かつてVtuber三大将と謳われたわたしが今では大手事務所のマネージャーをしているわけ   作:吹夜

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アサノヒノデと採用面接

 2016年後期。当時17歳だったわたし……大酉吉乃は、一本の動画を投稿した。自分でデザインして、モデリングして、お姉ちゃんにモーションキャプチャーをねだって生み出した、仮想世界の女の子……響家コエ。彼女が、現実世界の人々に向かってメッセージを送る、そんな動画。それから……歌って、踊って……YouTuberさんの鉄板企画をパク……真似してみたりして。

 

 わたしだけの力じゃないけれど、いつの間にかわたしたちVtuberは有名になり、たくさんの後輩が生まれて、そんな中で、わたし……響家コエやアサノヒノデはVtuber三大将というくくりでまとめられ、始祖のような扱いを受けていった。……Vtuberといえば動画で、お金のかかる3Dモデルが当たり前で、明確に非実在のキャラクターとして扱われていた、そんな、昔の話だ。

 

 「では、なぜライバードを選んだのか聞いてもよろしいですか?」

 「はい! 他社さんよりもプロモーション戦略が優れていると感じたからです!」

 

 そんな時代を共に駆け抜けてきたはずの戦友が、ウチに転生しようとしている!

 

 存外に真面目な雰囲気で面接を進めるお姉ちゃんと忍田さん。対照的に、わたしの心中は穏やかではない。……ちなみに、わたしが響家コエだということは忍田さんにはバレていない。ハッキリ否定したら「そっかぁ、人違いかぁ」とすんなり引き下がってくれたので。

 

 お姉ちゃんもこの面接に最終確認とわたしへの嫌がらせ以上の意味は求めていなかったらしく、その後も面接は滞りなく進んでいく。

 

 「……では、吉乃さんの方から何かありますか?」

 「……」

 

 用意していた質問を消化し終わり、わたしに話を振るお姉ちゃん。逡巡し、意を決して、どうしても聞きたかったことを忍田さんに……アサノヒノデに聞く。

 

 「……その、これは単純な興味で、答えにくいなら流して構いませんし、選考にも関係がないことを念頭に置いて欲しいのですが……」

 

 この場でこの話をするのは、普通に考えてマナー違反だ。それでもわたしは……響家コエは聞かなければならないと思うから……あくまで選考とは関係がないことを念押しし、忍田さんに……いや、アサノヒノデに問いかける。

 

 「アサノヒノデは、どうして引退を?」

 

 アサノヒノデ引退。半年前に発表されたそのニュースは、この業界に衝撃を与え、悲しみの声が上がったものの……同時に業界は形容しがたい納得感に包まれていた。無期限活動休止の煌羅那月、ある時を境に音沙汰のない響家コエに続き、三大将最後の一人の陥落。あの時目にした一つの時代の終わりという言葉が、酷く印象に残っている。

 

 「あー……私が辞めたかったとかではなくて……運営さんの会社が空中分解しちゃって……資金繰りに失敗したとかで。技術畑の人も抜けちゃって、それで引退せざるを得なくなった……みたいな感じです! ごめんなさい! 暗い話で……」

 「あ、いえ……辛いことを聞きました……すみません」

 

 ……世知辛いな。笑顔を作る忍田さんを見て、わたしは言い知れぬ悔しさを感じた。

 

―――――――――――――

 

 「で、どういうつもりなの?」

 「え? いや、プチ同窓会になるかなぁって」

 「頼んでないよ!」

 

 面接後、忍田さんの退室を見送ったわたしは速攻でお姉ちゃんに詰め寄った。あれだけニヤニヤしてたくせに何がプチ同窓会になるかなぁ、だ!

 

 「……お姉ちゃんがどういうつもりなのか知らないけど、わたしがライバードでデビューしないのは変わらないから」

 「……そうか」

 

 だって、わたしはコエだから。それ以外にはなれない。

 

 「あ、あとわたしに忍田さんの担当させたりしないよね!? 絶対ボロでちゃうって!」

 「あー……分からんなぁ、お前がライバーやって忙しくなったら流石にしないけどなぁ」

 「くーどーい!」

 

 もう用は終わってそうなので、わたしは荷物を持って席を立つ。

 

 「……あ、そういえば今頃フェティたちが番組収録してるはずだ。顔を出してやれ」

 「あー……分かった。スタジオ寄ってから帰るね」

 「そうしてやれ。フェティも大概吉乃に懐いてるからな……喜ぶだろ、吉乃がしずくにかかりきりになってる分溜まってるだろうしな」

 

 私の担当の一人、ライバード3期生、フェティ・アンモナイト。キャラクターも魂も天然な人で、そのせいか雨乙しずくとはソリが合わず……というか、運営は同期の相性とかも考えて欲しい。そのしわ寄せはわたしに来ているのだ。

 

 「あのねぇ! ののさんのマネジメント本当に大変なんだからね! 昨日なんか私が担当降りるなら引退するって言ってたし!」

 「え……本当か? 雨乙しずくに抜けられるのは洒落にならん……」

 「そのへん、わたしの功績をよく考えて扱ってよ!」

 

 全く、これを機に会社で妹をイジるのはやめてもらいたい。

 

 「……まぁでも、お前はよくやってるよ。あの『ののこ』があんなに懐くなんてなぁ」

 「……」

 

 ののこ……ののさんの、ニコ生時代の活動名……だったっけ。その時代の彼女についてはよく知らないけれど、噂であまり良い評判は聞かない。もっとも、そんなの今の雨乙しずくには関係ないことなんだから別に良いんだけど。

 

 「ま、吉乃がみんなに好かれるのは当たり前のことなんだが」

 「なに? シスコン?」

 

 冗談交じりに受け流し、背を向け部屋を出ようとすると、背中に感触。次の瞬間には、わたしは懐かしいにおいに包まれていた。

 

 「シスコンさ……私はずっと。妹のために会社まで作っちゃう」

 「……」

 

 わたしは、何も言わずにただお姉ちゃんの温もりを確かめて、そっと静かに彼女の腕から抜け出す。

 

 「……ごめん、お姉ちゃん」

 

 求められても、響家コエは、もう────

 

 

―――――――――――――

 

 社長室を出て、置いてきた荷物を取りにロッカーへ向かう……その途中。

 

 「あー! 先輩だ!」

 「! ベアさん」

 

 ライバード1期生真熊ベア……こと、車田仁美さんと鉢合わせた。

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