「もう冒険者にはなれなくなったね。」
「うん、どうしよう、イジャニーヤに帰る?」
「そんな冷たい冗談は聞きたくない。」
明月も照らさない暗い路地で、二人の小柄な少女が特殊な手話で素早く交流していた。彼女たちの金色の髪は束ねられ、まるで麦の束のようになっていて、顔立ちもほぼ同じで、まさに『蒼の薔薇』の忍者姉妹、ティアとティナだった。
ここは帝国の領内。魔導国の属国に来た理由は、逆の発想と行くところがなかったからだ。
地図の外の場所に到達するには、途中でアダマンタイト級冒険者でも油断できない危険地帯に遭遇するため、装備と消耗品をしっかり整えなければならない。
しかし、補給の場所を見つけるのは非常に困難だった。
王国はすでに存在しない。法国と蒼の薔薇は対立しており、教国の社会管理の方式には潜入が難しい。そして、評議国と聖王国は正反対の方向で、難点も多かった。
竜王国については、一見順路に見えるが、彼女たちは最短での移動を計画しており、立ち寄ることはない。
『蒼の薔薇』が収集した情報によると、その国の立場は属国よりも悪く、魔導王の力に完全に依存してビーストマンを撃退したうえ、アダマンタイト級冒険者のパーティーが不可思議に失踪する事件も発生しているため、警戒せざるを得ない。
こうして、簡単な排除法を使うと、残るのは帝国だけだった。
また、帝国の各地には、ティアとティナがイジャニーヤ時代に持っていた旧拠点がまだ存在する。ここもその一つだ。
暗い路地の地下隠れ家は子宮のような構造で、密室としての総面積は40平米ほどあるが、大部分は狭長の通路で、ガガーランは奥の部屋を除いては横向きでしか通れなかった。
外にいる双子は無言で話し合っている。
「完全に冗談ではないよ。どうしよう、もう冒険者の身分で活動できない、完全に地下に潜ってしまった。イジャニーヤ時代とほとんど変わらない。」
たとえアダマンタイト級冒険者であっても、母国が滅びた状況では亡命者に過ぎなかった。
母国が壊滅する中で逃げた彼女たちにとって、かつての名声がどれほど響いても、もはや世界の表面で活動することは不可能だった。
確かに、冒険者の規定では国と国の争いには介入できないが、魔導国と王国の戦争は、異形種と人類種の戦争と言っても過言ではなく、手段も非常に極端だった。
したがって、冒険者の仲間たちが理解を示しても、一般市民からは「亡国の薔薇」といった嫌なあだ名で呼ばれることがあった。
もし誰かが彼女たちに依頼したいと思ったとしても、それはワーカーとしての性質に変わり、依頼主が彼女たちの実力だけを重視し、仕事の内容は道徳と法律の境界線を行き来するものとなった。
「アダマンタイト級」の薔薇は、もしかしたら永遠に枯れてしまったのかもしれない。
「重要なのは彼女たちだ。私たちは何とか生き延びられる。」
「薔薇は再び咲けるのか?」
自分の妹がこんなに詩的で少し無邪気な質問をしたのを見て、ティナは思わず指を止めた(呆然とした)。
「魔導王を解体して肥料にすれば、もしかしたら咲くかもしれない。」
ティアはその皮肉を見て、苦笑を浮かべるしかなかった。
拠点の奥の部屋は、シングルベッドと一式のテーブルと椅子でいっぱいだった。壁には一対の錆びた手錠が打ち付けられ、テーブルの上には星のような魔法の灯りがともっていた。
雰囲気は沈んでいた。
ガガーランは装備を身に着けず、布の服を着て、テーブルのそばで長年の相棒であるハンマーを見つめていた。イビルアイは明暗の境界で壁にもたれて立っていて、仮面の裏でどんな表情をしているのかわからなかった。
ラキュースはつい先ほど、かつてないほどの大量の涙を流した。
止まらない涙を拭きながら地面に崩れ落ちる姿は、まるで子供のようだった。今、彼女はついにベッドで壁に向かって身を丸めて寝てしまった。
しかし、たとえ感情がこんなにも制御できない状態であっても、彼女が仲間たちに言った唯一の台詞は「ありがとう」だった。
初めて会った時から、イビルアイは思っていた。
