かつてVtuber三大将と謳われたわたしが今では大手事務所のマネージャーをしているわけ   作:吹夜

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海原ヨルンとフェティ・アンモナイト

 「お疲れ様でーす」

 「あ、お疲れ」

 

 スタジオは収録の真っ最中で、わたしは目立たないように仕切りのある隅へと移動し、そこにいた同僚に挨拶をする。

 

 「……って、あれ。清水さんだけですか? ヨルンさんのマネージャーは……」

 「さぁ、忙しいんでしょ」

 

 ライバード2期生、海原ヨルン。てっきり『VERD. TV』のMCを務める彼女のマネージャーがいるのだと思っていたが、そこに居たのは3D担当スタッフの清水さんだけだった。

 

 「ま、しょうがないよね。吉乃ちゃんのバカみたいな業務量がそのままスライドして彼女に降りかかってんだから」

 「え……そんなことになってたんですか!?」

 

 ま、まさか……わたしの知らないところでこの会社の基準値がわたしに引っ張られているのか!? どうしよう……普通に申し訳ない。

 

 「ほんと有能が凡人面して仕事するとベンチマーク上がって大変だよねー」

 「む……そもそも清水さんはなんでいるんですか。というか何して……何見てるんですか」

 

 清水さんがイヤホンを繋いでいたスマホをのぞき見ると、見たことのない切り絵? アニメ? が映っていた。

 

 「ヤマパだけど」

 「ヤマ……? って、サボりじゃないですか! お姉……社長に言いつけますよ」

 「どーぞ。ついでに文句は俺より勤務態度が良くて同じくらい有能な人材を引っ張ってこれないお姉様に言ってね」

 「く……」

 

 これでも、清水さんは凄い人だ。ライバードのメンバーが3Dで日常アニメ風の漫才をするシリーズがあるが、どんな魔法を使っているのかあれの制作はこの人が一手に引き受けていて、クオリティ・評判も上々。わたしも自分でコエの身体を創ったから多少は分かるつもりだが、そんなのは正気の沙汰じゃない。わたしには到底無理だ。そんな3Dのプロフェッショナルに社長であるお姉ちゃんも強くでれないのは想像に難くない。

 

 「……って、そうですよ。『VERD. TV』って2Dですよね? なんでいるんですか?」

 「普通に打ち合わせ待ちだよ。スタッフ待ってんの」

 「あぁ、なるほど……」

 『以上、VERD. TVでした! お相手は海原ホルンと!』

 『フェティ・アンモナイトでした』

 「カット! お疲れ様でした!」

 

 清水さんと話しているうちに、収録が終わったらしく、現場に騒がしさがやってくる。わたしもフェティを労う、という目的のため清水さんと分かれてフェティ達を探し始めた。

 

 「あ、マネちゃんだー!」

 「ヨルンさん!」

 

 スタジオを彷徨っていると、フェティよりも先にこの番組のMCである海原ヨルンさんに声をかけられた。3期生のデビューより以前は彼女たち2期生の担当をしていたので、当然面識があるし仲も良い……が。

 

 「相変わらず控えめだなぁ~、ヨルンさんが揉んで大きくしてあげよう!」

 「あの。こんなに人が居る場所でそれは洒落にならないですよ」

 「ぇ、あ、すんません……代わりにヨルンさんの揉む?」

 

 セクハラ癖だけはなんとかして欲しい。この癖はヨルンさんの芸風でもあるのだが、芸風でとどまって欲しかったものである。普通の職場ならもうクビになってるに違いない。

 

 「って、これフェティさんにもしてたりなんかしないですよね?」

 「いや、いやいや無理無理。フェティは聖域だから! ヨルンさん大炎上しちゃう!」

 「……わたしにはやって良いって思ってるんですか?」

 「マネちゃんは……なんだかんだ許してくれるし……あ、ちょっとタイム! 社長には言いつけないで!」

 

 冷たい目で見てやると、慌てて焦り出すヨルンさん。お姉ちゃんにビビるくらいなら最初からやらないで欲しいが……と思っていると、背中に衝撃。

 

 「……吉乃さん!」

 「フェティさん」

 

 フェティさんがわたしを見つけて駆け寄り、抱きついてきたのだ。今日は人に抱きしめられてばかりだなぁと思いつつ、わたしより背の低いフェティの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに身体を震わせた。

 

 「……ふふ、吉乃さんのにおいだ」

 

 フェティさんは背も言動も幼さを感じる上にかなりの天然だ。キャラクターも、素の彼女も。そんな彼女にわたしはののさんとはまた違ったまっすぐな懐かれ方をされている。……だが、上機嫌な彼女にも4期生の件をののさんと同じく伝えなければならない。

 

 「ところで、フェティさん。実は今日、4期生の面接に参加してですね……もしかしたら担当が変更に……」

 「ヤダ」

 「……そっか、ヤダかぁ……」

 

 ……当然、まだ確定した話ではないけれど、お姉ちゃんのことだからわたしを忍田さん……アサノヒノデの担当につけるぐらいのことはやりかねない。もう一人の3期生である弾宮さんはここまで頑なにはならないだろうけど……またお姉ちゃんとしっかり話さなきゃなぁ。

 

 「へぇ~。もうそんな時期か! 4期生の子、どうだった? スタイル良かった?」

 「ヨルンさん。ライバー同士で痴情のもつれとかほんとにやめてくださいね」

 「……それはマネちゃんに言われたくないぞー」

 

 平気で関係のないことを聞いてくるヨルンさんに事務的に釘を刺すと、なぜかわたしに責めるような目線を向けてきた。なぜ……?

 

 「それで、真面目にどんな人だったの?」

 「あー……実は、前世がですね……ここだけの話、アサノヒノデさんで」

 「へぇ! それはなかなか……難しいね、扱い」

 「なんでです?」

 「ほら、大先輩を後輩として扱わなきゃいけないの……なんか複雑でしょ?」

 

 意外にまともな懸念を示すヨルンさんに面食らう。配信以外の時はずっとそのモードで居て欲しい。

 

 「……だれ? アサノヒノデさんって」

 「フェティは知らない? ほら、Vtuber三大将の」

 

 フェティさんはアサノヒノデを知らないらしく、かわいらしく小首をかしげる。ヨルンさんが補足すると、どうやら心当たりがあったらしい……Vtuber三大将、について。

 

 「Vtuber三大将……そういえば、響家コエちゃんって……」

 「……あー、すいませんフェティさん、わたし帰りますね!!」

 

 フェティの口から出た名前に、わたしは逃げるようにその場を去っていってしまった。

 

 ……今日は、本当にコエを想わされる日だ。

 

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