ウマ十夜   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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ゴールドシップのキャラ崩壊かもしれないけど書きたかった。


現 美しく咲くまで待ってくださいと

「ゴルシ…それでも俺は、トレセン学園に行きたいよ。担当は少し…待っててくれると嬉しい。正直なところ、ゴルシだけじゃ判断できないってのもあるし、ゴルシの言葉を信用してないわけじゃないが…でも」

 

頬に添えられた手を下ろす。握りながらベッドから降りて、座るゴルシを見下ろした。ひどく濡れた目から逸らさないように真正面で相対する。一息吞んでから自分でも情けないことを言った。情けないけど、これが俺なんだ。

 

「さっきの口ぶりからして守ってくれるんだろ。なら…俺はそれに甘えて…担当にする娘を見極めたい。頼り切りってのもなんだかおかしな話だけど…」

 

利用するような発言。それはもしお眼鏡にかなわなければ守ってくれているゴルシだって切り捨てて、他の娘に行くと言っているに等しい。ひどいトレーナーだろう。幻滅されたっていい。それでも…俺はトレーナーになり来たんだよ。ゴルシ。俺は一人のウマ娘の人生を預かる為に必死になりたいんだ。たとえ前世があったとしても、大切な記憶があるのだとしても、俺はまだお前の走りを見ていない。見ていないんだよ。

 

「あたしを…利用するのか?利用して不必要ならそのままポイっと宇宙にでも捨てるのか?トレーナーが、それを言うのか?」

 

ゴルシがゆらりと立ち上がる。剣呑な雰囲気そのまま両肩に手を乗せてぐりんと引っ張られた。ウマ娘のパワーでもってベットに引き倒された俺はそれでもゴルシの目をまっすぐ見る。

 

「やめてくれよ。そんなのトレーナーじゃない。そ、そん、そんなの、トレーナーが、言うはずない。ないだろ。なぁ…、トレーナー…」

 

鼻先数センチ、ふっと落ちる葦毛の前髪は白百合の匂いがした。影が差すゴールドシップに息をのんだ。ただただ美しかった。最低な人間だと思うが、涙をこたえたゴールドシップは、とても、とても綺麗だった。迫るゴールドシップが絶対に逃がさないというようにのしかかった。首元で囁くように言う。

 

「トレーナー、あたしでいいだろ。あたしが一番なんだ。それなのに…なんで、なんでなんだよ」

 

嗚咽交じりにそういい募るゴールドシップは縋りつくように両の手に力を込めた。押さえつけられた肩の肉の奥底で疼きのような熱を感じた。さらに言い募る。

 

「お願いだトレーナー。あたしにもう一度、もう一度でいいからチャンスをくれ。また夢が見たい。一緒に夢が見たいんだよ。また一緒に馬鹿をやろう。また一緒に他愛のない話をしよう。あたしがいて、トレーナーがいる。それだけでいい。それだけでいいんだ。あたしにアンタの横にいる権利をくれよ。あたしを担当してくれよ…トレーナーがいないと…あたしは」

 

胸の上に縋りつく。くしゃりと歪んだ服のしわに、ひんやりとした想いの結晶が染み込んだ。

 

「ゴルシ、ごめん、ごめんな」

 

「あやまるなよ、あやまるなよぉ。あたしは、あたしはトレーナーの負担になりたくなくて、また迷惑掛けたくなくて、それでもあたしはトレーナーに…」

 

色んな想いがぐちゃぐちゃになって漏れ出したみたいにひどく切なげな声だった。背中を撫でる。ぎゅっと力が籠った。

 

ゴルシが言ったこと、前世があって、今世があって、自分のやりたいと思ったことはもう経験していて、でもそこにいたはずの人間が居なくて、その差にずっと苦しんでいて、その苦しみや寂しさがどれほどのものだったか、俺にはわからない。きっと、誰にも共感できない孤独がそこにあったのだろう。たとえ、断片的にしか覚えていない俺にこんなにも縋り付くというのは、それだけ心が限界を迎えていたんじゃないか。夢で会ったゴルシは大人びていて、ふざけてはいるが子供らしくない、全力でふざける大人といった印象だった。

 

でも、今のゴルシは違う。どれだけ取り繕っても、ふざけても決して隠すことができない心の棘に必死で耐えてきた一人の子供だった。誰にも話せず、誰にも相談できず、ただただ孤独に耐えていたのだ。他に前世を持つウマ娘がいたとしても、それが否定されないという根拠にはならない。相談をして、共感を持ちかけても、もしかしたら拒否されるかもしれないという恐怖だってあって、言葉に出来なかった様々な想いだけが心の奥底に降り積もっていって。たった一言、『苦しい』と言うことすらできない状況にひたすら耐えていたのだ。