頭を冷やして冒険に出たお嬢様かと思っていた、ちょっとした傷で家に帰りたがるタイプだと考えていた。しかし、花のような外見とは裏腹に、彼女の心は非常に強靭だった。
もし、彼女が逃げた仲間たちを責めて激怒したら、イビルアイは少しは気持ちが楽になったかもしれない。少なくとも、今のように沈んだ気持ちにはならなかっただろう。
(…ずるい。本当にずるい、ラキュース。)
ラキュースが怒り狂っていたなら、ただ平手打ちをして彼女を目覚めさせれば済んだのに、仲間たちの負い目もずいぶん減っただろう。しかし、残念ながら「ずるい」リーダーは最初から仲間たちの行動を理解していた。
(ああ……こんな無力感は、二百年ぶりだ。)
「……リグリットは…?」
どれほどの時間が経ったのか、ガガーランが沈黙を破った。
「うん、連絡を取った。『王都』で待っていればいい。」
「そうか…」
話題は途切れた。空気には言葉を飲み込む雰囲気が漂い、煩わしかった。
しかし、イビルアイはもう何も言わなかった。雰囲気を改善することは常にガガーランの役割であり、彼女はこの女性で構成されたチームの中でまるで兄のような存在だった。
この「兄」も今や雰囲気を打破する点を見つけるのが難しいが、イビルアイはすべてを彼女に委ねることに決め、心の中で小声で謝った。
「…人間の世界は本当に非常に狭いな、イビルアイ、少しでも油断すれば絶滅しそうだ。」
ガガーランの目は灯りの下で少し細くなり、もはや人間ではない魔法詠唱者は肩をすくめ、当然のこととして示した。
「そう、世界の支配者は決して人間ではなく、これからもそうだろう。人間だけが自分たちの国家が繁栄していると思い込んでいる。そして真実は、人間は実際には本当の強者たちによって形成された狭間で喘いでいるに過ぎない。」
彼女のセリフはその幼い声に似合わず、彼女のイメージを「人小鬼大」にし、ガガーランを思わず微笑ませるが、イビルアイが言っていることは事実だと認めざるを得なかった。
なぜ各国の地図には大陸の北東角のこんなに小さな部分しかないのか?それは99%の人間が大陸の中央から生き延びて戻れないからではないのか。
古い伝説を考えるまでもなく、人間は一度他の種族によって「完全に淘汰される寸前」だったのだ。
「モモンのような強者がもう少し多ければ、人間にも救いがあるかもしれない。」
ガガーランの感慨に対して、イビルアイは全く同意できなかった。
亜人たちは強者を崇拝し、強者を敬い、弱者は野心を抱いて強者になろうとするか、あるいは心から強者に従うかのどちらかだ。
だから、亜人類にとっては、強者が多ければ多いほど集団が強くなるという論理は成り立つ。しかし、人類は違う。人類の文化には、強者を称賛し、崇拝する要素があるものの、それは表面的なものに過ぎない。真の核心論理は、実際には「強者を利用すること」である。
弱者が多い普通の人々の中には、「能者多労」という考え方が根付いており、強者の保護がもたらすものは、しばしば弱者の怠慢である。強者が強ければ強いほど、弱者はますます依存する——例外も確かにあるが、概ねそうである。
ましてや貴族などは、ようやく現れた強者を自分の駒として使い、自分の支配下に置き、利用しようとする。
だから、ガガーランの望みは通らないだろう。もしモモンがもっと増えたとしても、人間の世界はさらに混乱し、全体的な実力の衰退を招くに違いないと、イビルアイは思った。
しかし、彼女は反論しなかった。まず第一に、彼女はそのような感情の低さには至っていないし、第二に、一つの名前が彼女の思考を完全に占めていたからだ。
それは、200年来唯一彼女が憧れ、恋い焦がれた名前——モモン。
「モモン様……!」
まるで何か超高位の魔法を発動するかのように、イビルアイがこの名前を呟く声の中には、初めて「希望」という感情が現れた。
灯火。そう、まさに灯火、その漆黒の存在こそ、今のところ唯一の灯火だ。
もし彼がいるなら、必ず現状を打破できるはずだ!
