かつてVtuber三大将と謳われたわたしが今では大手事務所のマネージャーをしているわけ   作:吹夜

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真熊ベアとの突発雑談

 「いやいやいや、ライバードにベアさんの先輩は居ませんって!」

 「えー、先輩は先輩だよぉ」

 

 ライバード1期生、真熊ベア。ウチの古株にして、ライバードを今の地位にまで押し上げた立役者にして。

 

 「ここにいるってことは……もしかして、やっとライバードで活動再開する気になったの!?」

 「ちょちょちょ……! ベアさん! 誰が聞いてるか分かんないんですから!」

 

 この事務所でわたしの経歴……響家コエがわたしだということを知っている数少ない人の一人。もっとも、彼女と親しいから打ち明けた、なんてことはなく……共演したことがあるのだ。

 

 わたしの活動時期とベアさんのデビュー直後からしばらくの間は時期が被っていて、その頃に一緒に企画……というか、地上波の番組に出演したことがある。あれは最近人気が出てきたバラエティ形式の番組とは似ても似つかず……なんというか、Vtuberでアニメのようなものを作ろうとした非常に挑戦的な作品で……わたしは楽しめたが、世間的な評判は芳しくないものだった。

 

 ともかく、その時の縁で彼女とは面識ができた。あの頃は年下のわたしに向かってベアさんが後輩として尊敬の眼差しを向けていたが、今ではただのマネージャーと事務所の古株功労者。二人の立ち位置は完全に逆転……しているわけではないのが、逆にやりづらい。ベアさんは逃げたわたしを今でも尊敬しているらしく、お姉ちゃんと同じでことあるごとにわたしを再デビューさせようとしてくるのだ。

 

 「えー、別に良いじゃん! 身バレはお互い様でしょ?」

 「それは……そうなんですが……」

 

 確かにここは事務所の中。この業界の鉄則である身バレに気を使うマナーが必要ない場所だ。分かりやすいし、こういう場ではみんなライバーとしての名前で呼び合う。プライベートでうっかりライバーとしての名前で呼んでしまうのと、配信中にうっかり本名で呼んでしまうのとでは被害度が段違いなので、それが理に適っているのだ。なお、わたしが雨乙しずくを事務所や通話でもののさんと呼ぶのは本人の要望である。特別感が良いらしい。

 

 「そもそもなんで隠してるのさ。真熊、よしのんが凄いんだぞってみんなに言いたくてたまんないのに!」

 「やりづらくなるじゃないですか! マネジメントで何を言っても老害の戯言に聞かれそうで……!」

 「えー、考えすぎだよぉ」

 

 言って、ベアさんはおかしそうに笑う。不思議な感覚だけど、こうして話すと「あぁ、真熊ベアだなぁ」……と、毎度そんな感想を抱く。真熊ベアはライバード箱推し団長という側面があり、公式企画でライバードメンバーが揃うときなんかは各メンバーの解説をしたりしてライバードという箱そのもののファンを増やしていくのに大きな貢献をした人でもある。実際に会って話す彼女もそのイメージをそのまま現実へ投影したかのような人で……なんというか、ある程度素で活動ができている人なんだなと改めて思う。ののさんと話していて雨乙しずくを感じることはあまりないから、色々なタイプがいるのだ。

 

 「ベアさんは事務所に何か用ですか?」

 「今度の案件の打ち合わせだよー、先輩は?」

 「あー……4期生候補の最終面接を……」

 「えっ!? もうそんなに進んでたんだ! どんな子だった?」

 

 4期生の話をすると、顔色を変えて飛びついてくるベアさん。2期生の時も3期生の時も、ベアさんは告知リツイートはもちろんのことそれぞれのデビュー配信に現れてコメントを残したりしている。あれを義務感ではなく好きでやっているくらいだから、新人のことが気になるのも当然だろう。

 

 とはいえ、どこまで言って良いものやら。口止めはされなかったし、あの雰囲気でお姉ちゃんが掌を返して不採用にするとは考えづらい。完全部外者の個人情報を話してしまう、なんてことにはならないのかな。それに、忍田さん自身もアサノヒノデについてはわたしと違いある程度オープンみたいだったし、どうせ調べられればバレてしまうことだ。言ってしまっても良いのかもしれない。

 

 「……じきに公然の秘密になりそうなので言ってしまうと、今日面接したのはアサノヒノデだった人なんです」

 「えっ!? あの!?」

 「はい」

 「お~、大物だぁ~」

 

 伝えてみたベアさんの反応は、好意的なものに見える。

 

 「推しがまた一人増えちゃうねぇ」

 「……それだけですか?」

 

 別の反応を期待していたわけでは全くないけれど、そんな素直な喜び方ができなかったわたしは思わずベアさんにそう問いかけていた。

 

 「それだけって? ……あー」

 「……? えっえっ……な、なんですか」

 

 わたしの言葉の意味が分からなかったのか、首をかしげ……そして合点がいったとばかりに顔を明るくすると、なぜだかわたしの方ににじり寄ってきた。

 

 「えい!」

 「わっ」

 

 身構えていると、ベアさんは正面から抱きついてきたのだった。……スキンシップは頻繁にする印象だったけど、なぜ今……分からない、文脈が!

 

 「……たしかにヒノデちゃんは凄いし尊敬してるけど、真熊の先輩はコエ先輩だけだよ」

 「えっ、あ……そういう……って、そういうことじゃないですよ!」

 「えー? ほんとに?」

 

 ベアさんはわたしが彼女の先輩の立場を取られるんじゃないかと懸念していると、そういう風に受け取ったらしい。だから、わたしはベアさんの先輩では……いや、それともわたしの雰囲気がシリアス寄りになっていたことを察してベアさんは会話を茶番に持って行ったのだろうか。……どっちもあり得そうだ。

 

 「って、わたしはフェティさん達の収録現場に行かないといけないので、失礼しますね」

 「あ、そっか。『VERD. TV』の日か」

 

 『VERD. TV』。今まさに収録中であろう公式番組だ。そろそろ行かないと終わってしまいそうなので、早く出ないといけない。

 

 「……待って」

 「ん、なんです?」

 

 立ち去ろうとして、ベアさんに引き留められる。

 

 「……真熊は、コエ先輩のこと待ってるからね」

 「……、…………」

 

 ベアさんの言葉から逃げるように、わたしは事務所を後にした。




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