ウマ十夜   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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現 金星の涙を落として

「うぇっ、まっっっっっっず!!!!」

 

衝撃的な味すぎる。なんだこれは。本当に牧草ににんじんを混ぜたみたいな味がする。

トレーナーを目指していた時代、ウマ娘が好むということで大体のトレーナー候補生はウマ娘と同じ食事…牧草や青草だったりを食べたりする。やはり人間とウマ娘では味覚が違うようで、うぇっと吐き出した記憶を思い出した。それに炭酸をぶちこんだような。青臭さと変な甘さが口に残って舌でダンスしてる。炭酸が地味に効いて、むせかえるくらい清涼感だ。何をもってこれを作ったのか。どうして企画でこれを通したのか。懇々と説教したくなるくらいのものだ。

 

「ははははっ!ほらトレピッピ、こっちでも飲んで口直ししろよな」

 

そういって渡されたのは抹茶のペットボトル。代わりに『超爽快!五ツ谷サイダー にんじん牧草味』を渡して口直しにイッキする。口に広がったのは紛れもなく…

 

「ゴホッ!ゴハッ!ゲホッ…え”ん”、ん”ん”…緑茶だこれ!?!」

 

ラベルを見ればそこにあるのは『抹茶 緑茶味』…あぁもう!

 

「ゴルシ!おんまえマジで…!」

 

夢の出来事があるはずなのに引っかかってしまった自分が憎い。そうだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!

 

「ひーっ!思い出したんじゃねぇのかよトレーナー!これ以上笑わせたらゴルシちゃん大気圏突入しちまうくらい笑い転げることになるだろ~。そういうのは第二第三水曜日に来るゲーミングアタッシュケース回収屋が廃材になったドラムを捨てに来るときだけにしてくれよな~」

 

腹の上で笑うゴルシの発言、その一つに…いやゲーミングアタッシュケースではなく…思い出したって言っても俺は別に夢で会っただけで何一つ思い出せていない。なんとなくゲーミングアタッシュケース…はちがう!クソっ、七色に光るアタッシュケースが脳を占領してくる…!なんだよ七色に光るアタッシュケースって…!あるのかよ…!(注:あります)

 

「あー…なんだ。ゲーミングアタッシュケース…ゲーミングアタッシュケースはひとまず置いておいて…!違う。違うってか…信じられねぇとは思うけど、夢でお前…ゴールドシップと出会ったから結びついただけで正直どういうことか…てかさっさどけ!」

「…ふーん、夢ねぇ…。トレピッピ、どこまで夢を見た?『超爽快!五ツ谷サイダー にんじん牧草味』って言うんだから…アタシが飛び蹴りした後か?前か?」

「あ、えー…前っていうか。飛び蹴りされて気を失った瞬間に起きたっつーか…」

 

さっきの泣き笑いから急にすとんと感情を落として真面目な口調で問い詰められる。それと同時にお腹に掛かる負荷もだんだんと強くなってきた。正直苦しいからさっさとどいてくれ。だが威圧感のせいか少し上づりながら答えた。

 

「よりにもよってそこかよ…。ならギリ成層圏ってところか?宇宙にまでは飛び出してねぇな。それに…他のヤツもいないってことは…トレピッピは今日からトレーナーだったよナ?」

「お、おう」

「ん~…ならまだセーフか。いやアウトよりか?…サッカーでいうならツーアウト満塁二八歩王手くらいか?……………早く突っ込めよなトレピッピ。そんなちんたらしてるとスポーツ委員会に訴えられちまうぞ?」

「…突っ込まねぇよ。突っ込まねぇからな…!」

 

突っ込みだすとキリがない…!なんだこのボケモンスター…。黙ると死ぬのか…?

 

「そういうなってトレピッピ。アタシと一緒にもう一度笑いのてっぺん取りに行こうぜ?大丈夫だって!準決勝まで行ったんだ、今度は敗者復活戦から決勝まで行けるって!」

「負けてんじゃねぇかよ。そこは素直に勝ち進めよ…あ」

 

「…突っ込んだなトレーナァー!」

 

嬉しそうに腹にぐりぐりと体重を乗せておま…!

 

「クソっ反射で…!俺にゴルシのツッコミなんて(そんな過労死しそうなこと)出来るわけがないだろ!」

「あと三回本気で出来るわけがないといえば開放してやろう。さながらマグロ漁船にてリリースされた烏賊のように」

「出来るわけがない!出来るわけがない!出来るわけがない!言ったぞ!」

 

てか重いんだよ…!…あ

 

瞬間、お腹に飛び蹴りされたような衝撃。女性に対して思っていけないことを思ってしまった俺は、目ざとく察知されたゴールドシップから渾身の黄金尻撃を食らった。

 

「覚悟が足りないィー!」

「ゲェー!!!」

 

くの字に曲がり、口から何か出ちゃいけないものが出たような気がして、それが多分魂だと気づいたのは俯瞰視点で意識を失う自分を見たからだろう。いや普通に抜けてる抜けてる。魂抜けてっから!俺死ぬ?マジで?ここで…?ここで…!?