イビルアイは、モモンが世界のあらゆる障害を突破できると確信していた。彼の双剣が向かう先には無敵があり、彼のマントの下には世間で最も安全な避難所がある。
しかし——
「イビルアイ、モモンが魔導王を滅ぼせると思うか?」
イビルアイは、その質問をしたガガーランに対して激しく睨みつけた。もし面がなければ、相手は震えていたに違いない。
彼女が怒った理由は、ガガーランが「現実」を思い出させたからだ。
イビルアイは、すぐにでも肯定的な答えを出したいと切望していた!
もちろんだ!そんなの問うまでもない、モモン様は必ず魔導王を倒せる!——彼女はそう自信を持って答えたかった。
実際、聖王国からの使者と出会うまでは、イビルアイはそのように確信していた。
しかし、魔皇ヤルダバオトに関する聖王国の情報を得た後、イビルアイの内なる理性は、自分に「可能性」を認めさせた。それは、モモンの実力がヤルダバオトや魔導王より劣るということだ。
ヤルダバオトがモモンとの対戦で「本当の姿」を見せなかった理由は何か?
その答えは、モモンが強力な吸血鬼に勝てた理由、つまり強力な魔法の道具に隠されているだろう。
ヤルダバオトが全力を使わなかった理由は、モモンが持っている多種多様な魔法の道具を警戒しているからだろう。
振り返ると、モモンは戦闘の中で氷と火という非常に恐ろしい魔法武器を使った。その戦いの前にはさらに多くの道具を使っていたに違いない。
あの強烈な地震も、高位魔法を封じたクリスタルによって引き起こされたかもしれない。
そして、これらの貴重な魔法の道具をモモンは惜しげもなく使っている。まるで数が膨大なように見える!
ヤルダバオトは、モモンの底力を見抜けなかったため、保険をかけて自分の本当の姿を見せなかったのだろう!
こうなれば理解できる。もし自分が強力な道具を次々と使う敵と戦ったら、自分も非常に慎重になり、まずは自分の底牌を見せないようにするだろう。
それなのに、モモンはヤルダバオトと互角の戦いをし、しかもいくつかの道具を使用した状態であった。
明らかに、モモンの本体の実力はヤルダバオトより劣る。つまり、魔導王に勝てるほどの実力も持っていないだろう。
魔導王がモモンを恐れている理由も、ヤルダバオトと同じだろう。
これが「理性的なイビルアイ」が認識した事実である。
——モモンは無敵の存在ではない。あの大英雄も、
それなら——
「筋肉女、ラキュースが目を覚たら、一つ相談したいことがある……」
「モモンに会いに行くことを相談するのか?」ガガーランは皮肉な笑みを浮かべた。
「え?どうしてそれを知っている!」
「はは!俺がお前さんの小さな考えを見抜けないと思うか?」
「……そう、ガガーラン、モモン様と正式に相談したいと思っている……状況次第では、モモン様と一緒に『王都』に行くかもしれない。」
モモンがエ・ランテルの「保民官」のような立場にあることを考慮すると、彼を引き抜く行為はそこに住む人々の反感を招くかもしれない。
しかし、王国が全滅した後、「保民官」の意味は大きく変わった。
このような極端な状況では、中立の道が断たれ、モモンという英雄がエ・ランテルに留まると、時間が経つにつれて彼は二つの道しか選べなくなる。
一つは、怒りながらも無力な人々に「唯一の希望」とされ、虚しい声援の中で反魔導王の道に持ち上げられることである。これはイビルアイの予測により、必敗の戦いとなるだろう。
もう一つは、人民の期待を完全に無視し、自らの義務を真剣に果たし、必然的に現れる反乱者を全て斬り捨て、最終的には人民と対立し、魔導王の手先となることである。
どちらの道を選んでも、漆黒は終焉を迎えるだろう。
魔導王が望んでいるのは、恐らくモモンが第二の道を選び、真正の部下となることである。果たして王国の全滅という極端な手段が、モモンに「選択」を強いるための目的を含んでいるのではないかとも感じられる。
……恐ろしい策略家だ。
このような認識に基づき、イビルアイはモモンを「救い出す」ために早急に動かなければならないと考えた。
つまり「第三の道」——逃げること。少々耳障りであり、ある意味でエ・ランテルの人々を見捨てることになるが、長期的には最良の解決策である。
ちょうど今の『蒼の薔薇』のように。逃げること。
そうすれば、『漆黒』も冒険者としての活動ができなくなるだろう……その時、もしかすると『蒼の薔薇』と合併するかもしれない?あるいは、モモン様が『蒼の薔薇』の歴史上初の男性メンバーになるかも?
