかってこいよ!」

「当たり前だ」

 

「それは良かった、行け俺の相棒!!」

 

アカツキさんはそう言ってスピードボールを勢い良く投げ、中から電撃と共にポケモンが現れる。

 

«ピッカ!!»

 

首元に赤いバンダナを付け普通の個体より色が濃い

色違いのピカチュウがビリビリと電気を走らせながら現れた。

 

「頼んだぞ!」

 

それとほぼ同時にナギトはダークボールを勢い良く投げる。

 

«ブラッキッ»

 

中から現れたのは真っ黒な毛並みに三日月模様を輝かせたブラッキーだ。

 

「それでは、バトル開始!」

 

グラナダさんのその言葉でバトルが始まった。

 

「ピカチュウ先手必勝電光石火!」

「目を離すな、構えろ!」

 

閃光のように走り込んでいくピカチュウ

ブラッキーはピカチュウから視線をそらさないようグッと構える。

 

ピカチュウの電光石火が来る!その瞬間

 

「バークアウト!」

 

«ブラッ!!»

«ピッ!»

 

真っ黒な衝撃波がピカチュウに直撃する。

砂埃を上げながらピカチュウは転がっていくもののすぐに体勢を立直し電気袋をパチパチと言わせる。

 

「流石だな…ピカチュウアイアンテールだ!」

「また突っ込んでくる、構えろ」

 

長いしっぽを銀色に輝かせながら走り込んでいくピカチュウをまた鋭い視線で構えるブラッキー。

 

«ピカァ»

 

しっぽを振りかざしたその時

 

「今だ雷!」

 

«カチュー!!»

 

「避け…!」

 

ブラッキーの頭上から稲光が大きな音と衝撃と共に降り注いだ。

辺りには土煙が舞い、ブラッキーの様子は分からない。

 

「よくやったぞピカチュウ」

 

«ピカ!»

 

満足気なピカチュウを横目にスクールの生徒や私達の視線は土煙の中に集まる。

土煙が落ち着くとそこには

 

「なっ!」

 

赤黒い長い毛並みを揺らし鋭い爪を構えるポケモンがそこには立っていた。

 

「まだ行けるよな、ゾロアーク」

«ゾアー!»

 

そう、ブラッキーの正体はナギトの相棒であるゾロアークだったのだ。

 

「そんなのありかよ…流石ジムリーダーだわ

だけど、手は抜かねぇよ、ピカチュウもう一度アイアンテール!」

 

«ピカ!!»

 

「ゾロアーク、シャドークローでなぎ払え!」

 

«ゾア!»

 

銀色の尾と禍々しく歪む爪が勢い良くぶつかり

フィールドに衝撃が走る。

 

«ゾアッ!!»

«ピッ!»

 

力の押し合いになるものの、ゾロアークが思い切りピカチュウをなぎ払い、地面に体勢を立て直しながらピカチュウが転がっていく。

 

「今だ、あくのはどう!」

 

«ゾアー!!!»

 

その瞬間を見逃さず…ゾロアークはあくのはどうを思い切り放ち、ピカチュウに直撃する。

再び起こった土煙が落ち着くと…

 

 

«ピカァ……»

 

 

 

「ピカチュウ戦闘不能、ゾロアークとナギトの勝利」

 

 

「まじかぁ、完全にパワー負けだなお疲れ様ピカチュウ」

「ゾロアーク久々のバトルなのによくやった、ありがとう」

 

お互いポケモンに感謝を伝えモンスターボールへと戻した。

観戦席からは生徒達によって大きな拍手が送られた。

久々のポケモン観戦はとても興奮した。

 

 

その後、スクールの生徒達に囲まれ優しくポケモンバトルのことを教えるナギトを横目に

タギングルに興味を持って寄ってきた生徒達の話を聞いたりと時間を過ごしていればあっという間に夕暮れになっていた。

 

 

「明日にはアステリシティからは出ようと思ってて」

 

「早いなぁ、前みたいに切羽詰まってるわけじゃないんだろ?ゆっくりしていけばいいのに」

 

「そうなんだけどね…次行きたい街でポケモンバトルのイベントがあるみたいで

せっかくならそれに合わせていこうかなって」

 

「えっまじ!俺も行っちゃおうかな〜」

 

「お前はまた楽譜の続き探すんだろ?

さっさと見つけ出してくれないと手伝ってる僕の身が持たない」

 

「え〜ケチだなぁ」

 

不貞腐れ顔のアカツキさんを面倒くさそうにあしらうグラナダさん。

そんなアカツキさんに

 

「久々のポケモンバトル、本気が出せた

またやろうな」

 

そうナギトは微笑みながら伝えた。

それにアカツキさんも照れ隠しのように笑い

 

「当たり前だろぉ〜俺以外に負けんなよ!」

 

2人は固い握手をした、初対面だったのにここまで打ち解けれたのは両者の友人としてとても喜ばしい。

 

「メルさん」

 

そんな2人を見つめているとグラナダさんに声をかけられる。

 

「色々と思い詰めることもあっただろうけど

お前にはもう僕やアカツキ、そしてナギトくんもいるだから

無理せず何時でも連絡するなりしろよ

アステリシティはいつでもメルさんを歓迎するよ」

 

「…!…ありがとう!」

 

その言葉の暖かさに涙が溢れそうになるのをぐっと堪えた、満面の笑みで感謝を伝えた。

夏本番の訪れかのように暖かく優しい風が花弁と共にアステリシティを包み込んで行った。

 

 

次の日の朝、私とナギトは2人に見送られながらアステリシティを発った。

 

 

 

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