 

「おわっ…魂抜けちまった。えーっと、蘇生蘇生、呪文は~…南無南無阿-メン?ラーメン?メンヤワラカメアブラヌキヤサイヌキニンニクマシマシマシマシ?マシナシマシナシ?マシアリマシナシマシマシ?南~無南無南無阿弥陀くじのC賞世界2週半片道旅行?ほら勇者よ~しんでしまうとはなさけないぞ~」

 

クソッ!ラーメンの注文じゃねぇか!しかもニンニク多すぎだろ善玉菌やら死滅するぞ…!後半トゲアリトゲナシトゲトゲみたいなこと言いやがって…!てか宗教に喧嘩売るような呪文唱えるな!てか2週半片道旅行はそれ世界の反対側に置いてかれてんじゃねぇかよ…!おいてくなよ…!てかC賞でそれならB、A賞何があるんだよ…!それに俺は勇者じゃねぇ!勇者は…!あ?俺は今……

 

ひたすら突っ込むも魂が抜けてるためどうにもできない。俺の体を揺するゴールドシップを上から眺める形で俺はどんどん上空に引っ張られていくのだった。

 

~~~~~

 

「…いったな?オーイ……意識は飛んでるな。」

 

意識が完全に飛んだことを確認してから馬乗りの状態になってトレーナーの髪に触れる。寝起きで連れ出したから髪もぼさぼさで目ヤニもある。払ってやってから口の端から垂れる涎を見つけてそれを掬う。指を少しだけ伝う液体を太陽に透かして見てそれから…それから……

 

いや、いや。それはダメだろ。うん、ダメだ。ごしごしと服に擦りつけて拭く。他意はない。ないったらない。

 

顔が赤くなった気もするが気のせいだ。一息二息吸ってはいてから、改めてトレーナーを見る。

 

「ん~♪とれ~な~…ふっ、とれぴっぴ~…んだよ気持ちよく寝こけやがって…」

 

頬を人差し指でうりうりとこねくり回しながら、記憶を振り返る。

 

アタシの………トレーナーだった人だな。うん。…なんだ。

白状するなら前世の記憶っつーのかな。そういう記憶がずっとあったんだよ。ちっちゃい頃からずっとずっと…、生活してて似通う部分があると急に思い出す。アタシはどうやら前世でもゴールドシップだったから、アタシがやろうとしてることの大半は前世でやっていた。んだよつまんねーって思ったけど。まぁやったこととやってないことの区別がつくから新しいことに挑戦出来て楽しかったこともある。ややこしくて、でもたまに役立つモンってのがアタシの認識だった。

 

でも

 

それとは別によ。アタシの隣にトレーナーが居ないことが結構……いや心底堪えた。

 

色々生活してるとな。例えば飯食いに行ったり、映画見に行ったり、マグロ漁船乗ったり…無人島に遊びに行った時だってトレーナーの記憶が過るんだよ。あんなこと会話したなとか、あんな話したなって。その続きを話そうと横を見て、トレーナーが居ないことに気づいて吐きそうになる。あぁそうだ。前世の話だったってな。

 

断片的なものが大半だった。でも生活してるとそれ等が日常的に頭を過るんだ。楽しい記憶も楽しくない記憶も。そんなんで生活してみろよ。気が狂っちまいそうになるぜ。

 

実際、トレーナーに話しかけようとしていないことに気づいた時の喪失感が酷く重くて、そういう時は大体寝込んだりした。

 

その中で一番強く残ってたのはアタシとトレーナーでてっぺん取ろうとして…まぁちょっとごたごたがあって取り損ねたこと。それが強く頭にこびり付いてる。だから、まるでアタシもそうなるんだっていう未来予知みたいに感じてすげぇ嫌になった。

 

………アタシが悪いんだけどな。

 

そんな記憶がずっと今生のアタシ、その横にトレーナーが居ないことを囁いてくる。正直気は狂ってる。自覚があるっつーか、アタシ自身もうまともかどうかわかんねぇ。まるでアタシの人生がアタシのモンじゃないように感じた。

 

 

だから、これっきり、今日限りだったんだよ。

 

 

一度会えば前世のアタシもわかるはずだって。今世のトレーナーと前世のトレーナーは別人で、これはアタシの人生なんだって。

だから朝一で連れてきて前世の記憶とどう違ってくるのか確かめるだけだった。だけだったんだよ。

 

それだけ。それだけのつもりだったんだ。あー…ホント。なんで。なんでなんだろうな。

 

 

トレーナーは変わらなかった。変わってなかった。

 

ぽたり、トレーナーの頬に雫が落ちた。

 

 

ずるい

 

 

変わらないどころか、前世の記憶を持つアタシと同じようなコトになってた。トレーナーはどうやら夢を見てその記憶らしいが。

 

一滴、二滴…段々と止まらなくなっていく。

 

 

ずりぃ、ずりぃじゃんか。

 

 

諦めようとしてたのに。もう関わらないようにしようって思ったのに。

 

あんな失敗をして、あんな過ちを犯して、アタシはもう一度を夢見てる。

 

トレーナーにもう一度を願っているんだよ。

 

変わっていてほしかった。アタシの事を知らないでほしかった。最初に言ってくれたアタシのこと知らない状態がベストだったのに。

それなのに。それなのに思い出して。アタシの心をかき乱して。アタシの欲しい言葉をくれて。打てば響くような返しに心が温かくなって。ガラにもなく燃え上がって。

 

上を向けば明け方の昏い空に時季外れの明星が昇っていた。なんだよ。星が涙を落とすほど祝福してくれてんのかよ。……なんて、歪む視界で笑いながら。

 

 

ずりぃ、ずりぃなぁ。

 

 

前世のアタシはもう今世のアタシと混ざりあった。もう前世のアタシを無くすことなんて出来ない。もう受け入れた。受け入れざる負えない。こんなの見せられちまったら。

 

頼むよ。トレーナー。もう一度、いや、最後だ。これ以上は望まないしこれっきりだ。これっきりでいいんだ。

 

アタシにもう一度チャンスをくれよ。

 

待っててくれたじゃんか。通算100年…待っててくれたじゃんかよ。忘れないでって約束はちょっとギリギリ及第点だけどよ。だから…

 

アタシが今度こそ宇宙を見せるから。

 

頼むよ。トレーナー

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