 

今だけは泣いたっていいと、『苦しい』と言ってやれる場所を作ってやるのがトレーナーとしての…いや大人としての仕事だ。

 

優しく、優しく語り掛ける。ゴルシを捨てるわけじゃない。ただ俺は…

 

「お前の走りが見たいんだ、ゴールドシップ。俺はまだお前に本気になってない。なのにお前は俺に本気になってちゃ不平等っていうか…違うだろ?お互いが本気にならなくちゃ意味がない。中途半端な気持ちでお前に向き合ったらお前に失礼だ。」

 

「だから…俺を本気にさせてくれよ。ゴルシ」

 

ふっと持ち上がった顔、目は赤くなっていて、玉のような涙がこぼれていた。呆然とした顔でこっちを見ているもんだから、頭をガシガシと撫でてやる。

 

「ゴルシ、俺はお前を捨てようとしてるわけじゃない。まぁ急に拉致られて色々立て続けにいろんなことが起こって処理しきれてないこともあるけど…俺はお前を見捨てないよ。」

 

一つ一つ、言葉を選んで声にする。きっとここがゴールドシップにとっての分水嶺だと思うのだ。降り積もって山となった想いを受け止めきれずに流してしまったら、ゴールドシップは終わってしまうという確信があった。

 

「俺はさ。真剣なんだ。たとえ前世の記憶が俺にはあったとしても、まだ現在の俺は未熟で実力も経験もないトレーナーだ。そんな人間がウマ娘の大事な時期をそうやすやすと背負っていいもんじゃない。」

 

「それは「だからこそ」

 

「お前の走りが見たいんだよ、ゴールドシップ。走ってくれよゴールドシップ。まだ出会った時しか思い出せてないけど…きっと、前世でも俺だって言うならさ。おんなじことを言う…そう」

 

もし、俺が前世でも同じ人間だとしたら、俺はきっとこう言うだろう。

 

 

「本気のお前が見てみたいって」

 

 

ゴールドシップがはっと息をのんだ。何か思うことがあったのか。それでも前世の俺と重なったのか。もし面影があるのだとしたら、俺は俺自身によくやったと言ってやりたい。きっと真剣に向き合っていなかったら出ていない。前世の俺が本気だった証拠だ。

 

「行こうぜ。トレセン学園に。守ってほしいってのもあるけどさ。本気の走り、見せてくれよ。」

 

頭を撫でる。鼻をすする音が響く部屋の中、ただ落ち着くのを待っている。…本音を言うのであれば、少しいい匂いがして役得というかちょっと精神がガリガリ削られていくので離れてほしさがあるのだが…うん、しょうがない。メンタルが限界のウマ娘を前にトレーナーの精神なんて吹けば飛ぶ紙片なのだ…。

 

そうすること十数分といったところ、ようやく顔を上げたゴルシは目を赤くしながらもニカッと笑っていった。

 

「すまんトレピッピ。ちょっといろいろ溜まっててな…すっきりしたし、走りが見たいって言ってくれてうれしかった。その…ありがとな」

 

遠慮がちに笑うゴルシをペしんと叩く。

 

「お前はもっと破天荒だろ。辛くなったら寄っかかって良いからドシっと構えて突っ走れ。それがゴールドシップだろ」

 

顔をごしごしと拭い去ったゴルシがにかっと笑う。あぁ、いつものゴルシが戻ってきた。

 

「…はっ!あったときのことしか知らねぇのによく言うぜ!しょうがねぇ、時間食っちまった分ゴルシちゃん直伝の移動術でトレセン学園なんてちょちょいのちょいだ。支度しな、それとも脱がされたいのか~?」

 

「そこはかとなく嫌な予感するから断っていいか?あと準備くらい自分でできる」

 

「あぁ、別に危険なんてないしもうびゃって行けるけどトレピッピに無理強いはしないって言ったしなぁ~」

 

「だよな。だからフツーに断り「だが断る」

 

「何っ!?」

 

「あたしの好きなことは一度拒否してもいい雰囲気を出してからそれを断ることだァ―!」

 

「俺のパクリじゃねぇか!」

 

「トレピッピもパクリじゃん」

 

「じゃあ何?二次創作?」

 