…ちょっとモモン様の「ハーレム」みたいになってしまうが。ナーベはもちろん、ラキュースに対してもイビルアイは自信がないが。
しかし、イビルアイのこの提案には確かに私心がある。
もし相談がうまくいけば、本当にモモン様と一緒に冒険することになるかもしれない!それは——この世で最も幸せなことだろう!
…………この少しの「私心」が、未来の長い時間の中で彼女を苦しめる「罪悪感」へと変わるだろう。しかし今は、彼女はそのようなことに全く気づいていない……
彼女は自分の提案を口にした:
「今の状況では、『漆黒』をエ・ランテルに留めておくのは愚かなことだ。魔導王が彼らに手を出す前に、私たちが先に彼らを救い出さなければならない。」
「そうか、そうか、実は俺もそう思っていた……おい!ラキュース、寝たふりをするなよ、もう起きているだろう、意見を出してくれ!」
その返事として、シングルベッドに丸まっていた、見た目には弱々しい体が少し動き、ゆっくりと起き上がった。
顔色は悪く、まるで数キロ痩せたかのようだった。
美しい金髪は乱れていたが、それでもまだ光沢があり、泣き疲れた双眸は平静を取り戻し、風のない湖のようだった――ただ、少しの優しさが欠け、厳しさが増していた。
「何よ、もう起きてたわよ。」
ほんのわずかな変化ではあったが、それがイビルアイにとっては耐えがたいもので、ラキュースを直視するのをためらわせた。ラキュースはそれに気づき、無理に笑顔を作った。
「イビルアイ…これでいいわ。賛成よ。『漆黒』は人類の希望だから、彼らの状況に気づいた以上、全力で救わなければならないわ。……でも、分かっているでしょう?」
ラキュースの眉間のしわに、イビルアイはうなずいて理解を示した。
「うん、分かってる。彼は今…魔導国の人間だ。」
つまり、裏切りの可能性を考慮しなければならない。もしかしたら、モモンはすでに「選択」をしてしまったのかもしれないし、もしかしたらすでに魔導王に仕えているかもしれない。
しかし、その「もしかしたら」は、イビルアイにはどうしても受け入れられなかった。もし『蒼の薔薇』以外の者がそんな「もしかしたら」を示唆したら、イビルアイはすぐにライオンのように怒るだろう。
「ラキュース、モモン様がそんなことはないと!」
ラキュースはイビルアイの宣言を手で遮った。
「分かってるわ、イビルアイ。私もあなたほど深く感じてはいないけど、モモンさんが高尚な人だと信じているわ……恐らく、彼も魔導王の暴行で苦しんでいるでしょうね。」
自分の親友を殺し、王国の人々を皆殺しにした不死者を思い出すと、ラキュースは憎悪に満ちた表情を浮かべた。
その表情には、ようやく昔の勇敢さが少し戻っていた。
「明日の朝、一緒に『漆黒』に連絡しましょう。」
「それで……皆様、シャルティア様は…!まだ準備が整っていませんか?」
浮かれた卵型の頭に対応する吸血鬼の花嫁たちは、互いに視線を交わし、仕方なく首を振った。
「申し訳ありません、パンドラズ・アクター様、シャルティア様は今、お風呂に入っていらっしゃいますので…」
「でも、もう三十分も待っているのですが?」
「はい、本当に申し訳ありません!」
「それにしても…シャルティア様は不死者なのに、どうしてお風呂に入るのですかね~?それに……確かに時間はまだありますが、お風呂で時間が遅れるのは、アァ~インズ様の命令には…良くないのでは?」
三十分も待っていた守護者の軽い苛立ちを感じ取った吸血鬼の花嫁たちは、深く頭を下げ、主人からの事前の指示を伝えた。
「大変申し訳ありません!しかし、シャルティア様は、まずこの任務のために変装する必要があり、アインズ様の任務を遂行する前に身体を清め、最良の状態にすることが重要だとおっしゃっていた…」
「…………ほう…?」
確かに、予定時刻までまだ数時間ある。シャルティアのように時間を使って自分を整え、「最良の状態」にするのが正しいのだろうか?パンドラズ・アクターは自分に問いかけた。
そして否定した。
いや、この意見は、他の者が考えている間にただ立っているだけの彼女の意見だから、間違いに決まっている!
