ウマ十夜   作:よくメガネを無くす海月のーれん

2 / 8
現 寝起き一発攫われて

「っ…なんだったんだ。あれ…」

 

目が覚めた。

 

お腹に走った鈍痛は夢から覚めたあとなのに現実に響いていた。呆けた頭を振りながら、軋む身体を起こしては、手探り掴んだ目覚まし時計は、なんだ、まだ早朝の5時じゃないか。

霞む目をこすりながら、窓から差し込む朝の光をぼんやり眺めて、ふと、夢と同じように思い出した。

 

「俺、トレーナーになったんだ」

 

まるで夢をなぞっているようだった。そういえば俺はトレーナー試験に合格して、今日が出勤日のはずだった。今日行われる模擬レースを見て担当を決めると計画していた。他にもライバルが居るから早めにいい子を見つけないとって目覚まし時計を早めに設定したのにそれより早く起きてしまったらしい。

 

あたりを見回せば、トレーナー寮の寝室。周りには寝具といくつか開いた段ボール、私物や家具を運び込んで、必要なものだけを取り出してあとは追々と未来の自分にぶん投げて、今日に備えて早めに寝た。

 

昨日の思考に頭痛が痛い(重複表現)

やれることは先にやっといてくれ。そう思っても結局自分のことだから、過去から押し付けられた後始末をしなくちゃいけない。そうだよな。俺はいつだって夏休みの最後に泣き言をぺしゃりながら宿題を片付けるタチだった。

 

「まぁ…ちょうどいいか。片付けしよう」

 

早く起きてしまったし、かといって今から準備は早すぎる。なら少しくらい過去の負債の清算をしても問題はないだろう。あぁでも、先に顔を洗ってさっぱりしよう。まだ眠気は残り、目はしょぼついている。このままだと二度寝しそうだ。今日の二度寝は死活問題。起きとかなければいけない日なのだから。

 

よたよたとベッドから起き上がり、一つ大きなあくびを挟んでは、緩慢な動きで扉に向かって歩いていく。ドアノブに力を入れて開けた瞬間

 

「よっす、トレーナー。やっぱり100年後は空いてたな。約束通り、宇宙行こうぜ☆」

 

扉の向こうにいた紙袋を被った身長高めの女に話しかけられた。

 

「……………はっ?」

 

俺はズタ袋を被せられた。

 

〜〜〜〜〜

 

「おい!なんだこれ!なんも見えねぇ…どこに向かってんだ!てかお前誰だ…!」

 

ズタ袋を被せられ縛られた俺は、誰かに担がれどこかに運搬されてるらしかった。

 

「……っ、なんだよトレピッピ、その年でもう痴呆か?そんな体たらくじゃ頭石豆腐になっちまうぞ」

 

「頭石豆腐ってなんだよ…!てかアンタ誰だ!」

 

「それは目的地に着いてからのお楽しみだぜトレーナー。ちなみに今は朝の5時半、ツチノコがデッドリフトに励む時間だ」

 

「ツチノコに腕はねぇしそもそもツチノコは実在してねぇだろ…!」

 

「……変わんねぇんだな。そういうとこ

 

「なに!?」

 

「…いや、ちょっとヘルシェイク矢野のこと考えてただけだぜ。ウォーッ!人力エアギター!」

 

「エアギターはそもそも人力だろうがっ!」

 

わけがわからない。一体俺が何をしたんだ。どこに運ばれているかすらわからず訳も分からず振り回され、ふと、頭が痛んだ。…あぁ夢みたいだと。そう思って声が出た。

 

「やめろ俺はまだあの時の飛び蹴りだって許してねぇ…!」

 

「っ」

 

「どぅわっ!?」

 

急に立ち止まった勢いで俺は前方に放り出されてもんどりを打つ。その拍子に頭に被せられたズタ袋が外れて俺はようやく下手人の顔をまともに拝むことができた。

 

銀髪に近い芦毛のロングがなびく。頭に船の形をした帽子を被り、端から出る耳は左右にせわしなく揺れている。こちらをまっすぐ見つめる薄紫の目に、どこか郷愁と後悔を感じて、なんでか知らない。でも言わなきゃいけないと思って。とっさに言い繕った。

 

「ごめん。許したよ。許してるって。えっと…あぁー…えー、なんだ。クソッ何だこれ…」

 

頭がモヤつく。なにか、何か言わないといけないはずなのに。どうしてだか言葉が出ない。喉元まで出かかった言葉とも言えない何かが無性にイラつく。眩暈もしてきた。なんだってこんな大事な日に…

 

「ふーん…気が変わった。宇宙はまた今度なトレピッピ」

 

そういって芦毛のウマ娘は床に付した俺の上に腰を下ろす。どかっと腹部に衝撃が来て、思わずゴホッとせき込んだ。うまく息ができない。何の準備もなく座られたもんだから苦しげな表情が浮いた。そんな俺の胸を下から上に指を這わせて、首元を撫でる。一体何がしたいんだ。一体アンタは誰なんだ。

 

「誰だよアンタ。急に宇宙に行こうだとか、わかんないこと言いやがって、ホント何なんだよ…!クソッ、頭いてぇ…」

 

痛む頭。どうしてだか涙が出てきそうになる。なんでだよ。なんでこんなに泣きたいんだ。何かを忘れている。何かを失っている。それは確信できるのに何を忘れたか。何を失ったかは思い出せない。必死に手繰り寄せて、玉のような汗を浮かべて、思考が夢を過ぎった。今朝見た夢が俺の裾を引っ張った。

 

「ゴ、…ゴールド……ゴルシ…ごーるどしっぷ…ごーるどしっぷ!ゴールドシップだ!」

 

今朝の夢と芦毛のウマ娘がリンクした。夕方の西日に照らされた彼女、ゴールドシップと目の前のウマ娘が結びついた。夢で見た彼女がいた。じゃああれは夢じゃなかったのか?あれはいったい何だったんだ…?いやそれよりも…!

 

「『超爽快!五ツ谷サイダー にんじん牧草味』は!?」

 

「………あはははははっは!あーははははは!ははっ!あー…ずりぃよトレーナー。あーあ、ったく…んだよ最初に出るのがそれかよ…!あーあ、せっかくゴルシちゃんが宇宙の果てまで連れてってやろうと思ったのに…ほらよ。ご所望のヤツだ」

 

突如として俺の腹の上で笑い転げるゴールドシップ。笑いながらポケットが取り出したそれは夢と同じもの。五ツ谷サイダー にんじん牧草味だった。

手渡されたソレ、夢でめちゃくちゃインパクトがあったそれの味を確かめたくて、即座にキャップを外す。揺れる液体の色は小麦色とにんじんの色を混ぜ合わせたようなものに炭酸が浮いている絶妙においしくなさそうな色。それを口に含んで…横たわった状態で飲んだから思ったより口に入ってむせること数度。俺ははっきりと口に出していった。

 

「まずい!!!」

 

「そりゃそうだぜトレピッピ。ソレウマ娘用なんだからな」

 

ゴールドシップは涙を浮かべながら笑っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。