「いや、トレピッピから経由してるから三次創作じゃね?」

 

「「へへへへへっ」」

 

打てば響くような掛け合いに二人して笑う。これでいい。これがいいんだ。俺とゴルシはこうでなくちゃいけない。まるで出会いを再演するように掛け合う。ひとしきり笑って…

 

「「………せぇい!」」

 

すんっと体を折り曲げ、下半身を出来得る限り縮めて上に持っていく。ぎゅんと体育座りで寝っ転がったような体勢になった。なんでしたかって?こういうことだよ。

 

どすん

 

と全体重を乗せたことによる衝撃がベッドを揺らす。ぼろそうな見た目なのに意外にしっかりとしているのかいくらか揺れたところでなんともなくなった。

 

「ほう…躱したか。我が黄金尻撃を…主、中々やりよるようになったのぉ…」

 

ふぉっふぉっふぉと笑うゴルシに冷や汗をかく。ワンチャン潰れたくね?ねぇ、その威力死ぬよね?ゲェーッ!ってなってたよね?ねぇ、ゴルシ?

 

「いやまぁドロップキックの前例があるからな…てかどいてもらっていい?」

 

いい加減どいてほしくてぐちぐちという。何なら後ろでに見る時計は昼をとっくのとうに過ぎていて何ならレースが始まりそうな…やばくね?

 

「…ち、わぁーったよ。そこのクローゼットにトレピッピの仕事用の服とかあっからさっさか準備しな」

 

「…なんであるのかとかは突っ込みたくない闇を感じるから気にしないようにする。」

 

やばいことが聞こえたがそんなの気にしてる余裕がなくなってきた。問答してたらレースを見る時間がどんどん減っていく。やべぇ、就職して初日をバックレるはアウトなんだよ。そんな焦りに焦ってクローゼットからスーツやらを引っ張り出して急いで着ている俺をけらけらと笑いながらめちゃくちゃやばそげなことを言った。

 

「お、聞きたいか?トレピッピの私生活なんて、あたしも含めた他のウマ娘にとっくのとうに筒抜けになってんぜ~」

 

「俺のプライバシーは!?」

 

「死別を経験したウマ娘がそんなこと気にするわけないだろ」

 

「急に重くなるじゃん……」

 

急激に重力を発生させたゴールドシップに引き気味になりながら、ぱっぱか服を着ていく。飯はこの際気にしてられない。寝ぐせも顔も洗ってネクタイを締める。順番がごちゃごちゃしてるが焦ってるからしょうがない。なんとか最低限の身だしなみを整えて、何故かあるウマ娘のトレーニングデータをまとめるためのタブレットや親にトレセン学園就職祝いで買ってもらった革製カバンを手に取って、振り返ってゴルシに声をかける。

 

「ゴルシ、頼めるか」

 

そう、声をかければじっとりとした目で見ていたゴルシが、しばらく黙ってからまた、にかっと笑った。

 

「おう、行こうぜ。あたしのマジ走り、見せてやるよ」

 