パンドラズ・アクターは数日前、リクとの戦闘から帰った後、王座の間で起きた出来事を思い出した。
その時、彼、アルベド、デミウルゴスの三人はアインズ様の意図を考え続けていたが、シャルティアだけは完全に考えていなかった。
しかも、心安らかにしていた。考えている三人が結果を思いつけずに恥ずかしい思いをしていたのに、ただ一人考えずに心安らかにしていたのだ!
その場面を思い出すと、パンドラズ・アクターはその同僚に対して少し不満を感じた。
ちなみに、後に三人が互いに交流し、アインズ様の意図を見つけようとブレインストーミングを行った際にも、シャルティアのことが話題になった。
アルベドはその態度を軽蔑し、彼女があのままではどうしようもないと冷笑し、デミウルゴスは無関心に仕方がないといった反応を示した。
「残念ながら、お嬢様方、私は…ああ…!シャルティア様、ようやく出てきましたか…」
パンドラズ・アクターが細長い手を伸ばして、吸血鬼の花嫁たちを払いのけ、直接シャルティアを呼びに行こうとしたとき、ようやく浴室の扉が開いた。
すでに髪を乾かし、きちんと着飾ったシャルティアが慌てることなく出てきた。
それはシャルティアのもう一つの姿だった。
白いレースのロングドレスが彼女の細い腰と胸の「誇らしい」丘陵を繊細な糸で描き出している。おそろいの広い帽子をかぶり、長い髪は魔法の道具で金色に染められていた。
「まったく、淑女の入浴を待つのにこんなにうるさいとは……ん?何を見ているのでありんす?」
なぜか、パンドラズ・アクターは顎に手を置き、楕円形の頭を傾けながら真剣にシャルティアを観察していた。
「うん……ただ……もしかしたら初めて近くで見るからかもしれませんが……」
「一体どうしたのでありんすか?」
シャルティアは少し不快そうに眉をひそめた。彼女はパンドラズ・アクターの黒い目が自分のどこを見ているのか理解できなかった。
「…………うん、アイテム管理者としての直感で…シャルティア様、どうしてもあなたの胸~前に、私が見たことがない特別な道具~が隠されているような気がして…」
シャルティアがすでに激怒していることに気づかず、周りの吸血鬼の花嫁たちが恐怖に陥っていることに気づかず、パンドラズ・アクターは新しい道具を発見した「喜び」に浸っていた。
これはドラゴンの宝物に対する特殊能力ではなく、ただ長年の経験から磨かれた直感だけだ。
「ほう……もし可能なら、実際に見せてもらえませんか、たとえば道具の鑑定を…うむ!?」
興奮していたパンドラズ・アクターは言い終わらないうちに、ナザリック地下大墳墓のシャルティアの私室で、屍蝋玄室から大きな音が響き渡り、たまたま第五階に戻っていたコキュートスが疑い深く見上げた……
バハルス帝国の領土内、カッツェ平原に隣接し、かつての王国の要塞都市、現在の魔導国の首都エ・ランテルと遥かに対峙する同等の規模を持つ都市——アンセル。
エ・ランテルのような三重の壁は存在しないが、辺境の都市として防御が手薄に見えるのは、それが必要ないからだ。
帝国対王国の時代には、王国軍がここまで攻めてくることはなかったし、帝国対魔導国の時代には、防御を施さない方が賢明だ。
この都市の外れにある隠れた森の中に、一枚の漆黒のカーテンが突然現れ、その中から数人が現れた。
モモン(パンドラズ・アクター)、ナーベ、そして精巧な仮面を着けたシャルティア、さらにカラスのような頭部を持ち、堂々とした体格の従者、嫉妬の魔将。
先ほどペストーニャに傷を癒してもらったパンドラズ・アクターは、現在意図的にシャルティアとの距離を置いている。
「まあ、そんなに私に対して怒らなくてもいいじゃない?せっかく共に仕事をする機会なのに。」
パンドラズ・アクターはすぐにヘルメットをかぶった頭を振った。
「いやいや、シャルティア、今は任務が始まったばかりですから、台本通りに、あなたは私…モモンの宿敵なので、距離を置いているのは怒っているからではありません、ほんとうに。」
「……ほんとう?」
「うん、ほんとうに。」
そう言って、モモンは手を振り、疑問を抱えたナーベと共に予定の地点に向かって去っていった。
シャルティアは二人の背中を見送り、少し退屈そうに肩をすくめ、今回の任務の臨時部下に興味を移した。
嫉妬の魔将は突然、何か異様な視線を感じて、思わず震えた。
