ウマ十夜   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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黄金船 第一夜

こんな夢を見た。

 

手を膝に置いて、項垂れながら、思考にふけっていた。不思議なことに夢の中での、今日の出来事を思い出していたのだ。

 

なんでなのかわからない。いつもは朧気でなんの脈絡もない曖昧模糊な夢ばかり…なのに、その夢だけははっきり、はっきりと覚えていて、たしかに自分はそうしていたと、確信をもって言うことができる。確かに夢の中で記憶を振り返っていたのだと。

 

思い出せるというよりかは、記憶の奥底にあったものに焦点をあわせるといったもので、夢のようで夢ではないような…現実と夢の挟間を揺蕩うような、なんとも不思議なものだった。

 

そんな夢の中ではウマ娘のトレーナーだった。トレーナー試験を合格したばかりの担当を探す、一人の新米トレーナーだった。

 

「担当、どうしようか…」

 

学園から隠れるようにひっそりと設置されたベンチに腰掛けて、大層憂いを帯びた目で黄昏れている。もうすっかり夕方だった。着てきたスーツにはシワができて、ネクタイは誰もいないからと緩ましている。首を絞められる感触が妙に好かなかった。なんだか将来の不安を煽るようで苦しかったからだ。せっかくの見栄も形無しだ。人気の無い学園の片隅で、差し込む夕日に目を背けながら、備え付けられていた自販機から買った無糖のコーヒーで乾いた喉を潤した。

 

うだつの上がらない人間がぽつんとそこにいたのだ。

 

結局のところ、俺は担当に目星も付けられていなかった。模擬レースを見たがどうにもピンとこなかったのだ。

何人か、そう、ウマ娘と並ぶたびに鼻血を噴出したり、昇天しながら走るアグネスデジタルや、いつの間にか居ていつの間にか消えるいつの間にか模擬レース上位に立っていたアストンマーチャン、ゲートから独特な威圧感を放ち終始周りを圧倒していたダイイチルビー達は惹かれるものがあったが、それでも、自分の担当と考えるとどこか『いまではない』という考えが浮かび、結局決められなかった。

 

不断な思考にうんざりするほどだった。

 

「はぁ…」

 

「よっす、トレピッピ、今暇?」

 

「…暇じゃないさ。自身の無力さに打ちひしがれてるところ」

 

ふと、声に気をやった。いつの間にか隣に座っていた葦毛のウマ娘がいた。

 

顔を上げて見やれば、思うよりも身長が高い。ヒトの耳に当たる部分に耳当てをして、長い髪を垂らしてこちらを覗き込む。その姿は、美人が多いウマ娘でも突出してると言えるほど。西日に照らされた彼女はとても綺麗で思わず見惚れてしまった。意識がきゅっと彼女に狭まり精度が上がり、ふと、視線が手元に落ちた。

 

いつからそこに居たのかわからない彼女のその手には『超爽快!五ツ谷サイダー にんじん牧草味』というペットボトルが握られ…「なんだそれ超不味そうだな」思わず声が出てしまった。声を出さずにはいられなかった。

 

「お?黄昏トレピッピはこれをご所望か?生憎これはやれねぇなぁ。ゴルシ様が第二宇宙域有害指定外来生物から奪い取ったヤツだからな!これ一つしかないんだ。代わりとなるものといったら…『抹茶 緑茶味』か『オレンジ不使用!超濃縮オレンジジュース』があるぞ?飲むか?」

 

「待ってツッコミどころは3つか4つくらい増えたんだけど」

 

なんということだ突っ込みどころが多すぎる。なに?なんなの?ゴルシ?夢にしては頭に負担を掛けてきたのが印象だった。夢くらい休ませてくれ。そう思えども夢現のようなこの場所で、なぜだか安心できるやり取りでもあった。

 

「まず最初に第二宇宙域有害指定外来生物が持ってるものがそれだったのか?てか勝ったの?すげぇな。あと『抹茶 緑茶味』はもう緑茶だし、『オレンジ不使用!超濃縮オレンジジュース』はどうやってオレンジの味を再現してるの?ノンアルコールビールのノリなの?てか誰…ゴルシ?ゴルシ…ゴールドシップ?」

 

ゴルシという名を聞くと、なんだか聞いたことがあるように思えるから不思議だ。破天荒、自然災害の親戚、学年クラス不詳、どうして学園に居るのかも不明なウマ娘。頭の中に知らないハズの記憶がまろびでる。脚質は追込、最下位から1着になることもあれば、レースそっちのけでレース場の草を毟り15着になることもある。そのポテンシャルから数多のトレーナーが勧誘したが誰の誘いも乗らず、勧誘したトレーナーを無人島に放置したり、一週間隙を見て誘拐したりとやることなすことすべてハジけているウマ娘。初めて会うはずなのに知らない知識が頭を過ぎる。でも不快には感じなかった。

 

きっと、()()()()()()()()()()だという直感があった。

 

そういう、なんとなくだが確信があった。先の返しも、こうすればゴールドシップというウマ娘に合わせられるだろう。そういう確信があった。なんでなのかはわからない。夢だからだろうか。夢にしては出来すぎというか…まるでなぞっているみたいだった。誰かの軌跡を。誰かの足跡を。

 

「おぉすっげーな、怒涛のツッコミと推理力。一緒にゴルシちゃんと世界取りに行こうぜ?」

 

「おぉ~お前とてっぺん目指すのも悪くないかもなぁ。こうしてうだうだとやってるよりな」

 

「だろ~?なんだよ黄昏れてる割りに頭がや柔いじゃねぇか。アグネスデジタルやダイイチルビーを見る目が、タスマニアデビルみたいな目してたのにトレピッピは臨機応変な木綿豆腐頭だったってわけ「だが断る」

 

「ナニッ!?」

 

「ゴルシちゃんの誘いに…乗ら……ないだと………!?」

 

「俺の最も好きなことは、自分の方が上だと思ってる奴に『NO』と断ってやることだァー!」

 

不思議と噛み合う感触がした。

 

やはり、心のどこかでコイツしかいないという確信があったのかもしれない。今まで感じてきた『いまではない』というものは感じず、ただゴールドシップとこうして話しているときだけは心の靄を気にせず話すことができた。よく晴れた日の太陽を見上げたような、輝かしさがあった。

 

夢だからだろうか。都合の良い風になるのだろう。こうも思った。

 

きっと、()()()()()()()()()()()()()…と。

 

「トレーナァーッッ!!」

 

「ふぐぅっ…!」

 

そんなことを思っていても、ゴルシの奇行にはついていくのは難しいらしい。一瞬のうちに景色が空転、走る衝撃、腹に飛び蹴りを食らったことだけはわかった。

これ絶対骨まで逝かれてる。そんなことを思いながらも、ベンチごと後ろに倒れて、俺は意識を失った。夢の中で夢落ちした。なんともおかしな夢だった。

 

「おーい、トレーナー。……こりゃAI三女神スペシャルエディションにご招待されちまったか…?」

 

マイペースなゴールドシップの声が、やけに耳に残った。

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