その笑顔にふっと夢のゴルシと重なった。あぁ、よかった。純粋にそう思えたのがひどく嬉しかった。

 

~~~~~

 

利用するしかなかったゴルシ式移動術は何というか…瞬歩?瞬歩なの?瞬歩ってか短距離ワープじゃんみたいなノリだった。小脇に抱えられた俺は、ゴルシの短距離ワープ歩法を間近で見ることができたのだが、マジでわからなかった。ほぼ残像が出ていた。それなに?なんなの?

 

「ほら古武術とかのよ~瞬歩ってあるだろ~。あれって小ジャンしながら空中斜め前に移動キーとスニークを押すと出来るだろ?ソレ」

 

「どれ?」

 

聞いても意味が分からなかった。瞬歩ってそうなの?いやでもゴルシにコントローラーのボタンが実装されてそうなのはめちゃくちゃ同意できた。なんかノリがマイ〇ラなんだよ。四角で出来たブロックの世界のノリなんだよね。じゃあゴルシは出来ないのかって言ったら出来そうなんだよね。本当に何?デメリットとかないの?

 

「あ~…レースより空腹ゲージが減る」

 

「マ〇クラじゃん。飯食べて?」

 

「でぇじょうぶ。小麦三つ持ってるから」

 

「作るの!?パンを!?今ここで?!」

 

「あ、わりぃ。作業台忘れたわ。そこらで原木取っていい?」

 

「そこらへんの木は公共の木だからやめてください」

 

「うーい」

 

ツッコミ疲れがひどい。ゴルシと話すと気力がどんどん減っていく。でも早い。早いんだよな。ウマ娘専用歩道を他のウマ娘よりも早くカクカクしながら小さくジャンプするという異様な動きで抜き去っていく様はなんかもう終わってる。それがスーツの男を小脇に抱えているんだから通報されたっておかしくない。

 

そう、つまりそういうことである。

 

「あぁゴールドシップさんでしたか」

 

不審者と通報して実直に職務を遂行しに来た警察ウマ娘の方々は会って早々、ゴルシの顔を見て納得した表情を見せ、大半を帰らせた。一人だけ居残った方がこちらに話しかけてくる。

 

「あぁ失礼ながら一応お伺い致します。それは同意の上ですよね?」

 

「ア、ハイ。頼んだ上でこうなってますね」

 

小脇に抱えられながら応対する俺にほっとする警察さんは無線で何やら話すと丁寧に頭を下げた。

 

「ゴールドシップさんはその…最近越してきた方や初めて見る方が通報する事例が多々ありまして、今回は人を抱えていたので確認のため伺わせていただきました。お手間を取らせて申し訳ありません」

 

「ゴルシお前何やってんの?」

 

「ん~?や、迷惑はかけてないぜ?ただちっと買ったマグロを背負って帰ってたら通報されたり、リフティングしながら詰将棋してたら通報された。なーんも悪いことしてねぇのによ~困っちゃうよな」

 

「お前外でもそんな感じなの!?」

 

「おん。ゴルシちゃんはいつでもゴルシちゃんだからな。それにそんな迷惑かけてないぜ?マグロの時だって知り合いの魚屋のおっちゃんが困ってたから運んだだけで運ぶ時もできる限り人目を避けてたり、リフティング詰将棋だってさっきのおんぼろアパートの庭でやってただけだからな。それをこう、たまたま見た人が通報されてよ~。敷地内とかできる限り配慮してんだから勘弁してくれよな~」

 

「そんなとってつけたような倫理観あったんだな…」

 

いや、うん。ゴールドシップは常識はないが良識はある。そういうタイプの人間だ。出会いしか思い出せていないのになんとなくそうだと断言できるのは、夢の断片がかすかに残っているからなのか単純にゴルシの悪い意味での信用からくるものなのか…。ジトっと視線の温度が下がったのは致し方ない事なのだ…。

 

「お、やるか?」

 

「やらないやらない。え~…あー、ご迷惑をおかけしました…この体勢でいうのもなんですが…」

 

人がウマ娘に勝てるわけないだろ!ってことで丁寧に拒否しつつ、抱えられた状態のまま応対する。絶対これ噂される奴だよなぁ…。

 

「あ、いえ大丈夫というのであれば…それにですね。ゴールドシップさんは奇行も目立ちますが人助けや落とし物なんかを積極的に届けてくれたりするので人柄も知っていますので…」

 

「お前…」

 

見上げると目をそらすゴルシ。少しだけ頬が赤いような気がするその姿にへんと笑いながら…

 

「でもお前、ドロップキックしたりしてるから俺の好感度は±で相殺だからな」

 

「あれぇ?!」

 

ここはゴルシちゃんかっこいいってなるとこじゃないのかよー!と騒ぐゴルシを横目にぺこぺこと頭を下げる。

 

「改めましてご迷惑をおかけしました。事情聴取は大丈夫ということで…」

 

「えぇ、問題なく…引き留めてしまって申し訳ありません。お仕事頑張ってくださいね」

 

「はい、ありがとうございました…。ほらゴルシ、お前も挨拶しろ」

 

「うぃ、囚人番号564異常ありません!直ちに刑務に移ります!」

 

「囚人じゃねぇかはっ倒すぞ」

 

「じゃあな警察さーん!トレピッピがうるさいからもう行くわ~!今度極上鯖味噌缶持ってくから~!」

 

「おいちょっと待ってゴルシぁぁぁぁぁっぁぁぁぁああ!!!」

 

ガッと強く横抱きにされて、まるで逃げるように颯爽と駆け出すゴルシのえげつない走りによる風圧にジェットコースターを思い出しながら、俺は警察の方からおさらばすることとなった。…あの妙にゴルシの対応が手馴れている警察の方には後でちゃんと謝りに行こうと思う。




良識はあるけど常識はないゴールドシップ(激重執着トレーナーの前ではそれ相応の子供っぽくなる概念)ありだと思います。
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