「…どうかしましたか?シャルティア様。」
「う~ん、特に何も。ただ……死者ではないけれど、あなたも結構可愛いわね。」
「は…お褒めいただき、従者として深く感謝申し上げます。」魔将は慎重に答えた。
「そんなに緊張しなくても、もう少し親しみやすくてもいいわよ?」
「いえ、とんでもない……どうか最大限の敬意を持ち続けさせてください。」
「そう…。では、行きましょう、私たちも行動を始めるべきよ。」
「はい。」
嫉妬の魔将は元々デミウルゴス直属の高位悪魔の一人だったが、今回の任務ではシャルティアに指揮権が委譲された。
「私のことを気にして、シャルティアがあなたに何かをすることはないと思うけれど、言葉での探りはあるかもしれない。まあ、距離を置いていればいい。」——デミウルゴスは嫉妬の魔将にそう注意していた。
今回の魔将の任務は、実際には「次元封鎖」という特殊スキルを発動し、『蒼の薔薇』の転移魔法を遮断するだけのものだ。
「蒼の薔薇の誘殺計画」には二つの段階がある。
第一段階は、シャルティアが主導する「魔剣調査」で、目的はラキュースの魔剣の実際の脅威性を確認することだ。
ラナは「魔剣はそれほど威力がない」との意見を維持し、アインズもその意見を受け入れているようだ。
その魔剣は伝説の英雄が持っていた武器で、もし本当にそのような力を持っているのなら、伝説に痕跡が残っているはずだ。そして、他の三つの剣も普通の効果しかないようで、もしこの魔剣だけが際立っているなら、それは不自然だ。
しかし、万が一の可能性でも考えて、アインズは最悪の事態に備えることを決めた。
もし魔剣が予想を超える力を持っていた場合、エントマの復讐戦は中止し、ナザリックから既に準備している予備戦力を投入して全力で対応することにする。この点についてはエントマに伝えてある。
シャルティアは、自分の主人が遠隔透視鏡でモモンたちを監視しており、第一段階が無事に終わると、エントマとグランテが現れることを知っている。
それが第二段階……
エントマの「宴」。
•
『蒼の薔薇』は最初からアンセル城内にいた。
彼女たちが隠れているイジャニーヤの旧拠点は、アンセルの旧市街に位置している。
しかし、彼女たちはモモンにこれを伝えず、帝都にいると嘘をついて、時間通りに向かうと言った。
少しずるいが、これが最も安全な方法だ。
実際に約束に来るのは『漆黒』だけで、自分たちには十分な時間があり、場の安全を確保し、監視される可能性を排除することができる。
また、モモンが現れた時に、ティアティナが尾行されていないかを確認することができる——つまり、自分たちが裏切られていないかを確認できる。
「もしそうであっても、必ずや魔導王がモモン様をこっそり利用しているに違いない!」
イビルアイはこう叫んだ。彼女は本来、モモンに嘘をつくことに非常に抵抗感を持っていた。
しかしティアティナは彼女よりもさらに不満を持っていた。
「なんで「メッセージ」を使って連絡を取る?魔導国だよ……魔導王に捕まる可能性はないのか?」
「私たちが潜入すべき、ラ…鬼リーダー。」
忍者姉妹の質問に対して、すでに状態を調整したラキュースは首を振った。
「ダメよ、ティアティナ、あなたたちを信じていないわけではないけれど、その方法ではダメなの。」
ティアティナの技量を考えれば、ラキュースは彼女たちが魔導国に成功裏に潜入できると信じているが、その方法は時間がかかり、言いにくい理由もある——
もしモモンが本当に魔導王に仕官していた場合、彼と接触するティアティナは捕まって『蒼の薔薇』全体を誘き出す餌にされる可能性が高い。
もし魔導王がティアやティナに公開処刑のようなことをするなら、ラキュースはそれが罠だと分かっていても、救出のために飛び込まざるを得ないだろう。
そのため、最悪の状況を避けるために、やむを得ず「メッセージ」での連絡を選んだ。
「でも、ラキュース、モモンがエ・ランテルの責任を放棄してくれるかどうかが心配だよ。これが一番の問題だ。」
皆はお互いに顔を見合わせた。
確かに、これが本作戦のキーだ。裏切りの可能性などは最悪の事態を考慮しているだけで、実際にはラキュースもそれがありえないと思っている——あのヤルダバオトを一人で撃退し、現在エ・ランテル全体を守っている英雄なのだから!
彼が非常に高潔な人物であるからこそ、エ・ランテルの人々を見捨てることを正義感や使命感から躊躇するのではないかと心配している。
「……可能性は高いと思う、ラキュース。」
「どうして?」
「直感だ。」
ラキュースがため息をつこうとしているのを見て、イビルアイはすぐに補足説明を始めた。
「勘違いするな、恋愛関係のことではないんだ。私と彼らとの連絡から得た直感なんだ。」
「ほう?早く教えてくれ。」
「うん、私が『美姫』の声しか聞いていないが、彼女がモモン様に伝えた後の返答が早くて、私の比喩的な説明にも大した反応がなかった。まるで既に予測していたような感じだった。」
皆はうなずいた。
「『漆黒』は自分の立場についても予測していたはずだし……私たちよりも深く理解しているでしょう。」
「俺もそう思う。彼はこの方面の経験は豊富かもしれない。ラキュース、彼はお前と同じように、どこかの国の貴族である可能性もあるかもしれない。」
「どうであれ、防ぐべきものは防ぐべきだ……」
「どうであれ、進展が順調であれば、再起の可能性もあるだろう……」
イビルアイは仲間たちの議論に加わらなかった。
なぜなら、彼女には直感とは呼べない「感覚」があって、それを言いたくなかったからだ。
彼女は仲間たちに何かを隠したいわけではなかったが、その「感覚」を話したくはなかった。その「感覚」は妙なもので、指先に細い短い刺が刺さっているような感じだった。
この「感覚」は、同様に「ライバル」との会話から来たものだった……
•
「——それだけなの、ガガンボ。」
「はは、相変わらず口が悪いな。モモン様にこれを伝えてくれ……私の名前も言っておいてくれ!『蒼の薔薇』とぼかすのは逃げだ!」
「ちっ……逃げ?私が……?」
「それに、モモン様は最近どうしている?ちゃんと食事を取っている?魔導王の暴虐で体調を崩していないことを願っているよ……」
こんな発言は、すぐに切断しようと思っていたナーベの逆鱗に触れた。
彼女は相手の不敬に対して厳しく叱責したいと思ったが、以前アルベドの名前をうっかり漏らしたため、自分を厳しく反省していたナーベは、自分を抑えて「アインズ様」と口にすることはなかった。
——しかし、彼女は小さなミスを犯した。
「モモン様…!彼はすべて順調です。心配しないで!」
ほとんど怒りの口調にイビルアイは一瞬驚き、その後、自分の質問がナーベの痛い部分に触れたのだと理解した。
おそらく、モモン様を非常に心配しているに違いない。パートナーであるナーベは相当自責の念に駆られているだろう。それなのに、そんなに直接的に質問した自分は本当に愚かだ。
——しかし。
モモン様?なぜナーベがそんな敬称を口にしたのだろう?しかも自分の使うものとはまったく異なる響きがある。
ナーベの口調には「恋愛」ではなく……心からの「尊敬」が込められている。
以前、モモンがどこかの王族だと推測していたが、本当にそうなのか?そして上司と部下の関係が、彼とナーベの間の真実なのだろうか?
忠実で美しい部下を連れて冒険するのは、すべての男性の夢だろう……イビルアイは心の中で呟いた。
その後、刺が現れた。
ナーベの方は、イビルアイとの会話が長すぎたせいで、モモンが様子を見に来た。
その時、ナーベがモモンを見て、ためらわずに言った。「あ、モモン、すぐに終わります。」
イビルアイももちろんそれを聞いた。
——これはどういうことなのか?
どうしてこんなにも急に逆転するのか?
その「モモン」という呼びかけには、イビルアイは一片の「尊敬」も感じられなかった。
なぜ?まるで……
その後、モモンが報告を聞いた後の返答によって思考が中断された。
こうして、疑念は一つの刺のように、イビルアイの心に突き刺さった……